「アス、ナ……?」
アスカの口からその言葉が漏れた。だが、キリトもアスナも気付かずに突撃する。アスカは今はそんな場合じゃ無いととりあえず思い直してボスに突進した。
「全員、出口方向に十歩下がれ!ボスを囲まなければ範囲攻撃は来ない!」
キリトが指示を出すと、ザッ!と音を立てて従うプレイヤー達。
「アスカ、左からの攻撃全部頼む!」
「分かった!」
そして、任されたタイミングで左側から攻撃が来る。それをアスカは正面から、鞘と剣をクロスしてガードした。
「ふんっ……ググッ……!」
と、堪えてるその隙に、キリトとアスナはスラントとリニアーをボスの喉に叩き込む。さらに、キリトの連撃は続いた。スラントやホリゾンタルを十五回ほど叩き込む。だが、十六回目でそれが途切れた。
「しまっ……!」
そう声を漏らした時、ボスの刃がキリトの身体を正面から捉える。が、その間にアスカが入った。同じくガードしたが、大きくぶっ飛ばされる。
「アスカ!」
キリトが声を掛けるが、ガードしたからか、HPはギリギリ残った。
「いいから前見ろ!」
アスカが叫ぶ。キリトは奥歯を噛むと、またアスナとボスに向かって行った。が、そのアスナに落ちてくるボスの刀。ディアベルを殺したソードスキルだった。
「ぬ……おおおッ‼︎」
が、そのアスナの前に太い雄叫びと共にエギルが斧系ソードスキル、ワールウィンドで相殺した。ボス部屋全体が震えるほどのインパクトが生まれ、ボスは大きく後方にノックバック。エギルはなんとか踏ん張った。
「大丈夫か」
「え、ええ。平気よ」
アスナはそう短く答えた。
「おい、お前」
エギルはキリトに声を掛けた。
「あんたが指揮を取るんだ。全員、やる気満々だ」
エギルに言われ、周りを見るとさっきまで絶望的な顔をしていたプレイヤーたちが復活していた。それを見るなりキリトは大声で叫んだ。
「ボスを後ろまで囲むと全方位攻撃がくるぞ!技の軌道は俺が言うから、正面の奴が受けてくれ!無理にソードスキルで相殺しなくても盾や武器できっちり守れば大してダメージは喰らわない!」
「おうッ‼︎」
野太い男たちの返事が響いた。そして、見事な指揮によむて順調にボスのHPが三割を下回り、赤く染まった。その時、壁役の一人が足をもつれさせた。その場所がボスの真後ろだった。つまり、全方位攻撃が飛んでくる。
それを阻止しようと、アスカが突っ込んだ。ボスは大きくジャンプをし、あり得ない角度まで体を捻った。が、壁を蹴ってアスカは大きくジャンプした。その時、被っていた帽子が脱げた。
「アス、カ……?」
思わず声を漏らすアスナ。そして、ボスの刀が振られようとした瞬間、渾身のソードスキル、シューティングスターを放った。
バカァァァンッ‼︎とマヌケな音とは裏腹に、全方位攻撃をキャンセルさせた。だが、その代わりに武器が折れた。刀身がヒュンヒュンヒュンと回転して青く四散しそうになる。その前に、その刀身をアスカは掴んだ。そして、投擲スキルでボスの喉を狙って投げ刺した。それがクリティカルヒットし、運よくボスは怯み、後ろに空中でひっくり返った。
その瞬間、砕け散る刀身。ジャンプしたアスカを待っていたのは自由落下のみだ。ボスと一緒に仲良く落下するアスカ。が、そのアスカを誰かがキャッチした。
「大丈夫?」
「アス、ナ……?」
声を漏らすアスカ。そのあとに落下するボス。
「全員全力攻撃!囲んでいい!」
二人はなにか言いかけたが、キリトの声で攻撃に加わる事にした。あ、いやアスカは武器無いから後ろで待機。
「お……オオオオオッッ‼︎‼︎」
ガードしてた分、よくやってくれたなとでも言わんばかりにエギルと壁五人が叫んで、ボスを袋叩きにする。これでボスが起き上がる前にHPを削り切れば、こっちの勝ち。ダメなら、また全方位攻撃が飛んで来る。
そして、エギル達がトドメを刺そうとスキルの予備動作に入った時、ボスが起き上がった。
「アスナ!」
キリトは名前を呼び、アスナも頷いた。そして、ボスが飛ぶ前に、アスナのリニアーが脇の下に突き刺さった。そして、わずかに遅れたキリトのバーチカル・アークがボスを斬り裂いた。起き上がる気力を失い、後ろに倒れるボス。そして、身体に無数のヒビが入る。そのまま四散した。
全プレイヤーの前に、【congratulations!】の文字が浮かんだ。
しばらく静寂が包んだ。が、すぐに全プレイヤーの歓声が弾けた。両手を突き上げて叫ぶ者、仲間と抱き合う者、みんながみんな、それぞれのやり方で喜びを表していた。
エギルがキリトに手を差し出した。
「見事な指揮だったぞ。そしてそれ以上に見事な剣技だった。コングラチュレーション、この勝利はあんたのものだ」
キリトもそれに応じて手を伸ばす。後ろで待機してたアスカが立ち上がった。そのアスカの前にアスナが立った。
「お疲れ様。アスカ」
笑顔で手を差し出してくる。アスカはどうしようか悩んだものの、とりあえず聞いてみることにした。自分の姉なのかどうか、「あのっ……」と口を開きかけた時、
「なんでだよッ‼︎」
怒声が響いた。何事かと思い、アスナもアスカもその声のほうを見た。そこには、ディアベルの仲間だった男がくしゃくしゃになった顔でキリトを睨んでいた。
「見殺し……?」
「だってそうだろ!あんたはボスの使う技を知ってたじゃないか‼︎あんたが最初からあの情報を使えてれば、ディアベルさんは死なずに済んだんだ!」
その台詞に周りが騒めいた。「そういえばそうだよな…」「なんで?攻略本にも書いてなかったのに……」という声が広がる。そして、ようやくある一人がキリトを指差して言った。
「オレ……オレ知ってる!こいつ、元ベータテスターだ!だから、ボスの攻撃パターンとか、旨いクエとか狩場とか、全部知ってるんだ‼︎知ってて隠してるんだ‼︎」
そこにエギルのパーティメンバーの一人が口を挟んだ。
「けどさ、昨日配布された攻略本に、ボスの攻撃パターンはベータ時代の情報だ、って書いてあったろ?彼が本当に元テスターなら、むしろ知識はあの攻略本と同じなんじゃ無いのか?」
「そ、それは………」
押し黙るそいつ。だが、震える声で言った。
「あの攻略本が、ウソだったんだ。アルゴって情報屋がウソを売りつけたんだ。あいつだって元ベータテスターなんだから、タダで本当のことなんて教えるわけなかったんだ」
その台詞が限界だった。アスカが口を開いた。
「さっきから聞いてればいいきゃげ……んんっ!いい加減にしろよ」
噛んでしまったが、それをツッコませない程の迫力があった。
「そんな事してキリトやアルゴになんの得があるんだよ。むしろ、クリアが遅れるだけだろうが。八つ当たりしたいだけなら海に向かって全力シャウトでもしてろよ」
「なっ……」
「ちょっとアスカ……!」
アスナは止めようとするがアスカは止まらない。
「大人なら少しは人のせいにすることから卒業しろよ。聞いてて不愉快になることペラペラうるせーんだよ。これ以上喚くなら本当殺すぞお前」
「な、なんだと……!戦闘中に武器折られた雑魚に言われたくねぇよッ‼︎負け犬は引っ込んでろよ!」
負け犬、の言葉がアスカにひどく突き刺さった。その直後、頭に浮かぶ過去の記憶。今まで、姉とは違い、負けてしか来なかった人生。そして、目の前にいる姉にそっくりの人物。思わず、嗚咽が口から漏れそうになる。
その事を知ってるキリトは、思わず反論しようと口を開きかけた。だが、その前に、ハッキリした声が響いた。
「この子は、負け犬なんかじゃない」
アスナの声だった。アスカは、思わずアスナを見上げた。凛とした表情で、真っ直ぐとした目で、文句を言った男を睨む。その視線に、男は思わず怯んだ。
「行きましょう、アスカ。あと、あんた」
「はいっ」
アスカと、多分自分が呼ばれたと思ったキリトは即答した。そのまま三人は、第二層へと上がった。