フィルム・クラブの部屋に、伊丹さんが入ってきた。彼の服装を改めて見ると、やはり黒一色で、威圧感のようなものを感じる。そしてそれは、彼の纏う雰囲気と合致しているように思えた。
「・・・」
彼は、私に一目くれるが、そのまま部屋の中へと突き進んでいく。
「あ、あの!」
思わず声をかけてしまっていた。突然の大声が静寂に反響する。
伊丹さんは、じっとりとこちらを見てきた。この視線はなかなかに辛いものがある。視線が刺さるという表現があるけれども、彼の視線は絡め捕ってくるような不気味さも感じる。
「えっと、その、私の企画は、どうでしたか?」
なんとなく、良い機会だと思った。彼に、話を聞きたかったのだ。彼の目には、私の世界はどう映っているのかを。私の作品はどれほどの価値なのかを。
「私の作品は、今日、未熟だと、思い知りました。だから・・・」
「お前の作品は、まず、熱意が感じられない。"これを映像にどうしてもしたい"そんな気持ちが伝わらなかった。」
彼は、私の言葉を遮るように批評を始めた。
「それに、物語の構成が雑だ。単にホームレスの兄弟と過ごしましたじゃあ、見ている側には伝わらない。同じ意味では、そもそもの主人公が初めから追い詰められているのも良くない。いきなりあれだと置いていかれてしまう。」
思っていたよりも、辛い言葉の連続だった。自分の作品を批評されるのは、こんなにも辛いのだと思い知った。この人もこの人で、何故、こんなにも遠慮の無い物言いが出来るのだろうか。
「あとは、あれだな。石井・・・と言ったか。アイツと物語の構成が被ってる。」
びくりと、身体が震えた。
「同じような土俵だと、問われるのは質だ。両方とも粗が非常に多い。まあ、二人とも初めてだろうから仕方がないと思うが、作った企画を読み返したりしたのか?もし読み返してそれなら、もっと気を配るべきだ。」
訊かなければ、良かった。
「ただ・・・」
「すみません。」
私は、耐えることができず、立ち上がった。
「もう、いいです。・・・ありがとうございました。」
そのまま、鞄を掴んでドアを開ける。
冬の空気が、私を締め付けた。早足で廊下を歩き、廃校を後にする。乾いた私の足音だけが、夜の闇に吸い込まれる。彼と一緒に、石井くんと一緒に帰れば良かった。こんな気持ちで帰るには、夜は寂しすぎる。
ああ、なんだか、泣きそうだ。
冷たい風が、熱を持った瞳に突き刺さる。
悔しさなんて感じない。あるのは、虚無感と哀しみだけ。こんなにも、創作は辛いものだったのだろうか。
私は、唇を強く噛み締めて、空を見上げた。
冬の夜空は星がよく見える。