月村家のたくさんの猫たちのなかの一匹の物語   作:向日葵星人

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第4話

わたしは、主すずかの悲しい顔が嫌いなのです。

そして、そのような顔をさせてしまっているのが、わたしであるという事実も許しがたいものです。

あのとき、後ろから殴られたような衝撃を受けて、そして、気がついたときには、わたしは、すずかの部屋にある、籐のかごの中の敷き詰められたタオルの上にいました。

体のあちこちが痛く、腹の辺りの毛が若干焦げているようでした。

わたしにとって、籠の中をみる主すずかの心配そうな顔をみるのが、一番つらく感じました。

目が覚めたときには、既に日が落ちた後らしく、主すずかの友人達はすでに帰った後でした。

翌日、ユーノに聞いた話によると、わたしが倒れたあと、なのはは例の金髪黒マントと戦闘となり負けたとのことでした。

 

金髪黒マントの一件の後、わたしはユーノから変身魔法の手ほどきを受ける約束を取り付けました。

ジュエルシードの発動の影響で、一時的に人間の姿になれたわけですが、あのとき、わたしは始めて人間語を話すことができたのです。

ならば、念話なんてまわりくどいやり方をしなくても、主すずかとお話できるはずです。あの後、何度も変身を試みてみました。

しかし、一時的に姿を変えることができましたが、上手く成功する兆は見えませんでした。

部分的にしか成功しなかったり、存外の姿になってしまったり。

ユーノによれば、わたしにも魔法の資質があるらしいのです。

ならば、習えば思い通りにできるようになるのではないか、そう思いました。

それからは、力押しで、強引に約束をとりつけました。

ユーノは、管理外世界では魔法は秘匿すべきものだとか、ジュエルシードを探さなければならないから、今は無理だとか言っていました。

しかしながら、そんなことは、わたしには関係ないのです。

わたしの、主すずかへの愛のために、ユーノには、わたしと約束させました。

こちらとしても、主すずかへは魔法を隠すことや、わたしがジュエルシードの探索を手伝うことなどある程度譲歩しました。

しかし、この条件、実は無いも同然なのです。

なぜなら、ごまかすことなど容易で、この条件を守らなかったことで、こちらの被る不利益は、わたしがユーノから魔法を習うことができなくなる、ということだけなのです。

そんなことは、猫程度の頭でも考えることができるのに、まったく、ユーノは押しに弱く、また、相手を疑うことを知らないようです。

 

午前中、この日は曇っていて、いつもよりも涼しい日でした。

わたしたちは、月村家の庭の隅に展開されたユーノの結界の中におりまして、わたしはユーノによる正しい魔法行使のための授業を受けていました。

しかし、授業と言っても、座学ではなく実習がメインでした。

そもそも、授業というより、ユーノの助言を受けながら、わたしがただひたすらに魔法を使い練習するというものでした。

話は変わりますが、あなたは腕の動かし方を知っているでしょうか、足の動かし方を知っているでしょうか。

わたしは、意識して手足を動かしたことがありませんでしたし、おそらく、それが普通のことでしょう。

ユーノによれば、魔法を使う際の感覚的な部分を教えることは、手足をどうやって動かすかを教えるようなもので、難しいというより、意味がないと言うことでした。

わたしは、時間を忘れ、変身魔法を完全にものにするべく、繰り返していました。

ユーノはわたしのように時間を忘れることはなかったようで、太陽が南中したころにはおなかがすいたなどと文句をいっていました。

そして、なんとか人の姿を取れるようになったころには、日が傾き、主すずかが学校から帰ってくる時間に近くなっていました。

「さて、終わりにして、ジュエルシードの捜索に行こうよ」

ユーノはやや疲れた顔でした。

このあと、わたしとユーノは、学校から帰ったなのはと合流し、ジュエルシードの捜索へと向かいました。

そして、日が暮れ、空がまっくらになるまで捜索を続け、この日はジュエルシードを見つけることなく捜索はおわりました。

 

翌日から、主すずかが学校へ行き、メイドたちが、掃除などを始めると、わたしもジュエルシードを探すために出かけました。

もちろん、猫一匹だけではなく、鼬一匹と共に。

わたしは、当初、適当にぶらぶらとしていれば良いかななどと、考えていたのですが、このユーノという人間は非常にまじめであり、手を抜くということを知らないようなのです。

魔法を教えてもらっている手前、目に見える怠惰をきめこむわけにはいかず、まじめにやっている振りをしていました。

ユーノは話もせず、むっつりと、ただひたすらに探すだけでした。

それだけでは、わたしがいたたまれない気分になってしまうので、ユーノに話かけながら捜索を行いました。

ユーノの話す異世界はとても興味深いもので、わたしの質問もおのづと増えてゆきました。

また、たまには世間話のようなこともして、わたしは魔法の習得状況や、わたしは主すずかがいかに素晴らしい人物であるかを話したり、ユーノは家でのなのはの様子などを話したりもしました。

魔法の習得といえば、幻術魔法なるものを少し使えるようになりました。

わたしとしては、変身魔法の延長のようなものだと思っていたのですが、ユーノによればどうもまったく違うものらしく、レアスキルと言うほどではないけれども、幻術魔法を使えると言うのは珍しいことのようでした。

 

ユーノとの会話の中で知ったことですが、次の週末、高町家と月村家、それにアリサを加えた面子で、温泉へ旅行に行くとのことでした。

もちろん、猫であるわたしは参加することはありません。

このとき、わたしは、ユーノがなのはの部屋で暮らしているのを知っていましたので、誤って温泉に一緒に入ることのなどないように、きつく釘を刺したりもしました。

ユーノがなのはと、混浴するなどということは、どうでも良いことなのです。

なのはがいるということは、高い確率で、主すずかもいるということが言えるのです。

 

わたしの忠告にもかかわらず、温泉旅行でのユーノは女風呂へと入ったそうです。

アリサが無理やりだとかいろいろと言い訳をしていました。

その言い訳を聞きながら、なのはは不思議そうな顔をしていました。

なのはは、この鼬がじつは人間だと言うことを知らないのか、いや、そんなはずは無く、ただ、そういうことに羞恥を感じる歳ではないということなのでしょうか。

この一件により、わたしはユーノに攻撃魔法も習うことになりました。

もちろんユーノは渋っていましたが、アリサとすずかに、ユーノが実は人間であることを、そして男であることを明かすと脅しをかけたのです。

なぜ、攻撃魔法を習うのかといえば、攻撃魔法を覚えることで、ユーノへお仕置きをするためです。

練習のために、なのはからレイジングハートを借り、まず、見た目が派手で攻撃力がありそうなディバインバスターをやってみようとしました。

しかし、わたしはどうも攻撃魔法への適正がないらしく、細いレイザービームのようなものしか撃つことができませんでした。

これでは、逃げるユーノを撃ち抜くことは難しく、何度か狙いをつけてやってみましたが、全て避けられてしまいました。

ユーノは何故狙うのか殺す気かと文句を言っていましたが、なのははとても協力的で、誘導弾にしたらどうかという助言をくれました。

なのはの助言はもっともだと思い、わたしは誘導弾を試してみることにしました。

誘導弾は、ディバインシューターという魔法で、わたしが撃ちだすと、楔のような全長10センチメートルほどの弾がユーノへと向かっていきました。

誘導自体は、レイジングハートの補助が入るので、わたしは軌道を思い描くだけでした。

逃げ惑うユーノに、当たるか、当たらないかの瀬戸際のところに軌道を調整し、最後、疲れはて、小石に躓いたところを顔の目の前で破裂させてやったら、気絶したようでした。

これには、さすがにやりすぎだと、なのはに窘められてしまいました。

 

温泉旅行から数日がたった今日、学校から帰り、家にかばんを置いてきたなのはと待ち合わせをし、ジュエルシードの捜索がはじまりました。

捜索と言っても、落ちているものを探すようなものではなく、散歩をすることと大した差はないのです。

なぜかと言えば、ジュエルシードに近づけば、独特な波動を感じるからです。

そのような訳で、我々3人は会話などしながら捜索を行っていました。

しかし、なぜか今日はなのはの口数が少ない。

また、口数が少ないだけではなく、表情が暗いのです。

梅雨空のような、どんよりとした空気が漂っているような気配さえ感じてしまうほどでした。

公園へ差し掛かったとき、ユーノは耐えかねたように言いました。

「なのはどうしたの?疲れてるなら、捜索はやめようか」

「だいじょうぶ、疲れてるわけじゃないの」

なのはは、無理やり笑顔を浮かべてユーノに答えました。

『疲れていないと言うのなら、なぜ無理をしている様子なのか』

ちなみに、主すずかは最近の君の様子を心配している、と付け加えました。

「そうだね、やっぱり、無理をしているのかな」

ユーノはなのはにベンチへ座るように促し、言いました。

「なにがあったの」

「今日、学校でアリサちゃんに怒られちゃったの」

少し自嘲気味になのはは言いました。

『なにか奴の気にさわることでも言ったのかい』

奴は、短気で天邪鬼だからなあ、と思いながら問いかけました。

「ちがうの、わたしがアリサちゃんやすずかちゃんが話しているのに、ぼーっとしてたから」

「やっぱり、疲れてるんだよ」

ユーノは手伝わせている身であるからか、申し訳なさそうに言いました。

「体は元気だよ、いつもよりも良く寝てるし、朝の目覚めはいつもより良いくらい」

『なら、いつまでも主すずかやアリサに隠れて、こそこそやっているのが辛くなってきたのかな』

ここらでひとつ、本当のことを言ってしまったらどうだい、とわたしはなのはに言いました。

わたしは、そうなればわたしもこれからの行動がしやすくなるなあ、などと心の中では考えていました。

ユーノは黙ってはいましたが、表情から察するに、賛成ではなかったようです。

それきりなのはは黙ってしまい、わたし達はしばらく公園で休んでからまた、捜索を再開しました。

 

なのはが、主すずかやアリサに魔法のことを黙っているのは、なぜだろうか。

なのはの横顔をみながら考えていました。

ユーノに言われたからか、それとも、知られることで主すずかやアリサと距離ができてしまうことを懸念しているのか、なにかほかに懸念があるのか。

そういえば、高町なのはという人間は、規範とか決まりごとを破ることを、頑としてよしとしないところがあったことに思い当たりました。

そのことが、なのはが2人に本当のことを明かせない原因となっているのかもしれない。

フェイトテスタロッサを名乗った魔導士には話をしてもらえず、親友2人には本当のことを話すことができない。

なにか、おかしなジレンマにとらわれているのかもしれない、しかし、わたしやユーノが何を言ったところでどうしようもないのかもしれません。

人間と言うものは、言葉と言う便利なものを持っていながら、他者との関係に苦慮することが多々あるのです。

言語を理解することができる猫であるわたしは、ごく最近まで、それが不思議でなりませんでした。

しかし、わたしは言語を他者へ伝える手段を持って、初めて、その言語をもって他者に伝えるということが難しいと理解したのでした。

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