高校生映画人 ~青春の監督達~   作:Boukun0214

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二人の分岐点

企画会議からの一週間、僕は作品を膨らませ、プロットにしていった。

 

そして今僕は、フィルムクラブの席につき、会議が始まるのを一人待っていた。

ちなみに、今河瀬は、宮川さんと話している。

 

 

「だから、そんなことありませんって!」

 

 

ふと、急に河瀬の声が、室内に響き渡った。全員が川瀬と宮川さんの方を見る。

気まずい雰囲気の中、伊丹さんが急に、さっきの川瀬よりも大きな声で、茶化すように言葉を発した。

 

 

「おい宮川!お前、なにこそこそ口説こうとしてんだ?見損なったぞ!」

 

 

すると、それに続いて、溝口さんもシャドウボクシングのようなジェスチャーをしながら言う。

 

 

「河瀬、嫌だったら殴っていいんだぞ。」

 

 

二人の言葉で、場の空気はなんだか少しだけ和んだ。

 

 

「すみません、そういう訳じゃないです。」

 

 

誤魔化すように笑って、河瀬が僕のとなりの席につく。

 

 

「河瀬、どうしたんだ?」

「・・・いてよ。」

「え?なに?ホントにどうかしたのか?」

「だから、ほっといてよ!!私の気も知らないで!!」

 

 

河瀬がガタンと立ち上がり、大声で叫ぶ。また、メンバーの視線が河瀬に集まる。

 

 

「ご、ごめん・・・。」

「石井くんには、付いていけないよ。」

 

 

河瀬がとても小さな声で呟き、席に座り直したところで、溝口さんがパンパンと手を叩き、会議を始める。

 

 

「はい!じゃあ、始めるぞ。」

 

 

皆、自分の手元を見る。各々の手元には、僕、河瀬、そして伊丹さんのプロットが用意されていた。

しばらくの間、全員が手元のプロットを読む。

予定通りなら、この会議が最終となり誰の作品を作るかが決まる。

少しの沈黙のあと、溝口さんが口を開いた。

 

 

「・・・個人的にはな、プロットを見ても伊丹のがいいと思う。よく現代社会の人間というものが風刺されてるじゃないか。」

 

 

続いて、本多さんも意見を出す。

 

 

「そうだね。ただ、石井くんのはね、伸びしろがあると思うんだよね。」

 

 

そこで、会議が滞ってしまう。

少しすると、溝口さんが内田に話を振った。

 

 

「内田!なんか、無いか?」

 

 

内田が、あわあわっとして答える。

 

 

「ええ!?そんな、三人ともいい作品ですよぅ。」

「ぼんやりと包み隠さず自分の意見を言え。」

「うっ・・・」

 

 

伊丹さんがぴしゃりと内田につっこむ。内田は言葉に詰まって黙ってしまった。

つーか、伊丹さん怖ぇ・・・。

 

すると、河瀬があの、と話を切り出す。

 

 

「えっと、私のはどうですか?」

「そうだな、うーん、悪くはないんだが、いまひとつ、パンチが足りないなぁ。」

「世界観は面白いと思うよ。うん。ただ、所々詰めが甘いんだよね。」

 

 

溝口さんが本田さんの言葉にこくこくと頷く。その言葉を聞いて、河瀬がガックリと肩を落とす。

 

 

「俺のはどうです?良いって言っても、問題点はありますよね?」

 

 

伊丹さんが、三人に質問をする。

 

 

「ああ、それはだな、冒頭で起きる事件のことだが、これが大分重すぎる・・・。主人公の行動原理になっているのは解るんだがなぁ。」

「そうだね。あと、移動のときの描写をどうするかっていうのとかね。」

「撮影をするに当たっては、特にロケ場所さえ確保できれば問題はないと思いますよ。」

 

 

溝口さん、本多さん、宮川さんの順で伊丹さんに意見を言う。

伊丹さんは手帳にそれをメモしていく。

 

あの人って、結構真面目なのかも。人の助言はしっかりと聞くのか。。。第一印象よりは悪い人ではないかもしれない。

 

 

「技術をやろうかな・・・」

 

 

ふと、河瀬がポソリと、こんなことを言い、深呼吸をした。

手を高く、そして真っ直ぐ挙げる。

 

 

「どうした?」

 

 

溝口さんがそれに気がついて、河瀬に声をかける。

 

 

「私は、企画レースから降ります。」

 

 

河瀬の透き通った声が、メンバーの視線を引き付ける。

僕は、驚きのあまり思わず彼女にこう言った。

 

 

「なんで、いきなり・・・?」

 

 

河瀬は、溝口さんに説明を始める。

 

 

「私は、私は本当は、企画をやりたいです。でも・・・」

 

 

河瀬は、少し俯いて、言葉を繋げる。

 

 

「本多さんが言うように、随所の爪の甘さは自覚しています。だから、」

 

 

そして、前をキッと向いて、決意を固めたようにこう言う。

 

 

「だから、経験を積みます。他の人の作品に携わって、経験を積みます!」

 

 

僕はとても驚いた。

正直、河瀬がレースから降りるとは思っていなかったし、そんな可能性にすら気がついていなかった。

僕の反応とは裏腹に、溝口さんはとても冷静に答える。

 

 

「ああ、構わない。それでも。いいと思う。で、今回はこれから何をやるんだ?」

 

 

河瀬は、宮川さんの方に向き直る。

 

 

「宮川さん、その、さっきはすみませんでした。宮川さんの、おっしゃる通りでした。」

 

 

河瀬は、すぅっと息を吸って、言葉を吐き出す。

 

 

「・・・だから、私にカメラを教えてください!」

 

 

頭を大きく下げる。

しばらくの沈黙のあと、宮川さんはニッコリと笑って承諾する。

 

 

「わかりました。一緒に、カメラをやりましょう。」

 

 

宮川さんの言葉に再度深々と頭を下げる河瀬。宮川さんと握手をして、席に戻る。

 

 

「うん。これで、伊丹と石井の一騎討ちになったな。」

 

 

溝口さんが、話を先に進める。

 

 

「それで、二人のどちらになるんですか?」

「そうだな・・・本多、どう思う?」

「まあ、現時点じゃあ、伊丹君の方が優勢だね。」

「そうだな。今現在、紛れもなく伊丹の優勢だ。」

 

 

内田の質問に答えた溝口さんと本多さんに、僕はつい、声をあげてしまう。

 

 

「そんな・・・!僕の企画の、どこがダメなんですか?」

 

 

ふう。と、本多さんが答える。

 

 

「まずね、君の企画は、この国の暗部を描こうとしているようだから、社会派でシリアスなものを狙っているね?」

「はい。」

「それだと、伊丹君のものと被ってしまうんだよ。そうすると・・・キャリアもあるんだろうけど、それを多目に見たとしても、伊丹君の方が良い。」

 

 

何も、言い返せない。

 

本多さんはさらに僕に追い討ちをかける。

 

 

「あとね、オチがちょっと、よろしくないね。暗部を見て安心するということは、下には下がいることに甘んじるってことだからね。」

「いえ!決してそういうわけでは・・・」

「君はまだわからないのか?」

 

 

僕の言葉を、冷たい声が遮る。

 

伊丹さんだ。彼は、その言葉を続ける。

 

 

「作り手がどう考えていようが、受け取る側がそう受け取ってしまえば、その作品はそうなってしまうんだ。」

「・・・」

「そうだ。ほとんど二人の言う通りだ。」

 

 

納得がいかないと思っている僕に、溝口さんが説明をする。

 

 

「だから、こうやってみると、お前と伊丹の間には大きな差がある。大きな、作品への取り組み方の差がな。」

 

 

大きな、差。

 

 

「厳しいことを言うかもしれないが、制作者の説明がないと伝わらない映画なんて、いい映画になるわけがない。わかるな?」

 

 

でも、僕は・・・

 

 

「じゃあ。お二方とも、さっさと決めてしまいましょう。」

「そうだな。今回の作品は、伊丹の・・・」

 

 

「待ってください!!」

 

 

諦めきれない。

こういうのが往生際が悪いって言うのかもしれないけど、諦めたくなかった。

 

 

ここで、諦めたくなかった。

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