腹が減った…
文書を破り捨て逃げてから、町のゴロツキぶっ倒したり、町の有名人の家に世話になったり、いくつもの町を旅した。
今日も今日とてプラプラ道を歩いていたら、町が見えてきた。そこそこ大きな町で賑わいがある。そして俺はブラブラ歩いて入り組んだ路地裏に入り、見事に迷子になっていた。
ぜんぜん出口が見つからん…
ここは迷路かよ…
ん?かすかに人の声が聞こえる。
道を尋ねる為に、俺は声の方に向かった。
ズンズン進んで行くとハッキリと声が聞こえてきた。
「小僧、身ぐるみ全部おいてけや」
「なかなか可愛い顔だぜ」
「売り飛ばしゃ、いい金になる」
姿は見えないが三人の男の下種な台詞が聞こえる。
さらに一つの角を曲がると、そこには見るからに山賊の三人組が剣を持ち、多分いい所の坊ちゃんが怪我をして片膝をついていた。
「ガキ相手に何をしてんだ」
三人組の背後から声を掛けると揃って振り向いた。
「なに睨んでやがる」
「目付きが悪い野郎だ。文句あんのかよっ」
「とっと消えな」
ただ見ていただけだが、俺の目付きは他人から見るとガンつけて睨んでるように見える。さすがに何度も同じような事があり慣れた。
それに自分で自分の顔を見た時には、あまりの目つきの悪さに絶句した。だが納得した事もある。何故、人が俺を避けるのか。何故、喧嘩を売られるのか。すべて納得したよ…
この目付きの悪さでトラブルも多いが、弱い奴は何もせず逃げて行くので面倒が少なくなり助かる。弱い奴の相手ほど無駄な時間はないからな。
まぁ今回は違うようだが…、つか、こいつら逃げないな。強そうに見えないが、強いのか?それとも人数が多いから調子にのってるだけか?
なんやかんや、あーだこーだと三人組は煩い声で俺に罵詈雑言を浴びせ、切りかかってきた。刀を抜き応戦したが、三人組はスゲー弱かった。で、三人組はお馴染みの捨て台詞『今日はこのぐらいにしてやる!覚えてろよ!』でスタコラ逃げていった。本当に弱すぎる…。
それにあの三人組、変な動きをするから俺の服やら何やらが返り血だらけだ。
新しい服は買う金が無いし、血抜きするか…めんどい…
少し考え事していてガキの存在を忘れてた。
そういや怪我してたよな。
で、俺が子供に声を掛けようとした時。
「貴様、何をしている」
澄んだ女の声が聞こえた。
振り返ると、みずみずしい長い黒髪、眼鏡の奥には翡翠のような鋭い眼、褐色の柔肌、およそ泣いてるようには見えない泣きボクロ、エロい衣装の女が、そこには立っていた。
「何をしていると聞いている」
睨みにながら再度、女は俺に聞いてきた。
「あ゛見てわかんだろ」
ガキを助けたんだよ。
「下種が、今すぐ消えうせろ」
俺の言葉を聞くと更に女は睨んできた。
「てめぇ。俺に喧嘩売ってんのか」
刀を肩に置き女を睨んだ。
すると女は、何本もの鞭がある武器を手に持った。まるでSMの女王様だな。つか、なかなか強い、久しぶりに楽しめそうだ。
さぁ行くか!と思った時に。
「おっお待ちください!そのお方は私を助けてくれた人です。周公謹様」
ガキは片腕に傷があるのか手で腕を押さえ、俺に背を向け女の前に立っていた。
「なに?…何故、私の名が分かった。魯子敬」
女は俺に一度目線をやり、ガキに眼を向けた。手には鞭を持ったままだ。
「はい。お姿を聞いておりましたし、その武器の事も知っていました。それに文で近々私に会いに来てくださると。周公謹様は何故、私を?」
「一度、家に行ったが外に出ていると聞いてな。町を散策していたら、この光景。あとは殆ど同じ理由だ」
「そうですか」とガキは呟き、今度は俺に向き直った。
「お初にお目にかかります、私の名は魯子敬と申します。先程は危ない所を助けて頂き、ありがとうございました。あなたは、あの有名な太史子義殿ですね」
馬鹿丁寧にガキは俺に話し掛けた。つか俺は有名なのか?
「あの馬鹿か」
冷め切った目で女は俺を見ていた。
「てめぇ、やっぱ喧嘩売ってんだろ」
俺が睨んだのにもかかわらず、女は平然としている。で!
「ふっ、事実だろう」
女は馬鹿にしきった表情を作り、やれやれと首を振った。
この野郎…
「女でも手加減しねぇ、ぶっ飛ばす!」
俺は今!この時!男女平等主義になった!
「うっ噂通りの方でした!」
いきなりガキが大きな声を出したので。
「あ゛ぁ゛!」
俺は睨んだ表情のままガキを見下ろした。
「よっ弱い者を助け、賊を打ち倒す。その…鋭い眼光、特徴的な刀。七尺七寸の大きな体に、黒髪黒目、かっこいいです!しびれます!憧れます!」
なんと反応していいか迷っていたら。
”ギュルルルーーー!”
盛大に腹の虫が鳴った。
〜
あれから魯子敬の家で飯をご馳走になった。勝手気ままに旅をしている事を話すと、しばらく家に滞在する事を進められたので、そのまま住み着いた。
周公謹は高名な人達と会って話したり、いい人材を探して旅をしているようだ。
沢山の知らない名前と共に華佗の名前が周公謹から出たので「華佗、知ってるぞ」と言うと興味深そうに聞いてきた。居場所を「知らん」と言うと少し残念そうにしていた。華佗は名医らしい、人は見かけによらないもんだ。
ちなみ周公謹も魯子敬の家に滞在してる。
あと、俺と周公謹のイザコザは一応は解決した。
血のついた刀を持った俺、傷付いた魯子敬。
目付きが最悪に悪い俺、血を流す魯子敬。
あの場面だけ見たら誰もが勘違いするだろう。周公謹も例に洩れず俺を盗賊や人攫いと勘違いした。周公謹が早とちりしたと謝ったので、俺も言葉が少なかったとわびた。
だが!しかし!周公謹は「馬鹿は訂正しない、事実だからな」と鼻で笑い喧嘩を売ってきた。
さすがにカッチーンと頭にきたが魯子敬に止められ仕方なく俺がひいた。ひいてやった。
魯子敬は本当に良い子だ。
周公謹は…、本当に!腹の立つ!ムカつく奴だ!
〜
魯子敬の家に住んで二週間ほどが過ぎた。
周公謹とは言い合う事が多いが、あいつの口八丁で殆ど言い負かされる。だから女は嫌なんだよっ!
いつものように町のオッサンや知らない奴らと酒を飲んで馬鹿騒ぎしていたら、腹がポッコリ出た商人っぽいチョビ髭オヤジに声を掛けられた。
オヤジは俺の事を知っているようで、商品の護衛を頼んできた。そろそろ違う町に行こうと思ってたし、なにより金がいいので俺は引き受ける事にした。ナイスタイミングだな。
二日後、俺は指定の場所に向かった。路地裏を進み寂れたボロボロの家の前に着いた。扉を叩く商人のオヤジが顔を出してきた。家の中に入り、地下に降りると数人の男がいた。たぶん俺と同じ用心棒だろう。
んで護衛して欲しい商品とは水銀だった。綺麗に瓶詰された水銀だ。水銀はこの一つだけなので用心棒を雇ったようだ。あと取り扱うのは違法っぽい話し方を商人はした。
それに商人のオヤジが言うには水銀は不老不死になる薬らしい…
俺は確実に断言できる。水銀は猛毒だ。飲んだりしたら水銀中毒で死ぬ。
今の時代ってまだそんな迷信を信じてるんだっけ?
それから1時間ぐらい過ぎて、聞いた事のある声が聞こえた。
フードを被って顔を隠しているが、この声は間違いなく周公謹だ。
水銀の買い手が周公謹とはな、まったくよ…
仕方ねぇ…
「なぁ。俺にも見せてくれよ」
商人と周公謹に言うと、周公謹は少し驚いてる雰囲気だった。商人の方は自慢げに水銀の瓶を俺に手渡した。
「へぇ、綺麗だな」
で、俺は水銀を懐にしまい。
一気に素早く階段に向かって走り出した。
「なっ!?待て!!」
よく通る周公謹の声が聞こえたので。
「待てと言われ待つ奴がいるか!」
一応、返事はしておいた。
続くように商人や護衛の罵声が聞こえたが、それらは全て無視だ。階段下の近くに居た護衛を一人ぶっ飛ばして俺は一階に駆け上がった。
一階に上がると怪訝な顏の男が二人居た。下から商人が「そいつを殺せ!」と叫び声をあげている。二人の男が剣を抜く前に、俺が刀を取り、一人目を突きで、二人目は峰で殴り、速攻でぶっ倒し家の玄関に走った。
「太史慈子義!!」
俺の名を呼ぶ声が聞こえチラリと後ろを見ると、背後から鞭が飛んできた。ギリギリ転がるように避けて、俺は周公謹に向き直った。
ここで俺の刀について説明する。この刀は我が家の家宝的な物で、母から譲り受けた刀だ。見た目はブリーチの蛇尾丸そのまんまだ。一応は伸ばせるが俺にはまだ上手く扱えないので、殆ど棘付きの刀として使っている。
「周瑜公謹。水銀は猛毒だ」
だらんと片腕を下げ、蛇腹刀、蛇尾丸の剣先を地面に向け刃を周瑜公謹の方に向けた。んで周瑜公謹が何か言う前に体を巻き込むようにして蛇腹刀を天井に伸ばした。
「坊主によろしくな!」
ボロボロと天井の破片が落ちる中、なんとか蛇腹刀を元に戻した。つか建物全体が崩れそうだな。やっべぇやり過ぎた。まぁ上手く扱えないから仕方ないがな。
「あばよ!」
俺が捨て台詞を言って逃げると、周瑜が何か言ってた気がするがアホのようにボロボロ天井から落ちる破片で聞こえなかった。
そのまま町を俺は出て、数十分ほど歩き何も無い荒野に瓶詰めの水銀を地面に埋めた。どうする事も出来ないし、これでいいだろ。
また歩き出し、しばらくして気がついたが、金持ってねぇ…
しかし次の町まで、どんくらいあるんだ?
…まっ、どうにかなるか。