「日本語喋りなよ、日本人何だろ?」
「りぶびんば!(理不尽だ!)」
すると篠ノ之束は「はぁ」と溜息をつき機械を弄り始めた。するとカプセルのガラス部分が持ち上がり下の隙間から液体と一緒に流し出された。
「ゲホゲホ、むせたぞボケ!」
「ほら行くよ」
篠ノ之束は俺の腕を掴むと強引に引っ張り、歩き出した。俺は立てていない為濡れた体のまま引き摺られた。
「ちょーーっと待った!」
「む、この篠ノ之束さんに意見する気かな?」
「あそこに俺の実験のレポートがあるから持ってくるだけだよ」
「そんなの必要無いだろ、クーちゃん待たせてるんだから行くよ」
そう言いながら俺に冷たい目を向けてくる。
「君を此処から出すのはクーちゃんに頼まれたから何だよ?クーちゃんに死ぬ程感謝する事だね」
「君が特定の人にしか興味の無いのは知ってるけど、この対応は酷くないかな?」
「うるさいなぁ!君は黙って着いてくれば良いんだよ!」
「グリーンだよ!!」
「……」
「ちょ、そんな目しないでよ、俺にそんな趣味は無いよ?」
篠ノ之束は汚物を見る様な目で俺を見てきた。
その隙に俺は走ってレポートなどを手に取ると篠ノ之束のも元に戻った。
「……君、本当に人間?」
え?今俺、リアル
「れっきとした人間ですよ?あ、後でサイン下さい」
「ちょっと後で解剖しても良いかな?」
「OK!とでも言うと思いました?NOですよ」
「大丈夫、一生目が覚め無くなるだけだから」
「いやいや、それを回避したかったんですけど!?」
「拒否権は無い!……はず」
「はずなんかい!」
俺と篠ノ之束の親密度が上がった!気がする……。
「俺に興味持ってくれました?」
「君みたいな可愛い女の子はーーって何するのさ!」
「すいませーんつい体が勝手に」
女の子呼ばわりされて体が反応してしまったようだ。危ない危ない束さんじゃ無かったら顔面に拳がクリーヒットしていたよ。ヤレヤレだぜ。
「何なのお肉くん、私の受け止めた手が痺れてるんだけど……」
「そりゃあ殴りましたからね」
「……ちょっとどころかとても興味が湧いてきた!というより気に入った!」
テッテレー!篠ノ之束に気に入られた!親密度MAX!!
「それは良かった」
「さっきはゴメンねー、適当に接してて」
「良いですよ?所詮過去の事だからね」
「にーくんやっさしぃー」
「『にーくん』って俺のあだ名?」
「うん」
「俺の本名肉じゃないからね?」
「じゃあ本名は?」
「白良木…………えーっと……ちょっと待って、後少しで思い出せそう」
「忘れたの?」
「そりゃあ何年もお肉さんで通ってたからね、だけど俺は白良木何とかだからお肉さんは此処だけ」
「別の良くない?にーくん」
「此処じゃあ所詮俺は一つの物として認識されてるからお肉さんは俺を物として扱う場合の呼び名だからね」
「ふぅーん嫌なんだ」
「そりゃあ嫌ですよ」
「じゃあ行くよ」
「はーい、ところで此処の研究者達はどうしたの?」
「全員殺したよ」
「そうですか」
「?」
「あのー篠ノ之博士は何て呼べば良いですか?」
「束さんでも、たーちゃんでも束お母さんでも良いよ?」
「最後のは無い、じゃあ束さん」
「何?」
「束さんの研究所で俺がここに来る前の名前を調べて下さい」
「良いけど此処にいるってことはそれなりの事情があるんじゃないの?」
「えぇ、売られました」
「えぇ!!」
「まぁ、俺のミス何ですけど」
「そんなの可笑しいよ!新しい名前付けてあげるから忘れなよ!」
「嫌です」
「何で!」
「俺には双子の妹がいるんですよ、その名前は一緒に産まれた証明の一つだし大切にしたいんですよ」
「そうなんだ」
「そうだ!燐華元気にしてるかな?見てみたいな」
「取り敢えずもう行こうか」
そう言って束さんが侵入してきたであろう穴から外に出た。
この研究所に来て5年。5年の外の景色に、外の空気に、その全てに感動し、開放感を感じ、泣いた。
嘘泣きではなく本物の涙を産まれて初めて泣いた。静かに涙だけを流して泣いた。
それを見た束は黙って楓樹を抱きしめた。母親が我が子を抱きしめる様に優しく、温かく抱きしめた。