親愛へのレスポンス ~ Story of Honoka 作:Kohya S.
自己紹介も終わって私たちのグループも本格的に始動だよ!
私の自己紹介はあまり意外に思ってもらえなくて、残念だけどね。
「えー、ではいよいよ交流会の本題に入ります」
生徒たちが静かになったのをみて佐藤さんが話し始めました。
「今回は、いくつかのテーマをこちらで用意しました。その中からグループごとにひとつを選んで、ディスカッションしてもらいます」
スクリーンに文字が映し出されて、そこには「委員会活動の活性化」「文化祭の運営と盛り上げ方」「生徒会と地域貢献」「生徒会の組織運営」の四つが並んでいたんだ。
「どれかについて、いま皆さんが認識している課題を挙げてもらい、そのあとで解決策を考えてもらいます」
なんだか難しそうだなあ。
「最終的にはプレゼンテーションしていただますが……すこしずつ進めますので、安心してください」
佐藤さんはそういうけど……。
ちらっと海未ちゃんのほうを見ると、海未ちゃんは安心させるように微笑んでくれたんだ。
「では、まずはグループ内で、どのテーマにするか決めてください」
私たちをふくめて生徒たちはうなずいたの。気の早いグループはもう相談を始めているみたい。
「それから各自、自分が考える課題や問題点、改善点などを、スケッチブックに書いてください」
佐藤さんはいったん言葉を切って教室を見渡して……。
はい、とひとりの女子生徒が手をあげます。佐藤さんがうながすと。
「課題は、グループ内で相談してもいいですか?」
「そうですね、まずは自分だけで考えてみてください」と佐藤さん。
今度は別の男子生徒が聞きました。
「いくつくらい挙げればいいんでしょうか」
「次に絞り込むことになりますので、いくつでもいいですが……だいたい三個以上あると、進めやすいでしょうね」
えー、私、ひとりでそんなに思いつくかな……。
佐藤さんは少し待ちますが、それ以上質問はないみたい。
「これから三十分ほど時間を取ります。テーマを決めて課題出しを行ってください」
スクリーンには四つのテーマと「テーマ決定・課題出し:30分」との表示。
私はグループの四人に向き直ったけど、なんとなく私に視線が集まってるような。えー、神部君はなにもしてくれないのかなあ。
仕方ないので私が口を開いたんだ。
「えっと、テーマだけど……その、何にしようかな?」
「どれも生徒会にとっては重要ですね」
海未ちゃんがそういうと、みなうなずいてるけど。それじゃあ進まないよー。
「生徒会の組織運営は、うちではうまくいってるんじゃないかな」
神部君がそういうと倉田君も同じ意見みたい。
「なにしろ生徒数、少ないからねー」と倉田君。
「わたしたちも、そんな感じかな。わきあいあいって感じだよね」
私もことりちゃんに同感だな。
「じゃあ、これは外しましょう」
神部君がいって私たちはうなずいたの。
同じような感じで地域貢献も候補から外したんだ。
「あとは、委員会活動と文化祭ですね」
そう海未ちゃんがいうと神部君が聞きました。
「音ノ木坂の文化祭は、いつごろですか」
「九月なので、もう終わっちゃったんだよねー」と私。
そう、いろいろあったよねー。私が悪いんだけど。てへへ。
「そうなんですね。千歳橋は十一月です」
おお、再来月じゃない。
「私たちは今年の反省が生かせますし、千歳橋高校のかたたちには、これから役に立つでしょうか」
そう海未ちゃんがいうと。
「悪くないと思います。どうですか」と神部君。
「もう間に合わないかもしれないけどな」
倉田君は茶化すようにいうけど……。
「いいと思うな」と私はいったんだ。
「ことりも、賛成です」
というわけで、私たちのグループのテーマは、「文化祭の運営と盛り上げ方」に決まりました!
でも……私、文化祭ってどうやって運営されてるか知らないかも……。
「ねえねえ海未ちゃん、文化祭って誰がやってるの? 生徒会?」
海未ちゃんに聞いちゃった。
「生徒会が運営していたら、絵里や希はもっと忙しかったはずですよ。学園祭実行委員会が運営してるんです」
へー、そうなんだ。
「あ、俺、文化祭実行委員、兼務してます」と倉田君。
「それでも生徒会がやることも、多いはずです」
海未ちゃんがそういうと神部君もうなずいてる。
「来年までに、私たちもしっかり、勉強しないとですね」
ことりちゃんがいいました。
それから私たちは、それぞれ課題を挙げるのに取りかかったんだ。でも、盛り上げ方はなんとかなるとしても、運営なんてわかんないし。
私は必死に考えたんだけど……思いつかないよー。
「海未ちゃん、たすけてー」
「穂乃果、自分で考えないとだめですよ」
海未ちゃん、厳しい!
「……あの、高坂さん、文化祭でなにか困ったこととか、ありませんでした?」
神部君が話しかけてくれたの。
「うーん、会場の確保とか、お客さんにどう来てもらうとか……」
私が思い出しながらいうと。
「そういうのから、広げてくといいんじゃないかな」
なるほど、そういう考え方もあるんだな。
「ありがとう、神部君!」
私がそういうと神部君も笑いました。
ときどき、佐藤さんやサポートの人たちが机の間を回ってくるんだけど、進め方とかについては答えてくれても、肝心な内容の質問には、あいまいなことしかいわないんだ。ちぇー。
それでも、それから30分が経つまでに私はなんとか三つ以上、考えたんだ。
「はい、よろしいですか」
佐藤さんの声が教室に響いて、生徒たちが顔をあげました。
「いくつか挙げられましたかね……。もし少なくても、みんなで考えますから、心配しないでください」
ちょっとホッとした空気が流れたみたい。
「では、いよいよグループワークです。みんなで考えた課題や改善点を見せ合って、まずはいくつかに……そうですね、三つくらいでしょうか。それくらいに絞ってください」
うなずくみんな。
「そうしたら、それぞれの課題について、解決するためのアイデアを、できるだけたくさん、考えてください。スケッチブックに書いていくといいでしょう」
うーん、また難しそうだなあ。
「これから休憩を10分間取りますので、そのあと50分で考えてください。では、よろしくお願いします」
佐藤さんが話し終えると、教室内は一気に騒がしくなったんだ。
「んーっ」
私は思わず伸びをしちゃった。意外に疲れてるみたい。
「穂乃果、きちんと考え付きましたか」
海未ちゃんの質問に私は胸を張って答えたんだ。
「うん、なんとか考えたよ」
「それはよかったです」
海未ちゃんが笑いました。
そのあと三人でお手洗いに行ったりして、休憩時間はすぐ終わっちゃった。
・
休憩時間の間に、机の上にはお茶とお水のペットボトルが何本か置かれてて……至れり尽くせりだね!
私と海未ちゃんはお茶を、ことりちゃんはお水を選んだの。
そのあとは課題を見せ合ったんだ。
私が考えたのは「盛り上げイベント開催」「イベント会場の確保」「来客をどう案内するか」そして「体調管理」だよ。
海未ちゃんとことりちゃん、それに千歳橋のふたりからも、いろいろ課題が出てきました。
それからどうするか話し合って……私の「体調管理」は「その気持ちはわかりますが、ここではちょっと」って海未ちゃんにいわれて、そうそうに却下されちゃったけど……「生徒会にできること」「会場の確保」「イベントで盛り上がる」に決まったんだ。
ことりちゃんが代表してスケッチブックに書いてくれたよ。
「盛り上がるイベント、っていったら、やっぱりライブだよね!」と私。
「でも、千歳橋にはスクールアイドル部、ないからなー」
という倉田君。そっかー。
「でも、吹奏楽部や軽音楽部は、ありますよね」
ことりちゃんが聞くと神部君がうなずいてる。
「うん、体育館で演奏会をしてるけど、いまいち盛り上がってないかな」
うーん、どうすればいいのかな。あ、思いついたよ。
「そうだ、おたがいに相手の文化祭に、参加して演奏するとか」
「授業の日程などもありますから、なかなか難しいかもしれませんね」
海未ちゃんがいいます。たしかにそうかなあ。
「でも、発表の機会が限られている部活にとっては、貴重な機会かもしれません」と神部君。
「そうですね」海未ちゃんもうなずいて。
「アイデアとしては、ありだと思います」
神部君はそういってくれたの。
ことりちゃんがスケッチブックに書き留めました。
それからもいろいろ考えたんだ。
「うーん、生徒会、なにができるのかなあ」
私には、どう運営されてるか、そもそもよくわかんないんだけど。てへへ。
「文化祭実行委員会が実際の仕事をこなし、生徒会はその裏方、という感じでしょうか」
海未ちゃんは考えながらいいました。
「裏方か……そうだ、ときどき差し入れを持っていくとか?」と私。
「ずいぶん具体的ですね」と海未ちゃんが笑うので。
「でも、差し入れ、嬉しいよ」
私はふくれちゃいました。
「たしかに、嬉しいですよね」と神部君。
しばらく神部君は考えてたけど。
「……忙しくなってくると、うまく回らなくなっても、気付かないですからね。実行委員会の活動を監視する……というと、言葉が悪いか。見守るのも必要でしょうか」
おお、そうなんだよ。
「うん、私もそれがいいたかったんだよね」
「本当ですか、穂乃果……」
「でも、メモしておきますね♪」
ことりちゃんが「差し入れ」「委員会を見守る」と書いたんだ。
「ライブなら、吹奏楽部の生演奏で歌えば、盛り上がりそうだし、会場の確保の問題も解決するんじゃない」
倉田君がいいました。考えてもみなかったけど、ありなのかな。
「でも、練習とか、たいへんそうです」
ことりちゃんはいうけど。
「ありかもしれないよね」と私。
海未ちゃんと神部君もうなずいてるので、これも一応、採用だね。
そんな感じでアイデアを出し合って、途中で書記役を倉田君に交代したりしながら、50分はあっという間に過ぎちゃいました。
――――――――――
「さて、時間が経ちました」
佐藤さんが演壇の前に立たれると教室は徐々に静かになりました。
「みなさん、アイデアは出ましたか」
生徒さんたちは、はいと口々に答えました。
「ばっちりだもんね」
穂乃果も私にウインクします。
「では、次に、アイデアの中からいくつかに絞り込んで、それを課題ごとに、解決策として具体化してください。解決策を選んだ理由も、説明してくださいね」
さきほどまでの作業は本当に悩みましたが、今度もたいへんそうですね。
「次回はパソコンでまとめることになりますが、今日は、まずは紙の上に書いてください」
これは……先が思いやられます。ことりならパソコンは得意でしょうか。
「では、今日はこれが最後の作業なので、一時間半、取ります。午後四時半までですね。休憩は、途中で各自、取っていただいて構いません」
佐藤さんが話しを終えられると、またざわめきが戻ってきました。
「それじゃ、まとめていきましょうか」と神部さんがいいました。
さきほどのアイデア出しの中で、神部さんは穂乃果の無茶な言葉を否定することもなく、うまくまとめられていました。私はすこし感心していました。
「その前に、ちょっときゅーけー」
穂乃果が机に突っ伏しています。途中に短い休憩はありましたが、μ'sの練習とは違って頭を使いますので、さすがの穂乃果も疲れているようですね。
「わたしも、ちょっと疲れちゃったかな」
ことりの顔にもすこし疲れが出ています。私もきっとそうなのでしょう。
「あ、すみませんでした。すこし休みましょう」
神部さんが謝りました。そして続けました。
「よかったら、風に当たりに、屋上でも行きますか?」
「あ、行きたい行きたい!」
穂乃果ががばっと飛び起きました。もう、現金ですね。
ほかの学校のかたには申し訳ありませんが……今回は、穂乃果のくじ運に感謝しておきましょう。
神部さんの案内で五人で教室を出ました。途中、倉田さんが「あ、俺、鍵取ってくるよ」といって離れていきました。
私たちはエレベーターに乗りました(エレベーターがあるなんてさすがです)。最上階の七階で降りました。
「ここからは階段です」
エレベーターのわきの階段から屋上まで登りました。すこし待つと倉田さんがやってきました。
「ありがとう、倉田」と神部さん。
「いやいや、お安い御用だよ」
倉田さんは鍵を開けて扉を開きました。
すこし傾いた日が、それでも強い日差しを投げかけていました。屋上を吹き抜ける風は、ずっと教室にいた私たちにはとても気持ちよく感じられました。
千歳橋高校の屋上は、音ノ木坂と違って長方形でした。そして床に緑色の塗装がされ、白いラインが引いてありました。どうやら球技用のコートとして利用されているようです。
「わー、たかーい」
穂乃果が柵まで走って行って感動しています。
まわりには校舎より高いビルがいくつもありましたが、それでも見晴らしはよくて、ビルの隙間からは遠くに海も見えました。
「ことりちゃん、あれ、音ノ木坂じゃない?」
「えー、ここから見えるかなあ」
穂乃果とことりは秋葉原の方角を指さしていました。
「素敵ですね」
私は思わずつぶやきました。
「あ、園田さん」
近くにいた神部さんが私のほうを向きました。
「俺たちには当たり前だけど、そういってもらえると、嬉しいです」
神部さんはすこし照れたように笑いました。
「おお、スカイツリー、近いね」
「よく見えますね♪」
ふたりは今度は別の方向を眺めてますね。
それからしばらく屋上で休んでから、私たちは教室に戻りました。
・
席についてすこし待つと、鍵を返しにいった神部さんが帰ってきました。
「えーっと、それで、なにするんだっけ?」
穂乃果が頭をひねっています。
「穂乃果、もう忘れたんですか……」
私は思わず厳しい口調になってしまいます。
「高坂さん、アイデアを解決策にまとめていくんですよ」
神部さんがフォローします。
「冗談だよ、海未ちゃん。えへへ」
どこまで本当でしょうか……。
ことりちゃんと倉田さんのスケッチブックを机の真ん中に置きました。
「いろいろでたねー」
ことりがいいます。たしかに二ページ分、まるまる埋まりました。よく考えたものです。
「イベントについては、このへんがアイデアだね」
穂乃果が指さしました。
「そうですね。それに、このふたつはよく似ていますね」
私も懸命に考えます。
それからみなで議論して、似たアイデアをまとめたり、無理があるものはなんとかならないか考えたりしていきました。
今度は神部さんが、ご自分のスケッチブックに整理します。
「うん、こんなものじゃない?」
作業に一区切りがついて、穂乃果がいいました。
三つの課題について、私たちなりの解決策をまとめて、それぞれの理由を書き終わったのは、四時半になる直前でした。
「はい、悪くないと思います」
神部さんもうなずいています。
私たち五人は、みんなで顔を見合わせて笑いました。
達成感に包まれてしばらく待つと、佐藤さんがふたたび演壇に登られました。
「皆さん、うまく、まとめられましたか」
佐藤さんは教室を見渡されます。心なしか生徒さんたちの顔は高揚しているようでした。
「今日の作業は、これで終わりです。来週は、その資料をパソコンでまとめて、中間発表していただきます。そのあと再来週に最後の仕上げをして、最終発表になります」
なるほど、そういう流れなのですね。
「来週まで一週間ありますので、その間に、今回の作業の続きをしていただいてもかまいませんが……学業や生徒会活動、部活動に支障が出ないよう、お願いします」
佐藤さんは言葉を切り、すこしお待ちになりました。
生徒さんからは、特に質問などは出ませんでした。
「では、スケッチブックとペン、名札は、お持ちいただいてもいいですし、こちらでおあずかりしてもかまいません。……それでは、今日はこれで解散します。お疲れさまでした」
佐藤さんが頭をお下げになると、生徒たちからは自然に拍手が送られました。
「穂乃果ちゃん、海未ちゃん、これ、どうしよっか」
スケッチブックを手にことりが問いかけました。たしかにすこしかさばりますね。
ちらっと見るとほかの学校の生徒さんは、みなさんあずけられているようです。
「ちょっともったいない気もするけど、あずけていこうか」
穂乃果がいいました。練習もありますし、なかなかこれ以上、検討するのは難しい気がします。
「そうですね」
私がいうとふたりもうなずきました。
・
「あの、高坂さん、園田さん、南さん」
スケッチブックなどをあずけて帰り支度をしていた私たちに、神部さんが話しかけてきました。
「なあに、神部君」と穂乃果が応じます。
「よかったら千歳橋高校の中、すこし案内しましょうか?」
「えー、いいの?」
穂乃果は乗り気なようです。
「はい、さっき屋上に案内したときの感じだと……ほかもどうかな、と」
たしかにちょっと興味がありますね。私がことりに視線を送ると、ことりもうなずきました。
「よろしければ、お願いできますか」
私がそういうと彼は笑っていいました。
「では、準備ができたら行きましょう」
「俺、実行委員会に顔を出してくるよ」
一足先に片付け終えた倉田さんはぺこりと私たちに頭を下げると、教室を出ていきました。
私たちが支度を終えたのをみて神部さんがいいます。
「それじゃ、行きましょうか」
彼の案内で廊下に出ました。
「どこから行こうかな……とりあえず上からかな」
そういう神部さんに続いて私たちはまたエレベーターに乗ります。
「ほかの学校、わくわくするね」と穂乃果。
「そうだね、ちょっと気になります」
ことりも楽しそうです。
エレベーターから降りました。上のほうの階は特別教室になっているようでした。
教室は、部活が行われていたり、鍵がかかっていたりといろいろでした。ですので、ほとんどの教室は残念ながら中に入ってじっくり見ることはできず、入り口からのぞくだけだったのですが……。
それでもなかなか興味深いものがありました。設備は全体的に音ノ木坂よりも新しいようです。
被服教室を見たときには、ことりはミシンが新しくて、うらやましがっていました。
中ほどの階は普通の教室ですね。ここは大差ありませんでしたが、廊下に貼られた部活の案内などは面白く読めました。
なにより千歳橋高校は共学ですから……殿方と一緒の高校生活は、どんなものなのでしょうね。
二階にはさきほどの交流会の教室――多目的室というらしいです――と図書室がありました。図書室は明るいブラウン色のすこし背の低い本棚が並んでいました。閲覧用の机や椅子も同じ色で統一され、窓から入ってくる光のせいで、開放感にあふれていました。
一階に下りて、昇降口や職員室のわきを通ります。
「ここが学食です」
神部さんが閉じられた両開きの扉の前でそういいました。
「がくしょく?」と穂乃果。
「学生食堂です」
神部さんがいいなおします。
「へー、食堂があるんだー」
穂乃果は興味津々のようです。
扉のわきにはガラスケースがあります。いまはなにも入っていませんが、きっと昼食どきにはサンプルが置かれるのでしょう。
扉に鍵はかかっておらず、神部さんが扉を開きました。
私たちは中に入ります。
「おー、すごーい」
「すてきですー」
食堂は普通の教室を二回りほど大きくしたくらいの広さでした。食堂は左右に広く、左側に配膳用のカウンターがあり、残りのスペースにはテーブルと椅子が整然と並んでいました。正面の壁は窓になっていて、今はカーテンが閉められていますが、おそらく校庭に面しているのでしょう。
「食券を買ってから、こっちのカウンターから選んだメニューを取って、席を自由に選ぶんです」
神部さんが説明してくれます。
「そういう仕組みなのですね」
私はうなずきました。
穂乃果たちはその間にも食堂のなかを行ったり来たりしています。
「ことりちゃん、来週のメニューが貼ってあるよ」
「わー、デザートもあるんですねー」
ふたりの楽しそうな声が誰もいない食堂に響きました。昼食時にはきっとこんな声であふれるのでしょう。
「あ、いた。会長、ちょっとよろしいですか」
食堂の入り口から声がしました。そちらを見ると、食堂の外の廊下にひとりの男子生徒が立っていました。
「あれ、たしか文実の、七尾君だっけ」
神部さんはそう答えます。文実……文化祭実行委員会のことでしょうね。
「ちょっとすみません」と私に断ってから、彼はいったん廊下に出ました。
私もなんとなく廊下が見えるところまでついていきました。
「たまたま倉田さんに会って……今日いらっしゃってる、って聞いて、すみません、土曜日に」と男子生徒が話しています。
「いや、ぜんぜん構わないよ」
神部さんはいいます。
「ポスターの予算の件なんですけど、やっぱりカラーにしたいって話が出てて……」
神部さんはしばらく男子生徒と話していました。やがて結論が出たのでしょう、生徒はお辞儀をすると去っていきました。
「すみませんでした」
食堂に戻ってきた神部さんは私に頭を下げます。
「いえ。文化祭のお話ですか?」
「はい、企画と運営は実行委員会がやるんですけど、予算は生徒会が出すんですよね」
なるほど、それで相談なのですね。
「お疲れさまです」
私は彼に礼をしました。
「いえ、生徒会の仕事ですから」
神部さんは笑っていいました。
それでも、実行委員会のかたの名前まで覚えているとは、真剣に取り組んでいるのだと思います。
穂乃果とことりは、あいかわらずカウンターから厨房をのぞいたり、購買の売店――いまは閉まっていますが――の商品をチェックしたりしていました。
ふたりは彼と私に気付いて戻ってきました。
「学食、いいねー。音ノ木坂にも欲しいねー」
穂乃果の目は輝いていました。
「そうですね、ぜひ欲しいですね」
穂乃果の笑みにつられるように、私も笑って答えました。
「そしたらわたし、お弁当と食堂と、迷っちゃうなあ」とことり。
「デザートだけ買えばいいんだよ! アイスとか、ケーキとか」
「えー、ふとっちゃうよー」
楽しそうなふたりの邪魔をするのはすこし気が引けましたが、私はいいました。
「そろそろ次に行きましょうか」
神部さんがうなずきました。
食堂から出て扉を閉めます。
「あとは、校庭くらいですけどね」
そういう彼について昇降口まで行き、私たちは靴にはき替えました。
部活の時間も終わったのでしょう、校庭はがらんとしていました。
「校庭、狭くて、運動部はたいへんなんですよね。野球とかサッカーは、ほかの場所を借りてます」
神部さんはそういいました。陸上用のトラックの線が引いてありますが、いかにも円は狭くて、たしかに音ノ木坂の広さが申し訳なくなります。
「あれが体育館ですけど……あまり見ても仕方がないので、このくらいにしましょうか」
私たち三人はうなずきました。
「今日はどうもありがとう」
穂乃果がいうのにあわせて、私たちは頭を下げました。
「いえ、楽しんでもらったなら、俺も嬉しいです」
彼はすこし恥ずかしそうにいいました。
「来週も、よろしくね、神部君」
にっこりと笑って穂乃果がいいます。
「こちらこそよろしくお願いします」
彼もそういって笑いました。
・
私たちは千歳橋高校から出て駅に向かいました。
「グループワーク、面白かったけど、たいへんだったねえ」
思い出したのか穂乃果が肩を落としていいました。
「でも、最後には、ちゃんとできたじゃない」
ことりがなぐさめます。
「絵里ちゃんたちが、詳しいこと教えてくれなかったの、ちょっとわかったよ」
「たしかに、事前に知っていたら、新鮮さが薄れてしまったかもしれませんね」
私が答えます。
「私、やっぱり行かない、っていってたかも」
そっちのほうですか……。
「でも、こうなったら次もがんばるよ!」
「うん、がんばろ、穂乃果ちゃん」とことり。
「そうですね、できる限りのことはしましょう」私もいいます。
やはり穂乃果は前向きですね。
「あーあ、学食、土曜日も開いてくれないかなー」
穂乃果がそう嘆きました。それは、私も同感ですね。
アニメ二期の第一話の会話によると音ノ木坂学院にも学食があるようなのですが、アニメやSID内で描写がほぼないため、この小説の中では「音ノ木坂学院には学食がない」という設定にさせていただきました。ご了解いただければ幸いです。