《食堂内別室》
四人掛けのダイニングテーブルに一人…コーヒーを飲みながら思案に耽る。
士官専用の部屋は人も疎らで静かである。私はこの後に遭遇するであろう事態の対応策を…考えてはみるが
「う~ん、…不味い」
「お口に合いませんか…?」
「えっ!?」
平田が半べそ顔で立ってた!
「
「あ‥いやいや! コーヒーは美味しいよ! ‥コナ特有のトロピカルなフレーバーが良いね~私はこれが好きでね! 」
転生前のことだ、練習艦でパールハーバーに寄港したことがある。真っ白な制服に着替えて車でホノルルへ繰り出し、地元民や観光客で賑わう街中のカフェで飲んだコーヒーがそれだった。しかし、コーヒーの味以上に忘れられないのが… 日常に軍服が違和感無く存在している風景だった。そのこともあり、ハワイアンコナは強烈な印象で『忘れられない味』なのだ。
「お好きだと聞いていたので、豆を造り焙煎してみたのです。お褒めに預かり光栄です! ‥で、なにが『不味い』のですか? 」
「ハハハ…うん、ガミラスの襲来を予想していたら‥ついね。常に『最悪の事態』を予想してプランニングするのが仕事だからな。だから、いつも『不味い!』‥となる(笑)」
「そうでしたか‥やはり違いますね。普通は予想って『希望的』に無意識で考えてしまうのが人情じゃないですか? 」
「そうだな…『希望』か。平田は『パンドラの箱』の話は聞いたことがあるか? 」
「はい、確か…ギリシャ神話ですね? パンドラという女性がこの世に災厄を解き放ってしまい、事の重大さに絶望しかけた時、最後に箱に残っていたのが『希望』だったという? 」
「まあ大体そうだ…私はな、『希望』などという言葉の存在が人の判断を誤らせると思う。…今までに誤った判断がどれ程の犠牲を生んだことか‼ 」
「参謀長…」
「すまん。愚痴っぽかった…ま、しかしだ! 彼等ガミラスも我々と同じ『ヒト』なのだ。そこに希望はあると思うよ」
『ヒト』と聞いて、平田は釈然としない表情になった。
「ガミラスが『ヒト』と言われましたが、自分には…血も涙もない悪魔としか…」
「…冥王星から離脱しようとする彼等の姿は紛れもなく、我々と同じ『ヒト』だった。旗艦を逃そうと反転してきた姿に古代守の『ゆきかぜ』がダブったよ」
「…そんなことがあったんですね」
聞いた平田は少し複雑な思いになったようだ。
「コーヒーとても美味しかったよ! ありがとう平田さん」
そう言って私は自然と微笑んでいた。
「えっ、はい! ‥さん付けで呼ばれると戸惑いますね‥ハハハ」
平田は少し照れくさそうに後頭部を掻いた。そして、何か『あっ!? 』という仕草をした。
「やはり変か? 私は年齢や階級に関係なく、尊敬する人は『⚫⚫さん』と呼びたいんだ。瓜生家に生まれた因果で軍に居なければ…本来は人様を呼び捨てなどできない性格なんだ」
「尊敬だなんて恐縮です。確か…瓜生統幕長は参謀長の‥」
平田は以前、茶会の席で私の両親と面識がある。
軍人で料理が出来て、茶道も嗜むとは…なかなかの好青年だ。
「父だ…今の立場も諸々の『コネ』によるところも多分にある。地球を救う為なら『親の七光り』だろうとなんでも利用してやるつもりだ! 是が非でも判断を誤る輩に任せるわけにはいかんのだ…自意識過剰かもしれんが…」
「そんなことありませんよ。沖田艦長が認める貴女の実力は皆も感じているはずです。それに…貴女は私の憧れなんです。さっきの微笑みはあの時の『お姉さん』のままでした…この写真は覚えてはおられないでしょうが… 」
平田が胸ポケットから取り出した手帳に写真が入っている。そこには振袖姿で微笑む『瓜生ミハル』と平田少年が並んで立っていた。
「10年前、皇居の園遊会でお会いしたんです。さっきと同じく、優しく微笑んでくださいました。…当時はお名前を聞きそびれてしまいましたが、この艦で再会するとは…印象が随分変わっていて気づきませんでした」
皇居での園遊会ということは、ご学友の内親王殿下に関係してそうだ。当時、瓜生ミハルは学習院に通っていたのだ。
「私‥こんな風に笑うんだ? …知らなかった」
事実…私は『瓜生ミハル』の写真だけでも膨大な数を閲覧した…が、どれも表情は柔らかいが『能面』みたいな印象だった。
見知らぬ少年の前では自由になれたのか?
その時!
『全艦に非常警報! 全乗組員は第一種戦闘配置! 』
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《第一艦橋》
艦橋に入ると、既に戦闘に突入していた。
冥王星で離脱していった敵戦艦が仕掛けてきたのだ!
しかし、この事態は想定済みだ…問題はもっと先にある。
「…(戦闘が始まれば、私の出る幕は無いしな)」
「敵艦 魚雷発射! 」
「迎撃ミサイル発射! 撃てっ! 」
敵の魚雷はあっさりと迎撃され…消滅?
「こっ、これは!? 5時の方向に未確認物体! 急激に伸長してます! 」
さらに森が叫ぶ!
「本艦に接近してきますっ! 」
黒いガス状物体は近くの彗星を飲み込み、さらにはヤマトへ接近してくる。
「艦外温度六千度! 外殻内九十度を超えます! 」
「艦内温度が限界に近いです」
「…(この場はヤマト乗組員の諸君にお任せだ。私の仕事は…この後のメルダ・ディッツ少尉の確保だな)」
原作通りに進めば、メルダは自軍の攻撃で成行きで捕虜となるが…未来は『確定』しているものではない。
私はこの後に待ち受ける最大級の難関を切り抜けることを集中的に思考していた。ドメル軍団への対応だ! 常識的に考え‥勝つどころか、瞬殺されずに生き延びることすら困難な状況に陥る。あのオチは幾らなんでも都合が良すぎる…保険は多い方が良い。
「ここは…メルダを人質に捕る! だな!」
「…参謀長? 大丈夫ですか? 」
相原が心配そうに声を掛けてきた。
「大丈夫だ… 問題ない(思い切り独り言を口にしていた)」
既に全乗組員が船外服を着用していた為、多少の独り言は聞こえていないようだ… 危ないところだ。
「…(しかし、なんちゅう暑さだ!! 実際に体験するのは堪える!)」
例えるなら、サウナに厚着で入っているようなのだ。水風呂に飛び込みたいくらいに暑い。
「おっと‥いかんな。優しく微笑んでいないとな! 」
「参謀長…大丈夫ですか? 辛そうですが? 」
また相原が心配そうに覗き見てきた。
この時の私は『微笑む』つもりが、『苦悶』の表情になっていたらしい…
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「艦長っ!? 」
雪が叫んだ! 見ると沖田司令が艦長席で前のめりに倒れていた!
「佐渡先生! 至急艦橋へ! 司令が倒れた! 」
私は側の艦内電話で佐渡先生を呼んだ。…詳細説明は不要。
数分もせぬうちに佐渡先生は真琴を伴ってやってきた。
…そのあとは原作ストーリーを忠実に再現してゆく。
「…(流石は沖田司令だ。極限域の戦闘指示は迷いがない)」
後方に迫っていた『ガス状物体』は莫大なエネルギーを放出する恒星へと飛び掛かり…逆に補食されるが如く消えて行った。
「波動防壁展開! 機関出力あげろ! 」
沖田艦長下命とほぼ同じくして、後方の戦艦から砲撃が開始される!
‥が、恒星の強力な磁場の影響で狙いは定まらない!
「イレギュラー発生! 」
前方には巨大なフレアが立ち昇った!!
「大きすぎる!! ‥回避できない!」
操舵する島は悲壮感顕だ!
「進路そのまま‥古代、波動砲で前方のフレアを撃て」
落ち着いた口調で‥だが、はっきりと命令を下す沖田艦長。
「…(流石です‥沖田司令)」
ヤマト艦首から閃光が放たれた!
波動砲は巨大なフレアを貫通し、その先には暗い宇宙空間が伺える。
「主エンジン接続! 全速前進!! このまま開口部を突破する! 」
穿たれたトンネルを全速で突き進むヤマト! そして後方にはガミラス戦艦が追ってくる!
「古代! 迎撃準備! 」
「はい! 衝撃砲発射準備! 」
「…(抜けてくるか‥シュルツ?)」
記憶の原作ストーリーを浮かべ、もしも『敵艦が抜けた』場合を危惧した。
刹那‥ガミラス戦艦の挙動が乱れた! …あと一歩のところで艦尾が融解…為す術も無く恒星へと墜ちて逝く姿が見えた。
彼の艦にあった『物語り』を知る者はない…私ひとりを除いて…
私は唯一人、敬礼して見送った。
「… 」
その姿を無言で見つめる沖田司令はなにを思っただろう?
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「ワープが中断したぞ!? 」
「コスモレーダー・スキャナー共に使用不能! 」
「超空間通信は使用出来そうです」
「…恐らく使えても、この異質空間の中だけだろう。艦長、我々はどうやら‥次元断層に入り込んでしまったようです」
真田副長が報告をあげる。
外の空間には見慣れない宇宙船が多数漂っている。
「…宇宙のサルガッソーか」
古代が呟いた。
「サルガッソーって? 」
相原がキョトンとして訊ねると、太田がすかさず答えた。
「700年くらい昔の大西洋で船乗りに怖がられた海の難所! 船が入ったら最期 ‥出てこられないっちゅう話や! 」
「‥という【魔の海】伝説だ! 大西洋メキシコ湾のサルガッソ海が凪の多い海域で、帆船時代は航海の難所だったことから出た話だ。実際には出れない訳ではない! 皆を脅かすな…太田! キッ 」
と、最後に睨みつけてやった…が、意に反して太田の表情は恍惚としている?
「…(こいつMか?)」
と、太田が真剣な表情に変わって
「2時の方向の漂流船、ガミラスのLクラス巡洋艦と識別! ‥熱源反応あり! 生きています! 」
「…(きたな)」
「艦長! 敵艦から通信が! しかも、こちらの言語です! 」
「…聞こう。通信回路開け」
『ガミラス銀河方面軍所属EX178 艦長のヴァルス・ラングだ。本艦は現在、貴艦同様に本空間にて漂流中である。一時停戦と脱出に関しての提案を申し入れたい』
「ヤマト艦長の沖田十三だ。貴艦の提案を聞こう」
沖田艦長は即答し、ヤマトはガミラスから停戦の使者を受入れることになった。
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「ガミラス艦から使者がくる。古代、先導役の人選を行え。参謀長、使者の応対を任せる」
「私が交渉役を? 」
「‥相手を知る良い機会だ。直に交渉しても良し、別の者を立てても良し‥任せる」
「‥わかりました(‥そうきたか)」
「先導役は隊長の加藤一尉で良いかと? 」
横から古代が同意を求める素振りで話し掛けてきた。
「‥自信無さげな言い方だが? 何故に加藤なのかな? 」
「あ‥重要任務なら隊長かな…と? 」
『ベシッ! 』
「アタッ! 痛いです! ‥叩かないで下さいよっ!」
「少しは成長したと思ったら、相変わらず間抜けだな! 重要任務だからと隊長を単機出撃させる馬鹿な上官だから叩いたんだ! 隊長に万が一のことがあったらどうするんだ? 」
「仰有る通りです…では、不測の事態を考慮し、 沢村三尉を…あ、いや‥」
途中まで言いかけたが、私の表情に気付き止めやがった(笑)
「単機での重要任務に選ぶなら、隊長や君の僚機じゃないのか? 」
然り気無く『山本玲』を推したが…気づけよ!
「そうか! 彼女なら… 使者の先導には山本三尉を選任します! 」
「‥古代戦術長! 良い人選だと思う」
私は優しく微笑んで見せた…つもり (こんな感じかな? )
「あ‥ありがとうございます? 」
「…何故に身構える? 」
「はあ、参謀長が不敵な笑みを浮かべられたので…つい」
「…(鏡で訓練が必要だな) まあ良い、それと古代戦術長‥交渉役は君に任せる」
「えっ!?‥自分がですか? 」
「そうだ。私は参謀という職務上、間接的に向き合う方がなにかと都合が良いからな。安心しろ、側に付いていてやる」
「はい! 古代戦術長、交渉役をお請けします!」
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《第三格納庫》
ガミラス戦闘機が駐機している。機体の側には整備員に混じり、武装した保安部員が囲んでいる。
「シュヴァルベに似てるな…」
私はふと漏らしていた…
「シュバ‥? なんですか? 」
横にいた伊東が糸目をちらりと向けて訊いてくる
「ドイツ軍のメッサーシュミットMe262という戦闘機だ。実戦配備された最初のジェット機だよ‥シュヴァルベとはドイツ語で『ツバメ』だ。艦艇や航空機のデザインからして…恐らく、彼等もヒト型人類だろう」
「…成る程。参謀長のご推察通りみたいですね?」
キャノピーが開き、コクピットが露出して表れたのは…ヒト型人類に違いなかった。
立ちあがり、ヘルメットを外した姿は紛れもなく
「伊東…彼女を待機室へ案内してくれ。粗相の無いように頼む」
その場を伊東に任せ、私は沖田司令のもとへむかう。
「…(ストーリー上の重要人物とご対面だ。古代と山本の絡みをよく見て慎重に対応しないと)」
足早に歩きながら、記憶にある原作を思い出していた。…転生して数年が経ち、記憶が曖昧になりつつあることが一抹の不安を抱かせた…