ラブライブ~4人の男子(変態)~   作:稲近

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サブタイトルは、作者の好きな曲の名前からお借りしております。
意味などは全く考えていません。


I Miss The Misery

 音楽室の扉に張り付く謎の女性徒。

 

 学校の七不思議にありそうなタイトルと、そんな感じの番組に相応しい映像、テロップが頭のなかに浮かんだ気がするが、きっと気のせいだろう。

 オレンジ色の髪を横で一房だけ結ったその女性徒。胸元のリボンの色を確認すると、2年生を表す赤色のリボンが確認された。

 きっと、今鳴り響いている西木野の歌に釣られてやってきたのだろう。それにしては物凄い食いつきようだが。

 

 一先ず、目の前にいるこの不思議生物、もとい先輩を、「田中久美さん」と名付けよう。どこから引用してきたかはみなまで言うな。

 この田中久美さんは未だ、俺という存在が近くにいることに気がついていない。

 ピアノに集中しているためか、西木野もこの田中久美さんには気がついていないようだ。

 しかし、最後のフレーズが終わるやいないや、田中久美さんはこれまた物凄い勢いで拍手を始めた。

 放課後の特別棟、今俺から見える範囲には、田中久美さん、西木野、そして俺の3人しかいない。当然手を叩く音は教室内に聞こえるわけで……。

 

 

 

 

「それで、た……先輩は西木野に作曲を依頼しに来た、と」

 

 先程までずっと田中久美さんと呼称していたため、思わず口に出してしまいそうになったが、慌てて修正する。

 そして田中久美さん改め、高坂穂乃果先輩は、最近この音ノ木坂学院に登場したというスクールアイドルをしているそうだ。

 

 ―――田中久美さん改……。

 

 今度から頭のなかではこの名前で呼ぼうか、なんて頭の悪そうなことは脳内タスクから破棄し、この場を取り仕切ることに集中する。

 高坂先輩は、ここ音ノ木坂学院を廃校にしたくないため、今流行のスクールアイドルで生徒を集めるという。

 その為に自分たちの曲を必要としていたところ、西木野の歌を聞いたために依頼しに来たそうだ。

 しかし西木野は、彼女たちの歌を作りたくないという。

 アイドルソングを聞かないという西木野だが、決して作れないわけではない。

 寧ろ、オーケストラ曲や吹奏楽曲を作るより楽だろうし、そこらのプロよりずっと良い曲を作るだろう。編曲出来るかどうかは知らないが……。

 

 だが、西木野はアイドルソングを、軽く薄っぺらいと主張する。

 正直に言うと、俺もこの主張には賛成だ。

 確かに歌と踊り両方をこなさないと行けないアイドルは、観客が思っているよりずっと大変なことなのだろう。

 しかし、俺個人として「あんなカラオケが」などと思わなくもない。

 

 スピーカー越しに聞こえる、ただ作られただけの音。

 王道進行に則っただけのコード進行。

 歌詞をなぞっただけの意志の無い、ただ歌っただけのボーカル。

 観客に媚びを売るアイドルという名のただの偶像。

 そんな物が飽和しすぎたアイドルソングに対し、俺や西木野は軽薄だと感じたのだ。

 だから西木野は、アイドルソングは軽く薄っぺらいと言う現実を突きつけたのだろう。

 

 そう言えば最近、A-RISEというスクールアイドルの新曲というのを聞いたが、アイドルソングにしては珍しく骨のある曲だったのを思い出す。

 あれはどちらかと言えばアイドルソングと言うより、ロックといったほうがずっと適切だろう。

 あの既存の概念を全て壊してやる、と言った気概、パワー、なにより勢いが。

 

 今の時代、お金さえかければかなりリアルな音源が手に入る。

 それこそフリーでさえそれなりのものが手に入るはずだし、シンセサイザーに至ってはフリーで十分すぎる程だ。管楽器は別として。

 プロのアイドル等のお金をかけられるアイドルなどは、スタジオミュージシャンに依頼すればいい。

 アイドルは楽器が弾ける必要もなく、シャウトなんてもってのほかだ。

 

「そうだよね」

 

 思考が沈みかけていたが、先輩の意外な答えにより現実に引き戻された。

 軽く薄っぺらいという西木野の主張に対し、先輩は肯定してみせた。

 しかし先輩の「肯定」は、俺や――多分西木野も含む――の意見とは違い、お祭り騒ぎのようなものとして捉えていたようだ。

 

「ねぇ、腕立て伏せ、出来る?」

「はぁ?」

 

 そして突然、西木野に対して腕立て伏せが出来るかどうかを問いかける先輩。

 

「出来ないんだぁ」

 

 加えて挑発。

 そんなあからさまな挑発に、西木野は簡単に釣られてしまい、何故か腕立てをするはめに。

 

 ―――もしかして、西木野ってちょr……。

 

 女性は良く男の心を読むことが出来ると聞く。

 もしかしたら今の考えも読まれていたかも、なんて西木野の方へ向いてみるが、特に気づいた様子はない。

 それはそうか。読心術なんて出来るわけがないか。

 

 しかし、なんとなくだが先輩の言いたいことはわかった。

 ただ腕立て伏せをするだけなら、誰でも、とは言わないが、大抵の人が出来るだろう。

 ちなみに俺は運動不足がたたってか、一度やると関節がボキボキいい、さらに腕が痛くなる。なんと悲しい現実だろうか。

 話を戻すと、ただ腕立て伏せをするだけならともかく、この状態で笑顔を浮かべるのは難しい。

 歌って踊って、更に笑顔を浮かべるアイドルは、思っているよりずっと大変なんだと。

 

 推測通り、腕立て伏せをする西木野に対し、そのまま笑えるかどうかを問いかけていた。

 さすがの西木野でも厳しものがあったらしく、少しして直ぐに立ち上がった。

 

「はい、歌詞」

 

 そんな西木野に、先輩は歌詞の書かれた紙を手渡す。

 一度読んでみて欲しい、と。

 

「だから私は」

「読むだけならいいでしょ?」

 

 そんな先輩を拒絶しようとするが、言葉を遮られる。

 確かに、作るかどうかは別として、読むだけならばまだいいだろう。

 酷い出来ならそのまま突き返せばいいし、今度聞きに来た時に断られれば、その時はすっぱりと諦めると言っているのだから。

 ため息を一つこぼした西木野は、空気になっていた俺へ視線をよこす。

 ちくせう、どうやら俺のステルス機能はまだまだ甘いらしい。

 馬鹿な思考を遮断し、西木野に頷いてみせる。

 

「答えが変わることはないと思いますけど?」

 

 歌詞カードを受け取った西木野は、やはりなお拒絶の言葉を紡ぐ。

 だが、先輩はそれでもいいという。

 その時は、ただ普通に歌を聞かせて欲しい、と。

 西木野の歌声が、奏でる音が好きだから、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、どうするん?」

 

 高坂先輩が帰った今、音楽室に残っているのは私と藤乃の二人。

 だから聞こえてきた声は、当然藤乃のものだ。

 どうするのか、という問いかけ。当然、先ほどのことを指しての問いかけ。

 

「……貴方ならどうする?」

 

 しかし、私は答えを、「作らない」という答えを言うことが出来ず、逆に問い返す。

 そんな私に気を悪くするでもなく、藤乃はとても自然に答えた。

 

「迷うぐらいなら、やってみたら?」

 

 普通は「迷うぐらいなら作らなければいい」、では?と思いつつ、更に何故かと問いかけてみる。

 

「良く言うやん、やらずに後悔するよりやって後悔する方がずっといいって」

 

 それに、と彼は言葉を続ける。

 

「自分の作った曲褒められて、んで求められるって、嬉しない?」

 

 確かに彼の言葉には共感できる。

 先ほど私の曲を好きだと言ってくれたのも、正直に言えば嬉しかった。勿論声に出しては言えないが。

 だからきっと、先ほど私は彼の問に、先輩へ突きつけたのと同じ答えを言うことが出来なかったのだ。

 

「……もし、私が曲を作るとしたら、協力してくれる?」

 

 いつもの自分らしくもない弱気な言葉。

 たとえ曲自体を書くことが出来たとしても、私ではそれをアイドルソングへと編曲する術を持たない。

 まさか、ピアノ伴奏に合わせて歌って踊って、とするわけにも行かないだろう。

 新入生歓迎会までに曲を作らないのは当然として、先輩たちが練習するためにも、なるべく曲を速く仕上げる必要がある。

 勿論まだ作ると決まったわけではないが。

 

「うん、ええよ。編曲の方やな?」

 

 どうやら彼には、私が編曲が出来無いことはお見通しだったようだ。

 そもそも私の場合、今までピアノしかしてこなかったため、編集する必要がなかったのだから仕方がない。

 これで、仮に曲を作るとしたら、彼に手伝ってもらうことで編集の方はなんとかなるだろう。

 

「まぁ今は悩んどき。まだ多少の時間はあるんやから」

 

 今日はどうやらセッションすることは叶わなかったようで、彼はその言葉を残して帰ってしまった。

 

 

 

 




Halestormの楽曲名からお借りしました。
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