しかし、イスカンダルへの旅路はまだ始まったばかりである。
ガミラス戦役始まって以来、初の大勝利に沸くヤマト乗組員を他所に瓜生ミハル【瓜生美晴】は苦悩する。
《航空隊待機室》
一角に小じんまりと祭壇が設けられている。遺影の前に線香の煙が揺らいでいる‥
「杉山…ご苦労だった」
私は杉山の遺影に手を合わせ考えていた。
「…(私の知るストーリー通りなら、古代守や山本明生の死が避けられないのは必然。だが、この後ストーリーからずれていったら‥どうなる?)」
「杉山のロッカーに遺書がありました‥地球にいるご両親に届けるものだが…」
後ろで加藤隊長が封筒を手に立っていた。
ヤマト乗組員は全員が遺書を書いて地球を発った。しかし、航空部隊のパイロットは出撃毎に遺書を書くのが慣わしだ。手短ではあるが、常に『最期』を遺族に知らせることができるように‥
「通信が出来れば、口頭でという方法もあるが…」
渕上飛行長が呟いた…
やりとりを聞いて不意に思い出す…太陽系から出る際に各自に家族との面会通信をする話があったぞ!
「その話‥可能かもよ? 」
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森船務長が担当だと思うので、非番の彼女を自室に訪ねたが、留守だ…
「居ない‥ あそこかな? 」
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『カラカラカラ~』磨りガラスは風情のある音をたてて自動で開き、湯けむりと温泉の香りがひろがる。
「ふむ、本日は登別の湯か‥お、いたいた♪ コミックなら読者サービスだな‥ハハハ」
大浴場には非番女子数名に混じって森雪も裸体を晒していた! 他には‥山本に岬に‥後は所謂〔モブキャラ〕さんたちだな。…お見せ出来ないのが残念な光景だな(笑)
「雪、ちょっといいか? 」
「あら、ミハル姉さん‥っ!?」
呼ばれて振り向き様に表情が歪んだ‥?
「あの…せめてタオルで隠してよ」
私は雪の眼前に仁王立ちしていた。
「気にするな、それよりも希望者に地球と通信する話なんだが…何か聞いてる? 」
「え?‥初耳だけど?? どこから聞いたの? 」
雪は知らないようだ…ということは!?
「そ、そうなんだ‥アハハ さて、何処で聞いたのか記憶が…」
「そうやって誤魔化す…目が泳いでるわよ! 」
「今のは聞かなかったことにしといてね。後で話すからさ‥」
この時点で話が上がってないとなると、個人的な通信自体が行われない可能性が高いぞ!
後は新見に相談してみるか?
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《解析室》
「薫! 居るか? 」
新見と伊東が『ギクッ』とした表情でこちらを見た!?
「参謀長…驚かせないでくださいよ。‥ロックしてたはずですが? 」
見開いていた目を元の糸目に戻しても焦りの顔色の伊東と、ばつが悪そうな新見…怪しい。
「自動で開かなかったから、私のIDを使ったよ。‥お邪魔だったみたいだな? 」
私の権限は艦長と同位なのだ。いざというときは全てアクセス出来る。
「えっ!? ‥あ、いえ‥え~と」
新見は焦っているのがすぐわかる。隠しごとすると赤面するんだ…大方『イズモ計画』の内緒話をしていたのだろう。
「実は、地球と交信できないかと相談してたところなんですよ」
伊東が少し困った顔で話してきた。‥こいつは演技も巧いな。
「そ‥そうなのよ~! ほら、もうすぐヘリオポーズを通過してしまうから、地球の家族と交信できないかと相談されて…」
薫…苦し紛れなのがバレバレ(笑) ‥まて、ちょうど良いじゃないか!
「なぁんだ!? 私もその話を相談にきたのよ! しかし、伊東がそんな人情味溢れる話をするとは意外なものだなぁ? ‥なにを企んでいる? 」
「心外ですねぇ…僕だって人の子ですよ? ただただ‥乗員の皆さんの心情に配慮してのことです」
「ふふん、なかなか言う‥まあいい、ということだから薫!? 」
「そうね…希望者がどのくらいかによるけど、通信室を順番に使用する方法で個人的通信は可能よ。艦長の許可が下りればだけどね? 誰かさんが進言すれば大丈夫じゃないの? 」
と、上目遣いで私を見つめる。
「私は駄目だぞ? 立場上」
「はぁ? 艦長に進言するにはミハルが最適任じゃない!? 」
「あ~確かに参謀長は駄目ですよ! 立場上不味いですよね? 」
横で聞いていた伊東が納得して口を開いた。
「艦隊附きの参謀が進言するのは沖田
言われてみて…新見も納得した。
「流石は伊東だ! キツネのようにいけ好かない奴だと思っていたが、見直したよ! 好きになりそうだ‥ウフ」
そう言って人差し指の先を唇に軽く咥えてウインクしてやった♪
「ふぶぅ! よ‥よして下さいよ。 それにキツネは酷いなぁ… 」
「フフン、冗談だ(笑) それよりもキツネの称号は軍事では栄誉だぞ? 」
伊東も誂うと意外と面白い反応する(笑)
「その話、私も協力しようじゃないか」
いつの間にか真田副長が立っていた。
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「赤道祭やるんだって! 」
「参加者はコスプレらしいわよ!? 」
「えー!‥でも、衣装どうするの? 」
「主計科に揃えてあるんだってさ! 太田さんが言ってたよ」
お調子者の太田が女子に吹き込んで廻ったようだ。
赤道祭が始まる…
あの後、話を立ち聞きした真田副長が沖田艦長に進言してくれたことで、赤道祭を催している最中に希望者を順番に家族と通信させる段取りとなった。
私もたまには楽しんでも良いよな?
先程、太田から渡された衣装箱を開いてみる。
「さて、私の衣装は…おいおい、これは人前では着れないだろ!(太田の野郎)」
箱には‥黒革のブラパンに網タイツとピンヒール。ご丁寧に棘鞭まで入っていた…女王様?
自身の予想に反する『周囲の見る目』を思い知る(涙)
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《赤道祭会場》
「んもぉおお~っ! 太田さんはどこいったのよぉ 」
メイド姿の原田真琴が憤る姿が見える。その手前には山本玲が呆然と…頭に『耳』?尻尾まで生えてる…
「ニャー! 」
「キャッ! ‥瓜生二佐!? 」
耳許で猫の泣き真似をしたら驚いたよ(笑)
「可愛い猫ちゃんじゃないか! ほう、名前は『たま』か! ニヤニヤ 」
「これは太田さんが‥赤道祭はコスプレだと…もう」
と、その時! 噂の太田を発見! 私は即座に太田の首根っこを捕まえて…
「こら! こんなもの着れるか!? 」
先程のSM女王様コスチュームの入った箱を突き返した!
やや面食らいながら、受け取った箱の中を見た太田は狼狽した!
「あっ!? す、すみません! 間違えました! こっちが参謀長の衣装であります! キリッ 」
「なんだ、慌て者だなぁ…どれどれ? …! 」
『 ド ス ッ !!』
太田のふくよかなお腹に正拳突きが炸裂した!
「‥大丈夫か?」
一緒にいた南部が心配して声をかけるが、太田は恍惚の表情で悶絶していた…
「ご‥ご褒美 ごっつぁんです! 」
受け取った箱の中身は…
『ナチ親衛隊制服と乗馬鞭のセット』
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《通信室》
地球と最後の通信が始まっている。
「次は‥杉山さん‥え? 」
読み上げた岬は戸惑ったが、すぐに加藤が現れた。
「奴の代理だ…」
加藤隊長は杉山のご両親にお悔やみの報告を行うことになった。しかし、無事に杉山の遺書はご両親に伝えることが出来た…
「次の順番は‥瓜生二佐どうぞ」
最後の辺りで私も家族と通信を行うことにした。本心では心苦しいので…いや、【瓜生ミハル】としての義務感からかな?
通信室に入ると、目の前にあるモニターが作動した。
軍服姿の壮年男性が映った……
「え?‥!? (おいっ! どこに繋ぐんだ!)」
『冥王星基地攻略ご苦労!‥よくやった‥瓜生二佐。
すまんな‥着替えてる時間が無くてな』
「…お父さん」
繋がった先は実家に違いなかった。モニターに映ったのは私の父だ…
父は国連宇宙局極東管区幕僚長〔幕僚長たる将〕【大将】です…
既に都内の実家は在るはずなく、地下都市内に居を移している。軍司令部と近いので、連絡を受けた父は急ぎ帰宅したそうだ。
『驚かせてしまったか? 母さんもいるぞ』
横からモニターに映った母の手には淡い色の茶碗がのっている。
『ミハル‥覚えているわね? 』
「あ‥」
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あれは…退院して実家に帰ったときのことだ…
初めて訪れた実家は〔お屋敷〕だった…
瓜生家は大身の旗本(6000石)で、幕府の要職に就いてきた名家だ。幕末期には海軍創設に関係し、有名な[勝海舟]や[榎本武揚]とも親交があったそうな?
さらに、明治維新を境に多くの譜代大名や旗本が没落する中、数百年に渡り存続している…まさに奇跡の家だ。
同じ『瓜生姓』でも《月とすっぽん》の大差だ…
「お帰りなさい『ミハル』。…怪我が大したことなくて良かったわ‥」
私の両肩を抱きながら見つめる…見覚えの無い母
「お‥お母さん?」
(どう呼ぶか迷ったが‥)
「‥さあ、あがりなさい。お茶でも入れるわ‥」
母について入った茶室で……茶室ですか?
「‥(そのお茶は「点てる」では?)」
お茶と聞いたら『麦茶』しか浮かばない俺が『抹茶』をいただいた…
「うふふ、如何かしら? 」
「‥(苦いかと思いきや、美味しいぞ!)ケッコウナオテマエ…ん? ‥‥この碗は?」
テレビでみたようなセリフを吐きながら…手にした茶碗の淡く深みのある緋色に目を奪われた。何故か愛おしい…見覚えが無いのだが?
「記憶を無くしても‥私の娘に変わりは無いわ。その萩焼の椀はあなたの一番お気に入りなのよ」
母は大粒の涙を溢していた…
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「私の茶碗‥ 」
『記憶を失っても、あなたはミハルに変わりはないわ。この碗を覚えていた…無事に帰るまで預かっておきますよ』
「…(すみません…別人です)」
『遠い宇宙の彼方への危険な任務…沖田君の強い要望と武藤君からの推薦があってのことは確かだが、適任と判断して承認したのは私だ! お前ならば必ず任務を達成すると信じておる。だが、父としては任務など‥あ、いや…必ず無事に帰ってこい! 』
私は【瓜生美晴】として、ミハルのご両親に申し訳なく…居た堪れなくなり、込みあげるモノがあった。
「お父さん!お母さん! ミハルは必ず帰ります! 」
途端にモニターが消えた
《 通信終了 》
「すみませんっ! スミマセン…(必ず‥無事に帰します‥あなた方の娘を)」
気づくと‥固く握りしめた手には涙が落ちて濡れていた。室内に鏡が無いが、顔がどんな状態かは想像に難くない…
「不味いな…立場上(泣き腫らした顔は見せられん)」
『瓜生二佐‥お時間です』
外から岬准尉が呼掛けてきた。待たせるのもいけないので、手早く取り繕い退室する。
「すまんな‥待たせてしまった」
「あ、いえ! あ‥サングラスお似合いです」
「ん、そうか‥ありがとう(泣いたのバレたかな?)」
咄嗟にポケットに入れていた大柄なサングラスをかけて退室したのだ。波動砲発射時に艦橋で使用する為に常備している…因みにティアドロップだ(謎)
「ん? どうした…顔色が悪いぞ!? 」
岬百合亜の様子がおかしいことに気づいた。
突然倒れる百合亜!
「百合亜ちゃん!? 」
間一髪で星名が抱き止めた!
「おっ? (ナイト登場か!‥この子は確か)」
「私が代わるわ! あなたは彼女を医務室へ連れて行って! 」
新見がやってきて、手際よく交代する。
「ちゃんとエスコートしなさいよ‥チャンスだ星名透クン」
私は星名の耳許で甘く囁いた♪
「はっ…はいっ!!」
何故か驚いた星名は上擦った声で答えた…?
「そう言えば、あんな子…居たかしら?」
新見はメイド姿の星名に気づいてない‥
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「…(瓜生参謀長が僕を名前で呼んでくれた!)」
「‥星名?‥ねえ!?」
「えっ!?‥百合亜ちゃん」
「もう大丈夫だから、ここでいいよ…」
「えっ、医務室行かなくて大丈夫?」
「大丈夫! 星名…鼻の下伸びてるよ! じゃあね!フン」
「あ、百合亜ちゃん! … 」
この時はまだ気づいてなかった。私の不用意な囁きが他人の恋路を狂わせていることに…
作中に出てきた『萩焼の茶碗』は私の実家にある物をモデルに使いました。コミカライズ版の「むらかわみちお」氏に肖って茶を絡ませてみました。
勿論、萩焼の碗は私のお気に入りです。