映画撮影を夢見る彼は、ある日チケットを手に入れます。
それは、夢と、出会いと、試練へのチケット。
"はじめ"の一歩
天気は快晴。
風向きは上々。
スタッフは一流。
僕は、回りにいる皆を順番に見渡す。
そして、眼を閉じて、大きく息を吸う。
たったの三週間だけど、色々なことがあった。
喧嘩もしたし、沢山悩んだし。
でも、まだまだこれからだ。
撮影は始まったばかり。
僕は、石井(イシイ)。
『フィルムクラブ』で、新人監督をやっています!
時は三週間前。
僕、石井は、近所の土手で、カメラを構えていた。
昔の誕生日、父さんに買って貰った自慢のカメラには、見馴れた景色が写り込む。
最近は、こうやって近所の景色にカメラを向けるのが日課だ。
「はぁ。。。」
しかし、僕はこのファインダー越しの見馴れた景色にはもう満足していなかった。
いや出来なかった。
「・・・映画、撮りたいな。」
誰に言うでもなく、ぼそりと呟いたその一言は、木枯らしに掻き消されてしまう。
今日はもうこの辺にしておこうと、帰路につく。
最近は随分と冷え込む。
家の前についたとき、僕はとんでもないものを見た。
「へ?」
間抜けな声を出す。
ハロウィンには、、、もう遅いだろう。それは先月だ。
じゃあこれはリアルな夢か?
いや、それは流石にないだろう。根拠はないけど。
そんな突飛な思考になるのは当然ながら、目の前を歩くゾンビのせいだ。
家から少しばかり離れた場所で、のそのそと、それはもうリアルなゾンビが歩いている。
この間観たホラー映画の主人公のごとく、悲鳴でも出せればいいのだろうけど、そんな風になるには、目の前の光景は僕には突飛すぎて、なかなかそうも行かない。
カタンッ
「!?」
家のポストの方から音がした。
咄嗟に振り向くと、誰かが物凄い速さで走り去っていく。
そして、先程のゾンビの方に向きなおすと、もうゾンビは消えていた。
「・・・」
お化けの類いは信じていないし、今は昼間だけど。
なんだが、物凄く怖くなった僕は、高校一年生にして、カメラを脇に抱え直し、猛ダッシュで家の中へと逃げ帰った。
その日は夜更かしをせず、布団に潜って早いこと寝てしまったのは誰にも内緒だ。
次の日の朝には、昨日はあんなに怖かったのにそんなものは忘れていた。
すっかりと着なれてしまった制服のブレザーに袖を通し、教科書のあまり入っていない鞄をぶら下げる。
「行ってきまーす!」
玄関を出て、学校へと向かう。
今日、河瀬は部活かな?
「あ。」
ふと、昨日の昼の事を思い出した。
昨日のポスト。
何が入ってるんだろう?
急いで家に駆け戻り、ポストを確認する。
ポストのなかには、朝刊に紛れて、A4程度の紙が入っていた。
「『どんな方でも大歓迎』『いっしょに映画をつくりませんか』?」
もう、手描き感満載!と言った見た目の紙切れは、僕にとっては、夢へのチケットのように輝いて見えた。
「『フィルムクラブ』だって?」
目の前の情報を飲み込むのに2秒。
現実だと確認するのに1秒。
喜びが全身に伝わるまでに0.5秒。
「これは・・・現実だ!?」
気付いたときには足が動いていた。
部屋まで駆け戻り、カメラバッグをひっ掴む。
そして、嬉しさのあまり学校までのいつものんびりと歩く通学路を、全速力で走っていった。