本編は四月中に次話投稿の予定です。
「お帰りなさいませ‥ミハルお嬢様」
玄関で恭しく出迎えてくれたのは前述の小薗さんだ。
「ただいま‥ 爺…? 」
事前に父から「爺」と呼ぶように言われていたので、そう言ってみたのだが… 美晴のような一般人には馴染みがないため語尾に疑問符が付きそうな変な感じになり目も泳ぐ。さらには‥足腰がまだしっかりしないのもあるが、スカートが醸し出す股下の心細さは不安感を加速させている!
「お労しい…随分とお疲れのようで? お母様がお待ちかねでございます。ささ! 此方へ。あ、新次郎様も喜ばれますよ! 」
俺を満面の笑顔で迎えた執事の小薗さんは白髪のオールバックに口髭が似合う老紳士だ。母とシンジロウ? 兄か弟かな?
『ハッハッハッ! オウン!! 』
「なあっ!? ヤメ‥ 離せ‥ こらっ! うにゃっ! …助けて! 」
廊下の奥から駆けてきて飛び掛かってきたのは白い犬だった! ミハルの身体は容易く組み敷かれて顔面を舐め回される。
「おやめなさい! 新次郎さん! 」
奥からやって来た母と見受ける女性が声を掛けると、新次郎と呼ばれた犬はその場で行儀良くお座りした。…ご機嫌宜しく尻尾を振り回している。
「お、お母さん?」
お父さんと呼んだなら、お母さんと呼ぶのが筋だよな?
「お帰りなさい‥ ミハル。記憶喪失ですってね? 無理しなくて良いのよ? そのうちに思い出すわよ。…それにしても、随分と新次郎さんに懐かれたわね? まるで別人のようだわ? 」
「えっ?! …覚えてないからかな? 」
別人と言われてギクリとしたが、ミハルに対する新次郎の態度が好すぎるそうだ。いつもは寄り添うようにお行儀良いらしい… 動物は敏感だから侮れんが、敵意が無いだけマシか?
途もあれ‥ 父の落胆振りを見たあとで身構えて望んだが、母は楽観的に微笑んで迎えてくれた。母は強し… ま、母様は一時的なものと解釈してるからだろう、本当は中身が別人でしかも男と知ったら卒倒するな…
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時刻は既に7時になる。帰宅して早々に夕食となり、純和風建築の屋敷だから… 食堂は洋風だった! 流れから食事も洋食で、フレンチのフルコース……
「自宅でこれか? しかし‥心配ご無用! フレンチごときで狼狽えはせんよ! ふふん」
美晴も一端の【海軍士官】だ。テーブルマナーは問題ない! 余談だが、海軍は伝統的に『外交使節』の役割を担っている。その為、帝国海軍では士官は教養だけでなく容姿端麗な男子が選ばれたとか… 海自はどうか定かでないが美晴もイケメンの部類であった。
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食事の後は風呂だ…… 病み上がりということを心配する両親がメイドさんと一緒にと勧めたが… 恥ずかしいので断る。
「まあ、だいぶ身体が解れてきたしな。…ちょっと残念だったがなぁ~ 」
総檜造りの大きな浴槽に一人浸かり… 先程の我が家の麗しいメイドを思い浮かべた。豪邸に執事やらメイドやら… どんだけだよっ! 旧華族の子爵家らしいが… 架空世界のとんでも設定には恐れ入ります(笑)
「しかし… これからどうしたものかね? 先ずはこの身体に慣れないとなぁ? 肌白くてスベスベだな… これはなかなかの美ボディですね」
ミハルの肌は透き通るように白く滑らかだ。しかし、美晴が感じているのは邪なことでなく… 元の自身と性別を抜きに似通っていることに気づく。身体的特長に限ってだが…… 男のくせに美肌持ちの美晴は余興で女装させられ、その姿に見惚れる同僚が続出したものだ。
「ずっと女として生きて行くのかな… 面倒くさ! どうすんだよ… 記憶喪失じゃ誤魔化しきれねぇ ……そうでもないか? 」
美晴は少し楽観的になることにした。所詮は空想世界なのだ! 都合良く『創られた』世界ならば、自分に都合良くやってみるか! と…
「元の世界で多分死んだ! だからここは死後の世界だ! 何を今更だよ! やってやるよ! あははは! 第二の人生が女というのも面白いじゃん♪ 」
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風呂から上がり、自室へとやってきた。
これまた洋間だ! しかも広い! 12畳‥いや、もう少し広いな? 畳み敷きじゃないから判らないが、多分16畳相等くらいに広い部屋だ。テーブルとソファがど真中に鎮座している。角にはデスクや書棚… パソコンがある
「この時代設定でデスクトップPCですか? …操作は問題ないな? 情報収集のために… ポチっと! 」
電源を入れると即座に起動した…… 画面に表示される図柄は慣れ親しんだモノだ…
「やはり…… 推測通りか! 22世紀に【Windows10】は有り得んだろう(笑) あれ? ヤマト2199当時の最新って…… そうだっけ? ま、いいか」
この時は【ヤマト2202】を忘れていた美晴だった…
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「ふ~ん… ミハルちゃんてば、良い子ちゃんだったんね。良家のご令嬢とは… 堅苦しいな」
瓜生ミハルの為人を探るべくPCを操作してみた。パスワードロックが設定されてなかったのは幸いだ。しかし、期待した程の情報は得られなかった。
「エロサイトへの接続は無し… 。画像や動画は有るが、ありきたりな記念撮影だな… 。 健全過ぎる(笑)
ん? …論文か? 何々… 宇宙空間に於ける…… さっぱり解らん! 」
考えてみれば、21世紀に入ると個人のPC使用頻度はスマホ普及とともに廃れたんだ。確か… 携帯端末は事故の際に破壊されたんだ。有用な情報は得られそうにない。
「それにしても…… どの写真も澄まし顔ばかりなんだな? 綺麗には見えるけど… 女の子は笑顔が可愛いと思うぜ! 」
そうしてるうちに時刻は既に10時を過ぎていた。明日の朝には病院に戻らないといけない。今日は一時的に外泊許可を受けての帰宅なのだ。
「そろそろ寝ますか! …ベッドは? 」
二間続きで寝室が有る…… さらにはウォークインクローゼットに沢山洋服がありました。一通り見渡して…
「フリフリ~ フワフワ~ 可愛いお洋服ばっかりね~ ………退院したらショッピングだな 」
恥ずかしくて着れねぇよ!
「さて、寝るか…… これ邪魔だ! お前も……ま、いいか」
ベッドの上にいた黄色い熊さんを蹴り落として布団に潜り込むのだった……
部屋にまでついてきて離れない【新次郎(犬)】は怖いから放置だ…
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「行ってらっしゃいませ‥お嬢様。お身体に気を付けて… 爺は心配でございます」
「行ってきます! 大丈夫よ! 爺こそ、もう歳なんだから無理しちゃ駄目よ? 」
「… 。 もったいのうございます」
見送る小薗さんに声を掛けると… ちょっと驚いたふうだったが、直ぐに柔和な笑顔で送ってくれた。
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「小薗さん、ちょっと驚いてたな… フフ」
病院へ向かう車の中で父がそう言って笑う。
「… 私、変でしたか? 」
美晴は内心ハラハラしながら尋ねたが、父は問題ないと言わんばかりに微笑んで首を振った。
「ミハル… 退院しても記憶が戻るまで休養しなさい。一時的な障害によるものだろうとの話だ。不安だろうが、休むことが今は大事だ… 」
「… はい」
父上様には申し訳ないが、戻る記憶は端から持ち合わせていない…
先ずはこの世界を知ることに専念せねばな!
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病院に戻ると精密検査が始まった。頭の中身を詳細に診るそうだ……が、MRIごときで記憶喪失の原因が解る筈がない。この世界に来て三日目、漸く落ち着いて情報収集活動に入る。
「瓜生さん、お疲れ様でした。本日の検査は終わりましたから、後でお呼びしますね」
検査技師から検査終了を告げられ、呼びだしがあるまで自由にしてて良いそうだ。早速、病院内を散策することにした。
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「やっぱりな… 基礎技術に大差がない」
病院のロビーで院内見取図を眺めているのだが、パネル表面の素材はアクリルだし、バックライトはLED光源だな? タッチパネルのモニターは液晶だ…。とまあ、日常品レベルでは未来世界を感じさせる物はほとんど見当たらない。
他にも見たことの無い技術と思って驚いたが、落ち着いて思い起こすと21世紀に最新とか将来の技術として見聞きしたものばかりだ。
例外は軍事技術なんだが… 例えば、航空機は力学を無視してデザインされていると思う。昨日の〔イカ飛行機型宇宙艦〕はジェット推進のみで飛行しているようにしか見えなかったが、あの形状では明らかに揚力不足で水平飛行は無理だ… 慣性制御技術は存在しているようだ。
美晴は確信した。
「この世界は想像上の未来像で創られている。成らば… 順応することは然程難くないな」
気楽にやろうじゃないか…と。
そうそう甘い考えが通用しないと思い知るのはこれからなのだが………
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一週間が経ち、一通り検査が終わったが記憶喪失の原因は判明せず…。 程無く、自宅療養で経過観察となった。とは言うものの… 家に籠っていてもなんら進展は有る筈なく、本日は父の計らいで宇宙軍港を訪れている。記憶を回復する切っ掛けになればと…
「案内係を務めさせて貰います。自分は広報担当の林原准尉であります! 」
自己紹介をしたのは、この軍港の広報室所属の少しふくよかな体型の兄さんだ。紺色の制服に略帽という姿で【広報】と書かれた腕章を付けている。
「瓜生三尉です。本日はお忙しいところすみません‥ (このスカート短い! やたらタイトで歩きにくいぞ‥ パンツがヤベェ! )」
こちらは司令部要員の茶色の制服姿で、…スカートだ。何故か膝上25センチ程のミニスカで脚部露出が高めなこともあり、美晴は先程からお尻が気になって仕方がない! 普通は制服のスカートとは膝丈位の野暮ったいものだが… 【視聴者サービス】に違いない。
「いいえ、戦争が始まってからは広報の仕事なんて開店休業状態ですから… ははは (…にしても、初々しいね! モジモジしちゃってさ!)」
既にガミラス戦役は始まっており、ここ【多摩宇宙軍港】では感じないが戦時なのだ。この場所はかつて〔多摩ニュータウン〕と呼ばれた大規模団地跡だ。昭和時代の高度成長期に開発されたが、平成時代に入り住民の高齢化とともに過疎化が進んだ挙げ句にゴーストタウン化した。その後、その大半が22世紀初頭から軍用地に転換され総面積2000平米の宇宙軍港だ。
これもやはり… なんでも有りの世界です(笑)
「流石に広いですね…(空想と思っても、この世界に入ってしまえば現実か… 富士宇宙軍港は原作で知ってるが、多摩とは驚きだ!」
「空港と違って、陸に宇宙艦艇を並べるのは場所を取りますからね。厚木や横田の比じゃありません! 」
まず案内されたのは…
【磯風型突撃宇宙駆逐艦】DDS-101 いそかぜ
磯風型の一番艦 ネームシップというやつだ。グレーを基調とした船体に赤い帯状のカラーリング… 先日、病院屋上で見たヤツだった!
「こいつは機関の修理で入渠してまして、今の時間は艦内も自由に見ていただいて結構ですよ」
「これが駆逐艦? …小さいな? 」
全長80Mと聞く… 海自の護衛艦と比べると半分程しかない。
「中も随分と窮屈な造りだ… これで外惑星域まで往くのは辛いだろうな? 」
美晴はメ号作戦に挑んだ古代守に思いを馳せる…
「…初めて目にしたような感じですね? 」
感慨深げな呟きを聞いた林原准尉が怪訝そうにこちらを伺う…
「失礼した。‥事故の影響で以前の記憶を無くしましてね」
「えっ! …そうでしたか。様子が変だと思ってたんですよ! 候補生なら未だしも、現役士官の方が軍港見学なんてねぇ。あっ! ‥失礼しました! 」
うっかり本音を吐いた林原が恐縮した。
【いそかぜ】の後ろに多数の小さな機体が整然と駐機している姿が見える。なんと言うか… 葉巻型の胴体に短い翼が生えているようだな?
「あれは戦闘機ですか? 」
「90式空間艦上戦闘機です。宇宙海軍の主力ですが… 高機動化へ改修待ち状態の機体です。ま、新型機の配備までの繋ぎですけど… まさか宇宙で有視界戦闘すると思いませんからね? 」
説明によると… 宇宙軍の戦闘機設計思想は【ミサイル母機】的なもので、ロングレンジからの一斉射&離脱だそうだ。宇宙空間でのドッグファイトは想定しておらず… 有視界戦闘でガミラス機に散々な結果だった。
「有視界戦闘するとは… まさかミ⚫フスキー粒子の影響か? なわきゃね! 違うお話になるじゃん! 」
「‥? 何か言われました? 」
「あ、いえ! お気になさらず… 」
見た目に機動性が低そうな機体。恐らくは大気圏内の戦闘は考慮されてないだろう…。付け焼き刃的な改修では太刀打ち出来そうにない。
さらに気付いたのだが、遥か後方に赤い戦闘艦艇が見える。かなりの距離があるが、シルエットには見覚えがある! 沖田艦長の【金剛型宇宙戦艦】だ!
「林原さん! あれはキリシマですか? 」
美晴は興奮気味に指差しながら横の林原に問い掛けた。
「あぁ、あれはキリシマと同型艦のハルナですね。 …キリシマは記憶にあるんですね? 」
美晴は内心(しまった!)と迂闊だったと反省する。
なにやら、プロローグの曲が聴こえてきそうな悲壮感が漂う…… 誤魔化しておこう。
「ふぅん‥ふぅん、ふんふんふん‥ ふぅんふぅぅーん♪ 」
「どうしました? 鼻唄なんて… しかし、なんだか切ないメロディですね~ 何て曲ですか? 」
「えと、…あれぇ、覚えてないなぁ? 林原准尉、最後に案内してほしいのだが… 」
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「お父様! 只今もどりました! 」
勢い良く扉を開いた!
「ノックぐらいせんか! 遅かったな? ミハル‥!! ど、どうしたのだ!? 」
「あぁ、長くて邪魔だったので切りましたが? 」
ミハルの背中までの長い髪が、バッサリと肩に付く程までに短くなっていた! 実物の艦艇を見てしまうと気持ちを抑えきれなくなり、軍港内の美容院に寄って勝手に短くカットしてしまった!
「そこでお願いがあります! 艦艇勤務に復帰させて下さい! 」
「……記憶が戻ったのか? 」
「いいえ… 全く! 」
「ならん! 」
「む、‥どうして? 」
美晴は口をへの字に歪めて不満気に返す。
「…馬鹿も休み休みにせい! それにお前は艦艇勤務ではなかろうが? 」
「え? (土方の下にいたんだろ? )」
美晴は勘違いしていた。土方と言えば【空間防衛総隊司令】と思っていたが、この頃は【航宙軍士官候補生学校長】であった。瓜生ミハルは士官学校の事務員でした…
「学校職員なら危険は無いと思ったのだがな… 」
ミハルの記憶喪失? の原因となった爆発事故とは、学校の実習用〔高圧増幅光線砲〕の圧力異常によるものだったそうだ。実習中の候補生と教官2名を含む14名が死亡する大惨事であったのだが、少し離れた場所にいたミハルは奇跡的に助かったのだ。
「復職は当分赦さん。ましてや艦艇勤務など言語道断だ! 」
折角この世界を生きてみようと意気込んでみた美晴だったが、いきなり壁にぶち当たる……
「敵は身内にあり…… この戦 厳しいものになる」