キリト、アスナ、ユイは空から、戦闘中のプレイヤーを見つけた。重戦士三人が一人の金髪の女の子を追いかけまわしている。
「さて、じゃあ行こうか」
「へ?行くって?」
アスナが聞いた。
「あの子助けて、情報を聞こう。アスナが考えた作戦だろ?」
「はいはい……じゃあ行きましょうか」
そのまま二人は降下した。アスナは華麗に着地したものの、キリトは、
「うわああああっ!」
落下した。アスナやユイだけでなく、他の四人が半眼になる中、キリトは呑気に言った。
「うう、いてて……。着陸がミソだなこれは……」
緊張感もへったくれもなくキリトは立ち上がると、そのキリトに金髪の女の子、リーファが言った。
「何してるの!早く逃げ……!」
「キリトくん、大丈夫?」
(今度はウンディーネ⁉︎)
リーファが「何こいつら?」みたいな顔をする中、キリトが言った。
「重戦士三人で女の子一人を襲うのはちょっとカッコよくないなあ」
「なんだとテメエ‼︎」
サラマンダーの一人がランスを構えて突進した。だが、キリトはその先端を掴んで投げ飛ばした。
「わああああ」
悲鳴をあげながら、投げられたサラマンダーが待機していた仲間に衝突する。アスナがリーファに聞いた。
「ねぇ、あの人たち、斬ってもいいかしら?」
「へっ?……そりゃ、いいんじゃないかしら……少なくとも先方はそのつもりだと思うけど……」
「だってよキリトくん。頑張ってね」
「おいぃ!アスナは手伝ってくれないのかよ!」
「ここは男の子の見せ場だよー!」
そう言われ、やれやれとため息をつきながらもキリトは剣を構えた。そして、背中から貧相な剣を抜くと、ズバァン!という衝撃音と共にサラマンダーの片方を斬った。
(は、速ッ……⁉︎)
リーファが戦慄した。そして、キリトはさらにもう一人のサラマンダーを同じように斬った。それを唖然としながら見てるサラマンダーのリーダー格にキリトは聞いた。
「どうする?あんたも戦う?」
「いや、勝てないな、やめておくよ。アイテムを置いて行けというなら従う。もうちょっとで魔法スキルが900なんだ、デスペナが惜しい」
「正直な人だな」
で、リーファを見た。
「そちらのお姉さん的にはどう?彼と戦いたいなら邪魔はしないけど」
「あたしもいいわ。今度はきっちり勝つわよ、サラマンダーさん」
「正直、君ともタイマンで勝てる気はしないけどな」
そう言うと、サラマンダーの方は飛んで行った。
「で、あたしはどうすればいいの?」
リーファがキリトを見る。答えたのはアスナだった。
「ううん。ちょっと、情報が欲しいの。助けてあげたお礼としてね」
「情報?」
「そう。特に、世界樹、だっけ?あの樹について」
「あたしは構わないけど……。じゃあちょっと遠いいけど、北のほうにある中立の村まで飛ぶよ」
「へ?スイルベーンってとこのが近いんじゃないの?」
キリトが聞いた。
「あたしは構わないけど、いいの?スイルベーンはシルフ領だから、シルフは君たちに攻撃できるけど君たちは抵抗できないのよ?」
「でもすぐに襲いかかってくるわけじゃないんだろ?だったらそこでいいよ」
「君がそう言うならいいけど……あなたはいい?」
アスナに聞いた。
「私もそこでいいわよ」
「じゃあ飛ぶよ……っと、その前に自己紹介がまだだったわね。あたしはリーファよ。よろしくね」
「私はアスナ」
「俺はキリトだ」
「私はユイです」
言うと、キリトのポケットからユイが出てきた。
「それってプライベート・ピクシー⁉︎」
「へ?」
「あれでしょ、プレオープンの販促キャンペーンで抽選配布されたっていう……。へえー、初めて見るなぁ」
「あ、わたしは……むぐ!」
律儀に説明しようとしたユイの口をキリトは塞いだ。
「そ、そう、それだ。俺クジ運いいんだ」
「ふうーん……ま、いいケド。じゃあスイルベーンまで飛ぶよ」
言うと、リーファは浮いた。
「あれ?リーファは補助コントローラなしで飛べるの?」
アスナが聞いた。
「あ、まあね。二人は?」
「ちょっと前にこいつの使い方を知ったところだからなぁ」
言いながらキリトは補助コントローラを出した。
「そっか。随意飛行はコツがあるからね、できる人はすぐできるんだけど……試してみよう。コントローラ出さずに後ろ向いて見て」
リーファに言われて、二人は背中を向けた。その二人の背中にリーファは手を置いた。
「今、触ってるの、わかる?」
「うん」
「あのね、随意飛行って呼ばれてるけどほんとにイメージだけで飛ぶわけじゃないの。ここんとこから、仮想の骨と筋肉が伸びてると想定して、それを動かすの」
すると、キリトの肩甲骨がピクピクと動く。そして、実体のない灰色の羽が、現れた。
「おっ、そうよ、そんな感じ。最初は思い切って肩や背中の筋肉を動かして、羽と連動する感覚を掴んで!」
「おっ、来たっ」
先に飛んだのはアスナだった。そのまま自由に飛び回る。キリトは未だにピクピクしている。
「むむむ……」
焦ったくなったリーファは、キリトの背中をドンっと押した。
「うわっ⁉︎」
途端、垂直に飛び上がるキリト。
「うわあああぁぁぁぁ!」
キリトの体は小さくなり、悲鳴も遠ざかる。そのまま無限の彼方へ旅立った。
「やばっ」
「パパー!」
リーファとユイが慌てて飛び立ち、ついでにアスナも様子を見に行った。空中では、縦横無尽に元気良く暴れ回っていた。
「わあああぁぁぁぁ!と、とめっ!止めてくださいお願いします!」
情けない悲鳴を聞くと、アスナもリーファもユイも、「ぷっ」と吹き出した。
「あはははははっ!」
「ご、ごめんなさいパパ。面白いです〜!」
「な、何やってんのよキリトくん!あははっ!」
このまま放置しても面白そうだったのだが、流石に同情してリーファがキリトの襟首を掴んで停止させ、随意飛行のコツを教え、ようやくキリトはまともに飛べるようになった。
「おお……これは……これはいいな!」
「そーでしょ!」
なんて言いながら四人はスイルベーンに向かった。
○
スイルベーンで四人はすずらん亭という店に入った。
「さ、ここはあたしが持つから何でも自由に頼んでね」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「あ、でも今あんまり食べるとログアウトしてから辛いわよ」
リーファはそれを注意してから、メニューを選ぶ。で、それぞれ各食べ物を注文し、その品々をテーブルに並べられた。
「それで、世界樹について、だっけ?」
リーファが確認するように聞くと、アスナもキリトも頷いた。
「でも、なんで?」
「世界樹の上に行きたいんだ」
キリトが真剣な目で言った。
「それは、多分全プレイヤーがそう思ってるよきっと。てか、それがこのALOってゲームのグランドクエストなのよ」
「と言うと?」
「滞空制限があるのは知ってるでしょ?どんな種族でも、連続して飛べるのはせいぜい10分が限界なの。でも世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、《妖精王オベイロン》謁見した種族は全員、《アルフ》っていう高位種族に生まれ変わる。そうなれば滞空制限はなくなるの」
「……なるほど……」
「それは確かに魅力的な話ね。その世界樹の上に行く方法は分かってるの?」
アスナが聞いた。
「世界樹の内側、根本のところは大きなドームになってるの。その頂上に入り口があって、そこから内部を登るんだけど、そのドームを守ってるNPCのガーディアン軍団が尋常じゃない強さなのよ。今まで何度も色んな種族が挑んでるけどあっけなく全滅してる」
「そのガーディアンは、そんなに強いの?」
「もうメチャクチャよ」
「……何かキークエストを見落としてたり、単一の種族だけじゃ絶対攻略できない、とかは?」
今度はキリトがタルトを齧りながら聞いた。
「へぇ、いいカンしてるじゃない。クエストの方は今、検証してるけど、後の方だとすると……絶対に無理ね」
「へ?なんで?」
「だって矛盾してるじゃない」
アスナが代わりに答えた。
「……そっか。確かに。じゃあ、世界樹を登るのは、不可能ってことなのか?」
「あたしはそう思う」
その台詞にキリトもアスナも奥歯を噛んだ。世界樹攻略不可、それはアスカを助ける事が出来ないことを意味していた。
「……なんで、俺たちを救ってくれたあいつが、救われないんだよ……!」
「へっ?な、何か言った?」
小声でボヤいたキリトにリーファは思わず聞き返した。
「や、何でもない。でも、俺たちは必ず世界樹の上に行かなきゃいけないんだ」
キリトの目は真剣で真っ直ぐだった。それは、アスナも一緒だ。
「……どうして、そこまで……?」
「人を、探してるのよ」
アスナが答えた。
「ど、どういうこと?」
「簡単には説明できないの。ごめんなさい。でも、ありがとうリーファ、色々教えてもらえて助かったよ」
言いながらアスナは立ち上がり、キリトもタルトを全部口に詰め込んで席を立った。
「ち、ちょっと待ってよ。世界樹に行く気なの?」
「ああ。この目で確かめないと」
「………じゃあ、あたしが連れて行ってあげる」
「え……」
「い、いいわよリーファ。そんな会ったばかりの人にそこまで世話になるのは……」
「いいの、もう決めたの!」
アスナに言われるも、リーファは無理矢理押し切った。
「明日も入れる?」
「う、うん」
「じゃあ午後三時にここでね。あたしもう落ちなきゃだから。ログアウトには上の宿屋を使ってね」
で、「じゃね」とリーファはログアウトしようとした。
「あ、待って!」
それをキリトが止めた。そして、微笑みながら言った。
「ありがとう」
リーファもそれに笑顔で返し、ログアウトした。