「ヨルコさん!」
誰よりも早く反応したキリトはそう叫ぶと、窓から外を見た。そして、黒いマントの人物を見つけると、窓から屋根に飛ぼうとした。だが、そのキリトの頭をアスカが掴んで窓の縁に叩きつけながら踏み台にして、屋根に飛んだ。
「キリトはお姉ちゃん達を、お願いッ!」
そう言いながら逃げる黒マントを追い掛ける。そして、ダガーを握っていつでも投げられるようにしながら走った。
「逃が、さないッ!」
叫ぶとダガーをブン投げた。ものっそい速さで吸い込まれるようにダガーが黒マントに向かって突き進む。だが、黒マントは転移結晶を使用し、当たる前に姿が消えた。
「………クソッ」
そう吐き捨てると、アスカはヨルコの部屋に戻った。今回はちゃんと玄関から入るため、ノックをした。すると、キリトのボソボソした声が聞こえた。
「合言葉は?」
「閃光の胸はCカップ」
すると、静かに扉が開かれた。
「正解」
と、言ったキリトとアスカの間にレイピアがビュッ!と入った。
「その情報、どこまで出回ってるの?」
「エギルとクライン……」
「アッソウ、じゃあ……」
言いながらアスナはゴキッゴキッと指を鳴らした。そして、キリトの前に立つ。
「まずはあなたの記憶から飛ばそうかな」
「いや待って。それCカップ以外の記憶も飛ぶ……!」
拳がキリトの頭にめり込んだ。そして、アスナはアスカを見た。で、にっこり微笑むと言った。
「後でお話ししよっか?」
「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ………」
と、念仏のように唱えるアスカを無視してアスナはシュミットを見た。
「とにかく、あなたは今日私達が送って行くわ。いい?」
「……………Cか」
容赦ない鉄槌が下された。
○
翌日の夜。シュミットに教えてもらった店に三人は向かった。が、アスカのやけに震えていた。
「……何かあったのかアスカ」
ひそひそ声でキリトが聞いた。
「アスナオ姉チャンハ優シイ人」
「何があったんだよ……」
「今のうちにご飯食べましょう」
言いながら、アスナはアイテムを実体化させた。白い紙に包まれた、やけに良い匂いのするオブジェクト。アスナがそれをキリトに差し出した。
「ほら」
「く、くれるの?」
「この状況でそれ以外何があるのよ。見せびらかしてるとでも?」
「い、いえ。すいません。じゃあ有難く」
言いながらキリトはその白い紙を剥いでバゲットサンドを一口……いこうと思ってアスカを見た。
「………アスカの分は?」
「人のプライバシーを売った罰よ。それよりそろそろ耐久値が切れて消滅しちゃうから、急いで食べたほうがいいわよ」
「えっ、はっ、はい、頂きます!」
そのままキリトは大きく一口。その様子をアスカは羨ましそうに眺めていた。涎が出るほど。そのアスカの前に、アスナがパンだけを渡した。
「えっ?」
「あれ作ってる時の余ったパン。それだけなら、あげるわよ」
「お姉ちゃん……」
感動のあまり泣きそうになりながら、パンを受け取った。
「いただきます!」
そのままアスカはパンを一口……いこうとしたら耐久値が切れてパキィィント砕け散った。結果、自分の指を噛んだ。
「うーわ………」
痛そう、みたいなニュアンスを含めてアスナは呟いた。キリトはガツガツパンを貪って見てすらない。
「あ……ぁぁああああっ‼︎」
「きゃっ!……何よ、そんなに痛かったの?」
「違う!そんな事じゃない!」
いきなり切迫したような声を出すアスカ。
「分かったんだよ!圏内PKのトリックが!」
「なんだって⁉︎」
「なんですって⁉︎」
身を乗り出すキリトとアスナ。
○
この後、ドヤ顔でアスカは自分の推理ショーを披露した。結果、メチャクチャウザがられると共に、メチャクチャ悔しがられた。たまたま、アスカのパンの耐久値だけ消え去ったとはいえ、閃いたのはアスカだからだ。
ちなみにトリックはというと、鎧や服の耐久値が切れると共に転移結晶で飛ぶというものだった。だから、ヨルコどころかカインズも生きている。二人は何かしら知っているであろうシュミットから情報を吐かせるために、こんな手のかかることをしたのだらうというのが、アスカの答えだった。
「いやー私って実は天才なのかもしれないねー!」
「天才だったら入試で落ちないわよ」
「グハァッ!」
アスナに言われて吐血するようにアスカが倒れた時だ。キリトが呟いた。
「待てよ……それじゃあ、おかしくないか?」
「「?」」
「もしかしたら……グリムロックは……」
そこまで言ってキリトは二人に言った。
「なぁ、二人とも」
「「なに?」」
「どっちでもいいから俺と結婚してみないか?」