ボスを倒してから、キリトもアスカも後ろにぺたんと座り込んだ。
「なん、とか……倒したな……」
キリトがそう呟いた。アスカも何も言えずに寝転んだ。
「だ、大丈夫⁉︎二人とも!」
その二人の元へアスナが走って来た。
「HPは⁉︎ポーションとか……!」
「大丈夫だよアスナ。アスカが動きを封じててくれたから」
キリトはアスカを見ながら言った。
「それはそうと軍の連中はどうなったの?」
アスカがキリトに聞いた。
「みんな無事だよ。お前が一番最初に突撃したおかげでな」
「そうだよアスカ!どうしてそんな無茶したの⁉︎」
キリトに続き、アスナも責めるように言った。
「ま、まぁ、その、何。夢中になっちゃって……」
「ほっとけばいいとか言ってたくせにか?」
言われてギクッとなるアスカ。
「もしかして、ツンデレなのかアスカ?ツンデレか?」
「ち、違う!黙れバカキリト!」
「そっかそっか、ほっとけって言うのは照れ隠しだったんだな」
「本当に違うってば!その、何。ほっといた所為で死なれると目覚めが悪いでしょ。だからだよ」
「ふーん……」
それでもニヤニヤするキリト。いい加減ウザくなったのでアスカも手を変えた。
「それよりキリト、さっき剣を2本使ってなかった?エクストラスキルなんじゃないの?」
言われて、キリトの表情が変わった。
「そうだぜキリト!オメェなんだよさっきのは!」
クラインが言うと、風林火山の面々も集まってくる。キリトはキッとアスカを睨むも、目を逸らされる。
「……言わなきゃダメか?」
「ったりめえだ!見たことねえぞあんなの!」
「アスカの遠距離攻撃のが気にならないか?」
「両方聞くからいいんだよ!」
しまった、といった表情になるアスカを捨て置いてキリトは続けた。
「エクストラスキルだよ。二刀流」
おお……というどよめきが聞こえた。
「しゅ、出現条件は」
「分かってりゃ公開してる」
クラインに言われるも、キリトは首を振って答えた。
「オメェのは?」
「私のはワイヤーブレード。私もこれといって特別なことをした覚えはないんだけど……」
「なるほどなあ……。ったく、水臭ぇなオメェら。そんなすげぇ裏技黙ってるなんてよう」
「スキルの出し方がわかってれば隠したりしないさ。でも心当たりがさっぱりないんだ。こんなレアスキル持ってるなんて知られたら、しつこく聞かれたり……いろいろあるだろ」
「ネットゲーマーは嫉妬深いからな。俺は人間が出来てるからともかく……」
クラインはウンウンと頷くと、軍の連中を見た。
「お前たち、本部まで戻れるか?」
「ふん、貴様らに指図さ……」
「はい」
コーバッツの台詞を遮ってその部下の一人が言った。
「よし。今日あったことを上にしっかり伝えるんた。二度とこういう無謀な真似をしないようにな」
「無謀だと?我々に」
「はい。あ、あの……ありがとうございました」
最早、隊長としての威厳などないコーバッツの台詞はまた遮られた。
「礼なら奴らに言え」
クラインの視線の先にはキリトとアスカがいる。その二人にコーバッツを除く軍のメンバーはお礼を言い、帰って行った。ボス部屋を出る直前に、何人かがコーバッツに飛び蹴りしたのが見えたが、全員スルーした。
「俺たちはこのまま75層の転移門をアクティベートして行くけど、お前らはどうする?それともお前らがやるか?」
クラインが聞いた。
「いや、任せるよ。もう疲れちゃったもん私」
アスカが言った。
「俺も同じく」
「私は、団長に今回のこと報告しないといけないから」
キリト、アスナと続けた。そう言うと、「それもそうか」と言った顔でクラインは挨拶代わりに片手を上げて仲間を連れて75層へ向かった。
「じゃ、私達も帰ろっか」
アスナが言うと、二人は立ち上がり、ボス部屋を出た。
○
翌日。エギルの店の二階でキリトとアスカはシケ込んでいた。理由は、二人のホームに昨日の二人のエクストラスキルについて人が殺到してたからだ。特に、アスカはファンクラブ会員に、「ワイヤーで縛って欲しい」という奴に付き纏われ、今は吐き気に襲われている。
「引っ越そう。なるべく下層に」
「ああ。絶対だ……」
独り言を呟いたアスカに賛同するキリト。その二人にエギルが言った。
「まあ、そう言うな。一度くらいは有名人になってみるのもいいさ。特にアスカ、今度ライブでも開いてみたらどうだ?俺の知ってる限りでもお前のファンクラブや親衛隊は軽く十個は超えてるからかなり儲かると思う……」
「やめてー!それ以上言うな!頭痛くなる!」
頭を抱えるアスカだった。ちなみにふざけ半分でエギルもキリトもクラインも親衛隊会員になってるのは内緒だ。そして、その全ギルドの総隊長がシリカである。
「まぁいいじゃん。何ならアスナとユニット組んで……」
キリトが便乗して言った瞬間、アスカは本気で殴ろうと立ち上がったが、バタンッ!と勢いよく開かれたドアにそれは遮られた。アスナが立っていた。
「げっ!アスナ!違うんだ!今のはほんの冗談で……!」
「どうしよう……キリトくん……」
涙目だった。キリトも涙目だった。
「大変なことに……なっちゃった……」
○
そんなわけで、キリトアスナアスカはグランザムへ。何でも、キリトとアスカにヒースクリフが会いたいと言ったのだ。ちなみにヒースクリフもアスカの親衛隊会員だ。これも内緒である。
「ここか……?」
「うん」
団長の部屋の前。キリトが念のため確認した。
「失礼します」
アスナが言って入り、その後にキリトとアスカが入った。
「君達とボス攻略戦以外の場で会うのは初めてだったかな」
ヒースクリフがキリト、アスカに言った。
「いえ……前に、67層の対策会議で少し話しました」
キリトが答えた。その時にアスカもお話したのを覚えている。一緒にいたから挨拶程度。
「あれは辛い戦いだったな。我々も危うく死者を出すところだった。トップギルドなどと言われても、戦力は常にギリギリだよ。そこで、だ。アスカくん。君はアスナくんと姉妹だったかな?以前、君を血盟騎士団に入れたいと言われた」
「はぁ。私もお姉ちゃ……姉に誘われましたよ。やだって断ったけど」
「だから、私からも血盟騎士団に入ってもらいたい」
「は、はぁ⁉︎やですよ!なんですかそれ!」
メチャクチャな言い分にアスカは声を荒げる。
「そうですよ。アスカは俺のパートナーです。そんな簡単に渡すわけにはいかない」
え?パートナーなの?何それちょっと嬉しいとアスカは思ったが、おそらく自分を血盟騎士団に入れないために言ったデマカセだろうとアスカは思い直す。
「ふむ、そうなのか?」
ヒースクリフはアスナを見た。
「知りません」
ぷいっと不機嫌そうにそっぽを向くアスナ。バレないようにキリトの脛を蹴った。
「まぁ、そういう事ならデュエルで決めようじゃないか」
「は?」
「私とアスナくん、君とアスカくんがチームを組んでデュエルをするんだ。負ければ……そうだな、どうせなら二人とも血盟騎士団に入りたまえ」
「………俺たちが勝てば?」
「ふむ……そうだな。君達の望みを一つ叶えよう」
「望み?」
「私が叶えられる範囲ならなんでもいい」
「……………」
キリトとヒースクリフは睨み合うこと数秒、ため息をついてキリトが言った。
「分かりました。それでいいでしょう」
えっ?といった感じでアスカとアスナはキリトを見たが、キリトは黙って部屋を出て行った。