親愛へのレスポンス ~ Story of Honoka 作:Kohya S.
私が適当に走ったせいで千歳橋高校につくのはぎりぎりになっちゃった。
「えーっと、こっちから戻れば、いいのかなー」
ことりちゃんが案内してくれて、なんとか間に合ってよかった。
ふつうに雑居ビルが並ぶ一角に校門があってびっくりしたけど、両側を建物にはさまれた通路をすこし歩くと、校庭が広がるおなじみの光景でひと安心。運動部が部活をしてたんだ。
でも、やっぱり音ノ木坂にくらべると敷地は狭いみたい。
「ビルに囲まれた学校、意外な感じですね……」
海未ちゃんがまわりを見渡していったの。私も同感です。
「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、これみて」
ことりちゃんが指差していたのは、交流会参加者への案内板。
「えーっと、昇降口から上がって、二階の北側、だね……」
校舎は音ノ木坂よりずっと縦に長い感じだね。七階くらいあるんじゃないかな。
私たちは昇降口で、用意されていたスリッパに履き替えます。そこにも案内があったのでそれにしたがって進んだんだ。
階段を上って廊下を進むと、ざわざわした雰囲気が伝わってきて……。
「あそこみたいだよ!」
私はすこしワクワクしてきて、ふたりに声をかけたんだ。
「そのようですね」
「もうみんな、来てるのかな」
教室の入り口は開いてたので、私たち三人は入り口からのぞき込みました。
その教室は普通の教室より一回り大きくて、長机と椅子が並んでました。音ノ木坂にはこういう教室はないなあ……。
そして、それぞれ違った制服を着たグループがいくつか、教室のそこかしこでおしゃべりしてて。
「あれっ、UTX高校です」
ことりちゃんが気付いたの。たしかに見覚えのあるネクタイに白いブラウスを着たふたり連れがいたんだ。
「意外ではありませんね」
うん、海未ちゃんのいう通り近くの高校から集まるなら当然だよね。でも、UTX高校か……。
いつまでものぞいているわけにもいかないので、私たちも中に入ります。ちらっと視線を送ってくる生徒もいたけど、さすがの私も、いきなり話しかけるのはためらっちゃうかな。
・
三人で話しながら落ち着かない数分間を待ってると、隣の部屋から数人のスーツ姿の男女が入ってきました。
そのうちのひとりの男性が教室の前方、黒板の前に立ったの。大人の人の年齢はよくわかんないけど、三十代くらいじゃないかな。笑顔が親しみやすい感じだね。
「えー、皆さん、とりあえず席にお座りください」
マイクを片手にそういいました。私たちを含めて、教室の生徒たちはばらばらと座ったんだ。
「今日は交流会にご参加いただき、ありがとうございます。事務局の佐藤です」
頭を下げる佐藤さん。なんとなく私たちも会釈します。
「今日は私が進行をつとめさせていただきます。よろしくお願いします。また、事務局の者が皆さんをサポートします」
佐藤さんはそういって後ろを見るように私たちにうながします。そこには残りの三人の男女が立っていて軽く頭を下げたので、私たちはまた、それにこたえたの。
佐藤さんは教室の正面から、右側にあった演台に移って……。なにか壁面のスイッチを操作したかと思うと、黒板の前に天井から白いスクリーンが下りてきたんだ。
「おおっ、かっこいい!」
私は感動しちゃいました。
「モダンですね」
海未ちゃんもいうけど……他の高校の子は、誰もなにもいわないのを見ると、ほかの学校だと当たり前なのかな。
演題の上にはパソコンが置いてあるみたい。佐藤さんがなにかをするとスクリーンに文字が映し出されました。今回の交流会の資料だね。
それから佐藤さんは今回の交流会について、改めて説明しました。私たちはところどころうなずきながら聞きます。
「具体的な内容ですが……今回は八つの高校の生徒会の方に、参加していただいています。それを四つのグループに分けて、それぞれでグループワークをしていただきます」
佐藤さんの話に海未ちゃんはいうの。
「なかなか本格的ですね……」
私もうなずいちゃった。もっと、こう、委員会とかみたいに、発言して議論して、最後にまとめて……みたいなのを想像してたんだけど。
「それで、グループ分けですが……各校の代表者の方に、くじ引きをしていただます。各校の方、前にどうぞ」
佐藤さんの言葉に私たちは顔を見合わせたけど。……やっぱり、私だよね。
私は立ち上がります。
「穂乃果ちゃん、がんばって」
ことりちゃんが応援してくれたけど、なにを頑張ればいいのかな。
私は机の間をぬって前に出たんだ。佐藤さんはにこやかに、数本の割り箸のような棒を持って待ってます。
そのとき、私はとんでもないことに気が付いちゃった。
私の右側にいる男子生徒は……さっき私がぶつかりそうになった男の子じゃない!
「あーっ」
私は思わず声を出しちゃった。みんなの注目が集まってしまって、あわてて口を押さえたけど。
彼も思い出したようで、声こそ出さなかったけど、驚いた顔をしてたの。ちょっぴり赤い顔をしているのは……やっぱり私のパンツ、見られてたんだね……。
私はいそいで顔をそらしたけど。……でも、あまり気にしてもしょうがないよね。
佐藤さんはすこし戸惑っていたようでしたが(ごめんなさい!)、私たちに棒を引くようにうながしました。
私が引いたのは、先端に赤い色が塗られてて……。
「えー、ではまず青の方……。はい、高校をおっしゃってください。……高校と……高校ですね。グループAです」
佐藤さんが紙に書き込んでいます。
「次に赤の方」
「はい、音ノ木坂学院です」と私。
そうしたら驚いたことに……。
「千歳橋高校です」と彼がいったの!
ということは彼と一緒にやるんだね……。
「はい、グループBですね」
UTX高校はグループCみたい。
私は肩を落として席に戻りました。
「穂乃果、ひょっとしてあの方は……」と海未ちゃん。
「うん……さっきの人だった。千歳橋高校だって。……同じグループになっちゃった」
「あはは……ちょっと、気まずいね」
ことりちゃんが笑いました。
「まず最初に謝りましょう」
海未ちゃんの言葉に私はうなずいたんだ。
――――――――――
穂乃果のくじ運は、本当に目を見張るものがありますね。
「それではグループも決まりましたので、席を移動して、机も並べてください」
スクリーンには机の置き方と、各グループの座席の位置が表示されました。ふたつの長机をくっつけて大きな机にして、それを四つ作るようです。
私たちは指定された教室の右前方に行き、机を並び替えて、そこに座りました。穂乃果の右隣に私、左隣にことり、という並びです。
そして向かいにはふたりの男子生徒が席につきました。向かって右側に例の彼、そして左側にもうひとりです。千歳橋高校は、ふたりで参加のようですね。
「えっと、よろしくお願いします」
穂乃果が代表する形でまずは挨拶しました。
「よろしくお願いします」
彼が答えました。
「あの……」と穂乃果は続けようとしましたが、佐藤さんがお話しを始められました。
「えー、皆さん、席におつきになりましたね。まずは、グループ内での自己紹介から始めていただます。これから名札を配りますね」
教室の後ろに待機していた方々が動き出して、それぞれの机に名札――プラスチックのカードケースの裏側にクリップが付いています――とサインペン、それにスケッチブックを、人数分だけ配られます。
「スケッチブック、なにに使うのかな?」
ことりは興味津々のようです。
配り終えると佐藤さんはお続けになりました。
「名札に高校名、生徒会の役職、それにお名前を書いてください。ふりがなもふってくださいね」
参加者それぞれが、がやがやと名札に名前を書きます。穂乃果は、とみると……例によって最後が入りきらなくなっていますね……。
「書いたら、胸に留めてください」
私たちは名札を留めました。こういう経験はあまりありませんから、なんとなく新鮮でした。
ちらっと向かいを見ると、彼は
「スケッチブックにも名前を書いてください」
私たちはしたがいます。
「えー、自己紹介ですが……ふつうのだとつまらないので、こんなのを紹介してみましょう」
佐藤さんがそういうとスクリーンには大きく次のような文字が映し出されました。
『実は○○です』
佐藤さんは続けておっしゃいます。
「なんでもいいので、普段は自己紹介ではあまり話さないようなことを、話してみてください。たとえば私だったら……実は、パンを焼くのが趣味なんですね」
佐藤さんがおどけてそうおっしゃると、生徒さんたちは笑いました。
「ほかにも、実は笑い上戸です、とか、寝癖が付きやすくて毎朝困ってます、とかなんでもいいですね」
これは、なかなか楽しそうですね。
「それでは五分ほど取りますので……お手元のスケッチブックの最初のページに、実はなになにです、と書いてみてください。では、どうぞ」
生徒さんたちは一斉にスケッチブックを開きました。
・
「こういう風に使うんだ」
ことりはスケッチブックとペンを手に嬉しそうです。
「うーん、いろいろあって困っちゃうなあ」
穂乃果がいいます。
「実は、和菓子屋なのにパンが好き、でしょ。すっごくなまけ者です、とか」
「そうですね」
穂乃果の言葉に私はくすりと笑ってしまいました。
「穂乃果ちゃん、それぜんぜん、実は、じゃないよ」とことり。
「あ、そっか。ことりちゃんも海未ちゃんも、知ってるもんね」
穂乃果は舌を出して笑いました。
「今回のお相手はあちらのおふたりですから……それでもよいのではないですか」
私はちらっと向かいのふたり、神部さんと倉田さんに目をやってから、穂乃果にそういいました。
「そうだね。じゃあ、なにか考えてみるよ」
穂乃果は腕を組んで考え始めました。
私もなにか考えなければなりませんね……。しばらく悩んでから、スケッチブックに書き込みました。
穂乃果とことりも書き終えたようです。
「はい、皆さん、書けたようですね」
佐藤さんが声をかけられます。
「では、これから……十五分くらい取りますので、グループ内で自己紹介してください。まずは普通に名前などをいってから、実は……とやってくださいね」
生徒さんたちはうなずきます。
「時間内で終われば構いませんので、お互いに質問などもしてください。では、はいどうぞ」
私たち五人は顔を見合わせました。
「じゃあ、私からいくね」
穂乃果がいいます。このあたりで率先して行動するのは、穂乃果らしいです。
「えっと、私は音ノ木坂学院で生徒会長をしている、高坂穂乃果です! 趣味は……えっと、趣味というか部活かな……スクールアイドル、やってます!」
その言葉におふたりはすこし驚いたようでした。
「スクールアイドルって、歌ったり踊ったりするやつですか」
倉田さんが聞きました。
倉田さんは長身でツーブロックの髪、筋肉質で……運動部でしょうか。
「はい、私たち……いろいろあって、がんばってるんです」
「へえ、すごいんですね」
倉田さんは感心していますが、スクールアイドルにはあまり詳しくないようですね。
「それで、実は……」
穂乃果はスケッチブックをめくり、自分の前に立てました。
「実は、すごくおっちょこちょい、なんです!」
ことりと私は、深くうなずきました。
「はい、なんかすごく……よくわかる気がします」
神部さんが口を開きました。例の事件を思い出したのか……すこし赤くなっているようです。
穂乃果は頭を下げて続けました。
「その、すみませんでした!」
「いえ、俺のほうは大丈夫だったので……。俺も忘れるんで、高坂さんも忘れてください」
神部さんはすこし困ったようにいいました。
「はい、わかりました!」
穂乃果は元気よくそう答えました。
「なんかあったの、神部?」と倉田さんが尋ねていますが、神部さんは口を濁したようでした。
次は、神部さんか私、でしょうか。私がちらっと彼を見ると、彼はうなずいて話し始めました。
「ここ千歳橋高校の生徒会長の神部英太です。よろしくお願いします」
神部さんは倉田さんほど背は高くないようでしたが、それでも標準か、やや高いくらいでしょう。髪はショートで、どちらかというと痩せ形でした。
頭を下げた神部さんに私たち三人も軽く会釈します。
「あの、交流会は、千歳橋高校の主催なんですか?」
ことりが聞きました。
「いえ、そうではなくて、会場を提供してるだけみたいです」
「そうなんですね」
ことりは納得したようです。
彼もスケッチブックを取り出しました。
「えっと……恥ずかしいな。実は、にぶい、鈍感ってよくいわれます」
彼の言葉に私たちは戸惑います。
「どういうことですか?」
私が代表して聞きました。
「俺自身はわからないんですけど、空気が読めない、っていうのかな、そんな感じらしいです」
彼は照れたようにいいました。
「あー、ちょっとあるかもなあ」と倉田さん。
生徒会の会長ともなると、あえて空気を読まずに発言することも、ときには必要なのかもしれませんね。
続いて私の番です。
自己紹介のあと、私は「実は恥ずかしがり屋です」と書いて皆さんにお見せしました。穂乃果とことりは、うんうんとうなずいています。
「あれ、でもスクールアイドルをやられてるって……」と神部さんがいいます。
私もそのお話しをしましたので、当然の疑問でしょう。
「ええ、そうなのですが……毎回、ステージに立つたびに、恥ずかしくて顔から火が出そうなのです……」
最後のほうは小声になってしまいました。
「でも、海未ちゃん、いったんステージに立つと大胆だよね。投げキッス……」
「もう、やめてください!」
穂乃果がいらないことをいいだすので、私は途中でさえぎりました。やっぱり、こんなことを書くんじゃありませんでした……。
そんな私たちを神部さんと倉田さんは面白そうに見ていました。
倉田さんは「実はカラオケがけっこう得意です」とのことでした。
「へー、ちょっと意外かも」と穂乃果。
「スクールアイドルだなんて、俺、こんなこと書かなきゃよかった」
倉田さんはそういって苦笑していました。そうはいっても、私たちも半年前まではなにもしていなかったのですが。
ことりは「実はアルパカさんとお話しできるんです」と書きました。隅にはアルパカのイラストが描かれています。
これには穂乃果と私も驚きました。
「ことりちゃん、お話しできるのー?」
穂乃果が目を見開いてたずねます。
「えへへ、最近、そんな気がするんだー」とことり。
神部さんが私たちに聞きました。
「……アルパカが学校にいるんですか?」
「うん、オスとメスと一頭ずつ、いるんだよ」
穂乃果が答えます。
「ふわふわで、もこもこで、すっごく可愛いんです」
ことりも笑いました。
「それはちょっと見てみたいなあ」
倉田さんの言葉に神部さんもうなずきました。
「さて、そろそろ時間ですが、よろしいですか」
佐藤さんが呼びかけられました。
教室内は一風変わった自己紹介のおかげか、盛り上がっていました。
私たちのグループもかなり打ち解けたように思います。これからのグループワーク、楽しみになってきましたね。