気が付くと、私は英霊エミヤの心象であるもえさかる炎と、無数の剣が大地に突き立つ一面の荒野が広がり、空には回転する巨大な歯車が存在する空間ーーー恐らく英霊エミヤの座に気が付いたら立っていた。そして、私の目の前には英霊エミヤその人が居る。
「………君かね?私みたいな英霊の力を使うと言う物好きは」
「うん、私は神崎志穂。あなたの力を勝手に使ってごめんなさい」
私は英霊エミヤに彼の剣製を無断で使った事に対して、謝罪をする。これは勝手に彼の剣製を使ってしまった私なりのけじめだ。
「むっ……。調子が狂うな。別に私は君が私の剣製を使った事に対して思うところは多少は有るが怒ってなど無いのだから」
英霊エミヤはちょっとばつが悪そうな表情をしている。
「それでも謝罪させて。あと、ありがとう。あなたの力で私はあの化け物から生き延びれた」
「ありがとう……か。長いこと聞いていなかったな……」
ありがとう。その一言を聞いた英霊エミヤは懐かしそうな表情をしていた。
「こほんっ。さて、本題に入ろうとしようか。神崎志穂、君は私の剣製を使って何がしたい?場合によっては今ここで君を殺すことになる」
そう言うと、英霊エミヤの背後に無数の刀剣が現れる。彼は私を試しているのだと直ぐに理解できた。
「…………それはまだ分からない。でも、一つだけ言えることは絶対に貴方が危惧している力の使い方だけはしないと思う。第一、私は正義の味方なんてがらじゃないからね。私が出来ることは多分、自分の身と身近な人達を守ることと位しか出来ないよ」
私に流れ込んできた英霊エミヤの記録によって彼の人生を知った私は自信を持って彼にそう告げる事が出来た。
「そうか。取り敢えずは君を信用しよう。ただ、君が道を踏み外したときは……」
分かっているな、と彼は暗にそう語っていた。そして、彼の背後に展開された刀剣が消えた。
「うん。分かっているよ」
その時、私は何処かに引っ張られるような感覚を感じた。
「そろそろ、現実世界の君が起きる頃だな。神崎志穂、私は滅多な事では介入はしない。このサーヴァントとしての全てを君に託すとしよう。
くれぐれも私もデミ・サーヴァントとして恥ずかしくない振る舞いをしてくれたまえ」
視界がどんどんと暗くなっていき私は意識を、手離した
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私が目を覚ましたのは清潔な個室の病室だった。
「ここは……。それに私は………」
私は何故、病室で寝ているか理解できなかった。先程の夢の内容はとても鮮明に覚えているがその前の出来事が思い出せない。
「目が覚めたか、神崎志穂」
そんな戸惑っている私に誰かが話し掛けてくる。声がした方を見てみると着物を着崩した男性が椅子に座っていた。
そして、何故かその男性は初対面である筈の私の名前を知っている。
「それにしてもあのはぐれ悪魔を滅ぼした奴がこんなにも幼い少女とはな。ん?覚えてないのか?はぐれ悪魔ってのは嬢ちゃんが殺した蜘蛛女の事だよ」
男性にそう言われて、私はあの化け物に襲われたこと、あの化け物を斬った感触、そしてあの化け物を殺したことを思い出す。
「……っ!そうだ……私はあの化け物を倒して気を失ったはず……」
「やっぱり、嬢ちゃんがあのはぐれ悪魔ーーーあぁ、嬢ちゃんの認識では化け物だったなーーーそいつを倒したんだな」
「はい、その通りです。私があの化け物を殺しました」
私は男性に事実を言われて、肯定する。もしかしたら、目の前の人物があの化け物を造り出したショッ〇ー的な存在の可能性も無いわけではないので軽く身構える。
「はぁ……。そう身構えるな。別に俺はお前さんに危害を加えるつもりはない。おっと、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はアザゼル。聖書に記された最古の堕天使で
そう言ってアザゼルさんは背中から漆黒の6対12枚の羽根を出した。それと同時に魔力とは違う膨大な力を感じ取った。どうやらアザゼルさんの言っている事はハッタリでも何でもなく、事実らしい。
「アザゼルさん。貴方はあの化け物を知っているみたいだけど、あれは何なのですか?」
「あぁ、はぐれ悪魔か。それを話すにはまずこの世界の裏側の事を教えないといけないな」
その後、アザゼルさんはこの世界の裏側を教えてくれた。
まず、この世界には悪魔や天使、堕天使、更には妖怪、吸血鬼や様々な神話の神様が実在している。
また悪魔と天使、堕天使は聖書の三大勢力と呼ばれている。
この三大勢力は過去に盛大な全面戦争を起こしたんだって。その戦いの最中に強力な二体のドラゴンが戦地のど真ん中で争い出し、被害拡大。
その二体を封印したために悪魔サイドのトップである四人の魔王、天使サイドのトップである聖書の神は死んだらしい。
ちなみにこの神は死んだ事は宗教に対して関心度も信仰心ゼロでなおかつ
ただ、他言無用にしてくれと頼まれた。
話は戻るが、絶対数が多かった天使、天使が堕天すれば数が増える堕天使と違い出生率が低く種の存続が危ぶまれていた悪魔。
苦渋の決断として造り出したのが他種族を悪魔に転生させる
それを特権階級である貴族やそれに準ずる上級悪魔に与えたらしい。
もちろん、貴族社会である悪魔にそんな物を造り出し、与えた弊害として転生悪魔は言い方を良くすれば下僕、悪くすれば奴隷と言った認識が生まれた。
そして、転生悪魔は待遇の悪さや人権を無視した主の行いに耐えかねた転生悪魔が逃げたしたりすると理由は関係なくはぐれ悪魔に認定されるらしい。
そして、凶暴なはぐれ悪魔は私が体験したように人間に危害を加えることがあるのだと言う。
「と、まぁ。大雑把に説明するとこんな感じだな。何か感想はあるか?」
「悪魔死すべき、慈悲はない。
要するに私があんな目に遭ったのも全部悪魔のせいって考えて良いんですね?と言うかバカなんですかね?
他種族を自分の種族に無理矢理変質させて奴隷にする?そりゃあ、誰からも疎まれるっての」
「お、おう………。ところで嬢ちゃん、話は変わるがお前さんこれからどうするつもりだ?」
「え?」
突然、話の内容が変わった事も有ったが私が全く考えていなかった事をアザゼルさんからフラれてキョトンとしてしまった。
「え?じゃないぞ。嬢ちゃんは神器や異能の力を研究している俺から見ても異質だ。
詳しい能力は知らんが、たった10歳そこらの子供、しかもただの人間がはぐれ悪魔を一方的に葬ったと各勢力が知ったらお前さんをスカウトしに来るだろうよ。………どんな手を使ってもな」
アザゼルさんの表情はとても嘘を言っている様には見えなかった。ここで私は自分が如何に何も考えていなかったかを知った。
確かに
何せ、英霊の末端とは言え英雄であるエミヤの人知を超えた能力。そしてエミヤが見てきた刀剣や私がこれから見ていくであろう刀剣をワンランク質が落ちるとはいえ際限無く複製するのだから。
それを真面目に考えると顔から血の気が引いていくのを感じた。
「漸く理解できたか。今、嬢ちゃんがどれだけ危うい位置に居ると言うことが」
私の表情でアザゼルさんは私が自身の現状を理解したと悟ったのかそう言ってくる。
「俺が嬢ちゃんに提案できるのは二つだ。全てを捨てて俺達グリゴリの一員となるか、俺達を後ろ楯として活動するかだ。
前者は嬢ちゃんに関わりのある存在から嬢ちゃんの記憶を消し、公的な記録上からも嬢ちゃんが居たと言う痕跡を文字通り消させてもらう。
その分、仕事もしてもらうが嬢ちゃんの今後の生活や進学を全て保証する。
後者も仕事はしてもらうし、俺達の監視がつくが今までの生活を続けれる。出来ることなら、ここで決めてほしい」
アザゼルさんの示した道は直ぐには決めれそうにはない内容だった。それでもアザゼルさんはここで決めろと言ってきた。
「…………少し考えさせてください」
取り敢えず、考える時間が欲しかった。しかし、アザゼルさんの一言で私は思考が止まる。
「良いぞ。だが、想像してみな。嬢ちゃんの力を目当てに争いが起きるかもしれない。その争いで自分の大事な人が巻き込まれることをな」
「っ?!」
私はアザゼルさんの一言で想像してしまった。児童養護施設の家族と言っても過言でもない皆や親代わりの院長先生や職員の人達が私のせいで争いに巻き込まれることを。
「……今、嬢ちゃんが思い浮かべた存在を巻き込みたくないだろう?だったら、護るために捨てろ。
それが嬢ちゃんが大切に思う存在を守る為に第一に取るべき方法だ」
アザゼルさんの言葉が私に中にじわりじわりと食い込んでくる。
確かに私と言う存在が児童養護施設の中に居ると皆を危険に晒してしまうかもしれない。
それを考えるとアザゼルさんの言っている事は何ら間違ってはいない。
「お、どうやら決心できたようだな。どうする、嬢ちゃん?」
「アザゼルさん、貴方は卑怯です……。そんなこと言われたら私は……」
「すまないな。だが、過去にも同じ様なことは幾度も起きている。だから……お前には同じ様なことを経験させたくないんだよ」
「アザゼルさん………私はーーーーーーーーーーー」
「あぁ、分かった。早速手配しよう」
ここまで来た時点で私は後戻りは出来なかったのかもしれない。ごめんなさい、児童養護施設の皆。
でも……私はなんだかんだ言って皆が好きなんだよ。私が弱いばっかりで、こんな形でしか守れない私を許してください。
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青空が広がる、秋晴れのある日私は慣れ親しんだ街並みを私は一人で歩いていた。
私は通り慣れた街の郊外へと足を進め、ある児童養護施設に到着した。
今日は休日なので施設の敷地内では幼年部や小学校の低学年位の子供達が秋の肌寒さもものともせず遊んでいた。私がここに居た頃から変わらない風景だ。
「懐かしい………。もう、ここを出て半年か」
結局、私はここを捨てる道を選んだ。それが今出来る最善策だと理解したから。
「……帰ろ」
私は後ろ髪を引かれる思いでその場を後にしようとする。
すると、目の前をとても馴染み深い初老の男性、院長先生が現れる。
私は他人の振りをして軽く会釈するだけにしたが院長先生は私を見て何時もの笑顔で一言だけ「お帰り」と言ってくれた。
私は驚きで頭が真っ白になる。
「どうして………。どうして……覚えているの?」
声が震えるのが自分でも理解できる。
「そうだねぇ、志穂。
理由として、私はかつては賞金稼ぎとして裏の世界で活動していた。そして、その活動で得た資金でこの私立の児童養護施設を設立したんだよ。
まぁ、そう言う事もあって暗示と言った物には耐性が有るんだ。
だけど……そんな事は関係ないんだよ。今はただの院長でしかない。
そして、君たちがどう思おうが親が居ない子の父親だと私は思っているんだ……。
里帰りしてきた我が子を迎えない親がどこに居る」
そう言って院長先生は私に近付き、何時ものしてくれていた様に頭を撫でてくれる。
「志穂、私は君が出ていった理由も君が魔法使いに準ずる者だという事も察しが着いていた。
それに皆の記憶から志穂の事が消えても私はちゃんと覚えている。
だから、辛くなったら顔を見せに来なさい。志穂の実家はここなのだから」
「……院長先生。ありがと。私、頑張ってみるよ。だから………行ってきます」
「うん、行ってらっしゃい」
そう言って、私は院長先生から背を向け歩き始める。しばらく歩いていると自然と涙が頬を濡らしていた。
その涙は私がアザゼルさんに宛がってくれた今の住居に着くまで止まることはなかった。
原作主人公とこの小説の主人公の最大の違いは裏の世界に関わった時に護るべき人達を護るために自ら離れたか離れなかったです。