空が出かけて数分後、百鬼と雪花が帰ってきた。
「ん?珍しいな、お前がここにいるなんて。しかも、何か良い事でもあったのか?」
「いや、何でもないさ」
笑みを浮かべながら答える
「そうか、ところで、あの糞ガキは居ないのか?
まあ、そのなんだ、少し気になっただけで、知らなければどうでもいいが」
気にしている理由はそれぞれ異なるが2人とも、気になっているようだ
「知ってるよ、この付近の村に行った」
「! いや、当然の事か…」
「そうとなれば、この場所を去らないとな、お前は準備は良いのか?それと銀にも言っておかないとな」
2人とも動揺しているようだ。当たり前だ、私がなぜかまだ、伝えてないからな。
だが、よかったな空、こいつらもお前を気にかけているぞ
「銀は捕まった。だから、あいつは助けに行くんだと」
「はあ?馬鹿だろ、あいつ」
「そうにゃ、馬鹿にゃ、妖怪を助けるなんて、私達の中でも滅多に無いのにゃ」
「そうだな、馬鹿だな」
牡丹は口では馬鹿にしながらも、嬉しそうに笑みを浮かべている。
「お前はどうするんだ?」
「待つさ。あいつがどんな結果をもたらすか気になるからな」
「けど、どちらにしても、ここは危険になるにゃ、早く離れないと!」
「 そいつは面白そうだ。よし!俺も残ろう!」
「勝手にするにゃ!私は逃げるにゃー!」
雪花が立ち去り、しばらく経った頃
「百鬼、ちょっと聞いて良いか?」
「なんだ?良いかどうかは聞かねえと分かんねぇぞ」
「どうして、待っているんだ?」
「そりゃ、面白そうだからだ。あいつが銀を助けれるかどうかは別にしてな」
「本当にそれだけか?私には、それだけじゃない。何か期待しているように見えるが?」
「……そうだな。俺は期待してるのかもな、あの糞ガキが銀を連れて帰って来るのをな」
口角を少し上げニヤけるようにしながら答える。
しかし、大きく息を吐き、真剣な顔をして話し出した
「俺はな、いや、俺たちの一族は元々は人間に対して、そこまで嫌悪感を持ってなかったんだ。なぜなら、俺たちは元々、人間と共存して生きていた。俺たちは他の妖怪から人間を守り、人間は俺たちの好物の酒を礼として渡す。そういう関係だった。それにあいつらの作る酒はな、俺たちが作るのとは違った旨味があってな、それを作る人間を俺は尊敬していた」
過去を懐かしむように空を見上ていたのが、急に歯を噛み締め、拳を握り締める。何かあったのだろうか
「だが、あいつらは俺たちを裏切った。報酬の酒に毒を盛りやがった。俺は酒の味に違和感を感じたから、少量で止めたが、仲間は気にせずに飲み続け。そして、死んだ」
握り締めた手からは血が流れていた。
「その復讐に村に行き暴れようとしたら、妙な格好をした女に殺されかけ、角を折られ、逃げて生きてしまった。戦いに生きて戦いに死ぬのが鬼の生き様なのに、命惜しさに逃げた。辛うじて逃げ切れたが、それも一時の間さ、俺は血を流し過ぎて、死を待つだけだった。その俺をあのガキに助けられたわけだ。」
今思えば、俺はあの人間に八つ当たりしてたのかもな、馬鹿は俺の方だったのかもな。
「あのガキはな、倒れていた俺を引きずりながらここまで運んで来たんだぜ。ありえねぇだろ⁉︎俺はこの通りの巨体だ!歩くだけで、地響きを起こす程重い俺をだぜ!
まったくもって、傑作だ‼︎妖怪の力を持っていたとしても、引きずるのも難義なもんをよ運んできやがった!」
百鬼が笑い転げている間、私はその頃の事を思い出していた。
あいつの姿がしばらく、見えないようになったと思えば、数日後、こいつを引きずってきたことを
あいつは何もないような顔をしていたが、手を血だらけにして帰り、一ヶ月程、手に包帯していたことを
「ふっふっふ、いや、阿呆だ。間違いない。だが、あいつらしい」
私は釣られて、笑いだしていた。
「いやー、久しぶりに笑ったぜ!」
「私の方も、長らく笑ってなかったな」
「ところで、お前の方はどうなんだ?なぜ、あのガキを待つ?」
「お前はあのガキを信頼とは違う、特別な思いを持っているようだか?」
「さあな、もしかしたらだが、あいつは私と似ていると思ったからかな?だから、放っておけないのかもしれないな」
「似ている?どこがだ?」
「人間に恨みを持つところさ、あいつと最初に会った時に聞いたんだが、お前と同じようにこの村を守っていた奴が同村にいた人間に見殺しにされたらしい。
分かるか?奴らは同じ人間であろうと、利用価値が無くなったら排除するんだ!私もそうだ、ちょっと人間の姿をして力を見せると祭り上げるくせに、都合が悪くなると、切り捨てるのさ!」
彼女は自分の腹部を触りながら怒りをあらわにする。
その腹部には傷後でもあるのだろう
「そうか」
百鬼もかつての自分と重ねていたのだろうか、思案するように黙りこんでしまった。
「ところで、そんなとこで何をしているだ?」
ガサっと近くの草むらが音を立てる。そして、ゆっくりと雪花が草むらから現れた。
「逃げたんじゃなかったのか?忘れ物でもしたか?」
「そ、そうにゃ、忘れ物をしたにゃ!」
嘘だと言うことは分かっていたが、意地悪をする。
「何を忘れたんだ?」
「えっ、えっと何だったかにゃー」
「お前も気になったんだろ?」
「はい、そうにゃ…」
ばつが悪そうに白状する雪花を温かい目で見る。
可愛いやつだ
一方、僕は森の中を突っ切り、銀の元へ走る。周りの妖怪は遠目で、僕を睨むが何かに脅えるようで襲いかかってこない。
場所は変わり、銀は、手足を荒縄で縛られ、その先には妙な文字が書かれた紙切れが貼られた柱に括り付けられている。
ずっと暴れても、ほどける気配はない。
「くそ!また、あんなふざけた奴に捕まるなんてな。
俺もついに年貢の納め時か、まあいいさ俺は本来あの時に死んでいたんだ」
俺は前に死にかけていた日のことを思い出していた。
俺は1人で狩りをし、時には人を喰って生活していた。そんな日々の中、慢心していたのだろう。1つの村を襲いにいった、そして、返り討ちに遭い、腹には穴を開け、数日もしない内に死ぬんだと覚悟した。
だが、彼は始めから1人ではなかった。本来の狼は群れで行動し、1人では決して行動しない。
だが、俺はそんな教えを無視して、自分勝手に行動していた。群れで行動するのは臆病者だと罵った。
長は『仲間には敬意を払え』といったが理解出来ない。
そして、長に群れを追放された。妹を残したのは少し心残りだが、当然のことだ、群れには何の恨みもない。
俺は、死ななかった。なぜなら、人間に拾われていたからだ。俺はその人間を喰ってやろうとして、真夜中、あいつの部屋に忍びむつもりだった。
だが、雪花に止められた。確かに、本意ではないとはいえ、命を助けられた身だ、礼として、あいつを喰わないのは納得がいく。
そう言いつつ、(俺は雪花に弱いのかもな)
銀は群れに残した、妹の影を映しているのだろう。
「雪花は俺が死んでも大丈夫かな?」
「駄目だよ、死んじゃ」
月明かりであいつの顔が照らされる。
「おい!おまえなん…「静かにして」…」
僕は唇に手を当てる。そして、銀が静かになったのを確認して、銀の手足を縛る柱の符を剥がしていく、しかし、そうそう上手くいかなかった。最後の柱に取り掛かろうとした時に見つかった。
「おい!そこで何をしている⁉︎」
「(この匂いは?まさか、ありえない!)」
「化け物が逃げたぞー!」
「であえ、であえ!女子供は家に隠れろ!」
俺は匂いの正体を確かめずにはいられなかった。それは嫌な感じのする方向だった。
その方角の家から白と銀色の毛が出てくる。
本能で理解してしまった。あれは俺の妹だ。
衝動的にその方向へ走り出す。
縄なんぞ気にしなかった。地面に埋まった柱ごと、その方向へ走る。
「待って!まだ縄が!」
周りの声なんぞ気にならない。
だが、その足もすぐに止まる。
死んでいた。俺の妹はとうの昔に殺されていたのだ。そして、その身体を人間が被り、嫌な感じの正体である破魔の槍を持って待ち構えていた。
妹の皮を被った人間は槍を俺に向けて投げる。しかし、身体は動けない。いや、動かせないのだ。脚に巻きついた縄が俺の脚を地面に結びつける。
(死ぬのか、仇も撃てずに)
走馬灯のように、周りのスピードがゆっくりに変わる。
(死ぬときは、全てがゆっくりに変わるとは、本当だったな…)
死を受け入れ、目を閉じる。
ピチャリと顔に何かがあたる。
ゆっくりと目を開けると、前に誰かがいる。
闇夜に浮かぶ月が少年と赤く染まる大地を照らす。
「…………なんで」
「死んじゃ…駄目…って言ったで…しょ」
空が自身の血の池に倒れる。俺は急いで駆け寄る。まだ息はあるようだ。よかった。
よかった?なぜ、俺は安心した?人間じゃないか俺が心配なんて
「妖怪を打ち取ったぞ!」
「まだ、もう一匹いやがるぞー!さっさと仕留めろー!」
空の血が符にまで飛び散る。すると、さっきまでの脚の重りが嘘のように消える。
俺は迷っていた。妹の仇を討つことに確かに、今なら数秒でできるかもしれない、だが、敵がぞくぞくと集まる状況だ。
もしかしたら、その数秒の時間の所為で逃げれないかもしれない。
……空の姿が目に入る。
「だー、もう!」
こいつのせいだ!俺が変になったのは!
俺は空を咥えて森に逃げる。
「逃げたぞ!追えー!」
しかし、ただの人間が狼の全力に敵うわけもなく、すぐに、振り切り影も形も見えない。数分後、雪花のいる村にたどり着く。
雪花達は外で俺たちを待っていた、偶然とはいえ都合がいい
雪花は俺を見るなり、オロオロと心配そうな顔をしていたのが、花が咲いたようにぱぁと笑顔になる。しかし、俺の口に咥えた存在を見ると再びオロオロする。
他のみんなは空を見るなり駆け寄る、まだ、暖かい生きているだろう。雪花も遅れて駆け寄る。
よかった。俺を庇って死なれたら、夢見が悪くなる。
俺はみんなの前に血まみれの空を地面におろした。だが、おかしい。なぜ、血が固まっているんだ?
小さな傷ならありえる。だが、あの時は仮に、俺が受けたとしても致命傷になるほどだ。当然、血がとめどなく流れていた。
水で、血を洗い流して気付く、なぜなら、傷がないからだ。
「ケガがしてないのにゃ」
俺はなぜ、血まみれなのか説明した。だが、 俺ですら信じきれない話だ。
「ねえ?本当に破魔の槍が腹に刺さったの?これなら、返り血を浴びて気絶したと言われた方が信憑性が出てくるんだけど」
一見何もないようだが、槍が刺さった、その部分だけ、妙に白い、普通に考えるならその部分だけが、まったく日焼けしていないだけで流すが、それだけでなく、何が奇妙な感じがした。
まるで、そこだけが別のもののように変わっているような
「なあ、この衣からおまえの匂いがするが、しかも、妖力も」
「確かに、気配遮断と保護の術式を組み込んだが、お前が考えているような回復の力はないぞ」
(なら、なぜだ?)
「そういえば、その刺さった槍はどこにある?」
「そりゃ、そのまま………?」
言われてみれば、そうだ、俺はすぐに空を咥えて逃げた。だが、その時には槍はなかった。
不意にその刺さった所を見ると、白い部分が広がっているような気がした。
「こいつ、本当に人間か?」
誰もが頭の中で出ていた疑問を百鬼が口に出す。
「少なくとも、本人は人間と言っているが」
「本当は、人間じゃないのに気づいてないってことはないのにゃ?」
「そんなやついるわけないだろ」
若干呆れながら言うが、だんだんその顔も変わり
「ありえるかも…」
「言われてみれば、人間にしては力があるな」
(おかしい、やっぱり広がっている)
「おい、白くなっている部分を見てみろ、どう考えても、広がっているぞ。しかも、そこから変な感じがする」
空の顔色が徐々に悪くなっていく
「なあ、私達にとって破魔の気は毒だよな?まずくないか?」
その後はてんてこ舞いだった。熱でうなされたかと思えば、次の日は身体が冷たく、震え吐き出す。そんな日々が落ちつき
俺はいつの間にか銀は空に付きっ切りになり、雪花をないがしろにしていた。その事については悪いとは思っている。
ついに、空に嫉妬した雪花は俺に甘えようと猫の姿ですり寄ってくるが、俺だって疲れてる、とりあえず、世話を任せて、隣で寝る。俺が起きると、いつの間にか雪花が空と一緒の布団で寝ている。
ドウシテコウナッタ?
「はぁー、まあいっか、俺ももう一眠りして…」
雪花が俺の毛を掴んでいる。無理矢理離させても良いが、
仕方ないので、そこで寝る。
「空の様子はどうだ〜?」
3人仲良く、寝ていた。牡丹は近くの布団を運び、隣に敷く、その上に、銀を乗せそっと戸を閉める。