その二
俺は、学校が終わるなりさっさと自転車で兄の病院へ向かう。そして、階段を駆け上がり、兄の病棟へ。兄は重病患者の集められた病棟にいる。たまに、他の病室から叫び声や悲鳴が聞こえて、怖い。
「兄ちゃん!ただいま」
母がいる。父はいない。
「あれ?父さんは?」
「離婚した……」
「は?」
「アンタのせいだよ!!」
母は、怒鳴りちらして、病室を出ていった。
「なんやて、あの更年期ババア…」
俺はベッドの脇の椅子に腰掛ける。まだ母の生暖かさがある。俺は兄の手を握る。まだ、兄の触れられる場所は手しかないのだ。兄は、相変わらず無反応で、只々呼吸しているだけ。「離婚って、どうゆーことなんだろうな〜…」
独り言を呟く。
俺は、スマホを取り出して、兄との最後のラインの画面を見た。
『よう(`・ω・´)ノ課題ちゃんとやってるか?』
『やってるよ〜』
『ほんとかー?』
『ほんまやってwww俺結構真面目なんやでwww』
『へー。ならいいわ。なんか、突然心配になってさw』
『俺の心配より自分の心配しやあww彼女作れ』
『それwいやいやいや、俺彼女いらへんしw女って面倒くさい生き物やし、俺は自由気ままに独り身味わうよ 』
『兄ちゃんみたいなイケメン、俺が付き合ってやってもいいけどねww』
『何言ってんだよwホモかよwないわー……』
『いやいや、冗談やし!!ww本気にすんなよ』
『本気にはしてねえよw』
『あ、そうそ、話変わるけど兄ちゃん、俺さ、明日裏山に肝試し行くんだけど』
『裏山の?』
『あそこ結構有名じゃね?マニアとかよく来とるらしいし』
『絶対やめといたほうがええってwお母さんに怒られるで』
『怒られへんって!バレんければいいやん!夜明けまでに家に戻ればええんやし』
『えー…なんか心配だなぁー 』
『心配ないて!じゃあ兄ちゃんも来る?』
『じゃあ、年長の保護者として行ったるわ!』
『やったー!兄ちゃんのクルマあれば超早く帰れるしラッキーwwwじゃ、明日の11時家来て』
『りょー(`∀´)じゃ、おやすみ』
『ほーい』
これで終わり。これで終わりだ。
これが、兄と俺の最後のLINE。
この会話のせいで、兄ちゃんは…と思うと、胸が苦しくなる。俺は、兄に心から謝罪した。そして、いるかいないかも分からない神、いや、仏に、兄の意識が戻りますように、と祈った。
そして…俺たちが裏山へ行って三週間後、やっと兄が目を覚ました。
兄が目を覚まし、まず一番に言ったことは。
「………………………誰?」