高校生映画人 ~青春の監督達~   作:Boukun0214

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書き上げた世界

 

 

 

「ふぁ・・・」

 

寝不足の目蓋に冷たい風が鋭く刺さる。

 

「珍しいね。河瀬がアクビなんて。」

「うん。。。昨日ちょっと、夜更かししちゃって。」

 

私達は、いつもの通学路をいつものように、二人並んで歩いていた。

やっぱり、普段早く寝ている分、少しでも遅くまで起きていると眠くて仕方がない。

スポーツドリンクを鞄から取り、冷たい飲料を喉へと流し込む。

 

少しだけ、目が覚めた。

 

 

「あ、そういえばさ、できた?企画。」

 

彼にとっては、何気なく振った話題なのだろうけれども、タイミングが良すぎて少し驚いた。

 

「うん。出来たよ。〆切は明日だから、流石にね。」

「へえ!どんな話なの?」

「それは・・・。」

 

作った話は、誰かに聞いてもらいたい。

私の、私だけの物語を誰かと共有したい。

 

そんな衝動に駆られるが、ここはグッとこらえた。

 

「明日までの、お楽しみ、かな?」

 

そういえばまだ石井くんの作った企画を見ていないし、明日、お互いの作品を初披露というのも悪くないかもしれない。

 

「えー。。。まあ。いっか。」

 

 

"まあいっか"は、彼の昔からの口癖だ。

 

そんな口癖を、私という人と成りを示すような何かを、私は持っているのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

そんな私の不安は、次の日に、より、大きなものになってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第一回の企画会議。

 

まずは、伊丹さんのプレゼンだった。

 

 

 

「俺の企画は、『噂』を題材としていて、主人公である多井倉はある日友人からこのような噂を聞きました。」

 

 

伊丹さんが持ってきた資料に目を通す。

その活字は、圧倒的なまでの世界を持っていた。

 

 

「彼女の恋人は、数日前に殺人事件の被害者となっていたので、彼女はそれを信じました。」

 

 

彼の頭のなかには、どんな世界があるのだろう。

彼の瞳のなかには、どんな世界が映るのだろう。

 

 

「怪しい人物をたどり、ついに見つけた噂の元凶は、ただの研究であり、根も葉もない噂を信じただけだったのです。」

 

 

彼の口からは、丁寧に紡ぎ直された物語が流れてくる。これはただの企画だというのに、聞き入ってしまう。

 

「俺の案のテーマは、根も葉もない噂に翻弄される人々の狡猾さを描くことにあります。」

 

 

 

すごい。

 

私の企画なんて、足元にも及ばない。

こういう人のことを、天才というのだろうと思った。

 

 

「うん。伊丹らしい題材だな。じゃあ、次は河瀬。」

 

 

え!私の番!?

 

「は、はい!」

 

思った以上に大きな声が出てしまった。

慌てて立ち上がり、考えておいた要約を話す。

伊丹さんのものに比べると大分短くなってしまっているけれど。

 

「え、えっと、私の考えたのは、一つの場所でのみ繰り広げられる物語です。」

 

 

一晩かけて考えた作品は、とある女子高生が、何もかもがうまくいかなくて、でもどうしたらいいかわからなくて、そして、家出をしてしまうというところから始まる。

 

「一人の女子高生が傷心から誰も近づかない場所に行ってしまって、そこで、そこにいる人達と交流をするっていう物語です。」

 

 

その先で自分とは違う境遇の人とふれ合い、考えを変えていくのだ。

 

さっきまでは自信満々だったけれども、少し発表するのが恥ずかしくなってしまった。

 

 

私は、説明を終えて、席につく。

最後は、石井くんのプレゼンだ。

 

今回の企画はこの様子だと、伊丹さんの物語が通るだろう。レベルが違いすぎる。流石に、初心者の越えられるような壁じゃない。

 

 

「よし。最後は石井だな。」

 

先程よりもやや抑揚があるような声で、溝口さんが合図を送る。

 

 

「・・・僕のはですね、家出をしていった少年が出掛けた先で"香具矢"という少女と出会って、その香具矢と日本の暗部を見てしまい、自分が今、いかに恵まれているかを自覚する物語です。」

 

 

・・・あれ?

私のと、被った・・・?

 

石井くんの作った物語は、私のものと題材がとても似ていた。

 

慌てて資料を読み直す。

 

 

"友人と喧嘩をして、両親とも進路で揉めて"

 

"彼は、名前も知らない町につく"

 

"香具矢と出合い、そこで数日間過ごしていく"

 

 

細部は違えど、基本的な話の流れはほとんど同じ。

それだけではない。

 

私のものよりも、彼の作品からは、伊丹さんの物語と似た何かを感じた。

 

これが、才能(センス)と言われるものなのかもしれない。

 

彼は、石井くんは、幼馴染みは。

 

私のような、凡人では無かったのだ。

 

 

私は、そんなことにとても衝撃を受けた。

置いていかれたような気がした。

ずっと、隣にいる。足を並べていた。

 

彼のことを、凡人(私と同じ)だと、十年以上、勘違いしていた。

そしてそんなことを気にしている自分自身が、嫌に小さく、惨めで醜い。

 

人の才能を認めたがらないのは、愚かな所業だ。

 

 

声が、溝口さんの取り仕切る声が、本多さんがはしゃぐ声が、内田さんが騒ぐ声が、周りの声が、やけに遠く思えた。

 

 

私は、いつものスポーツドリンクが入ったペットボトルを、握りしめた。

 

 

「私って、向いてないのかな・・・。」

 

蚊の泣くような、小さな声で呟いた。

 

 

「ん?なんか言ったか?」

 

横から、私に話しかける声が聞こえた。

振り向くと、石井くんが肩にリュックを引っ掛け、私の顔を覗き込んでいる。

 

今の、聞かれた・・・?

 

私は咄嗟に、彼を誤魔化した。

 

 

「ううん。何でもない。私、もうちょっとここにいるから、先に帰ってよ。」

 

石井くんは少し表情を曇らせたが、けろっとした顔をして先に部屋を出ていった。

 

「じゃあ、先帰ってるよ。あんまり遅くなるなよー。」

 

廊下から、冬の乾いた風が吹き込む。

 

「うん。」

 

 

生まれて初めて、彼に、愛想笑いをした。

大人に媚を売って、気に入られるための仮面を。

 

「・・・うん。」

 

 

自分が一番嫌いな、汚い表情を。

 

 

「あーあ。二人とも凄かったな。」

 

気分を紛れさせようと、無理矢理声を出す。

 

「自信、なくなってきちゃったよ・・・。」

 

 

 

泣きそうになるが、手に持つペットボトルの中身を、身体に押し込む。

いつもの甘さと塩味が混ざった味をしている。

 

身体が冷えて、より一層、孤独感が募る。

 

 

そういえば、私は、今、この部屋に一人だ。

 

独りきりだ。

 

 

 

そんなことを考えていた矢先、フィルム・クラブの入り口が開いた。

 

入ってきたのは、手入れをしていない黒髪を肩まで伸ばし、黒いマフラーに黒いコートを羽織った、全身を黒で包んだ、あの物語を創り出した、そんな天才だった。

 

 

 

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