ラブライブ~4人の男子(変態)~   作:稲近

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プロローグ~2匹目~

 

 今日この日を、今か今かと待ち続け、ついにやってきた「A-RISE」の新譜の発売日。

 ファンとしては、発売日当日に手に入れなければならない。これはもはやファンの使命と言っても過言ではあるまい。

 幼馴染であり、私にとっての大切な親友も、今日はついてきていない。彼女にだって自分の時間というものがあるからだ。

 彼女の場合、体を動かすことが大好きで、今は確か陸上部に体験入部しているはず。きっと今日も元気にトラックを走り回っているのだろう。

 そんな彼女の姿を容易に想像出来、少しだけ笑ってしまう。

 でも、とにかく今はA-RISEの新譜を手に入れることを考え無くてはならない。

 なんと今回のA-RISEの新譜は、今までにない革新的な、思い切ったことをしたアルバムなのだ。

 

 今まで打ち込み系やテクノと言ったジャンルの多かったA-RISEが、今回に限ってはロックがメインの曲をアルバムにして発売する。

 ファンの間でも賛否両論があり、最初は否定的な意見が多かったのは事実だが、常に進化を続けるA-RISEとして、今回の思い切った策は私個人としてはありだと思う。

 それにもう一つ今回のアルバムで話題となったのが、収録されている7曲、全て学生が手掛けたという。

 実名は伏せられているが、ニックネームのようなものとして、「ぽたと」という名で発表されている。

 「ぽてと」の誤表記かと言う問い合わせもあったそうだが、「ぽたと」であっているらしい。

 それはともかくとして、今回のアルバムのメインとも言える曲のサビ部分だけ、公式ホームページにて試聴できたのだが、それがなんとも凄まじかった。

 今までのA-RISEが持つ魅力に加え、未だ表に出ていない魅力を引き出しているのが、サビだけでもよく分かるほど完成された曲。

 音楽に完成は無い、というけれど、あれはもう変えることなんて出来無い。

 だからこそ、最初は否定的だったファンも、今ではとても楽しみに待っているのだ。

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございましたー」

 

 店員さんの声を背に、私はいつもより速い歩みで家へと向かう。

 なんとか買うことの出来たCDを胸に抱え、いつもより遠く感じる家までの道のりを、ひたすら歩き続ける。

 家へと到着するなり、制服から着替える間も惜しんでCDをノートパソコンに挿入し、今まで使い込んできたヘッドホンを装着する。

 少ないお小遣いをやりくりし、CD等にお金をかけつつも、ヘッドホンにも少しだけ拘っていたりする。

 ミュージックプレイヤーを立ち上げ、少し震える手でマウスを動かして再生ボタンを押す。

 次の瞬間、ギターの歪んだ音が爆発した。

 実際に爆発したわけではないが、思わずそう表現してしまうほどのインパクトがそのイントロにはあった。

 鋭く突き刺さるギター。重く、戦車が血を這うようなベース。豪快で重たく、しかし足を引っ張るわけではない、力強いドラム。

 それらが噛合、曲となす。

 ボーカルのツバサさん、あんじゅさん、英玲奈さんの声を決して殺さず、しかし抑え気味ということもない。

 ドラムとベースの生み出すグルーヴが心地よく、ボーカルの魅力を更に引き出す。

 

 ―――凄い!

 

 本当に凄い。

 言葉なんてもはやいらない。

 どんな賛辞を贈ることより、しっかりとこの曲を聞くことが、この曲に対する礼儀のような気がした。

 アイドルは音楽的にはダメだ、なんて言う人もいるけど、そんな人にこそこの曲を聞いて欲しい。

 気がつけば1曲目が終わり、2曲目に入ろうとしていた。

 今度はどんな曲で私を魅了してくれるのだろうか。

 たった一曲、それもワンフレーズで完全に心を掴まれた私は、残り6曲をひたすら楽しみ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐふっ」

 

 床にだらしなくうつ伏せになっている幼馴染の背中に、突然何も言わずに座る。

 新曲を7曲も書き上げてくれたのだから、ぐったりしていてもおかしくはない。

 しかし、だからと言って女の子がいるところでこのような行為は許されるものではない。

 お仕置きも兼ねて、椅子として彼に座ると、先ほどのようなうめき声を漏らした。

 まぁ、彼にしたら少々役得かも知れないけれど、そこはご褒美ということで。

 ……別にMじゃないわよね?

 たった一曲の、それもサビだけで多くのファンを魅了した天才に視線を向けるけれど、こうしてみるとただのぐうたらな高校生にしか見えない。

 

 今までプロに作曲を依頼していたけれど、今回は私が彼に直接依頼した。

 生まれた時から、まるで姉弟のように育ってきた私の幼馴染に。

 プロにも決して劣らないどころか、ずっと良い曲を仕上げてくれた彼の手腕は、アルバムの発売とともに世間に改めて認められるだろう。

 

「ツバサ姉、おも……」

 

 曲のことには感謝しているけれど、今言おうとしたことは見過ごすことなど出来るはずがない。

 彼が言い終える前におもいっきり耳を引っ張る。

 言葉は途切れ、悲鳴を上げるけれどそれを無視して物思いに耽る。

 確かに人一人分の体重が乗っかっているのだから、重たいのは当たり前にしても、だからと言って言葉にされるのはたまったものではない。

 特に、好きな異性に言われることは、絶対に嫌なのだ。

 

 ……ホント、なんで好きになったのかな

 

 いつ好きになったのかなんてわからない。ただ、昔から楽器に向かう時はとてもカッコ良かった。

 見た目普通、背も高くなく、音楽以外に取り柄なんて無い。

 でも、音楽に対してだけは一直線だから、とてもかっこよく見えたのだろう。

 

 この気持を打ち明けたいけれど、私の立場がそれを許さない。スクールアイドルの頂点という立場が、私に普通の恋愛を許さない。

 だけど、今年でスクールアイドルを引退するから、その時が私の告白の日と決めている。

 

 今こうして触れ合っている関係も、いずれ変わってしまう。

 そのことに恐怖を感じてはいるけれど、もしかしたらこれから良い方向へ向くかも知れないから。

 だから私は、今を一生懸命に、全力を尽くして立ち向かう。

 向かうかもしれないから、向かう(・・・)様に。

 

 あと5日で新しいアルバムが発売されるが、その時にもまた状況は変化するだろう。

 世間が「暁美直刃」を、「ぽたと」を凄腕の作曲者として認識するだろう。

 A-RISEが更に進化したことに気がつくだろう。

 今からそのことが楽しみで仕方ない自分がいることに気がつく。

 さぁ、私達A-RISEに直刃が加わった新生「A-RISE」で世間を沸かせよう。

 

 ニヤける表情を誤魔化すように、更に直刃の耳を引っ張るのだった。

 

 




続く……のかな?
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