《不定期投稿》堕天の狗神 -SLASHDØG-編①
帰宅を始めるサラリーマン達が疎らに現れてきた夜の7時になろうかと言う時刻、街頭に展示されたテレビが特別番組を写して出していた。 そこで大々的に報道されているのは少しばかり過去に起こった怪事件だった。
その事件とはーーー
『ヘヴンリィ・オブ・アロハ号、謎の海難事故』
ハワイ島へと向かうはずだった豪華客船、 ヘヴンリィ・オブ・アロハ号は海難事故に合い沈没した。 そして、 乗組員や乗客達の大半は死亡した。 しかし、 修学旅行の一環として搭乗していた陵空高校の高校生二百三十三名だけが忽然と姿を消したと言う。 その何とも言えない奇妙さにより世間を騒がすもっとも熱いニュースである。
そんな今を騒がす事件の関係者の一人である、俺こと幾瀬鳶雄は虚ろな目でただ歩いていた。
そう、俺は元陵空高校の生徒で行方不明となった二百三十三名と同級生だ。 俺は修学旅行の前日に体調を崩してキャンセルし、 事故を間逃れた数少ない一人だった。 だが、 助かった代償は大きく俺は多くの物を失った。 同じ教室で授業を受けたクラスメイト達、 仲の良い友人、 そして……誰よりも大切な幼なじみである東城紗枝。
そして、 被害を逃れた俺達はマスコミ対策や同じ学校の生徒達の配慮として全く別の学校に半ば強引に転校させられたのだった。
俺はクラスメイトや友人達、 そして幼なじみを同時に無くした虚しさを紛らわす為にゲーセンに入った後、 夏とはいえ辺りが暗くなり始めた街を意味もなく歩いていた。
そして、 横断歩道で立ち止まった際に向かい側に居た集団とその中に居た一人の少女に目にして目を見開いてしまった。
そこに居たのは確かに自身の幼なじみである紗枝や友人である佐々木弘太を含む、見覚えがある面々が居たのだから。
同級生達と紗枝は横断歩道が青になるまでに歩き始める。 俺は信号が青になると同時にその後を追いかけたが途中で見失ってしった。辺りを見回すと工事中のマンションの工事現場の入り口が不自然に開いていた。 鳶雄は意を決して工事現場に入り込み、ケータイのライトを頼りに敷地内を進んでいく。
そして、 ある角を曲がると人影が立っていた。俺にはその後ろ姿に見覚えがあった。それは友人である佐々木のものだった。
「………佐々木?」
恐る恐る声を掛けるが一切の反応がなかった。 それどころか佐々木と思わしき少年の前方に明らかに人間ではない気配感じた。
「お前、……佐々木だろ?」
再びそう問いかけると佐々木は俺の方に振り向く。すると、予想していた通りその少年は佐々木だった。しかし、 佐々木が振り向いた為にライトが奥に届きそこに居た気配の持ち主を照らした。そこに照らし出されたのは巨大なトカゲのような生き物が何かを咀嚼している光景だった。
そして、俺の足元にトカゲのような生き物から何かが転がってきた。 それを確認するとそれは胴体から切り離された犬の頭部だった。
「ひっ」
俺は思わず小さく悲鳴をあげながら、身体を硬直させてしまう。 佐々木はそんな俺を無表情のまま見つめて、首をかしげていた。
「お前……何してるんだよ………」
俺の口から出たのはそれだけだった。それは恐怖で身体が動かないためだ。
「……つけ……た………」
佐々木はそう呟くと人間が浮かべる様な物とは思えない笑みを浮かべて口を開く。
「やれ」
それだけを口にした。次の瞬間、ヒュッと言う空気を切り裂く音が聞こえたと思うと背後の壁からバチっと言う何かが弾ける様な音がした。
俺が振り返ると壁に立て掛けられていた建材が切断されていた。
更にヒュッと音がしたと思うといきなり頬が熱くなる感覚と共に何かが頬をつたる感触がした。
視線を前方に戻すとそこには口から長く触手の様に蠢く舌が伸びていた。しかも、舌の先端には牙の様な突起物がついている。
身の危険を感じた俺は足元に転がっていた鉄パイプを拾い上げ、震える手で構えた。
「見つけた」
「じょ、冗談なら止めてくれ……、佐々木」
無理に笑みを浮かべて懇願する俺に対して相も変わらず無表情を続ける佐々木。俺に徐々に近付くトカゲのバケモノ。俺は抵抗しようと鉄パイプで抵抗をするがバケモノの舌で手から弾かれる。そして、俺はトカゲのバケモノによって拘束されそうになる。
その瞬間、俺の後ろから何かが高速で通りすぎトカゲのバケモノの舌を絶ち斬った。その次の瞬間ヒュンッと言う音が数回した後、トカゲのバケモノ頭部に矢と思わしき棒が突き刺さっているのが確認できる。
「そう簡単にはやらしてあげないわよ」
「………」
鳶雄は佐々木を警戒しながらも後ろを振り向くとそこには何処かで見たことのあるような同年代の少女と小学生か中学一年生位で髪を三つ編みにした女の子が黒塗りの弓を構えていた。
女の子は弓を投げ捨て何もない空間に手をかざす。 すると炎で構成された炎剣が手の延長線上に現れた。 火の粉を撒き散らしながらトカゲのバケモノに炎剣を突きつける。
また、 同世代の少女の肩には何故か鷹が今まさに乗ろうとしていた。
「夏梅さん、 彼と下がってください。 あの程度の神器モドキ、 私一人で十分です」
「分かった。 けど、 絶対に無茶はしないでね。 お姉さんとの約束よ」
「分かっています。 ヤバくなったら奥の手を使いますから」
「あぁ……。 あの洒落にならない奴ね……。 全く、 どうしてこうも真反対なのかしらね? うちの魔法使い達は……一人は氷を思わせるようなクールな美少女に反して剣と弓矢、 肉体言語に焔を使う魔法少女、 太陽の様に明るい美少女の癖に冷凍系魔法少女とか……癖が有りすぎよ」
「……否定できないのがちょっと辛いですね。 ですが私は魔法少女ではありません、魔術使いです。 流石にあの自称魔法少女の魔王と一緒にされるのは……」
「はいはい。 分かった。分かったから。じゃあ、 あとよろしくね」
三つ編みの女の子に促され、 女の子に夏梅と呼ばれた少女が俺の手を掴み女の子の後ろに移動する。
「お、 おい!! まさか、 あの子を危険に曝すつもりか!!」
俺は夏梅とと呼ばれた少女に俺はそう抗議する。 いくらなんでも、 あんな年下の女の子に全てを任せることは無力な事を差し置いても歳上としてはどうかと思ったからだ。
「あぁ、 それなら大丈夫よ」
その時、 女の子の居た方から凄まじい爆音が轟く。 驚いて、 振り返るとそこには所々が炭化し、 肉が弾けとんだトカゲのバケモノと傷一つ無いのに倒れ付している佐々木を冷めた目で見下ろす女の子が居た。
そして、 その後にゲームなんかの魔方陣に良く似た紋様が現れる。 次の瞬間、 魔方陣が光り輝き光が消えた後には佐々木の姿は消えていた。
「あの子、 私達よりも強いからね」
そして、 夏梅さんは疲れた顔でそう言う。