今回から、「ご注文は義兄ですか?」の更新を二ヶ月に一回ほどにします。ご了承ください。
では、どうぞ
「何?パンを作りたいのかい、ココアさん?」
「うん!だからオーブンって無い?」
仕事の準備をしていると、ココアさんがそんな事を言い出した。
なんでも、ココアさんの実家はパン屋らしく、今日の帰りに友達と帰りにパン屋を見かけ、その時にパンの創作意欲が湧いたんだとか。
「オーブンですか?確か……」
「爺ちゃんが調子に乗って買った大きいのがあったね。それもパン屋で使うような本格的なのが」
「ほんと!?」
オーブンの存在を確認すると、ココアさんの顔がぱあぁっ、と晴れた。
「そうだ!今度みんなで看板メニュー開発しない?焼きたてパン美味しいよ!」
「話ばっかしないで仕事しろよー」
リゼがコーヒーを淹れながら、ジト目でこちらを見て窘めてくる。そんなこと言って、本当はリゼ寂しいだけなんじゃ……とか思ってたら睨まれた。多分勘でバレてる。
くきゅるるる………
そんな時だった。リゼのお腹から、如何にもお腹が空いた事を表す音が店の中に響いたのは。
その瞬間、僕とチノはリゼに暖かい目を向け、リゼは顔を真っ赤にした。可愛いよリゼ可愛い。
「焼き立てってすっごく美味しいんだよ!」
「そそそ、そんな事分かってる!」
リゼが顔を真っ赤にして耳を塞いでそっぽ向いてしまった。しかし僕もお腹が空いてしまった。
「オヤツ、作ってくるよ」
「お願いしますヒロ兄さん」
「私もお願いヒロ君!」
「お任せあれ」
そう返して厨房に行こうとすると、袖を誰かに掴まれた。振り返ると、リゼが顔を赤くしながら僕の袖を掴んでいた。しかも恥ずかしいのか、少し目を逸らしている。
あぁ、なんだか悪戯心が芽生えてくる……。
「リゼ、どうしたの?」
ニコッと笑顔で、分かってるくせに白々しく問いただしてみる。だって、そうすればきっと可愛いリゼが見れるはずだし。
リゼは顔を更に赤くしながら、それでいて袖を掴む力をさらに強めて口を開いた。
「あ、あの……な。わ、私にも……」
「うんうん。私にも?」
「……っ!?……わ、私にも作ってくれ!」
顔を真っ赤にして叫んで僕の袖を離して逃げてしまった。それでもカウンターに逃げただけだったが。……意地悪が過ぎたかな?そのまま体育座りで蹲ってしまった。
「うん、分かったよリゼ。美味しいのを作ってくるね」
「……うん」
取り敢えず、チノやココアさんも待ってるので厨房に行く事にした。確認だけすると、リゼはこちらをチラッと見て小さく返事だけした。……リゼのは二人よりもより美味しく作ってあげよう。そう思いながら僕はホールを後にするのだった。
◇◆◇◆
はぁ……お兄ちゃんはまたリゼお姉ちゃんを弄って楽しんでますね……。もう慣れましたが、いい加減砂糖を吐きたくなります。
「ねえねえチノちゃん、あの二人って、いつもあんななの?」
「いつもと言うほどではありませんが……まあ、結構頻繁ですね」
「へ〜。ヒロ君はリゼちゃんが大好きなのかな?」
「どうしてそうなるんです?」
決まってるじゃん、とでも言いたげな顔をしてココアさんは私に向かって、左手を腰に当てて右手をこちらにビシッ、と向けて言い放った。
「アレだよ!好きな子ほどいじめたくなるアレ!」
「小学生じゃあるまいし……あ」
けど実際にお兄ちゃんはリゼお姉ちゃんが大好きだったりするので、否定しきれない。……二人が高校を卒業したらさっさと結婚して、二人だけで別の場所に暮らしてもらえないでしょうか……結婚した後まで家に居られたら毎日砂糖を吐くハメになりそうです。あ、けどその後も
「それよりも!おっやつ〜おっやつ〜!」
「はぁ……能天気ですね、ココアさんは」
あと、花より団子とはココアさんのためにある言葉なのだと学びました。
◆◇◆◇
そして休日。お店も学校も休みの今日に、僕達ラビットハウスの店員+αでラビットハウスの厨房に集まった。全員、私服にエプロン装備である。因みに僕の両隣にリゼとチノが並んでおり、正面には同じく私服にエプロン装備のココアさんと、その友達らしき黒い長髪の少女が立っている。前髪パッツンだ。お嬢様か何かかな?
「はい!千夜ちゃんだよー!」
「宇治松 千夜よ。今日はよろしくね」
宇治松さんか。結構綺麗な人だな。なんだか和服が似合いそう。勿論リゼにも似合うと思うが。
「よろしくです。私はチノです」
「よろしく頼む。私はリゼだ」
「よろしく宇治松さん。僕は
「よろしくねヒロ君。私も千夜でいいわ」
宇治松さん改め、千夜さんと僕らの挨拶が済むと、千夜さんはチノの頭の上にいる
「あらそちらのワンちゃん……」
「ワンちゃんじゃなくティッピーです」
「ワンちゃんじゃなくてウサ「この子はただの毛玉じゃないんだよ!」
犬と誤解しているようなのでウサギだと説明しようとしたら、ココアさんの声に阻まれた。オイ待て、誤解したままになるじゃないか。
「まあ、毛玉ちゃん?」
「だからウサ「もふもふ具合が格別なの!」
またしても僕の言葉を遮って、ココアさんはティッピーを撫でる。よく見たら爺ちゃんが若干キレてる。そして僕も少しキレてる。いい加減喋らせてくれ。
「癒しのアイドル、もふもふちゃんね」
「ティッピーです」
「だからウサギだってば!!」
「しかもアンゴラウサギって品種だ」
僕とリゼの力説により、ようやくティッピーがウサギだと理解してもらえた。……人にティッピーをウサギと説明するのにここまで疲れたことはない。
その後、なんだかんだでパン作りが再開された。
「それにしても、ココアがパン作れるって意外だったな」
「えへへー」
(褒められてるわけじゃないと思います……)
ココアさんが煽てられているのか貶されているのか分からない評価を受けた。僕はどう思うかって?ノーコメントで。
「みんな、パン作りをなめちゃいけないよ!少しのミスが完成度を左右する戦いなんだよ!」
煽てられて気分が乗ったのか、ココアさんが燃えている。それを見てリゼもなんか触発されたようだ。大方、「まるで歴戦の戦士のようだ!」とか思ってるに違いない。そしてまた考えを読まれたのか、リゼに睨まれた。最近妙にリゼが鋭い。何故に?
「……まあいい。ココア!今日はお前に教官を任せた!よろしく頼む!」
「任された!」
「始まっちゃったね〜。茶番が」
「私も仲間に……!」
「「暑苦しいです」」
こうして僕達のパン作りは始まった。
◇◆◇◆
「それじゃ各自、パンに入れたい材料提出ー!」
僕らは全員、この日の為に何かパンに入れたい物を用意するよう言われていた。勿論僕も持ってきている。というか忘れてたら出席してない。
それは兎も角として、材料の見せ合いっこのようだ。様子からしてココアさんからみたいだ。
「私は新規開拓に焼きそばパンならぬ、焼うどんパンを作るよ!」
「私は自家製あずきと、梅と海苔を持ってきたわ」
「冷蔵庫にいくらと鮭と、納豆とゴマ昆布がありました」
……また個性の強い材料だこと。しかし自家製あずきか……少し気になる。なんか美味しそうだし。
「僕はチョココロネを作るからチョコクリームを……」
「私はイチゴジャムとマーマレードと……」
ここで僕とリゼは思った。普通ありえない。梅とか海苔とか、いくらとか鮭みたいなのがパンに入っているなど。
きっと彼女もこう思ってる。
((これって、パン作りだよな(だよね)?))
そんな僕達の素朴な疑問を余所に、ココアさん達は作業を始めた。
「今日はドライイーストを使うよ!」
「ドライイースト!?食べて大丈夫な物なんですか!?」
チノが矢鱈とドライイーストに驚いている。……間違いなく、可笑しな勘違いをしている。けど面白そうなので放っておく事にする。許せチノ。
「ドライイーストは酵母菌なんだよ。これを入れなきゃパンがふっくらしないよー」
「攻歩菌……!?そ、そんな危険なものを入れるくらいなら!パサパサパンで我慢します!」
「?」
「チノ、多分君が思ってるのと字が違う」
けど流石にパンの出来に関わる勘違いだったので訂正に入る。教えてあげると顔を真っ赤にしてそっぽ向かれてしまった。……悪いのは僕か?僕なのか?
そして機嫌が———直ったのか定かではないが、チノはパン生地をこね始めた。僕も始めようか。
「ふ……ん!結構力要るね、これ」
「おまけに凄く時間がかかります」
「腕が……もう動かない……」
千夜さんは限界のようだ。……というか、チノより先にバテるなんて、普段余程運動していないのだろうか。本人さえ良ければトレーニングに付き合ってあげたいものだ。
「リゼ姉さんは……平気ですよね」
「何故決めつけた?」
「この世の理だからさ」
「……どう返してやればいいんだ、コレ」
リゼがまるで「理不尽だ……」とでも言いたげな顔をしている。まあ、やり過ぎた感はある。
「ココアさんは……」
「「ッ!?」」
ココアさんはまるで鬼神の如き雰囲気を纏いながらパン生地をこねっていた。おかしい、今のココアさんはまるで歴戦の猛者のように見える。
「この時のパンがもちもちしてて、凄く可愛いんだよ!!」
「凄い愛だ!!」
ココアさんが輝いてる!今度は女神のようだ!パン屋故の愛情か……。
「千夜ちゃん大丈夫?手伝おうか?」
「ッ!いいえ、大丈夫よ!」
ココアさんが千夜さんに協力を申し出ると、千夜さんはやんわりと断った。自分で頑張りたいのだろう。
「健気ってやつだね」
「頑張るなぁ」
「頑張り過ぎないといいけど……」
「ヒロも心配性だな〜」
これは性分だからしょうがない。特に女の子相手だと顕著になってくるし。やっぱりチノとか
「ここで折れたら武士の恥ぜよ!息絶えるわけにはいかんきん!」
「「「ッ!?」」」
「健気?」
健気というよりは……意地?ともかく、千夜さんはよく分からない人だ。
「チノちゃんはどんな形にするの?」
「お爺ちゃんです。小さな頃から遊んでもらっていたので……」
「お爺ちゃん子だったのね」
「コーヒーを淹れる姿はとても尊敬していました」
チノは爺ちゃんパンを作るのか。人の顔を作るとはまた難しいパンを。そして爺ちゃんは煽てられて顔を赤くしている。嬉しいのだろう。
「ヒロ君は?」
「僕は星型」
「シルバースターを意識してか?」
「何故バレたし」
(((シルバースター?)))
シルバースターとは、某国の軍隊の勲章の中でもかなりランクの高いもので、それを貰ったものは勇者と称されるような代物だ。勿論リゼにしか話は通じない。あとはレンぐらいなものだ。
「みんなー、そろそろオーブン入れるよー」
「お、ようやくか」
「……では、これからお爺ちゃんを焼きます」
「ッ!?」
哀れティッピー、いや、哀れ爺ちゃん。完成したら美味しくいただくよ。
「リゼちゃんはうさぎパン!?」
「焼けたらチョコで顔を描いて完成だな」
「え、ナイフパンとかマグナムパンじゃないの!?」
「そんな物騒なパン誰が作るか!」
シルバースターみたいな趣味全開のパンは僕だけだって!?酷いよリゼ!僕を独りにするなんて!
まあそんな僕の嘆きを置いといて、数分後にリゼのうさぎパンは焼きあがった。
「無事に焼けたし、ここからが本番だね」
「絶対に揺らしたりするなよ。特にヒロ!」
「なんで僕!?」
失礼な。そんな事僕はしません。少なくともリゼが悲しまない程度の事しかしません!
「まあ良いや。兎も角、書こっか?」
「そうだな。……あっ!?まだ熱が冷めてなかった!」
しかしパンがまだ熱かったのか、チョコが溶けて垂れてしまった。少し失敗してしまったようだ。
「
「歌舞伎うさぎね!」
「えっ」
「……」
しかし僕達と違い、千夜さんとココアさんは何か感心している。僕らとは感性が違うのだろう。
「チノちゃん、さっきからオーブンに張り付きっぱなしだねー」
「ほとんど使った事無いしね。物珍しいのもあるし、気になるのかもね」
チノは初めての物に結構興味津々なところがある。オーブンも、たまに母さん達が使ってたぐらいだ。チノは見た事ぐらいしかない。
「パン見ててそんなに楽しいか?」
「はい。どんどん大きくなってきてます。……あっ、お爺ちゃんがココアさんと千夜さんに抜かされました!」
「お爺ちゃんも頑張れー!」
爺ちゃん頑張れ!小娘なんかに負けるな!
「リゼ姉さんとヒロ兄さん、出遅れてます。もっと頑張ってください」
「「私(僕)に言うなよ(言わないでよ)」」
そして何故か僕らが叱られる。ホント、僕らに言ってどうするのさ。
とかやってたら、ココアさんがいない。どこに行ったのだろう?
「千夜ちゃん!おもてなしのラテアートだよ!」
「まあ!素敵!」
「おや、ホールに行ってたのか」
いないと思ったら、ホールでラテアートを作っていたようだ。……ちょうど良い、その腕前を見せてもらおう。
「千夜さん、少し見せて」
「ええ、良いわよ」
「どれどれ……ふむ、いつもよりは綺麗だけど、まだまだだね」
少し辛辣だとは思うが、これもココアさんのため。我慢して欲しい。どうせならリゼを目指してもらいたいし。無理だと思うけど。
「そんな〜。今日は会心の出来なのに〜!」
「厳しいのね、ヒロ君は」
「教官として当然だね」
しかしリゼは僕の比でない時があるので、これでも相対的に見れば柔らかい方だ。
「けど美味しそうよ。だから味わっていただくわね」
「うん!召し上がれ、千夜ちゃん!」
そしてカップを口に付けようとしたその時———
「あっ!傑作が……あ、いや大丈夫だよ!飲んで飲んで!」
思わずココアさんが声を上げたせいで、千夜さんは飲みにくそうにしている。……ココアさん、お客さんにもそんな事してないよね?
それから少しして、ちゃんと千夜さんはラテアートを飲み干した。ココアさんは少しガッカリしていたが、我慢して貰おう。それとほぼ同時に、オーブンから音が鳴った。
「あ、パン焼けたよー!早速食べよー」
「そうだね。それじゃみんな」
『いただきます!』
取り敢えず、僕は自作のシルバースターパンに手を伸ばした。中に入れたのはチョコクリーム。因みにチョココロネも作ってある。僕の好物なのだ。
「!美味しい!」
「いけますね」
「うん、我ながら良い出来だ」
「流石焼き立てだな」
これなら看板メニューにしても恥ずかしくはない出来だ。パン屋に住んでたココアさんがいたからこその完成度だろう。
「これなら看板メニューに出来るよ!」
「そうだね。でもどれにするの?」
「焼きうどんパン!」
「梅干しパン!」
「いくらパンを!」
「どれも食欲そそらないぞ」
「え?焼きうどんパンは良くない?」
皆それぞれの個性が強く出たパンだ。……流石に梅干しパンはないけど。
と思っていると、ふと視界の端にまだ何かを焼いているオーブンが目に付いた。
「あれ?まだオーブン動いてる?」
「あれはなんだ?」
「あっ。あれはねー……っと、出来たみたい」
そう言ってココアさんはオーブンに近付き、オーブンの中からトレーを取り出した。
「じゃーん!ティッピーパン作ってみたんだ!」
「「!!」」
「看板メニューはこれで決定だな」
まさかこんな隠し玉を持っていたとは……しかもかなりそっくりだ。
「食べてみましょう」
「もちもちしてる……」
「えへへー、美味しく出来てると良いんだけど」
早速一つ頬張ると、口の中に甘味が広がった。これは……
「イチゴジャム入りか」
「甘くて美味しいです」
「なんか……赤いからエグいな……」
確かに血のように見えてエグいが、そこはジャムの種類を変えていけば問題ないだろう。
こうして、今日の看板メニュー作りは終わった。
なんか終わり方が強引かな……けど他に思いつかなかった。
前書きに書いた通り、二ヶ月に一回の投稿になりそうです。たまに早く出すかもですが。
では、次回をお楽しみに