親愛へのレスポンス ~ Story of Honoka   作:Kohya S.

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8. そして、結果は……!

 結果発表を待つあいだ、私はもうやるだけのことはやったので……ちょっと気が抜けちゃった。

 机に突っ伏してだらーんとしちゃいます。

 

「穂乃果、行儀が悪いですよ」

 そう海未ちゃんはいうけど、あまり本気じゃないみたい。

「だってー、疲れちゃったよー」

「まあ、がんばりましたからね」

 笑みを浮かべる海未ちゃん。

 神部君もそんな私を見て微笑んでくれたんだ。

 

 十分間の休憩はすぐに終わって、佐藤さんがまた演壇に上がりました。

 教室の中は自然に静かになって、緊張感がただよってきたの。

 

「えー、それでは、結果の発表です。一位になったのは……」

 佐藤さんはしばらく言葉を切ります。うう、気になるよー。

「十四点を集めた、Bグループでした。おめでとうございます!」

 

「やったー!」

 私は思わず立ち上がって叫んじゃった。教室中の注目を浴びてしまって……。

「すみません……」

 私は頭をかきながら座りました。

 教室からは笑い声が上がったけど……しだいにそれは拍手にかわったんだ。

「やったね、穂乃果ちゃん」

「やりましたね、穂乃果」

 ことりちゃんと海未ちゃんが嬉しそうにいってくれて。

「がんばったかいが、ありましたね」

「お疲れ」

 神部君と倉田君も。

 みんな満面の笑みだね。

 

 拍手がおさまって、佐藤さんは続けます。

「そして、二位は、僅差の十二点で、Cグループでした」

 私たちは拍手を送ったの。

 でも、UTX高校と東雲学院の生徒たちは、どうしても複雑な表情みたい。

 

「さて、皆さん、今日まで三回にわたって、ありがとうございました」

 佐藤さんがふたたび話しはじめます。しめくくりのお話しみたい。

 

「いろいろな意見が出て、今後の生徒会活動にも、参考になったかと思います」

 うなずく生徒たち。

 

「また、今回は……お気づきのかたもいらっしゃるかと思いますが、グループワークや発表を体験していただくのも、ひとつの目的でした」

「……そうはいっても、たいへんだったねえ」

 海未ちゃんにちょっと愚痴っちゃいます。

「うふふ、そうですね」

 海未ちゃんも微笑んでくれたよ。

 

「たとえば、最初に、一風変わった、自己紹介をしていただきましたね。あれはアイスブレイクといって、かたい雰囲気を壊すためのものだったりします」

 うん、そういえばやったなあ。神部君、実はにぶいんです、っていってたけど、あれ、なんだろう。

 

「生徒会の皆さんは、これから、会議などを主催されることも多いと思います」

「あまり考えたくねえな」

 佐藤さんの言葉に、倉田君がぼそっとつぶやいたのを、私は聞き逃さなかったんだ。ことりちゃんもくすっと笑ったみたい。

 

「会議などをうまく進めるための、こういう技術を、ファシリテーションと呼んだりします。興味のあるかたは、調べてみてくださいね」

 ふーん、なるほどね。今度なにかやるときには、調べてみようかな。

 

「スケッチブックと名札は各自でお持ちください。……なにか質問など、ありますか」

 佐藤さんが教室を見渡します。

 

「それと……学校に戻られても、交流会の詳細は、あまり話さないでくださいね。来年も同じことをするかは、わかりませんが……なにをやるか知ってると、あまり面白くありませんからね」

 生徒たちから苦笑ともいえる笑い声が上がったの。

 だから絵里ちゃんと希ちゃんは、話してくれなかったんだね。

 

「それでは、これで交流会を終わります。ありがとうございました」

 生徒たちから拍手が起こりました。

 

        ・

 

 交流会が終わって、私たちはあらためて喜びあったよ。

 するとそこにUTX高校の白井さんが来たんだ。

「高坂さん、おめでとう」

「うん、ありがとう」

 私がいうと彼女は目をそらしました。

「……その、前回は失礼なことをいって、ごめんなさい」

「ううん、気にしてないから……」

 私は笑って答えたの。

「今日の発表、立派でしたわ」

「白井さんたちも、素晴らしかったです」

「……ありがとう」

 そういって笑みを浮かべる彼女。

 私は彼女に右手を差し出します。彼女は一瞬、戸惑ったようだけど、私の手を握り返してくれたんだ。

「ラブライブの本戦、楽しみにしているわね」

「はい、がんばります」

 彼女は最後にもう一度微笑むと、副会長さんと一緒に教室を出ていったの。

 

「そうだ、写真、撮ろうよ。写真」

 私はみんなに呼びかけます。

「うん、そうだね」

 スマートフォンを取り出すことりちゃん。サポートのかたのひとりに頼んでるみたい。

「佐藤さんもご一緒いただくよう、お願いしましょう」と海未ちゃん。

 うん、そうだね。

 

「撮ってくださるそうですー」

 ことりちゃんが戻ってきて、佐藤さんを中心に私たちは前後二列に並びました。

「いいですか」

 スマートフォンを持った男性が声をかけると、私は思い切りVサインを作っちゃいます。

「はい、チーズ」

 シャッター音が鳴りました。

 

「ありがとうございましたー」

 ことりちゃんがスマートフォンを受け取って。

「今回はいろいろとお世話になりました……」

 海未ちゃんは佐藤さんにお礼をいってるね。

 

「それじゃ、そろそろ出ましょうか」

 神部君の呼びかけに、私たちはスケッチブックなどを片付けたの。

 最後に佐藤さんとサポートのかたに挨拶して教室を出たんだ。

 

        ・

 

 昇降口でいったん立ち止まって。

「ねえねえ」と私がいうと。

「打ち上げ、行きますか」

 神部君がおどけていったの。

「うん、わかってるねー」

 私は彼の肩をぱしっとたたいちゃいます。

「はい、行きましょう」と笑顔のことりちゃん。

 海未ちゃんと倉田君もうなずいたんだ。

 

 傘をさして昇降口から歩きはじめる私たち。

「どこに行こうかな?」と私。

「そうですね、ちょっと早いですけど、食事にするか……」と神部君。

「カラオケですか?」

 ことりちゃんが倉田君に聞いてるよ。

「やめてくださいよ」

 倉田君はちょっと困った感じ。

 

 でも、倉田君には悪いけど、私はみんなにいったんだ。

「カラオケ、いいんじゃない?」

「うん、いいと思うな」とことりちゃん。

「俺も、また高坂さんたちの歌、ききたいです」

 神部君はすこし照れたようにそういったの。

「そうですね、こういう機会ですから、ご一緒しましょう」海未ちゃんもうなずいてくれて。

「倉田は?」と神部君。

「うー、しょうがねえなあ」

 倉田君はそういって肩を落としたんだ。

 

 ふたりの話ではカラオケ屋さんも、ちょっと遠いみたい。

 雑居ビルやマンションの間の道を歩いていったんだ。しばらく歩くと大きな通りに出て、お店が増えてきて。

 倉田君が案内してくれたカラオケ屋さんは、通りに面した雑居ビルに入ってました。倉田君が会員なので安くすむね!

 部屋に入って料理と飲み物を注文する私たち。

 

「それじゃあさっそく……」

 と私がカラオケの機械に手を伸ばすと、海未ちゃんに止められちゃいました。

「穂乃果、やはりここは生徒会長から一言、欲しいですね」

「あ、そっか」

 打ち上げだからねー。

「飲み物が届くまで待ちましょう」

 神部君の言葉に私たちはおしゃべりして待ったんだ。

 

 すぐに飲み物が来ました。みんながコップを手に取ったのをみて。

「それでは会長、ひとことどうぞ♪」

 とことりちゃん。私は立ち上がりました。

「えー、交流会、お疲れさまでした」

「お疲れさまでしたー」

 みんなが声をあわせます。

「みんなでがんばって、一位が取れました! ありがとう! では、かんぱーい」

「かんぱーい」

 コップを打ち合わせる音が響いたの。

「ありがとうございました」「やりましたね」「お疲れさまです♪」「どうも」「みんなのおかげだよ」

 みんなで笑いあいました。

 

 食事もおしゃべりもひと段落して、神部君が機械を差し出してきたんだ。

「そろそろどうですか」

「μ'sの曲、あるかなあ」

 機械をさわりながら私がいうと。

「さすがに厳しいでしょうね。もしあったら……花陽あたりが報告に来ますよ」と海未ちゃん。

「そうだよねー。なにがいいかなー」

 そういいながら曲を探していくと……。

「A-RISEの曲があるよ!  Private Warsだよ!」

「さすがですね」

「それにしちゃいますか?」

 そういって笑うことりちゃん。うん、何度も動画を見たから曲はばっちり、振り付けもいけるかな。

「そうだね!」と私。

「じゃあ、穂乃果ちゃんは、ツバサちゃんのところ、お願いします♪」

 ことりちゃんがマイクを手渡してきたの。

「海未ちゃんは英玲奈 (えれな)ちゃん、ことりちゃんは、あんじゅちゃんね!」

 私も答えました。

「ええっ、本当にこれにするのですか」

 海未ちゃんは困ったようにいったけど、マイクを受け取ってくれたんだ。

 

 私が曲を選択すると、何度も聞いたイントロが流れ始めて。

 三人で部屋の片方、すこし広くなっているところに立ちました。神部君と倉田君は興味津々といったようすで見守ってる。

 

『♪~♫~……』

 そういえば三人でPrivate Warsを歌うなんて、初めてかもね。

 場所が狭いので振り付けは完全に再現できないけど、いざ始めてみると、三人ともよく覚えてたんだ。

『♬~♪~♬~♪~……』

 ある意味、思い入れのある曲なので楽しく歌えて……。きっとふたりも同じだと思うな。

『……♬~♪』

 最後に決めポーズを取りました。

 私たち三人は顔を見合わせて笑ったの。神部君と倉田君は大きな拍手をしてくれたよ。

 

「素晴らしいです」

 席に戻った私に、そういう神部君。

「えへへ、ありがとう。本当なら、自分たちの曲がいいんだけどね」

「きっとそのうち、カラオケにも入りますよ」

「うん、そうなるといいな」

 私はそういってコップから一口、ジュースを飲んだんだ。今日は間違えないもんね。

 

 そのあとは倉田君に曲を披露してもらったの(なんと、バラードが得意だそうで、かなり上手でした)。それから、海未ちゃんに無理をいって演歌を試してもらったり、ことりちゃんのアニソンに合唱したりして盛り上がったよ。神部君も照れながら一曲、歌ってくれたし、私も定番アイドルソングを歌ったんだ。

 

 倉田君が歌っているとき……えっと、お花を摘みに行きたくなっちゃって。そう、海未ちゃんに告げたの。

「はい、いってらっしゃい」

 私は席を立ちました。

 

        ・

 

 ビルの中なので通路が複雑で、すこし迷っちゃったけど、なんとか用をすませて元の部屋へ戻ろうとしてたの。

 

 その途中で……私は通路に神部君がいるのに気付いたんだ。

「あ、神部君。神部君もトイ……じゃなかった、お花を摘みに?」

「いえ、そうじゃないんですけど……すこしふたりでお話しできますか」

 小声でそういう彼。

「うん、いいけど」

 

 フロアの奥のほうに、待ち合わせ場所なのかな、すこし広くなって机と椅子が置かれているコーナーがあったので、そこまでふたりで行きました。

 

「それで、はなしってなにかな……」

 あらためてこうやってふたりになると、なぜかちょっと緊張しちゃうんだけど……。

 彼は私を見て、一度目をそらし、また私のほうを向いて、話し始めたんだ。

「その……高坂さん、お付き合いしてる人とか、いるんですか」

 そう話す彼の顔が赤くなっているのがわかったの。

「えっ、お付き合いって?」

 私は一瞬、なんのことかわからなくて、聞き返しちゃった。もちろん、そういってからすぐに気付いたんだけど。

「……恋人とか、いるのかなって」と彼。

 お付き合いっていったら、それしかないよね。

「とくにはいないけど……」

 私は胸がきゅんと痛むのを感じました。

 

 彼は緊張したようすでしばらく黙っていたけど、口を開いて……。

「……あの、俺と、付き合ってもらえませんか」

「えっ」

 私、ちょっぴり予想はしていたけど、やっぱり驚いたんだ。

「その、高坂さん、とても素敵で……。交流会でもずっとがんばってて……」

 彼はそこで言葉を切って、私を見つめました。

「……ありがとう」

 私はそう答えるのがやっとだったの。私の顔もきっと真っ赤だと思う。

 

 私の心の中は乱れていました。彼の言葉は嬉しいんだけど……あまりにも現実感がなくて……。

 

「……高坂さん」

 思いつめたような彼の声。

「私……」

 次の言葉がなかなか出てこなくて。だけど、ようやく心を決めたんだ。

「私、神部君のことは、好きだよ。すごくかっこいいと思う。でも……」

「……でも?」

 繰り返す彼。私は目を伏せて。

「神部君のこと、恋人として好きなのか……よくわからないんだ」

「そう、ですか」

 彼は小声でそういったの。私は顔を上げます。

「うん……ごめんね」

 私は心が伝わることを祈って、微笑んだんだ。

「……俺のほうこそ、急にこんなこといって、ごめんなさい」

 彼も微笑んでくれたけど、その笑みは悲しそうで……私の胸はまた痛みました。

 

 ふたりの間に沈黙がおとずれて……。

「俺もトイレ、行ってきます」

 彼はそういって足早に通路を歩いていったの。

 私は彼が見えなくなるまで待ってから、部屋に戻ったんだ。

 

 ――――――――

 

「穂乃果ちゃん、遅いね」

 倉田さんの曲が終わり、ことりがいいました。

「そうですね。神部さんはともかく、穂乃果は道に迷ってたりするかもしれません」

 神部さんもさきほどお手洗いに行くといって、席を離れました。

「さすがにないと思うけどー」

 ことりは笑いますが、私は気になりました。

「ちょっと見てきますね」

「あ、海未ちゃん、待ってたほうがいいよー」

 ことりはそういいましたが、私はなにか気になるものを感じて、部屋から外に出ました。

 

 通路はすこし複雑で……穂乃果なら迷ってしまうこともありえるでしょう。

 私はとりあえず案内にしたがって通路を進みました。

 

 通路の奥のほうに誰かの人影が見えました。人影はふたりのようで、それぞれの部屋から聞こえる歌声や曲の音に交じって、話し声が聞こえてきます。

 

「……お付き合いしてる人とか、いるんですか」

 そういったのは神部さんでした。私はびくりとして立ち止まりました。相手の返答はよく聞こえませんでしたが……相手は穂乃果でしょう。そう気付いて、私は息をのみました。

 私は聞いてはいけないと思いつつも、そこから離れられませんでした。

 

 彼は続けました。

「俺と、付き合ってもらえませんか」

 その言葉に、私の胸はずきんと痛みました。

 

 穂乃果と彼は会話を続けて……細かいところはわかりませんでしたが、穂乃果が「ごめんね」といったのはわかりました。

 

 やがて会話が終わったようです。私はふたりに気付かれないように、通路を戻りました。

 

「穂乃果ちゃん、いた?」

 ことりがたずねます。

「いえ、ざっと見たのですが、いませんでしたね。しばらく待ちましょう」

 私は平静をよそおってそう答えました。

 ことりは、気掛かりそうに私を見ていました。

 

 しばらくして穂乃果が戻ってきました。どこかうつろな表情で、心ここにあらず、といった感じでした。

「もう一曲、どうすか」

 倉田さんがいいますが、穂乃果は首をふりました。

「いやー、さすがにちょっと、疲れちゃったかなー」

 

 やがて神部さんも戻ってきました。

「すみません、遅くなって」

 彼は明るい声でいいましたが、どこか寂しげに、私には感じられました。

 

 しばらくは誰も歌わず、あまり会話も弾みませんでした。

「穂乃果ちゃん、最後にこれ、一緒に歌おうよ」

 ことりがそういって穂乃果に端末を見せます。ちらっと見ると去年のA-RISEの曲、Love Intersectionでした。

 穂乃果は一瞬、断りそうなそぶりを見せましたが、うなずきました。

「うん、うたおっか」

 

 ことりが端末を操作すると曲が流れ始めました。たしかこの曲は……。

 

『♫交差するふたりの想い』

『♪重なるときが、来るのでしょうか』

 

 そうです、交錯するふたりの想いをうたった、恋の曲でした……。

 私もいつのまにか一緒に口ずさんでいました。この曲では、ふたりは最後に結ばれるのですが……。目の奥が、熱くなってくるのを感じました。

 

 穂乃果とことりは最後まで歌い終えて……神部さんと倉田さんが大きな拍手を送りました。もちろん私も。

 すこし怪しくなっていた雰囲気が元に戻りました。ことりのおかげですね。

 

 それからおしゃべりをして……穂乃果とことりはデザートまで食べてから、時間になったので、私たちは荷物をまとめて外に出ました。

 

        ・

 

 雨は降り続いていました。

「写真、あとで送りますね」

 お店を出て、神部さんと倉田さんにことりがいいます。

「はい、よろしくお願いします」

 神部さんが答えました。

 

 おふたりとはカラオケ店の前で別れることになりました。

「それじゃ、今日はこれで」と神部さん。

「なにかあったら、連絡してね」

 穂乃果がそういって笑いました。

「はい、そうします」

 神部さんも笑いました。その笑顔にかげを見てしまうのは、私の思い過ごしでしょうか。

「それじゃあね」

 穂乃果とことり、私はふたりに手を振りました。ふたりも手を振り返してから、歩いていきました。

 

 私たちは最寄りの地下鉄駅まで歩き始めました。

「今日も、いろいろあったねえ」

 穂乃果が感慨深げにいいました。その言葉に、私の胸はまた痛みましたが……。

「そうですね……お疲れさまでした、穂乃果、ことり」

 私はそういったのでした。

「うん、海未ちゃんもね」と穂乃果。

「お疲れさまでした」

 ことりも笑いました。

 

「……明日、絵里ちゃんと希ちゃんに、報告しなくっちゃ」

 そういう穂乃果に私は答えました。

「そうですね、きっと喜びますよ」

 

 ――――――――

 

 その日は意外に疲れていたのかな、私は家に帰ってからお風呂に入って、すぐ寝てしまったの。

 翌日の日曜日はμ'sの練習だったんだけど、私はいつもよりも早く目が覚めちゃった。

「お姉ちゃん、早いね!」

 なんて、雪穂(ゆきほ)には驚かれたけど。

 

 海未ちゃんとことりちゃんにメールで連絡して、私は先に音ノ木坂学院へ向かったんだ。

 

 部室で着替えて誰もいない屋上に出たの。屋上から秋葉原の街を眺めると……昨日のことが思い出されて、胸がもう一度、きゅんとしたんだ。

 

 昨日、神部君にはあんなことをいわれて、断っちゃったけど……。いまこうやって考えてみると、私、神部君のこと……お友達とは考えられないみたい。

 この気持ち、よくわかんなかったけど、やっぱり彼のことが……一人の男性として好きなんだ。

 私はそう気付いて……すこし気持ちが楽になった気がしました。

 

 私はスマートフォンを手に取って……。

 いま、神部君に電話すれば、お付き合いが始まるのかもしれない、そう思うといますぐに連絡先を開きたくなったけど。

 でも、そんなあやふやな気持ちで、付き合っていいのかな……そうも思うんだ。

 

 私はしばらく両手でスマートフォンを握りしめていたんだけど……とうとう、元通りポーチに戻したの。

 

 神部君、ごめんね。私、まだまだ子供みたい。でも、いつか自信を持って、お付き合いさせてください、っていいたいな……。

 

 屋上への扉が音を立てました。私がそちらを見ると、海未ちゃんが隙間からのぞくように顔を出していて。

「海未ちゃん、おはよう!」

 私は海未ちゃんに笑いかけたんだ。

「穂乃果、今日は早いのですね」

 そういって海未ちゃんは扉を開けました。

 

 ――――――――

 

 穂乃果とことりと別れ、私はひとり帰宅しました。帰宅したとたん、私は疲れを感じました。長い一日でしたので仕方ないでしょう。

 早めにお風呂に入らせていただくことにしました。

 

 湯船につかってぼんやりとしていると、今日のことが思い出されました。

 

 神部さんが穂乃果のことを、想われていたとは……いえ、やはり私がにぶいのでしょうね。

 あのとき、穂乃果がお断りしたあと、私はちらっと、とんでもないことを考えてしまいました。それなら私が……と。そのとき、私は、自分の気持ちが……彼のことが好きなのだと、はっきりわかりました。

 もし、彼の想いに先に気付いていれば、そんなことにはならなかったでしょう。

 

 いえ、それよりも……自分の気持ちに気付いていたなら、私は、なにかできたのでしょうか。私の想いは彼に届いたのでしょうか……。私にはわかりませんでした。

 

 たしかにいえることは……私の彼への想いは、とても(はかな)いもので……神部さんの想いには比べるべくもない、ということでした。そして、私の想いがかなうことも、決してないのでした。

 

 涙があふれてきましたが……それはお湯の中への吸い込まれていきました。

 

 すこし長くつかりすぎたようでした。私は髪を洗うために湯船から出ました。

 

 翌日はいつも通り目覚めました。

 朝食の席で母に、ここ最近、稽古に出られていないことを謝りました。生徒会のお仕事なら、と母は了解してくれていましたが、いつか、取り戻さなくてはなりませんね。

 

 穂乃果から連絡があり珍しく先に行くとのことでした。

 私もことりに連絡して、いつもよりすこし早く家を出ました。

 

 屋上に行き扉からのぞくと、穂乃果はひとりでたたずんでいました。

「海未ちゃん、おはよう!」

 私に気付いた穂乃果はそういって笑いました。

「穂乃果、今日は早いのですね」

 私はそういいながら扉を開け、穂乃果の隣に行きます。

 

 ふたりでしばらく街を眺めました。

 なにか話したほうがいいのかと思いましたが……よく考えると、私から話せるようなことはなにもないのでした。

 

 扉が開いてことりが姿を見せました。

「今日は早いですね、穂乃果ちゃん、海未ちゃん」

 そういってことりは私たちの隣に並びました。

「なにか、ありましたか?」

 ことりは首をかしげます。

「ううん、なんにも」と穂乃果。

「ええ、たまたまです」

 私も首を振りました。

「みんな、そろそろ来ますよ」

 ことりの言葉に私たちは練習の準備を始めたのでした。




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