親愛へのレスポンス ~ Story of Honoka 作:Kohya S.
結果発表を待つあいだ、私はもうやるだけのことはやったので……ちょっと気が抜けちゃった。
机に突っ伏してだらーんとしちゃいます。
「穂乃果、行儀が悪いですよ」
そう海未ちゃんはいうけど、あまり本気じゃないみたい。
「だってー、疲れちゃったよー」
「まあ、がんばりましたからね」
笑みを浮かべる海未ちゃん。
神部君もそんな私を見て微笑んでくれたんだ。
十分間の休憩はすぐに終わって、佐藤さんがまた演壇に上がりました。
教室の中は自然に静かになって、緊張感がただよってきたの。
「えー、それでは、結果の発表です。一位になったのは……」
佐藤さんはしばらく言葉を切ります。うう、気になるよー。
「十四点を集めた、Bグループでした。おめでとうございます!」
「やったー!」
私は思わず立ち上がって叫んじゃった。教室中の注目を浴びてしまって……。
「すみません……」
私は頭をかきながら座りました。
教室からは笑い声が上がったけど……しだいにそれは拍手にかわったんだ。
「やったね、穂乃果ちゃん」
「やりましたね、穂乃果」
ことりちゃんと海未ちゃんが嬉しそうにいってくれて。
「がんばったかいが、ありましたね」
「お疲れ」
神部君と倉田君も。
みんな満面の笑みだね。
拍手がおさまって、佐藤さんは続けます。
「そして、二位は、僅差の十二点で、Cグループでした」
私たちは拍手を送ったの。
でも、UTX高校と東雲学院の生徒たちは、どうしても複雑な表情みたい。
「さて、皆さん、今日まで三回にわたって、ありがとうございました」
佐藤さんがふたたび話しはじめます。しめくくりのお話しみたい。
「いろいろな意見が出て、今後の生徒会活動にも、参考になったかと思います」
うなずく生徒たち。
「また、今回は……お気づきのかたもいらっしゃるかと思いますが、グループワークや発表を体験していただくのも、ひとつの目的でした」
「……そうはいっても、たいへんだったねえ」
海未ちゃんにちょっと愚痴っちゃいます。
「うふふ、そうですね」
海未ちゃんも微笑んでくれたよ。
「たとえば、最初に、一風変わった、自己紹介をしていただきましたね。あれはアイスブレイクといって、かたい雰囲気を壊すためのものだったりします」
うん、そういえばやったなあ。神部君、実はにぶいんです、っていってたけど、あれ、なんだろう。
「生徒会の皆さんは、これから、会議などを主催されることも多いと思います」
「あまり考えたくねえな」
佐藤さんの言葉に、倉田君がぼそっとつぶやいたのを、私は聞き逃さなかったんだ。ことりちゃんもくすっと笑ったみたい。
「会議などをうまく進めるための、こういう技術を、ファシリテーションと呼んだりします。興味のあるかたは、調べてみてくださいね」
ふーん、なるほどね。今度なにかやるときには、調べてみようかな。
「スケッチブックと名札は各自でお持ちください。……なにか質問など、ありますか」
佐藤さんが教室を見渡します。
「それと……学校に戻られても、交流会の詳細は、あまり話さないでくださいね。来年も同じことをするかは、わかりませんが……なにをやるか知ってると、あまり面白くありませんからね」
生徒たちから苦笑ともいえる笑い声が上がったの。
だから絵里ちゃんと希ちゃんは、話してくれなかったんだね。
「それでは、これで交流会を終わります。ありがとうございました」
生徒たちから拍手が起こりました。
・
交流会が終わって、私たちはあらためて喜びあったよ。
するとそこにUTX高校の白井さんが来たんだ。
「高坂さん、おめでとう」
「うん、ありがとう」
私がいうと彼女は目をそらしました。
「……その、前回は失礼なことをいって、ごめんなさい」
「ううん、気にしてないから……」
私は笑って答えたの。
「今日の発表、立派でしたわ」
「白井さんたちも、素晴らしかったです」
「……ありがとう」
そういって笑みを浮かべる彼女。
私は彼女に右手を差し出します。彼女は一瞬、戸惑ったようだけど、私の手を握り返してくれたんだ。
「ラブライブの本戦、楽しみにしているわね」
「はい、がんばります」
彼女は最後にもう一度微笑むと、副会長さんと一緒に教室を出ていったの。
「そうだ、写真、撮ろうよ。写真」
私はみんなに呼びかけます。
「うん、そうだね」
スマートフォンを取り出すことりちゃん。サポートのかたのひとりに頼んでるみたい。
「佐藤さんもご一緒いただくよう、お願いしましょう」と海未ちゃん。
うん、そうだね。
「撮ってくださるそうですー」
ことりちゃんが戻ってきて、佐藤さんを中心に私たちは前後二列に並びました。
「いいですか」
スマートフォンを持った男性が声をかけると、私は思い切りVサインを作っちゃいます。
「はい、チーズ」
シャッター音が鳴りました。
「ありがとうございましたー」
ことりちゃんがスマートフォンを受け取って。
「今回はいろいろとお世話になりました……」
海未ちゃんは佐藤さんにお礼をいってるね。
「それじゃ、そろそろ出ましょうか」
神部君の呼びかけに、私たちはスケッチブックなどを片付けたの。
最後に佐藤さんとサポートのかたに挨拶して教室を出たんだ。
・
昇降口でいったん立ち止まって。
「ねえねえ」と私がいうと。
「打ち上げ、行きますか」
神部君がおどけていったの。
「うん、わかってるねー」
私は彼の肩をぱしっとたたいちゃいます。
「はい、行きましょう」と笑顔のことりちゃん。
海未ちゃんと倉田君もうなずいたんだ。
傘をさして昇降口から歩きはじめる私たち。
「どこに行こうかな?」と私。
「そうですね、ちょっと早いですけど、食事にするか……」と神部君。
「カラオケですか?」
ことりちゃんが倉田君に聞いてるよ。
「やめてくださいよ」
倉田君はちょっと困った感じ。
でも、倉田君には悪いけど、私はみんなにいったんだ。
「カラオケ、いいんじゃない?」
「うん、いいと思うな」とことりちゃん。
「俺も、また高坂さんたちの歌、ききたいです」
神部君はすこし照れたようにそういったの。
「そうですね、こういう機会ですから、ご一緒しましょう」海未ちゃんもうなずいてくれて。
「倉田は?」と神部君。
「うー、しょうがねえなあ」
倉田君はそういって肩を落としたんだ。
ふたりの話ではカラオケ屋さんも、ちょっと遠いみたい。
雑居ビルやマンションの間の道を歩いていったんだ。しばらく歩くと大きな通りに出て、お店が増えてきて。
倉田君が案内してくれたカラオケ屋さんは、通りに面した雑居ビルに入ってました。倉田君が会員なので安くすむね!
部屋に入って料理と飲み物を注文する私たち。
「それじゃあさっそく……」
と私がカラオケの機械に手を伸ばすと、海未ちゃんに止められちゃいました。
「穂乃果、やはりここは生徒会長から一言、欲しいですね」
「あ、そっか」
打ち上げだからねー。
「飲み物が届くまで待ちましょう」
神部君の言葉に私たちはおしゃべりして待ったんだ。
すぐに飲み物が来ました。みんながコップを手に取ったのをみて。
「それでは会長、ひとことどうぞ♪」
とことりちゃん。私は立ち上がりました。
「えー、交流会、お疲れさまでした」
「お疲れさまでしたー」
みんなが声をあわせます。
「みんなでがんばって、一位が取れました! ありがとう! では、かんぱーい」
「かんぱーい」
コップを打ち合わせる音が響いたの。
「ありがとうございました」「やりましたね」「お疲れさまです♪」「どうも」「みんなのおかげだよ」
みんなで笑いあいました。
食事もおしゃべりもひと段落して、神部君が機械を差し出してきたんだ。
「そろそろどうですか」
「μ'sの曲、あるかなあ」
機械をさわりながら私がいうと。
「さすがに厳しいでしょうね。もしあったら……花陽あたりが報告に来ますよ」と海未ちゃん。
「そうだよねー。なにがいいかなー」
そういいながら曲を探していくと……。
「A-RISEの曲があるよ! Private Warsだよ!」
「さすがですね」
「それにしちゃいますか?」
そういって笑うことりちゃん。うん、何度も動画を見たから曲はばっちり、振り付けもいけるかな。
「そうだね!」と私。
「じゃあ、穂乃果ちゃんは、ツバサちゃんのところ、お願いします♪」
ことりちゃんがマイクを手渡してきたの。
「海未ちゃんは
私も答えました。
「ええっ、本当にこれにするのですか」
海未ちゃんは困ったようにいったけど、マイクを受け取ってくれたんだ。
私が曲を選択すると、何度も聞いたイントロが流れ始めて。
三人で部屋の片方、すこし広くなっているところに立ちました。神部君と倉田君は興味津々といったようすで見守ってる。
『♪~♫~……』
そういえば三人でPrivate Warsを歌うなんて、初めてかもね。
場所が狭いので振り付けは完全に再現できないけど、いざ始めてみると、三人ともよく覚えてたんだ。
『♬~♪~♬~♪~……』
ある意味、思い入れのある曲なので楽しく歌えて……。きっとふたりも同じだと思うな。
『……♬~♪』
最後に決めポーズを取りました。
私たち三人は顔を見合わせて笑ったの。神部君と倉田君は大きな拍手をしてくれたよ。
「素晴らしいです」
席に戻った私に、そういう神部君。
「えへへ、ありがとう。本当なら、自分たちの曲がいいんだけどね」
「きっとそのうち、カラオケにも入りますよ」
「うん、そうなるといいな」
私はそういってコップから一口、ジュースを飲んだんだ。今日は間違えないもんね。
そのあとは倉田君に曲を披露してもらったの(なんと、バラードが得意だそうで、かなり上手でした)。それから、海未ちゃんに無理をいって演歌を試してもらったり、ことりちゃんのアニソンに合唱したりして盛り上がったよ。神部君も照れながら一曲、歌ってくれたし、私も定番アイドルソングを歌ったんだ。
倉田君が歌っているとき……えっと、お花を摘みに行きたくなっちゃって。そう、海未ちゃんに告げたの。
「はい、いってらっしゃい」
私は席を立ちました。
・
ビルの中なので通路が複雑で、すこし迷っちゃったけど、なんとか用をすませて元の部屋へ戻ろうとしてたの。
その途中で……私は通路に神部君がいるのに気付いたんだ。
「あ、神部君。神部君もトイ……じゃなかった、お花を摘みに?」
「いえ、そうじゃないんですけど……すこしふたりでお話しできますか」
小声でそういう彼。
「うん、いいけど」
フロアの奥のほうに、待ち合わせ場所なのかな、すこし広くなって机と椅子が置かれているコーナーがあったので、そこまでふたりで行きました。
「それで、はなしってなにかな……」
あらためてこうやってふたりになると、なぜかちょっと緊張しちゃうんだけど……。
彼は私を見て、一度目をそらし、また私のほうを向いて、話し始めたんだ。
「その……高坂さん、お付き合いしてる人とか、いるんですか」
そう話す彼の顔が赤くなっているのがわかったの。
「えっ、お付き合いって?」
私は一瞬、なんのことかわからなくて、聞き返しちゃった。もちろん、そういってからすぐに気付いたんだけど。
「……恋人とか、いるのかなって」と彼。
お付き合いっていったら、それしかないよね。
「とくにはいないけど……」
私は胸がきゅんと痛むのを感じました。
彼は緊張したようすでしばらく黙っていたけど、口を開いて……。
「……あの、俺と、付き合ってもらえませんか」
「えっ」
私、ちょっぴり予想はしていたけど、やっぱり驚いたんだ。
「その、高坂さん、とても素敵で……。交流会でもずっとがんばってて……」
彼はそこで言葉を切って、私を見つめました。
「……ありがとう」
私はそう答えるのがやっとだったの。私の顔もきっと真っ赤だと思う。
私の心の中は乱れていました。彼の言葉は嬉しいんだけど……あまりにも現実感がなくて……。
「……高坂さん」
思いつめたような彼の声。
「私……」
次の言葉がなかなか出てこなくて。だけど、ようやく心を決めたんだ。
「私、神部君のことは、好きだよ。すごくかっこいいと思う。でも……」
「……でも?」
繰り返す彼。私は目を伏せて。
「神部君のこと、恋人として好きなのか……よくわからないんだ」
「そう、ですか」
彼は小声でそういったの。私は顔を上げます。
「うん……ごめんね」
私は心が伝わることを祈って、微笑んだんだ。
「……俺のほうこそ、急にこんなこといって、ごめんなさい」
彼も微笑んでくれたけど、その笑みは悲しそうで……私の胸はまた痛みました。
ふたりの間に沈黙がおとずれて……。
「俺もトイレ、行ってきます」
彼はそういって足早に通路を歩いていったの。
私は彼が見えなくなるまで待ってから、部屋に戻ったんだ。
――――――――
「穂乃果ちゃん、遅いね」
倉田さんの曲が終わり、ことりがいいました。
「そうですね。神部さんはともかく、穂乃果は道に迷ってたりするかもしれません」
神部さんもさきほどお手洗いに行くといって、席を離れました。
「さすがにないと思うけどー」
ことりは笑いますが、私は気になりました。
「ちょっと見てきますね」
「あ、海未ちゃん、待ってたほうがいいよー」
ことりはそういいましたが、私はなにか気になるものを感じて、部屋から外に出ました。
通路はすこし複雑で……穂乃果なら迷ってしまうこともありえるでしょう。
私はとりあえず案内にしたがって通路を進みました。
通路の奥のほうに誰かの人影が見えました。人影はふたりのようで、それぞれの部屋から聞こえる歌声や曲の音に交じって、話し声が聞こえてきます。
「……お付き合いしてる人とか、いるんですか」
そういったのは神部さんでした。私はびくりとして立ち止まりました。相手の返答はよく聞こえませんでしたが……相手は穂乃果でしょう。そう気付いて、私は息をのみました。
私は聞いてはいけないと思いつつも、そこから離れられませんでした。
彼は続けました。
「俺と、付き合ってもらえませんか」
その言葉に、私の胸はずきんと痛みました。
穂乃果と彼は会話を続けて……細かいところはわかりませんでしたが、穂乃果が「ごめんね」といったのはわかりました。
やがて会話が終わったようです。私はふたりに気付かれないように、通路を戻りました。
「穂乃果ちゃん、いた?」
ことりがたずねます。
「いえ、ざっと見たのですが、いませんでしたね。しばらく待ちましょう」
私は平静をよそおってそう答えました。
ことりは、気掛かりそうに私を見ていました。
しばらくして穂乃果が戻ってきました。どこかうつろな表情で、心ここにあらず、といった感じでした。
「もう一曲、どうすか」
倉田さんがいいますが、穂乃果は首をふりました。
「いやー、さすがにちょっと、疲れちゃったかなー」
やがて神部さんも戻ってきました。
「すみません、遅くなって」
彼は明るい声でいいましたが、どこか寂しげに、私には感じられました。
しばらくは誰も歌わず、あまり会話も弾みませんでした。
「穂乃果ちゃん、最後にこれ、一緒に歌おうよ」
ことりがそういって穂乃果に端末を見せます。ちらっと見ると去年のA-RISEの曲、Love Intersectionでした。
穂乃果は一瞬、断りそうなそぶりを見せましたが、うなずきました。
「うん、うたおっか」
ことりが端末を操作すると曲が流れ始めました。たしかこの曲は……。
『♫交差するふたりの想い』
『♪重なるときが、来るのでしょうか』
そうです、交錯するふたりの想いをうたった、恋の曲でした……。
私もいつのまにか一緒に口ずさんでいました。この曲では、ふたりは最後に結ばれるのですが……。目の奥が、熱くなってくるのを感じました。
穂乃果とことりは最後まで歌い終えて……神部さんと倉田さんが大きな拍手を送りました。もちろん私も。
すこし怪しくなっていた雰囲気が元に戻りました。ことりのおかげですね。
それからおしゃべりをして……穂乃果とことりはデザートまで食べてから、時間になったので、私たちは荷物をまとめて外に出ました。
・
雨は降り続いていました。
「写真、あとで送りますね」
お店を出て、神部さんと倉田さんにことりがいいます。
「はい、よろしくお願いします」
神部さんが答えました。
おふたりとはカラオケ店の前で別れることになりました。
「それじゃ、今日はこれで」と神部さん。
「なにかあったら、連絡してね」
穂乃果がそういって笑いました。
「はい、そうします」
神部さんも笑いました。その笑顔にかげを見てしまうのは、私の思い過ごしでしょうか。
「それじゃあね」
穂乃果とことり、私はふたりに手を振りました。ふたりも手を振り返してから、歩いていきました。
私たちは最寄りの地下鉄駅まで歩き始めました。
「今日も、いろいろあったねえ」
穂乃果が感慨深げにいいました。その言葉に、私の胸はまた痛みましたが……。
「そうですね……お疲れさまでした、穂乃果、ことり」
私はそういったのでした。
「うん、海未ちゃんもね」と穂乃果。
「お疲れさまでした」
ことりも笑いました。
「……明日、絵里ちゃんと希ちゃんに、報告しなくっちゃ」
そういう穂乃果に私は答えました。
「そうですね、きっと喜びますよ」
――――――――
その日は意外に疲れていたのかな、私は家に帰ってからお風呂に入って、すぐ寝てしまったの。
翌日の日曜日はμ'sの練習だったんだけど、私はいつもよりも早く目が覚めちゃった。
「お姉ちゃん、早いね!」
なんて、
海未ちゃんとことりちゃんにメールで連絡して、私は先に音ノ木坂学院へ向かったんだ。
部室で着替えて誰もいない屋上に出たの。屋上から秋葉原の街を眺めると……昨日のことが思い出されて、胸がもう一度、きゅんとしたんだ。
昨日、神部君にはあんなことをいわれて、断っちゃったけど……。いまこうやって考えてみると、私、神部君のこと……お友達とは考えられないみたい。
この気持ち、よくわかんなかったけど、やっぱり彼のことが……一人の男性として好きなんだ。
私はそう気付いて……すこし気持ちが楽になった気がしました。
私はスマートフォンを手に取って……。
いま、神部君に電話すれば、お付き合いが始まるのかもしれない、そう思うといますぐに連絡先を開きたくなったけど。
でも、そんなあやふやな気持ちで、付き合っていいのかな……そうも思うんだ。
私はしばらく両手でスマートフォンを握りしめていたんだけど……とうとう、元通りポーチに戻したの。
神部君、ごめんね。私、まだまだ子供みたい。でも、いつか自信を持って、お付き合いさせてください、っていいたいな……。
屋上への扉が音を立てました。私がそちらを見ると、海未ちゃんが隙間からのぞくように顔を出していて。
「海未ちゃん、おはよう!」
私は海未ちゃんに笑いかけたんだ。
「穂乃果、今日は早いのですね」
そういって海未ちゃんは扉を開けました。
――――――――
穂乃果とことりと別れ、私はひとり帰宅しました。帰宅したとたん、私は疲れを感じました。長い一日でしたので仕方ないでしょう。
早めにお風呂に入らせていただくことにしました。
湯船につかってぼんやりとしていると、今日のことが思い出されました。
神部さんが穂乃果のことを、想われていたとは……いえ、やはり私がにぶいのでしょうね。
あのとき、穂乃果がお断りしたあと、私はちらっと、とんでもないことを考えてしまいました。それなら私が……と。そのとき、私は、自分の気持ちが……彼のことが好きなのだと、はっきりわかりました。
もし、彼の想いに先に気付いていれば、そんなことにはならなかったでしょう。
いえ、それよりも……自分の気持ちに気付いていたなら、私は、なにかできたのでしょうか。私の想いは彼に届いたのでしょうか……。私にはわかりませんでした。
たしかにいえることは……私の彼への想いは、とても
涙があふれてきましたが……それはお湯の中への吸い込まれていきました。
すこし長くつかりすぎたようでした。私は髪を洗うために湯船から出ました。
翌日はいつも通り目覚めました。
朝食の席で母に、ここ最近、稽古に出られていないことを謝りました。生徒会のお仕事なら、と母は了解してくれていましたが、いつか、取り戻さなくてはなりませんね。
穂乃果から連絡があり珍しく先に行くとのことでした。
私もことりに連絡して、いつもよりすこし早く家を出ました。
屋上に行き扉からのぞくと、穂乃果はひとりでたたずんでいました。
「海未ちゃん、おはよう!」
私に気付いた穂乃果はそういって笑いました。
「穂乃果、今日は早いのですね」
私はそういいながら扉を開け、穂乃果の隣に行きます。
ふたりでしばらく街を眺めました。
なにか話したほうがいいのかと思いましたが……よく考えると、私から話せるようなことはなにもないのでした。
扉が開いてことりが姿を見せました。
「今日は早いですね、穂乃果ちゃん、海未ちゃん」
そういってことりは私たちの隣に並びました。
「なにか、ありましたか?」
ことりは首をかしげます。
「ううん、なんにも」と穂乃果。
「ええ、たまたまです」
私も首を振りました。
「みんな、そろそろ来ますよ」
ことりの言葉に私たちは練習の準備を始めたのでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。ご感想、評価等いただけると嬉しく思います。また、よろしければ他の作品もご覧ください。よろしくお願いいたします。