「お前ら、よくやったな。特に石井、期待以上だ!」
僕と伊丹さんが提出したシナリオに目を通したあと、溝口さんが僕らの顔を見直す。
「最後に、なにか言いたいことがあれば。」
「俺はありません。そのシナリオが、全てです。」
伊丹さんが首を横に振る。
「僕は、その、香具矢が昔助けた神さまだった、という設定に変えたので、前のプロットからは大分印象が違うと思います。」
そうなのだ。
この間の取材で出会った少女に影響を受けたのは言うまでもない。
友達との仲も上手くいかず、成績も落ちる一方、そして両親とも不仲というボロボロの主人公がある日家出をして、見知らぬ土地に迷い込む。都会の喧騒なんて知らない町だ。
そんななか、一人の少女が主人公に近付き、その痛みや悩み、そして喜びと向き合う術を悟らせていく。
数日間、少女と共に過ごすうちに、隣人は家族のように、家族は宝物のように扱う、そんな人々の暖かさに触れていく。
彼は、自分は、周囲の人々を、そこまで大切にしていただろうか。そんなことを考え始めるようになる。
そして主人公は自分の現状や周囲の環境を受け入れ、帰ることを決心し、少女に別れを告げる。
見送りに来てくれた少女にお礼をしようと振り返るが、そこには少女の姿はなかった。
そして、彼はある記憶を思い出す。
本当は、見知らぬ土地ではなかったのだ。幼い頃に一度、一度だけ訪ねた土地で、古ぼけて雨風にさらされている地蔵を見つけていた。幼き頃の彼は、そんな地蔵のために、地蔵堂を即席で建ててあげたのだ。
家に帰り、そのドアを開ける彼の目にはもう迷いはない。彼は、自信の日常に戻っていくのだった。
これが、僕が最終的に考えた物語だ。
僕が考えたような設定は、人に伝わるかはわからない。でも、人それぞれの解釈ができるように、そんな話になったと思う。
「とりあえず、脱退はこれでなしだな。じゃあ、本多、行くぞ。」
僕はどっと疲れを感じた。
よかった。。。
「は~い。」
本多さんはプラモデルを組み立てる手を止め、溝口さんと共にフィルムクラブの部屋を出る。
「これから話し合いをして来る。別室にいくからちょっと待っててくれ。」
「期待しててね~。」
っていうか、本多さんがめちゃめちゃ眠そうにしてるんだけど大丈夫だろうか。。。
内田いわく、彼は趣味のこと(十中八九ミリタリーだろう。)となると寝食を忘れ、没頭してしまうだそうだ。
気持ちはわからないでもないが、伊丹さんが心配するくらいなので相当なのだろう。
「大丈夫かな?どっちが通るかな?」
「いや、わからないけど。。。」
河瀬に言われて急に緊張してきた。
そうだ。選ばれるのは僕とは限らない。
「いやぁ、先輩ので間違いないですよ!」
内田が調子良く言うが、伊丹さんに睨まれる。
「おい。」
「ひっ!や、やだなぁ、伊丹さんのも十分ですよ。」
「十分ってなんだ十分って。」
「あ、いや・・・えっと。。。」
どうやら内田は伊丹さんの目が怖いようだ。
昔、何かやらかしたのだろうか。
「でも、どちらの作品が選ばれても、いい作品が撮れると思いますよ。」
「そうですよね!3週間もかけたんですから!」
そんなこんなで皆でおしゃべりをしながらすごすこと20分。
「・・・遅い。」
ずっと黙っていた伊丹さんが時計を見て呟く。
確かに遅い。
普段もこんなに時間がかかっているのだろうか?
「まあ、今回は、どちらも難しいのではないでしょうか?」
「きっと、悩んでるんですよ!」
宮川さんと内田が伊丹さんに同意する。
そして、また、時計の針は10分、20分、30分と時間が過ぎていく。
「・・・ちょっと行ってくる。」
とうとうしびれを切らした伊丹さんが席を立ち、廊下へと出ようとする。
「あれ?どうしたんだ?伊丹。」
「あれ~、もしかしてトイレ?」
まさにベストタイミングというか、伊丹さんがドアを開けるとすぐそこに、二人が立っていた。
「いえ。・・・なんでもありません。」
伊丹さんが席へ戻る。
そして、審査員の二人も席に戻っていった。
「決まった。」
全員の目線が溝口さんに集まる。
あー、緊張する。やばい。顔をあげられない。
「今回は、石井のシナリオにする。」
「・・・・・・」
喜びよりも先に、安堵が来た。
全身の力が抜ける。
「やったね!石井くん!!」
「そうですよ先輩!快挙ですよ!」
河瀬と内田が僕に笑いかける。
「うん。ありがとう。」
それでようやく、嬉しさが込み上げてきた。
うん。やった。やった!!
「そうだねぇ。面白い映画になると思うよ~。」
でも、僕はすぐに我に返った。
僕が勝った。つまり、敗けがいるんだ。
僕の先輩で、僕よりも才能があって、僕よりも、きっと映画を作ることが何かを理解している人。
「・・・畜生。」
ぼそりと、誰かの声が聞こえた。
その声の主を見る。
そう。伊丹さんは、悔しそうに顔を伏せ、そして、歯軋りをする。
「おい石井!!!!」
賑やかさを、一気に消し去るような大声を上げ、伊丹さんはガタンと立ち上がる。
「・・・お前は、俺がヘソを曲げて、協力しねぇんじゃねぇかって思ってるかもしれない。」
僕の目を真っ直ぐと見て、伊丹さんは続ける。
「でも、俺はそんな小せぇ人間じゃねぇ。」
何かを覚悟したように、僕のライバルは続ける。
「俺の目的は、いい映画を撮ることだ。だから、俺は・・・」
そして、僕に手を差し出して、僕らの仲間は、こう言ってくれた。
「俺は、高校生映画人として、お前に、全力で協力する。」
僕は、伊丹さんの手を取ろうと思ったが、先程の緊張で手汗が酷いことに気がつく。
慌てて、ズボンで手を拭いて、伊丹さんと握手をした。
「うん。二人とも、和解したな。」
「めでたしめでたしだね~。」
溝口さんと本多さんが拍手をする。
それに続いて、皆が次々に拍手をする。
少し誇らしい。
なんか、青春!って感じがする!
「・・・・っ」
って、あれ?
伊丹さんが僕の手を振り払い、皆に背を向けるように座った。
どうしたんだろ?
そう思い、回りを見渡す。
あ、なんか恥ずかしい。
なるほど。うん。
僕もつられて座る。
「今回は、非常に選ぶのが難しかった。だけどな、石井、お前のシナリオが完璧かと言えば、そういうことではないぞ。粗を探せばどんどん出てくる。」
僕はコクりと頷く。
「よしじゃあ、これから、シナリオ会議を始める。」
溝口さんの合図で、皆が切り替える。
始めに口を開いたのは伊丹さんだった。
「まず、作中で、電車に乗っているシーンがあるよな。」
「はい。」
「俺達みたいな個人の非営利組織では、基本的にこういった機関からは使用許可が降りない。だから、他の策を考える必要がある。」
「う~ん、ねぇ、溝口のとこで借りれないの?」
「いやお前は私をなんだと思ってるんだ?」
難しいな・・・。
「借りれるとしてもバス程度だ。」
えっ、バス借りれんの!?
「あ・・・じゃあ、それ、お願いします・・・。」
「わかった。手配しておく。」
「・・・金、あるんスね。。。」
「グッチーさんはお金持ちですからね。」
「家が、な。」
まあ、会議は、こんな感じで進み、伊丹さんや溝口さんが問題点を指摘して、代替案を皆で考える。
でも大抵、どこかで脱線するけど、それを伊丹さんか河瀬が戻す。
そこには、活発な会議があった。