この世の中というものは、なかなかどうして思い通りにならないものであります。
ユーノによれば、デバイスさえあれば、主すずかとお話することができるのに、今は、そのデバイスというものがないとのことでした。
それに、どうも、ユーノは主すずかに魔法の存在を知らせることを、避けたいと考えているように見えました。
人間語を操り、主すずかとお話しする計画は、早くも袋小路へ至ったようでした。
主すずかと、その友人二人のお茶会は場所を庭へと移し、続けられるようでした。
参加できない会話を聞いているのは、つまらないものですから、わたしは、人生とはままならぬものだと思いながら、庭を散歩していました。
吾が住処、月村家は猫であるわたしから見ても、標準以上の土地の広さと、建物の大きさを有しているといえます。
そんなわけで、敷地の外に出ずとも散歩を楽しめるのです。
まとわり付いてくる子猫などを、なんとかやり過ごし、木々に囲まれた小径を進んでいきました。
いくらか進んだところで、左前足に土や草とは違う冷たい感触を感じました。
何だろうと思いながら足をのけると、そこには青く光る菱形のガラス玉のようなものがありました。
これは、話に聞いたことのある、宝石というもののようだと思ました。
深い色を湛え、美しくみえるので、主すずかに捧げようと、思い当たりました。
猫というのは不便なもので、先の鼬の一件でもおわかりの通り、ものを持ち運ぶことは、それはもっぱら、口で銜え運ぶことなのです。
とりあえず、青い宝石を前足で突付いてみました。
突付いてみると、宝石は青黒く光を発しました。
そして、一呼吸おいてから、ふわっと、わたしの目線の高さに浮き上がりました。
宝石に逃げられると思い、ほとんど反射的に銜えました。
時を同じくして、ここはお茶会会場。
3人のたわいない会話が続いていた中で、ふいに、その中のひとり、なのはの表情が変わる。
驚いたような、張り詰めたような、そんな表情。
それも長続きはせず、すぐにいつものほんわかした表情に戻ったのだけれど、なのはの親友ふたりは気が付いていたようである。
ふたりは、ここ最近のなのはの様子を心配していた。
でも、おそらく、なのはが自分から話してくれる。
そう思っているから、あえて如何したと訊ねることはしなかったし、今回もしない。
しかしながら、特にアリサは、確実に不満を溜めているようである。
なのはの様子が変わってすぐ、ユーノがなのはの手から抜け出し、木々が茂る方向に向かって走っていった。
そして、すぐになのはもそれを追いかけて行った。
「あたしたちには、話したくないことなのかしら」
苛立ちを隠しきれない様子で、アリサが言った。
「他人には、言いづらいこともあるよ」
アリサの苛立ちに気が付いていたすずかは、困ったような微笑を浮かべて言った。
ジュエルシードが発動したと思われた現場に到着したなのはとユーノは、その光景に唖然とし、どのように反応して良いか、よくわからなかった。
なぜなら、そこには、頭に猫耳をはやした、なのはと同じくらいの背丈の少年が立っていたから。
その口には、只今発動したと思われるジュエルシードが銜えられていた。
「あの、どちら様でしょうか」
唖然とした表情のままで、なのははなんとか質問をした。
「いや、さきほどまで話していたじゃないか」
わたしは猫だよと、少年は口にジュエルシードを銜えたまま、器用になのはに返答し、続けた。
「すまない、ユーノの話は聞いていたのだけれど、これがそれだとは気が付かなかったのだよ」
「何を願って、そんな姿になってしまったの」
ユーノは半笑いで若干頬を引きつらせながら問うた。
「なにって、主すずかとお話しすることをここ最近は願ってはいたけれど」
これは、わたしの願いが正しくかなえられたのかな、薄く笑みを顔に浮かべながら猫耳少年は言った。
はあ、とため息を吐きながらユーノは言う。
「とりあえず、ジュエルシードを渡してもらえませんか」
猫耳少年は、是の意志を返そうと思っていたのだけれど、それはかなわなかった。
ユーノが言ったのと同時に、猫耳少年の体は黄色の魔力光に飛ばされた。
吹き飛ばされ、地面に衝突する前に、その体は猫のそれに戻り、猫は体をくるっと翻させて難なく着地した。
『挨拶もなしに、いきなり砲撃とは、ずいぶんなご挨拶じゃないか』
低く唸る様な念話がなのは、ユーノそして、猫の目線の先にいる黒いマントをまとった金髪ツーテールの少女へと届いた。
「リニス」
若干の驚きを含んだ声が、猫の目線の先にいる少女から発せられた。
なのはは、急展開についていけず、ただ呆然と成り行きを眺めているようだった。
金髪黒マントは、その手に持つ黒いデバイスから魔力弾を3発放った。
その魔力弾のうちの2つは、猫の目前に躍り出てきたユーノが造ったラウンドシールドによって防がれた。
しかし、残り1つは、急に軌道を変え、ユーノのラウンドシールドを避け、その後ろにいた猫の意識を刈り取った。