高校生映画人 ~青春の監督達~   作:Boukun0214

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そのレンズに映るモノ

「・・・・・。」

 

映像は、ただ漫然と撮っているのでは駄目なんだ。

そこに映っている景色はもちろん、風の囁く音も、より美しく天気を捉えるのも、カメラの外の息遣いも、感情の動きも。

それを記録して閉じ込めるのが、()()()()()ということであり物語を、創作のものを形として閉じ込めるカメラマンの役目なのだと。

そう思っていたりする。

 

昔はよく、ここで遊んでいた。

とても懐かしい、人気のほとんどない、そんな場所。

ここでなら邪魔もないし、時間の許す限りはひたすらに撮り続けていられる。

 

揺れる草木にピントを合わせ、風を撮す。

過ぎる冬雲を数えて、時間を撮す。

鋭い光を透かして、季節を撮す。

 

スコープから覗いた隅々が全てで意味を成していて、その総てに意識を届かせて、その凡てを生かす。

それが撮るということ。少なくとも、私はそう思っている。

 

 

「おーい!河瀬!」

 

不意に、背中の方から声が聞こえた。

顔を上げて振り返ると、そこには、少し久し振りだけど、確かに見慣れた姿があった。

 

「あ、」

 

少し、ほんの一瞬迷ってしまったけど、私は名前を言った。

 

「石井くん。」

 

彼は、少し早足でこちらへと来て、私の横に座った。

 

「カメラ、上手くなった?」

 

あまりにも曖昧な、彼らしい一言に、思わず吹き出しそうになってしまった。危ない。何が危ないと思ったのかはわからないが、顔を背けた。

 

「うん。宮川さんのおかげで、少しは、ね。」

 

実際に、宮川さんから教わったことはごく僅かだけれども。それは確実に、種になって私の中で、実を結ぼうと成長している。

 

「・・・・。」

 

何を話せば良いのだろうか。

会話をするのが久しぶりで、それより遥かに長い付き合いだというのに、ついこの間までどうやって話していたのかを思い出せない。

 

「そういえば、今日は部活じゃないんだね。休み?」

 

先に口を開いたのは石井くんだった。

そして、その受け答えは自分でも驚くくらいにすぐ口を出た。

 

「あ。部活ね、辞めたんだ。」

「へ?」

 

石井くんが驚いた顔をした。

 

「あっ、これね。うちから持ってきたカメラなんだ。」

 

私はカメラを持ち直して、石井くんに見せるように、軽く掲げた。

 

「それじゃあ、練習するのには不便じゃない?」

「ううん。大丈夫。」

 

咄嗟に答えてしまった。

でも、ここで変に強がるから、私はこのままで、彼よりも上だと思い込んで、意地を張って、そうして、こうなってしまったのだと、私は気がついていたから。だからこそ、私は、言い直した。

とても勇気が必要なことかもしれなかったけれど、ずっと、すんなりと、"弱音"は私の口から滑り落ちた。

 

「・・・いや、うん。少し、ね。」

 

このカメラだと、露出も機械的な補正しか利かないし、ズームやルーズ、それに伴ったピントもほぼ機械制御で自由度がない。家庭用だから仕方がないけれども。それに、三脚もない。

確かに、彼の言う通り。結構、不便は感じている。

わかってしまうのだろうか。彼には。いや、考えすぎか。彼がそこまで鋭い人間ではないことは、私が一番理解している。

 

 

「河瀬、このカメラ、使ってよ。」

 

石井くんが、肩から下げた、少し大きめのカメラバックを掲げた。彼のお父さんに買って貰った、彼の宝物だ。彼がそれを持っているのはあまりにも自然すぎて、そんな風に言われるなんて想像していなかった。

 

「えっ?」

 

彼は少し照れ臭そうに笑って、カメラバックを肩から下ろした。

 

「僕は、監督をやる。だから、このカメラは使わない。それに、河瀬がこのカメラを使った方が、喜ぶと思うんだ。」

 

彼の決意が見て取れた。

彼は、本当に、伊丹さんを越えるつもりらしい。

それでも。私は。

 

「でも・・・こんな大事なもの・・・それに。」

 

私は、差し出されたそれをそっと押し返す。

 

「・・・・この間、私、石井くんに、当たっちゃったから。私には、そんな資格は・・・」

 

私は視線を落とした。

彼には、随分と酷いことを言ってしまったことを思い出した。嫌な汗が出る。嗚呼、それすらも彼への負い目ではなく、私の、保身のようなモノだということに嫌気が注す。

 

 

「ああ、えっと、あのときのこと?」

 

彼は、少しポカンとしたように、そして笑った。

 

「それよりも。」

 

もう一度、彼は私にカメラを差し出す。

 

「僕の作品は、河瀬に、このカメラで撮って欲しいんだ。」

 

そして、私の顔を覗き込んで、真剣な顔で。

私は何と返答したら良いのか、全然わからなくなって、いつもの当たり障りのない言い訳も出てこなくなってしまった。

 

「うん。だからさ。これは、僕のわがままなんだ。」

 

・・・きっと、嬉しかったのだと思う。

そうして出てきた言葉は、本心だった。私はそう信じている。

 

「・・・ありがとう。」

 

私の持っているものよりも、一回りも大きくて、ずっと重いそれを、私は受け取って、抱える。

ああ、負けてられない。

私だって、負けてられないよ。石井くん。

 

「でも、まだ私、監督を諦めた訳じゃないから。」

 

少し恥ずかしくなったからか、また言い訳めたいことが出てくる。でも、それは不思議と気持ちの悪いものではなかった。

 

いつか、()()()()として、撮影に参加したい。そう思うのも本心で、彼を、本当の意味で超したいと思った。

 

「アハハハハっ」

 

急に、石井くんが笑いだす。堪えきれないと言ったような、無邪気な子供のように、楽しそうに笑う。

 

私も、段々と可笑しくなって、笑った。

久し振りに、大声を出して笑えたような気がする。やっぱり、この幼馴染みには敵わない。

 

ただ、今は、夕日に照らされた唯一無二の親友の笑顔を、レンズで捉えて、ワンシーンのように切り取って、想い出にしてしまおう。

 

きっと、いつかそのフィルムも色褪せてしまうかもしれないけれども、それはそれで、素敵なことだ。

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