高校生映画人 ~青春の監督達~   作:Boukun0214

15 / 19
揺れて戸惑いその回答

どれだけ前の晩が散々でも、相も変わらず朝は来る。家に帰ってきて、現実から逃げるように目を閉じた私は、いつものように、中学のときから使っている、テニスのラケットを持って部活に出掛けた。

三年生も引退して、もうとっくに玉拾いを卒業して、部活が楽しくなってきている頃だというのに、今日は義務感しかなかった。

 

「イチこーう!」

「ファイト!!ファイト!!」

 

走り込みをしているときも、掛け声をしつつ上の空と言う感じで、先輩に怒られてしまった。しっかりしないと。自分で自分を叱咤しないでどうする。

でも、ときどき考えてしまう。学園生活のほとんどを部活に費やして、これは本当に、自分がやりたいことなのだろうかと。

テニスは好きだ。だから、この部活を選んだ。そして、一年間続けてきた。それで?私は、テニスに三年間費やすほどの価値を、この部活に見出だしているのだろうか?

答えはNoだ。そんなはずはない。もしそうだとしたら、あの、"フィルム・クラブ"に入らなかった。

もっと楽しいことを、もっと、私が熱中できることを、求めたりしなかった。その結果が、今の私なのだけれども。

 

「・・・河瀬、聞いてる?」

 

そして、月曜日の登校中。今日は、部活が休みなので石井くんと登校することにした。いつも通り、彼は時間ギリギリに来た。時間は早めに設定してあるから、余裕はある。

 

「ご、ごめん。。。なんだっけ?」

「だからさ、プロットだよ。プロット。そろそろでしょ?だから書いてるのかなって。」

 

プロット。私の作品の、プロット。

彼は、私が悩んでることなんて気が付いていないだろう。彼はそういう人だし、とっくの昔から解っている。それが彼の長所であり、短所であるのだから。

 

「・・・私はッ、」

「ん?」

 

声が詰まった。私、今何を言おうとした?

今、何を彼にぶつけようとした?駄目だ。彼はなにも悪くないのだ。悪いのはすべて私だ。どうしようもないことで、悩んでいる、私だ。

 

「・・・ちょっと、進んでない、かな。」

「そうなんだ。じゃあ、急がないとじゃん。そんなに遠くないよ?」

「だよね。。。」

 

結局その日は、私は放課後の部活を休み、また、現実から逃亡した。

 

『私のやりたいことって、なんだろう。』

 

そんなことをぐずぐずと考え、そして、日は巡ってフィルム・クラブの日になってしまった。

 

私が席を立ち、まだぐずぐずと考えを巡らせていると、宮川さんが話し掛けてきた。

 

「・・・あの、河瀬さん。ちょっと。」

「はい。」

 

彼は、きっと人のことを良く見ているのだろう。少なくとも、私の幼馴染みよりは。

 

「非常に言いにくいのですが、無理を、していませんか?」

「・・・」

 

私は。

 

「二人はレベルが高いから、無理して会わせる必要はないんですよ。」

 

知ってる。解りきってる。そんなこと、一週間も前から。わかっているんだ。

 

「こんなことを言うのは酷かもしれませんが、技術の方で、映画を支えるという関わり方もあります。」

 

技術。つまり、私の作品は

 

「無理をする必要なんて・・・」

 

 

「だから、そんなことありませんって!」

 

 

私の口は、勝手に動いた。私の、声を閉じ込めてくれなかった。宮川さんの、驚いた顔が見える。部屋の視線が私に集まっているのが、わかる。

先程までの騒がしさはなく、静寂だけが、ただただそこにある。

 

 

「おい宮川!お前、なにこそこそ口説こうとしてんだ?見損なったぞ!」

 

ふと、さっきの私のものよりも大きな茶化すような声が、部屋に響いた。見ると、伊丹さんが、本を閉じてうっすらと笑っている。でも、目は合わない。逸らされた。

 

「河瀬、嫌だったら殴っていいんだぞ。」

 

伊丹さんの言葉にワンテンポ置いて、溝口さんが宙を殴りながら私に言った。

二人のお陰で、空気は少しだけ和んだ。皆、それぞれの作業に戻っている。

 

「すみません、そういう訳じゃないです。」

 

だから私も、少しだけ笑って、笑顔を作って、皆に弁明をした。そして自分の席についた。

 

 

「河瀬、どうしたんだ?」

 

石井くんが、話し掛けてきた。

彼は、笑っている。笑顔で、話し掛けてきた。

本当に、空気が読めない。

 

「・・・いてよ。」

 

私は、もう、押さえられなかった。さっきも決壊したのだ。それが、こんなにすぐに繕えるわけがない。

 

「え?なに?ホントにどうかしたのか?」

 

しつこく聞いてくる彼に、私は、とうとう叫んだ。

ただの、八つ当たりだ。

 

「だから、ほっといてよ!!私の気も知らないで!!」

 

きっと、私は大馬鹿者だ。私のせいで、空気がとても悪くなった。また、視線が私に集まってくる。

 

「ご、ごめん・・・。」

「石井くんには、付いていけないよ。」

 

これは、どういう意味で言ったのだろう。

私にも、わからない。でも、きっと、本心だ。

 

「はい!じゃあ、始めるぞ!」

 

私のせいで悪くしてしまった空気を、溝口さんが無理矢理、会議に塗り替えた。

でも、私は、ときどき少しだけの言葉を発するだけで、ほとんど集中していなかった。

 

『技術の方で映画を支えるという関わり方もあります。』

 

宮川さんの、言葉だ。

彼は、カメラマンだそうだ。だから、いつもそうやって映画を支えてきた。

どれだけ素晴らしい脚本で、どれだけ素晴らしい演出で、どれだけ素晴らしい役者が揃っても、それを記録するための技術が無いと、何の意味もない。

 

「技術をやろうかな。。。」

 

悪くはないと思う。むしろ、惹かれたのだ。縁の下の力持ち。私の性に合っているのではないか。思えば思うほど、それが、正解なのではと思う。

 

いや。

これが、『私のやりたいこと』なのかもしれないと、何故だかそのときは確信していた。一片の疑いもなかった。皆無だった。

 

まず、深呼吸をする。

周囲からは誰の作品がどうとか、設定がなんだとか、ロケ場所が大丈夫だとか、色々と聞こえてくる。でも、一番大きいのは心臓の音だった。

 

そして、手を、真っ直ぐと、上に挙げた。

 

「どうした?」

 

溝口さんが、私に問いかけた。

それに、私は答えるのだ。もう。決めた。

 

 

「私は、企画レースから降ります。」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。