親愛へのレスポンス ~ Story of Honoka 作:Kohya S.
あんなにかっこいい発表を見せられちゃったら、負けてられないよ。もう、私たちもやるしかないよね。
みんな、やる気は出てきたみたいだけど。
「……でも、どうしよっか」
私がいうと、海未ちゃんが提案してくれたんだ。
「とりあえず作戦会議でもしましょうか」
おお、作戦会議、いいねえ。
「やだ、海未ちゃん、そういうのはミーティングっていうんだよ」
ことりちゃんが笑います。
思い出して私は神部君に聞いたんだ。
「そうだ、学食、あいてるかな?」
でも、神部君は首を振ったの。
「あいてますが……そろそろ下校時刻ですね」
そっか、もうすぐ五時だもんね。うーん、残念。
「喫茶店でもいくか?」
倉田君がいい、私たちはうなずいたんだ。
いつの間にか教室のなかに残っている生徒は私たちだけになっちゃった。
今回はみんなスケッチブックを持って、教室をあとにしたのでした。
神部君の話だと千歳橋高校の近くには、ファーストフードのお店とか、ないんだって。
「十分くらい歩きますね」
音ノ木坂は恵まれてるのかな。
倉田君が案内してくれたのは隣のブロックの喫茶店だったの。
扉を開けると、カランコロンカランって音が響きました。
「いらっしゃませ」
土曜日の夕方なのでお店はすいてるみたい。お店の中はちょっと昭和な雰囲気で……メイドカフェとはまた違った感じ。
ことりちゃんは、カウンターわきのガラスケースのケーキに心奪われてるね。
店員さんに、店の一番奥の席に案内されました。すこし声を出しても大丈夫かな。
メニューを見てみんな思い思いに注文したんだ。
「でも、あまり時間、ないですね」
そう話し始めたのは神部君。そうなんだよね。来週だもん。
「明日の日曜日と……幸い月曜日は祝日ですね。あとは来週の放課後でしょうか」と海未ちゃん。
「放課後は、難しいんじゃない?」
倉田君がそういうと、ことりちゃんも首を振ります。
「たしかに、集まるのも大変だし、μ'sの練習や、生徒会の仕事もあるし……」
「そうなると、明日と明後日が勝負でしょうか」
うん、海未ちゃんのいう通りだね。
私は日程を思い出していったんだ。
「μ'sの練習は、どうしよっか。あさってはお休みだけど」
「明日は、事情を話して早めに抜けさせてもらいましょう」
海未ちゃんがいい、私とことりちゃんはうなずいたの。
「おふたりは大丈夫ですか?」
ことりちゃんが神部君と倉田君に聞くと……。
「俺は、部活は休みなので、大丈夫です」
「俺、もともと帰宅部だし。文実もないから平気」
よかった。
「それじゃ、一緒にがんばろうね」
私はにっこり笑ってふたりにそういったんだ。
そして、注文した飲み物とおやつが届きました。
私はハニートーストにオレンジジュース、海未ちゃんはあんみつに緑茶の渋い選択、ことりちゃんはチーズケーキにアイスティーだね。神部君はアイスコーヒーで倉田君はコーラみたい。
「おいしそうだね。いただきまーす」
トーストを食べると……うーん、甘さが体にしみるね。やっぱりおなか、すいてたみたい。
海未ちゃんは上品に、ことりちゃんは可愛く、食べてました。ことりちゃんのチーズケーキ、おいしそうだな。
「ねえ、ことりちゃん、ひとくちちょうだい」
「もちろんいいですよ。はい、あーん♪」
「あーん」
ことりちゃんが差し出してくれたひとかけらを、ぱくっといただくの。うん、酸味がきいてておいしいね。
「じゃ、お返し。はい、あーん」
私もあげちゃいます。
「あーん。ん、甘くておいしいです♪」
ことりちゃんが微笑みました。
「こほん」
咳払いをする海未ちゃん。あ、そっか、今日は三人だけじゃないんだっけ。神部君が笑ってるよ。ちょっと恥ずかしいな……。
おやつを食べ終えたら、作戦会議、再開だよ。
二日しかないとなったら、やっぱりあれしかないよね。
私は手をあげます。
「合宿しようよ、合宿!
でも、海未ちゃんは首を振ったんだ。
「穂乃果、さすがにそれは無理です。
「じゃあ、学院で合宿とか」というけど。
「事前に申請を出さなきゃだめだよー」
ことりちゃんに指摘されちゃった。
神部君のほうを見たんだけど、やっぱり難しそうな顔だね。
「千歳橋高校でも、泊りがけは運動部の夏季合宿くらいですね」
そっかー。
「それに……」
そういい始めた海未ちゃんは、すこし赤くなってたの。
「殿方と一緒ですし、一緒に泊まるのは……」
「えー、私は気にしないけどなあー」
「もう、だめですよ……」
ちぇー、いいアイデアだと思ったのになー。
海未ちゃんは緑茶を口に運びました。
一息ついて、海未ちゃんが提案したの。
「明日は音ノ木坂まで来ていただきましょうか」
たしかにそのほうが都合がいいかな。
「たとえば午後からとか……私たちはそのときに、練習から抜ければいいと思います」
「うん、そうだね」
私がそう答えると、ことりちゃんもうなずいてるよ。
海未ちゃんが神部君たちに聞きます。
「お手数ですが、よろしいでしょうか」
「はい、わかりました」
神部君はそういってから続けたの。
「それじゃ、月曜日は千歳橋でやりましょうか」
私たち三人には異論はありません。
「うん、よろしくね!」
私が代表して答えたんだ。
それから時間や細かいことをいくつか決めて――明日は神部君が学校のプロジェクターを持ってきてくれるそうです――明日が楽しみだね。
あ、いいことを思いついたよ。
「そうだ、せっかくだから練習、すこし見てもらおうよ」
「ええっ、そんな、恥ずかしいですよ……」
また、海未ちゃんってばー。
「テーマも文化祭だし。いいじゃない」と私。
「俺、ちょっと見てみたいかも」と倉田君もいいます。
「ことりは、賛成です。ちょっと恥ずかしいけど、なにも知らない人からみてどうなのか、感想を聞けると嬉しいな」
私が神部君に目を向けると。
「そうですね。俺も興味あります」
神部君も乗り気みたいだね。
「うう、わかりました……」
海未ちゃんが目を落としていいました。海未ちゃんも陥落だね。
「よーし、やる気、でてきたぞー。打倒UTX高校!」
私はそういって、腕を突き上げちゃいます。
「打倒はいいすぎですが……がんばりましょう」
海未ちゃんをはじめ、みんな口々に同意してくれたの。
私は一息つくために目の前のアイスコーヒーを飲みました。ほてった体にコーヒーがしみるよ。
「……あれ?」
私、コーヒーだっけ?
「穂乃果……」
海未ちゃんが驚いたようにこちらを見てるよ。
「えへへ、間違えちゃった」
私は笑いながら神部君のほうにコップをずずっと押しやります。
「いえ、俺も悪いんです」
神部君はそういってくれたんだけど、海未ちゃんは続けたんだ。
「か、間接キスなんて……は、破廉恥です」
海未ちゃんの顔は真っ赤だったの。
「海未ちゃん、あらためていわないほうがいいよー」
ことりちゃんの警告も遅かったみたい。微妙な雰囲気が流れたの。神部君も赤くなって……私まですこし恥ずかしくなってきちゃいました。倉田君は知らん顔。
「えっと……海未ちゃんも飲む?」
にこっと笑って首をかしげたんだけど。
「……ほーのーかー、そういう問題ではありません。だいたいあなたは、どうしてそういい加減なのですか……」
しばらくお説教されちゃいました。でも、きっと照れ隠しも入ってるんだと思うな。
「ごめんね、海未ちゃん」
「はあ、わかればいいんです」
私はあらためてジュースを飲んだんだ。
最後に私と神部君は明日にそなえて連絡先を交換。音ノ木坂まで来たら、電話を入れてもらうことにしたの。
また、ファイルも念のため、ことりちゃんにメールで送ってもらうことに。
お会計は割り勘にして喫茶店から出ました。神部君は「生徒会の経費でなんとかなるかもしれませんよ」といってくれたけど、ちょっと甘えすぎだよね。
外はすっかり暗くなっていて……近くの大きなオフィスビルの窓には、土曜日なのにいくつか明かりが灯ってたんだ。
「それじゃ、また明日ね」
私たち三人は神部君と倉田君に手を振りました。
今日もいろいろあったけど……駅に向かう私たちの足取りは、とっても軽かったんだ。
――――――――――
次の日、私たちはμ'sの練習のため、いつものように音ノ木坂学院に向かいました。ただ、今回はスケッチブック持参です。練習は朝からだったり、午後からだったりするのですが、今日は朝からです。
天気もよくて練習日和でした。
部室での着替えの途中、穂乃果が切り出しました。
「今日の練習だけど、私と海未ちゃんとことりちゃん、午後からお休みしてもいいかな」
「そういえばあんたたち、昨日も休んだわね。生徒会の関係だっけ?」
にこが練習着のTシャツに腕を通しながらいいます。
「そうなんだよー、もう大変なんだから」
「じゃあ仕方ないわね。そのぶん、あとで練習しときなさいよ」
にこはさすが、厳しいですね。
私は思い出し、特に絵里に向けて付け加えます。
「先方の生徒会のかたがこちらにいらっしゃるのですが……校内に入っていただいても、問題ないでしょうか」
「そうね、生徒会活動ということなら、問題ないと思うけど」
絵里はいいました。一安心ですね。
続けて穂乃果がみなに向けて話します。
「そうだ、練習、見学してもらおうかと思うんだけど、いいかな?」
「ちょっと生徒会のお仕事にも、関係するんです」
ことりが補足しました。私は正直にいってあまり乗り気ではないのですが……。
みなは顔を見合わせます。
「私はかまわないけど……みんなはどうかしら」と絵里。
特に異論はないようでした。
着替えを終えて屋上に向かおうとした絵里と希を、私が呼び止めました。穂乃果とことりにも声をかけます。
「昨日の資料、ふたりに見ていただくのはどうでしょうか」
「おお、そうだねえ」
「ことり、お母さんにパソコン借りてきました」
私から事情を話して、ほかのメンバーには先に行ってもらいます。
ことりがパソコンを起動して発表資料を開きました。ほかの四人がのぞき込みます。ことりは、ぱたぱたと資料を進めていきます。
「すっごく大変だったんだからー」
穂乃果が大げさにいいました。
「ふふっ」資料を見て絵里は笑っています。「この資料、だれが作ったの?」
「私と海未ちゃんと千歳橋高校のひとで文章を考えて、ことりちゃんともう一人で、アニメーションとか設定したんだよ」
穂乃果が答えました。
「それらしいわね。でも……ちょっと派手かしら」
私と同意見ですね。
「うーん、やっぱりそうだよね」
穂乃果も昨日のUTX高校の発表を見て、思うところがあるようです。
「目的を忘れてはだめね。どうすれば相手に伝わるか、それが大事でしょう」と絵里。
「めりはりが大事やね」
希もうなずいています。
「ごめんねー、穂乃果ちゃん、海未ちゃん、やりすぎちゃって」
ことりはちょっと申し訳なさそうに言います。
「ううん、任せきりにしちゃった私も悪いんだよ」
「私もですね」
私はことりに笑いかけました。ことりに笑顔が戻りました。
絵里は続けます。
「それで、肝心の内容だけど……悪くないと思うけど、ちょっと音ノ木坂にかたよりすぎかもしれないわね」
「それってどういうこと?」
穂乃果がいうと絵里は考えながら話しました。
「そうね……良くも悪くも、オトノキって特殊でしょ。生徒もやる気があるし、敷地も恵まれてるし……」
「そっか」と穂乃果。
「もうすこし千歳橋高校のかたの意見も、しっかり聞きましょうか」
私はそういいました。
「文章は海未ちゃんが書いたのかな。さすが、名文やねえ」
希が私をひじでつつきながらいいました。
「そんなことはありませんが……」
「でも、発表資料としては、長すぎるかなー」
希は首をかしげています。私もそれは感じていました。
「作詞に通じるところが、あると思うんよ」
そう希は続けました。
「作詞ですか?」
「うん、歌詞って、長さが限られてるやろ。いーっぱい、いいたいことはあるけど、それをぎゅっと濃縮してると思うんよ」
希はそういって微笑みました。
「たしかに、その通りですね……」
そう考えると、私にもできることが見えてきたような気がしました。
「資料は読みやすい量にして、口頭でおぎなってもいいわね」絵里もいいます。
「そういえば、UTX高校も、そんな感じでした」
ことりは感心したようにいいました。
「あら、やっぱりUTX高校は、さすがの出来なのね」と絵里。
「でも、私たちもこれからがんばるんだから」
穂乃果はガッツポーズを取り、気合を入れています。
「ええ、がんばってね」
「頼んだで」
絵里と希が笑いました。
私は屋上に向かいながら絵里と希に話しました。
「絵里、希、どうもありがとうございました」
「どういたしまして。三年の情報の授業でやったことの、受け売りもあるけどね」
「参考になったなら、いいんやけど」
私たちは頼もしい先輩がいて幸せですね。
・
午前中の練習を終えて食事をとり、午後から練習を再開しました。
「では、もう一度、ステップを確認しましょうか」
絵里がいいます。
そのとき穂乃果のスマートフォンが鳴りました。穂乃果が電話を取ります。
「はい、高坂です。はい、うん、そうだよ」
そのまま穂乃果は柵のところに駆け寄りました。
「おーい、神部君、倉田君」
穂乃果が手をふります。私も柵に近づいて校門を見ると、ふたりの人影が見えました。穂乃果はスマートフォンを持ったまま屋上から降りていきます。
「えぇーっ、男のかたなんですか?」
「な、なに驚いてるのよ。べ、別に関係ないじゃない」
真姫はそういいながら髪の毛をくるくるといじっています。そんな真姫の横で、にこは不敵な笑みを浮かべていました。
「ふふん、にこの魅力で、ふたりの間に亀裂ができなければいいけど」
「
凛は勘がいいですね。
しばらくして穂乃果が神部さんと倉田さんを案内してきました。
「えーと、千歳橋高校の神部君と倉田君です」
「初めまして」「どうも」
ふたりは頭を下げました。
「あの、会長さんと、副会長さんです」
ことりが追加しました。
「そして私たちが……音ノ木坂学院、スクールアイドル、μ'sです!」
穂乃果の紹介に私たちは声をあわせていいます。
「よろしくお願いします!」
神部さんと倉田さんはすこし驚いたようでした。
「それで……うーん、どうしよっかな」と穂乃果。
「普段の練習でもよいですが……すこし退屈でしょうか」そう私はいいます。
「それじゃ、一曲、通してみましょうか」
そういった絵里はみなのほうを向いて続けます。
「新曲はまだまだだから……ユメノトビラでどうかしら」
「いいやん」「さんせーい」「が、がんばります」「別にいいけど」「仕方ないわね」
言葉は違いますがみな笑顔で答えました。
「うん、やろう!」
穂乃果がいいました。私とことりも、うなずきあいました。
ことりがCDプレイヤーを準備します。
にこはふたりに話しかけています。
「こんな近くで見られるなんて、普通じゃありえないわよ。感謝しなさい」
「はあ、ありがとうございます」
神部さん、すこし困ってるみたいですね。
屋上にはまぶしい日差しが降り注いでいました。
私たちは位置に付きました。穂乃果と絵里、私が真ん中に、ほかのみなは円を描くように広がります。
『♪~♫~』
曲にあわせて穂乃果が歌い始めました。最初のフレーズが終わると私たちは大きく広がりました。
三人ずつの三つのグループにわかれて編成を組んで、歌っていきます。アップテンポなAメロから、一転してゆったりとしたBメロへ、そしてサビへと曲は続いていきます。
穂乃果を中心に逆三角形に並び、左右からすれ違うように移動してから、また三角形を組み直しました。そして、まるで私たちの決意を示すように片手をあげて、正面を見つめました。
最後、もういちど始めの位置に戻って……私たちはポーズを取りました。
拍手の音が屋上に響きました。神部さんと倉田さんでした。
私たちはたがいに顔を見合わせて笑いあいました。
「えへへ、どうだったかな?」
すこし上気した顔の穂乃果がふたりに聞きます。
「……すごかったです。その、想像以上でした」
神部さんは興奮したようにいいました。
「俺も、びっくりした。ほんと、感動したよ」
倉田さんも同様でした。
「ありがとう!」
穂乃果が満面の笑みで答えました。
「……それでは、お先に失礼します」
私たち三人は一足先に練習を切り上げました。
穂乃果とことりには先に部室に行ってもらい、まずは私がふたりを生徒会室に案内します。
その途中、神部さんがいいました。
「俺、スクールアイドルのこと、ぜんぜん知らなかったんですけど、すごいんですね」
「いえ、まだまだです。日々、努力しています」
私がそういうと神部さんは「控えめですね」と笑いました。
「こちらでお待ちいただけますか」
生徒会室に付いた私は、そうふたりにお願いして、着替えるために部室に戻りました。
穂乃果とことり、私は、急いで着替えて生徒会室へ戻りました。
・
私たちは生徒会室の長机をふたつあわせて、ひとつにしました。その周りに座ります。
さて、気持ちを切り替えていかなければなりませんね。
「プロジェクター、お持ちしました」
神部さんが肩掛けの鞄から、お弁当箱を二回りほど大きくしたような機械を取り出しました。
「ありがとう、神部君」
穂乃果が礼をいいます。
ことりのノートパソコンにつなぐと、スクリーン代わりのホワイトボードに、発表資料が大きく映し出されました。
「おおっ、いいねえ。うちの生徒会でも買おうよ。部室で上映会、できちゃうよ」
「穂乃果、そんな予算はありませんし、思い切り公私混同ですよ……」
「いってみただけだよー」
もう、穂乃果は仕方がないですね。神部さんも笑っていますよ。
「それで、これからですが……ふたつ、大きな問題があると思います」
神部さんはいったん言葉を切り、私たちを見まわします。
私がちらっと穂乃果を見ると、穂乃果はうなずいていいます。
「……発表の資料と、発表の手順だね」
「はい、私もそう思います」
神部さんは安心したようにいいました。
ことりと倉田さん、私もうなずきました。
「今日は、資料を詰めていくことで、どうでしょうか」と神部さん。
「そうですね、それがいいと思います」
私は神部さんに同意します。倉田さんもうなずきました。
「明日は、手順のほうを確認するんですね」とことり。
「はい」
「いいと思うな」
穂乃果もそういいました。
「その……さっきみせてもらった練習で、なにか新しいことも、思いつくかもしれません」
神部さんはすこし照れたように付け足しました。穂乃果は我が意を得たりと微笑みました。
「やっぱり、ライブの共同開催とかね!」
資料全体としては、やはり文章が冗長なのを改善し、外見はもうすこし落ち着いた感じに、ということで意見が一致しました。
それからみなで資料を検討していきました。
まずはことりが操作して、ほかの四人はパソコンやスクリーンで確認します。
「今日、来てもらってわかったと思うんだけど、オトノキってすごく広いでしょ」
途中で穂乃果がいいました。
「そうですね、驚きました」と神部さん。
「うちの三倍くらいあるかもな」
倉田さんも腕組みをしていいました。
穂乃果は資料を指さします。
「だから、このへんの、イベントの話とか、会場とか、ほかの高校だと難しいかなって思うんだけど」
「たしかにそうですね……。ちょっと考えてみましょうか」
神部さんがはうなずきました。
全体的な確認を終えて、あらためて資料を直していくことになりました。それぞれ思うところを主張しながら議論していきます。
「次の段落は……体言止めにしましょう。『連携が必要』でどうでしょうか」
私は適宜、表現を修正していきます。
「これは、実際にはちょっと難しそうですね。思い切って削るか……せめて但し書きを」
とイベントの箇所では神部さん。
「これ、もうすこし強調しようよ。やっぱり私たちの売りだもん」
穂乃果はライブイベントには思い入れがあるようですね。
「会場の確保、くじ引きって実は微妙じゃね? 部員の人数も違うんだしさ」
倉田さんがいいます。一理あるかもしれません。
「これだと、予算の配分は、ちょっと不満が出ないでしょうか」
生徒会の役割についてことり。
途中でパソコンの操作を交代しながらしばらく修正作業を続けて、ようやくみなが納得する内容になりました。
最後に、アニメーションは重要なところだけにして、色使いも読みやすいように統一します。しかし、アクセントカラーはμ'sのピンク色、ことりはこれは譲れないようです。
「よし、いくよ!」
パソコンの前に座った穂乃果が宣言しました。ことりが明かりを消し、私は窓のブラインドを下ろします。
スクリーンにタイトル画面が映し出されました。
穂乃果は一枚ずつ資料を進めました。スクリーンを見ながらなにかつぶやいています。発表の内容を確認しているのでしょう。
途中、いくつか意見が出ましたが……最後まで終えて、私たちは顔を見合わせました。みなの顔にゆっくりと笑みが浮かんできました。
「いい感じですね」と神部さん。
「うん、すごくよくなったよ」
穂乃果も笑っています。
昨日、発表をおこなったときとは、また違う感慨がわいてきました。
神部さんがプロジェクターの電源を落とすと、生徒会室は一気に暗くなりました。私は明かりをつけ直します。
初秋の短くなった日はかなり傾いていました。ずいぶん長い間、作業していましたね。
ことりが神部さんにUSBメモリを手渡しています。
穂乃果が立ち上がり、伸びをしました。
「うーん、疲れちゃったなあ」
「お疲れさまでした」
神部さんが笑みを浮かべてねぎらいます。
「明日は、いよいよ手順の確認ですね」
私がそういうと神部さんがうなずきます。
「はい、よろしくおねがいします」
神部さん、倉田さんと時間を調整して、午後から千歳橋高校におうかがいすることになりました。
打ち上げに行こうという穂乃果を、まだなにも終わってませんよと説得して、今日は帰ることにしました。
生徒会室を戸締りして、五人で昇降口から出ました。
「あ、そうだ、アルパカ」
倉田さんが思い出したようにいいました。
「あ、見ていきますか♪」
ことりが笑います。
五人で校舎の裏にまわりました。
アルパカ小屋には白と茶色、二頭のアルパカがいます。
「アルパカさん、こんばんはー」
ことりの呼びかけにアルパカたちは「メー」と鳴きました。
「アルパカだ」「アルパカですね」
倉田さんと神部さんは驚いているようでした。それはそうですよね。
「今日は時間がないから、なにもできないのー、ごめんねー」
ことりはそういいながら、アルパカをなでています。
「メー」
「うふふ、また明日、来ますね」
「これは、会話が成立しているのでしょうか……」
私は穂乃果にささやきます。
「うーん、微妙だね」
穂乃果も首をかしげたのでした。
「さわっても大丈夫?」と倉田さん。
「大丈夫ですよー」
倉田さんは、ことりのとなりにこわごわと近付きました。
倉田さんがアルパカを恐る恐るなでると、アルパカは「メー」と倉田さんの顔をなめました。
「うわ」
「気に入られましたね、倉田さん」
「じゃあね、アルパカさん」
「メー」
しばらくアルパカとお話し……といっていいのでしょうか……してから、校門に向かいました。
校門の前でふたりとはお別れです。
「じゃあね、神部君、倉田君」
穂乃果が手を振りました。私はお辞儀します。
ふたりは口々に「お気をつけて」「それじゃ」といい去っていきました。
「よーし、明日もがんばるぞー」
穂乃果が腕を突き上げて宣言しました。
「おー♪」ことりが真似します。
「おー」仕方ないので私も……。
UTX高校の発表を見たときには、どうしようかと思いましたが……私たちにも、やれる気がしてきました。