前回の続きからです。
では、どうぞ
「ここが更衣室です。あ、今から制服持ってきますね」
「わーい、制服着れるんだね♪」
チノちゃんに連れて来られて、早速ラビットハウスの更衣室にやって来た。チノちゃんが制服を持ってきてくれるみたい。可愛いのだといいなぁ。
(あれ……この部屋…、誰もいないはずなのに誰かに見られているような……)
しかし突然、ゾクッと視線を感じる気がした。その視線を辿ると、ある場所に目がいった。
(…ここからかな?何だかここだけ気配を感じるし)
ひとまず確認するために、私はその場所に向かって歩き出した。そしてその場所への扉に手を掛けた。
「ロッカーから感じる!まさか、ドロボウ!?」
勢いよく視線の元——–ロッカーの戸を開くとそこには、
「………っ!?」
下着姿のツインテールの女の子がいた。
「下着姿の……ドロボーさん?」
(コイツ……完全に気配を殺してたつもりなのに…)
私は驚き、ツインテールの少女もまた驚いていた。
「お前は誰だ?」ジャキッ
「!?」
すると突然、この女の子が銃を取り出した。その銃を見て私は慌てて自己紹介を始めた。だってまだ撃たれたくないもん!
「わわ、私は今日からここにお世話になる事になったココアです!」
「そんなの聞いてないぞ。怪しいやつめ」
だがそんな言葉も虚しく、彼女は私に銃を突き付けてきた。
しかし私はふと思った。
(今のこの状況、怪しいのはどっちだろう…)
しかしそんな私を、神はまだ見捨ててはなかったようだった。私の後ろの扉が、ガチャ、と開いた。
「何かあったんですか?」
「あ〜、やっぱこうなってたんだ」
「あ!チノちゃん!ヒロ君!強盗が!」
私は救世主のように現れたチノちゃんとヒロ君に助けを求めた。
「ち、違う!私は強盗じゃない!それに、知らない気配がして隠れるのは普通だろ!?」
「じゃあその銃は何!?」
しかし彼女も必死に否定する。しかし銃を突き付けられたこちらからしたら堪ったものじゃない。死ぬかと思ったもん!
「こらこらリゼ。普通じゃないよ」
「な!?」
「ヒロ君!」
ヒロ君がフォローに入ってくれた。とても助かる。しかしそんな風に思ってた時期が、私にもありました。
「リゼ、隠れてばかりではいずれ殺られるよ?だから入ってきた瞬間にCQCで無力化しつつ、状況を聞き出せばいいんだ。そちらの方が有効だろう?」
「し、しかしヒロ。それは単独の相手限定でないと…」
「いいや、リゼならその程度の気配探知、造作もないはずだろう?」
「そ、そうか?そう言われると嬉しいな…」
フォローするどころか、逆にアドバイスしていた。何だかすごく裏切られた気分。しかもこの人も満更ではなさそうだったし。
「というかヒロ!お前は何でナチュラルに更衣室に入って来てるんだ!?」
「あ、ゴメン!リゼがやらかすんじゃないかと思って来たんだ!」
「謝るのは後でいいから早く出てってくれ!」
「ゴメンリゼ!」
思いっきり謝りながら、ヒロ君は部屋を出てった。というかヒロ君って、ああいう感じなんだね。知らなかった。
「全く、アイツと来たら…」
「まあ、今回はどっちもどっちですよ。リゼ姉さん」
恥ずかしがる「リゼ」と呼ばれたこの子を、チノちゃんが嗜める。
まぁそれは兎も角、聞きそびれた事を聞かなきゃ。
「あ、あとリゼちゃん、だっけ?」
「ん?何だ」
「その銃…結局何?」
そう尋ねると、「ああその事か」と呟いてこちらに向き直ってくれた。説明してくれるらしい。
「私は父が軍人で、幼い頃から護身術というか、色々仕込まれてるだけで……普通の女子高生だから信じろ!」
「説得力無いよ!?」
銃を持った下着姿の女の子を普通の女子高生だと言われてもイマイチ説得力が無い。私でもわかる。
◇◆◇◆
「それでは紹介します、ココアさん。彼女はここのバイトのリゼさんです」
(ホントにバイトさんだった……)
取り敢えずリゼちゃんが着替え終わるのを待ち、そこから話を再開した。
「リゼ姉さん、先輩としてココアさんに色々と教えてあげてください」
「きょ、教官という事だな!?」
いきなりリゼちゃんが大きな声を上げた。何で?まあいっか。
「嬉しそうですね」
「この顔のどこがそう見える!」
「全部ですね」
「よろしくねリゼちゃん♪」
そう言うと少し真剣な表情でこちらを指差してきた。
「上司に口を利くときは言葉の最後に『サー』を付けろ!」
「落ち着いてサー!」
ちょっぴり大変そうかな?
◆◇◆◇
「やってしまったな……あとでリゼに何て謝ろうか……」
リゼに更衣室から追い出されて、一人更衣室の外で三人を待ちながら、リゼに何て謝るかを考えていたら、更衣室のドアが開いた。どうやら話は済んだらしい。するとココアさんがこっちに歩いてきた。
「えへへ〜。ヒロ君、どうかな?」
「うん、似合ってるよ」
「やった〜!」
取り敢えず褒めると、喜んでくれたようだ。しかしさっきからリゼの視線が痛い。チノはそうでも無いのに。
「全く…お前というやつは……」
「あはは……ご、ゴメンね?次からはあんな事が無いように気を付けるからさ……」
「ふん……今回だけだぞ?」
「ありがとう、リゼ」
「………っ、馬鹿っ」
取り敢えず謝ると、どうやら許してくれたらしい。許してもらったので礼を言うと、何故か顔を赤くしながらそっぽ向かれてしまった。
「ココアさん、リゼ姉さん、ヒロ兄さん。早速、あの荷物をキッチンまで運んでください」
「分かったチノ」
「ああ、すぐ行く」
「お〜、お仕事お仕事!」
チノが指差した先には、コーヒー豆の袋が入ったダンボールが置いてあった。早速仕事を貰えて、ココアさんは嬉しいようだ。
「お、重い…」
「情けないな、この程度で」
「だってこれ…
「………」ひょいっ
ココアさんが荷物を抱えながらそんな事を言う。あ〜あ、ココアさん。そのセリフはリゼにとっては地雷のような物だよ。
「ねぇリゼちゃん」
「えっ、あぁ、た、確かに重いな…」
ホラ、リゼが必死に気にしないようにしてたのにココアさんが振るから荷物落としちゃったじゃないか。
しょうがない。フォローしておくとしよう。
「リゼ」
「な、何だヒロ」
「リゼは普通の女の子だよ。ただ人よりちょっと強いだけで」
「……フォローしようとしてるのは分かるが、あんまりフォローになってない気がする…」
ああいう時のリゼを宥める最適の言葉を選んだつもりだったが、残念ながら効果は薄いようだ。精進せねば。
「メニュー覚えとけよ」
「コーヒーの種類が多くて難しいね〜」
「コーヒーを扱う喫茶店なら普通だよ」
ひとまず荷物を運び終えた僕達は、ホールで客を待ちながらココアさんの指導に入っていた。因みに僕もココアさんの指導係、もとい、リゼ曰く「教官」だそうだ。
まだまだ未熟な僕だが、役に立つなら教官でも何でもしよう。———「何でも」と言っても限度はあるが。
「私は一目で覚えたぞ。訓練してるからな」
「僕は見るまでもなく憶えてるけどね」
「二人ともすごいっ!」
僕たちがメニューをあっさりと憶えたことに驚いているが、甘い甘い。チノはこんなものではない!
「チノなんて香りだけでコーヒーの銘柄当てられるし」
「私より大人っぽい!?」
「僕もある程度ならいけるよ。チノには勝てないけどね」
「ヒロ君も!?」
「伊達にマスターの孫ではないんだよ?ココアさん」
自分より大人な感じのオーラを漂わせた僕らに対して「ガーン!」と効果音が出そうな表情になるココアさん。しょうがない、少しだけその悔しさを晴らしてあげよう。
「まあ、チノは砂糖とミルクが必須だけどね?」
「ヒロ兄さん!?」
「あっ、なんか今日一番安心した!」
チノが秘密を暴露されたから睨んでくる。だけどチノ、事実は事実だ。諦めて受け入れなさい。
そして受け入れたのか、それとも現実から目を逸らしたいのか、チノが徐に宿題を始めた。僕?とっくに終わってるよ?
「チノちゃん何してるの?」
「宿題です。空いた時間にこっそりやってます」
アレでこっそりだったのか……僕の
とか何とか考えてたら、ココアさんがチノの宿題を覗き込んだ。すると、
「あ、その答えは128で、その隣は367だよー」
「「…えっ…?」」
一瞬、僕もリゼもココアさんが言ってる事の意味が分からなかった。僕は直様リゼと目を合わせて示し合わせ、作戦を開始する。作戦名は「オペレーション・ココア」だ。安直過ぎ?これで良いのさ。
「…例えば、430円のブレンドコーヒーを29杯頼んだらいくらになる?」
「12470円だよ〜」
リゼの問いにあっさり答えるココアさん。かくなる上は……。
「じゃあさ、税込みで364円のインスタントコーヒーを169個大人買いしたとして、いくらになる?」
「61516円だね」
なん…だと…?態々計算に時間が掛かるような数字を出したのに、1秒前後で答えてくる…だと…?
この頭の回転の良さ…戦場で長生き出来そうだ…。
「私も何か特技があったらな〜」
(コイツ…バカそうに見えて意外な特技を…)
「…んな…」
しかも自覚無しとは……いつか凄い力に目覚めそうだ…どんな力かは知らないけど。
◇◆◇◆
ガチャ、カランカラン
「いらっしゃいませー♪」
「おや、新人さん?」
「はい。今日から働かせて頂くココアっていいます」
「ふーん、ちゃんと接客出来てるじゃないか」
「心配ないみたいですね」
「そうだね。今のところはそれで良いと思う」
ココアさんの意外な特技が判明して少ししてから、お客さんが来て、それをココアさんが出迎える。チノじゃないけど、心配無さそうかな?
と、そんな風に思ってるとココアさんがこっちにやって来た。
「やったー!私ちゃんと注文取れたよー!」
「あー」
「えらいえらいです」
「偉いね、その調子で頑張って」
前言撤回。やはり心配だ。上手くいくとすぐに調子に乗る奴は、戦場でも先に殺られてしまう……。教官としてどうにかせねば。とは言っても仕事中なので、終わってからでも遅くはないだろう。どうせ暫く一緒に暮らすのだし。
「この店の名前、ラビットハウスでしょ?ウサ耳付けないの?」
「ウサ耳なんて付けたら違う店になってしまいます」
また暇になった頃に、ココアさんがそんな事を言い出す。気持ちは分かるけど爺ちゃんも父さんも
「リゼちゃんとかウサ耳似合いそうだよねー」
「そんなもん付けるかバカ!」
「ココアさん、良い目をしてるね!」
「ヒロ!お前まで!?」
さっきは色々不安に思ったが、前言撤回。やはりココアさんは最高の新人さんだ。リゼにウサ耳が似合う事は誰よりも僕が分かってるからね!———付けてくれたことないけど。
「全く……揃いも揃って……」
「あはは、ゴメンね?」
「……………」
「あ、あれ?リゼー?」
突然リゼが黙り込んだ。怒らせたかな?顔の前で手を振ってみるが、反応が無い。気絶してるのか?しかしそんな思考は一瞬で吹き飛んだ。
「露出度高すぎだろ!」
「ウサ耳の話しかしてないのに!?」
「うわぁっ!?」
「あ!ヒロ!大丈夫か!?」
突然そんな事を叫ばれたから、驚いて後ろに転んでしまった。幸い怪我は無い。
しかしリゼが突然叫ぶなんて、大方バニーガール姿の自分でも想像したのだろう。リゼは妄想癖みたいなのあるし。
とか思ってたら睨まれた。僕は顔によく出るのだろうか?それとも幼馴染の勘?出来れば後者の方が良い。前者の場合、軍人としては致命的だし。軍人にはならないけどね。
「じゃあ何でラビットハウスなのでありますか!」
ココアさんが軍人口調で尋ねてくる。何でって言われてもねぇ…、ティッピーがマスコットだからなのと、初代マスターの爺ちゃんがウサギ大好きだから、ぐらいしか思い浮かばない。まあ多分ティッピーが原因だろう。
「そりゃ、爺さ…ティッピーがこの店のマスコットだからだろう?」
「うーん、でもティッピーうさぎっぽくないよ。もふもふだし」
「じゃあどんな店名が良いんだい?」
ティッピーごとチノを撫でるココアさんに尋ねると、
「ズバリ、『もふもふ喫茶』!!」
「そりゃ、そのまんますぎるだろう」
ビシッ、と効果音が入りそうな感じで言い放った。もふもふ喫茶か……
「もふもふ喫茶……」
「悪く…ないね……」
「気に入った!?しかもヒロまで!?」
悪くないと思うよ、割と本気で。いっそ改名しようか。したら爺ちゃんの只でさえ短いであろう寿命が、怒りによるストレスでマッハになりかねないから止めておこうか。
「よしココア、ラテアートやってみるか?」
「てらあーと?」
「『てら』じゃなくて『ラテ』だよ。間違えちゃダメだよ?」
リゼがラテアートをココアさんにやらせてみるようだ。まあ、実力を試すのにはちょうど良いだろう。早めに慣れておいた方が良さそうだし。
「カフェラテにミルクの泡で絵を描くんだよ」
「ウチではサービスでやってるからね、慣れておくと良いよ」
「あっ、絵なら任せて!」
説明すると、ココアさんは自信満々で答える。何か次に言うことの予測が早くも付いた。「次にお前は〇〇と言う!」とかやらないからね?
「これでも金賞もらったことあるんだ」
「『町内会の小学生低学年の部』とかいうのはナシな?」
「………」
黙り込んでしまった。図星らしい。そして僕の予想通りだった。まあそんなココアさんは置いといて、リゼが手本がてらに一個作り始めた。
「まぁ手本としてはこんな感じに…」
「わっー!すごい上手い!」
ココアさんがリゼの絵を褒めまくる。確かに上手いよね。そして美味い。リゼが淹れてもチノが淹れても美味いけど。
「そ、そんなに上手いか?」
「すごいよー、リゼちゃんって絵上手いんだね!ね、もう一個作って!」
天然なのか、煽てまくりながらもう一個を要求する。あ〜あ、リゼも調子に乗りやすいんだからそんな事言ったら…
「しょ、しょうがないな!特別だぞ!やり方もちゃんと覚えろよー!」
ほらー、僕でもギリギリ目で追えるスピードでラテアート作り出したよ。絶対すごい出来になっちゃってる。
そして出来たのか、カップを机の上に置いた。そのカフェラテに描かれていたのは…
「戦車…だと?」
「全く上手くないって私なんか!」
「いや…上手いってレベルじゃないよ…ていうか人間業じゃないよ…」
そう、戦車だ。しかしどんな奴だったかを思い出せない。友人に聞いて教えて貰おう。詳しい奴いたし。
「まあ、リゼって基本的に完璧超人だし」
「ひ、ヒロ!からかうな!」
「すごいねリゼちゃん!」
とまあそんな感じだった。
「よーし、私もやってみるよ!」
「がんばれー」
まあ、そんな事もあってから、ココアさんがラテアートを描き始めた。リゼは棒読みの声援を送る。そうでもないように装ってるが、どう聞いても棒読みだった。
しかしココアさんの動きが止まってしまった。多分上手くいかなくて止まってしまったのだろう。僕もそんな事は良くあったし。
「う…なんか難しい…イメージと違う」
「どれ見せてみ…」
リゼと一緒にココアさんのラテアートを覗き込むとそこには、
「ほう…」
(か、可愛い!)
若干パーツのおかしなウサギがいた。恐らくリゼはハートを撃たれてる。
「……………」プルプル
(笑われてる!?)
リゼがプルプル震えてるのを見るなりココアさんがショックを受けているように見えたが、あれは違う。リゼの琴線に触れたからなのだろう、恐らく、可愛すぎて悶えそうなのを必死に抑え込んでいる。
「もー!チノちゃんもヒロ君も描いてみて!」
「私もですか?」
「え、僕も?」
何故か僕もチノも巻き込まれてしまった。まあ断っても意味はなさそうだ。やるとしよう。
(あれ?ヒロは兎も角、チノの描くラテアートって…)
「どんなのができるか楽しみだね」
チノがラテアートを描くって聞いてからリゼの言いたい事は何となく分かるけど気にしてはダメだ。まずは見守るべきだ。
そうして僕らはラテアートを描き終え、お披露目となった。まずは僕からのようだ。
「ふむ、ヒロのは…」
「うん、普通だね」
「普通なのが一番じゃないかな?」
取り敢えず、ウサギを描いてみた。出来栄えはというと、———普通。この一言に尽きる。
次はチノのようだ。どんな反応をするだろうか。
「はい、これが私のラテアートです」
「こ…これは…」
うん。やっぱり予想通りだった。チノの描くラテアートは、一言で言えば、美術の教科書に出てくる偉人が描くような絵なのだ。恐らく、僕らとは違う芸術の感性があるのだろう。
「わーい!チノちゃんも仲間〜!」
「仲間?」
「ち、違うぞココア」
「こういう絵は僕らのと一緒にしちゃあね……」
しかし逆に芸術性ゼロのココアさんから見れば、自分と同じレベルと思っているのだろう。馬鹿と天才は紙一重と言うが、こういう事なのか?
まあそんな感じでラテアートの見せ合いっこが済んだ頃、僕はふと時計を見た。
「あ、もうこんな時間か」
「ヒロ兄さん、時間ですか?」
「うん、あと頼むよ。リゼ、チノ」
「私は!?」
「ココアにはまだ頼めそうに無いからじゃないか?」
「ガーン!」
今日だけでもう何度も聞いたであろう効果音を響かせるココアさんを流しながら、僕は更衣室———もとい自室へと戻る。
何故僕だけ早く上がるのかというと、僕は休日にはバータイムの手伝いをするからだ。無理を言って手伝わせて貰ってるので、遅刻は勿論、失敗も出来ない。僕の1日はまだまだ終わらない。
「あ、丁度良いところにいたな、ヒロ」
「あ、義父さん?」
と、思っていたら、義父のタカヒロさんが話し掛けてきた。何だろう?
◆◇◆◇
「じゃあ今日はもう閉めましょう」
「お疲れ様ー♪」
「お疲れー」
ヒロ君が先に上がってから、そんなに経ってないけど、今日のお仕事は終わった。まだまだ初日、頑張らなきゃ!
「ココアは今日からこの家で寝泊まりするんだな」
「うん、そうだよー」
更衣室。着替えてる最中にリゼちゃんがそんな事を聞いてきた。初めての家なので、とっても楽しみ!
「チノちゃん、今日の夕食一緒に作ろうね」
「良いですけど、ちゃんと手伝って下さいよ?」
「もっちろん!」
チノちゃんからOKをもらえた!やった!一緒に夕食が作れるし、一緒に食べられるんだ!
(え…なにそれ…楽しそう)
何故かリゼちゃんが羨ましそうな顔をしてるような気がしたけど、気のせいかな?
◇◆◇◆
「はあ…良いなあココアは」
着替えが済み、家路に着きながら私はそんな事を呟く。
(きっと…楽しいんだろうな…)
小さい頃は、ヒロの家に泊まったりする事はあったが、最近はそんな事が全然ない。昔の様に楽しくやりたいが、面と向かって言うのは少し恥ずかしい。
(もっと…私が素直になれたらなぁ…)
「やあリゼ、帰り道かい?」
「うわあぁっ!?ひ、ヒロ!?お前何でこんなところに!?」
まるで狙ったかの様なタイミングで、ヒロが目の前に現れた。普段ならコイツはバータイムの準備をしてるはずなのだが…
「ああ今日は、っていうか今日からバータイムの手伝いはしなくて良いって言われちゃってね。何でも、ココアさんの指導に力を入れてくれって事らしいんだ」
「そ、そうなのか。それで、何の用だ?」
どうやら、バータイムをクビになったって事の様だ。因みにそう思った瞬間、何故かジト目で睨まれた気がした。顔に出てたか?
まあそれは置いといて、ヒロが手に持っているビニール袋に視線を落とすと、それに気付いたのか、袋を掲げながら教えてくれた。
「ああコレ?夕食のデザートの材料を買いにね。ココアさんへの歓迎の意を込めて作ろうかと思って。今はその帰り。そしたらリゼを見かけたから声を掛けたんだ」
「そ、そうだったのか。お疲れ様だな。それじゃ、また明日な」
そう言って背を向けると、「あ、ちょっと待って」と肩を止められた。驚いて振り向くと、既にヒロが私の隣に来ていた。いつも通りのニコニコ笑顔で。
「暗くなってきたし、送ってくよ。夜道に女の子を一人にさせたくはないからね」
「そ、そうか。ありがとな。頼むよ」
「お任せあれ、お嬢様?」
「そういうのは良いよ」
互いに苦笑しながら私の家の帰り道を歩く。ああどうしよう。話題が出てこない!コイツと二人きりになるなんて久し振りだから話のネタが浮かばない!そんな風に悶えていると、ヒロが口を開いた。
「ねぇリゼ」
「な、何だ?」
「ココアさん、どう思う?」
話題は、今日から
「え、どうって…騒がしい奴だと思うけど…」
「其処は『賑やかな奴』って言ってあげなよ」
「それでもあんまり否定してないよな、お前も」
「あはは、バレた?」
「バレバレだな。訓練を積んでおけよ?」
「了解であります。軍曹殿」
「軍曹はやめてくれ」
しかしまあ、一度話題が出ると普通に会話が続くもんだな。安心した。
と、思っていると、私の家が見えてきた。正確には、家の門が見えてきた。私の家は大きめなので遠くからでも見えるし。
「リゼ」
「ん、何だ?」
「楽しくなりそうだね」
ヒロは軽い笑顔でそう言った。それを見て少しドキッとするが、バレないように堪える。ふー、はー、ふー、はー、よし落ち着いた。
「ああ、そうだな」
「うん。それじゃあね。また明日」
「ああ、また明日な」
もう直ぐ門なので、ヒロも安全だと思ったのか、私に別れを告げる。といっても寂しくはない。生きている限り何時でも会えるのだから。
そんな爽やかな気持ちのまま門を潜ろうとすると、門番の一人が話しかけてきた。
「お嬢、お疲れ様でした」
「ああ、そっちもご苦労さん」
「それはどうも。ところでお嬢……」
「ん?何だ?」
突然、門番の一人が咳払いをしながら尋ねてきた。何だろうか?
「ヒロ君なら何時でもウチに連れ込んで良いそうですよ?なんなら、今から連れ…ギャア!?」
「お、おお、お前はいきなり何を言い出すんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
「ぐわああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!??」
突然とんでもない事を口走ったので、絞め落として忘れさせた。それが一番だ。
◆◇◆◇
着替え終わって、チノちゃんと一緒にリビングに出ると、ダンディな男の人が居て、話しかけてきた。
「…君がココア君か、よろしく」
「こちら父です」
チノちゃんが紹介してくれた。この人がチノちゃんとヒロ君のお父さんか……。
「お世話になります」
「…チノやヒロと仲良くしてやってくれ」
そう言って店の方へと歩いて行った。ティッピーを自分の頭に乗せながら。
「この喫茶店は夜になるとバーになるんです。父はそのマスターです。ヒロ兄さんも其処の手伝いをしています」
「へぇー、そうなんだ」
この喫茶店にはバータイムもあるんだ。知らなかった。もしかしてヒロ君が先に上がったのはこういう事だったのかな。そして私は夜のバーと聞いて引っかかる事、というか気になる事があった。
「何か、裏世界の情報提供してそうでかっこいいね」
「何の話です?」
チノちゃんに突っ込まれた。流石にそれは無いかな?
「流石に裏の情報は教えられないかな?」
「え、ヒロ兄さん?何でここに?」
後ろから声が聞こえたので振り向くと、そこにはヒロ君が居た。確かバータイムでいない筈だったのでは……
「ああそれなんだけどね?率直に言うとバータイムクビになった」
「は?どういう事ですか?」
チノちゃんにそう聞かれると、ヒロ君がこっちを見た。何で?
「ココアさんの指導に力を入れてくれ、だってさ」
「なるほど、ココアさんのせいですか」
「私のせい!?」
「冗談だよ。でも、バータイムをクビになったのはホントだよ?」
「ごめんなさい!」
取り敢えず謝ろう。今は謝るべきだと、何となく思った。
◇◆◇◆
「「ご馳走様でした」」
「お粗末さまでした」
今夜の夕飯はシチューだった。うまかった。それに尽きる。途中、うっかりチノがココアさんの事をお姉ちゃん呼ばわりしたせいで、少し準備に手間取った事以外は順調だった。
「それでは、お風呂に入ってきます」
「うん、いってらっしゃい。上がったら教えてね?」
「分かりました」
そう言ってチノが脱衣所へと消えてった。何故かココアさんが寂しそうだ。しょうがない。チノには悪いが、我慢してもらおう。
「行ってくると良いよ、チノと一緒にお風呂」
「え!?良いの!?」
「うん、僕が保証する」
「わーい!チノちゃんと一緒にココア風呂だー!」
そう叫びながら勢いよく脱衣所へと向かってったココアさん。こんな時間なのに元気だな〜。
そんな事を思いながら、僕はある場所に向かっていった。どうせ時間はあるしね。
「こんばんは」
ある場所とは、ラビットハウスのホールの事だ。今なら爺ちゃんと義父さんがいるし。
「おや、ヒロか。どうしたんだ?」
「暇だったので来ました。手伝える事とかは?」
カウンターから、義父の声が飛んできたので尋ねると、顎をさすりながら答えてくれた。
「残念ながら残ってないかな。まあ折角来たのだ。ミルクぐらいなら出そう」
「いえ、大丈夫ですよ。そんなつもりで来たわけでは無いですし。それよりも、ココアさんの事ですが、どう思います?」
ひとまず気になってた事を聞いてみた。二人の反応はそれぞれだった。
「大変になりそうじゃと思っとる」
「チノや君と仲良くなってくれるといいと思ってるよ」
「…そうですか。ありがとうございました」
答えが聞けたので、取り敢えず席を立つ。要は済んだしな。
「それじゃ、また明日の朝に」
「ああ、おやすみ」
「おやすみじゃ。ヒロ」
「おやすみ、二人とも」
一言二言最後に交わして、僕はリビングに戻った。
「さてと、デザート作らなきゃな…」
また、明日から頑張るとしよう。
初の一万字越え……長いかな?
そしてUA1,000を越えました!皆さんのお陰です!引き続き、今作をよろしくお願いします
では、次回をお楽しみに