月村家のたくさんの猫たちのなかの一匹の物語   作:向日葵星人

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第2話

口が利けないというのは、なんとも不便なものであります。

一昨日の暮れ六つ、わたしはやっとの思いで、鼬を銜えながら家へ帰ってきたのですが、

主すずかに、わたしがこの鼬を襲ってけがをさせたと勘違いされ、ひどく叱られました。

そのあと、昨日の晩までの間、主すずかには邪険にされていました。

いつもならば、足元にすりよって行けば、ひざに乗せてくれて、その日、学校であったことなど、語ってくれるものですが、このときばかりは、そのようにいかず、せっかく運んできた鼬がどうなったのか、正確にはわからなかったのでした。

しかたなく、夕食の片付けなどをするメイドの足元をうろうろしながら、状況をさぐりました。

すると、どうやら、わたしが運んできた鼬は、動物を専門に診る医者へ連れて行かれたらしいことがわかりました。

おそらく、けがの治療が終われば戻ってくるのでしょうが、しかし、わざわざ医者に診せに行くくらいなのだから、療養の後に食べようというのは、やめておいたほうがよいのでしょう。

やってしまったが最後、わたしはおそらく主に捨てられてしまう。

 

それから、数日後、わたしはその鼬に再び会うことになりました。

その日は休日でした。

家には、朝から、主すずかの友人である、アリサ・バニングスが来ていました。

わたしは、このアリサ・バニングスという少女があまり好きではないのです。

それは、犬の匂がするからです。

犬というものは、われわれ猫族の天敵であります。

古来、猫族は犬による迫害を受けてきました。

酷い事例をあげるとすれば、子猫が犬に捕食されたといったことも、頻繁にあったと伝え聞きます。

そのようなことから、吾ら猫族は本能的に犬の匂いというものを嫌うのです。

ひとつ厭なところを見つけてしまうと、なんとなく親の敵であるかのように憎らしく感じられてしまうもので、わたしはアリサからたまに発せられる、ぶっきらぼうな声もきらいなのです。

主すずかとアリサは、テラスで紅茶を飲んでいたようですが、わたしは個人的な感情からテラスには近寄らずに、風通しの良い日陰で惰眠を貪っていたのでした。

 

しばらく眠った後、玄関の呼び鈴の音で目が覚めました。

誰が来たのやらと考えながら、玄関へ向かうと、メイドが高町恭也、なのはの兄妹を迎え入れていました。

わたしは、高町なのはには、アリサのような特別な感情を懐いていませんでした。

顔は整っているが、ちんちくりんな児童である、という程度の認識でした。

しかし、今日はその高町なのはに注目すべき点がありました。

なんと、その肩に、例の鼬を乗せていたのです。

あちらからは見えない位置で様子を伺ったところ、鼬のけがは癒えているようでした。

毛並みは艶があって、前見たときよりおいしそうでした。

迎えに出たメイドは、高町兄妹をアリサのいるテラスへ案内しているようでしたので、

わたしもそれについていってみました。

テラスに入ると、すぐ、高町恭也は主すずかの姉の忍と部屋を出ていきました。

そして、高町なのはが椅子に座ると、肩にいた鼬は床へ降りました。

わたしは目敏くそれを見つけると、鼬の位置が主すずかの死角であることを確認してから、鼬の目の前へと立ちふさがりました。

鼬は飛び上がらんばかりの様子で、驚き、目を剥いていました。

なんとまあ、鼠もどきのくせに表情が豊かなことだと、感心していると、鼬はすぐにその動揺から解かれ、こちらへいつでも飛びかかれる臨戦態勢をとっていました。

表情が豊かなだけでなく、頭の回転も早いようでした。

『あなたは、魔法が使えるのですか』

頭の中に、若干戸惑ったような声がひびきました。これは、この鼬に遭った日にあった幻聴と同じであるように感じました。

それにしても、この礼儀のなっていない鼬は、言うに事欠いて魔法が使えるかと問うてきました。

わたしは、その日にかわすはじめの言葉は、挨拶であるべきだろうと、日ごろから考えていましたし、それに、わたしはこの鼬の命の恩人であるのだから、まずは御礼の言葉が発せられるべきだと思うのです。

『阿呆なことを言っていると、食べちゃうぞ』

わたしは、あのときと同じように、心のなかで低くうなるように、声を発しました。

『猫の姿をとっていながら、人語を理解し念話を使えるのだから、使い魔なのですか』

またもや、訳のわからないことを言ってきました。

仕方がないので、この鼬に礼儀を求めることは止めにしました。

『猫族が人間語を理解しているのは、そんなに珍しいのかな』

かの明治の文豪は、その処女作に人語を理解する猫の物語を書いているのだから、わりとよくある事と理解していたのですが、改めて考え直してみると、たしかに、珍しいのかもしれません。

そういえば、月村家にいる猫たちは、人間語を理解していると見るには、いささかおかしいということに思い当たって、もしかしたら尋常ではないのかもしれない、と思い直しました。

『あなたは使い魔ではないのですか』

この鼬には、余程そのことが重要であるように見えましたので、否違うと答えてやりました。

『そもそも、魔法とは、使い魔とはなにものなのかな』

『いえ、すみません、知らないのならば良いのです。失礼しました』

などと言って、わたしの前を立ち去ろうとしたので、前足で、少し爪を立て、その尻尾を捕まえました。

『これだけ質問しておいて、何も説明せずに去ろうというのは、如何なものか』

そうは思わないかな、と尋ねました。

尻尾に爪の感覚が伝わったのか、鼬は冷や汗がその体を伝っているような様相で答えました。

『そうですね、失礼しました』

礼儀知らずは、礼儀知らずなりに、礼儀を知っていたようで、ある程度は説明してくれました。

まず、この鼬はユーノ・スクライアということ。

鼬のくせにファミリーネームを持っているのかと思ったのですが、この鼬ユーノ、実は人間であるらしいのです。

余談ですが、この事実によって、おいしそうだという感情は、吹き飛びました。

魔法を使えば姿を化かすことなど、造作もないことであるらしいのです。

しかし、ユーノは魔法のことを話すとき、どうも細部をぼかしてごまかそうとしましたので、わたしは質問を交えながら、半ば強引に聞き出しました。

途中で高町なのはも話に加わり、わたしの好奇心が満たされるまで会話が続きました。

『なるほど、それで魔法の資質の高い、高町なのはに協力を要請して、ジュエルシードなるものを集めていると』

『そうです、その通りです』

まず、この高町なのはが、そんな特性を隠し持っていたのかと驚きました。

まったく、人は見かけによらないものだなあ、と思いました。

それにしても、この、高町なのはという人間は、念話をしている間、念話の内容に合わせて表情がころころと変わります。

そのことで、主すずかとアリサに不審がられている、というか、心配されていることに気が付いていないようです。

いちいち教えてやるほどに、高町なのはと親しくないので、黙っておくことにしました。

『おおまかには理解したのだけれど、ひとつ質問しても良いかな』

『はい』

『主すずかは、この念話というものを使えないのかな』

ユーノによれば、主すずかは魔法の資質がないわけではない、というレベルだそうで、デバイスなる道具を用いればなんとかなるのかもしれないとの事でした。

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