あの後、なんやかんやでシグルドを追っ払ったり、キリトが調子こいて金全部サクヤに渡したりしていたが、まぁそれでも何とかなった。
で、今はその翌日。ALOにメンテナンスが入り、和人、直葉、明日奈は病院に来た。ついこの前に、未だ囚われている300人のうち、128人がログアウトしたと聞いて、明日奈も和人もダッシュで病院を見に行ったのだが、明日香は目が覚めていなかった。
(あの人が、アスカさんか……)
直葉が明日香を見て、少しそう思った。
「………多分、アスカが何かやったんでしょうね」
明日奈が呟いた。
「にしても、なんか明日香の汗ヤバくないか?」
「本当ね。どうかしたのかしら……。もしかしたら、須郷に何かされてるんじゃ……!」
「………でも、今は俺たちには何も出来ないよ」
自虐的に言う和人。明日奈も反論は出来なかった。
「帰ろう。そろそろメンテナンス終わる」
「……そだね」
三人はは帰宅した。
○
ALOに入った。
「さて、頑張ろうか!もう少しだよ!」
と、意気揚々に言うリーファ。キリトもアスナも本気の顔になっている。で、アルンの街をしばらく歩いてみると、デカイ樹が見えた。太くて巨大な樹、まるで宇宙まで繋がっているかのような大きさだった。
「……これが、世界樹………」
アスナか声を漏らした。
「これ、外から登れないのか?」
「幹の周囲は進入禁止エリアになってて、木登りは無理みたいだね。飛んで行こうとしても、羽に限界が来ちゃうよ」
「何人も肩車てして限界を突破した連中がいるって話を聞いたんだけど」
「GMも慌てたみたいで、すぐに修正が入っちゃったの」
「なるほどな、とりあえず根元まで行ってみよう」
「ん。りょーかい」
軽く頷きあい、三人は世界樹に向かってまた歩き始めた。しばらく歩いてると、前方に大きな石段と、その上に口を開けるゲートが見えてきた。そのゲートをくぐろうとした時、ユイがいつになく真剣な表情でキリトの胸ポケットから顔を出した。
「ママ……ママがいます」
「な……本当⁉︎」
キリトよりアスナが先に聞いた。
「間違いありません!このプレイヤーIDは、ママのものです……座標はまっすぐこの上……ひゃあっ!」
キリトもアスナも我先に飛び出した。ものっそい勢いで垂直に飛ぶ二人。
「うえっ⁉︎ふ、二人とも!」
慌ててリーファも追い掛けたが、二人には追いつかなかった。
「気をつけて!すぐに障壁があるよ!」
言われて案の定、二人は壁に阻まれる。すると、キリトはアスナを見た。
「アスナ!」
「うん!」
まるで、長年コンビを組んでいたような、お互いとアスカにしか分からない合図。二人はモーションだけヴォーパルストライクとフラッシングペネトレイターを障壁に放った。だが、当然効果はない。ようやく追い付いたリーファが二人の腕を掴んだ。
「やめて!無理だよ、そこから上には行けないんだよ‼︎」
リーファの声でようやく二人は落ち着く。すると、キリトのポケットからユイが出てきて障壁に手を置いた。
「警告モード音声なら届くかもしれません……!ママ‼︎私です!ママー‼︎」
○
アスカは、セル編の悟飯のように破れた服装のまま、両手を天井にロープで繋がれていた。アレから、暴力的に精神的にも性的にもオベイロンに叩かれ、ほとんど抜け殻状態の表情だ。だが、
『…………‼︎』
耳元で声がした。それでも、大して気にしなかった。幻聴なんてよくあることだったからだ。だが、
『……ママ……‼︎』
「……………っ?」
明らかに聞き覚えのある声だ。
『ママ、ここにいるよ……‼︎』
その声は、アスカの頭の中に直接響くような声だった。
「ゆい、ちゃん……?」
アスカの目に、光が戻った。
『ママ……‼︎』
ハッキリ聞こえた。そして、ユイがいるならキリトもいるはずだと速攻で思った。それから、アスカの判断は早かった。
そして、自分が万が一にも一回目の脱出で逃げ損ねた時のために、用意していたパターンを思い出す。机の上にある、パーフェクトグレードユニコーンを作った時に使ったカッターを足で摘むと、自分の脚を勢いよく振り上げ、自分を縛っているロープを切った。
そのまま繋がれたままの手で暗記したロックナンバーを解除し、鳥籠を出た。今までこの方法で脱出しなかったのは、一つはオベイロンの行動パターンを把握するためだ。せっかく脱走したのに、また同じように捕まるのでは意味がない。そして、もう一つはあの《実験台格納庫室》にもセキュリティが出ている可能性が掛けられていると思ったからだ。いくらアホのオベイロンでも、そのくらい頭は回るだろう。
だから、確実に自分を助けてくれるであろう人物が来るのを待つまでは、動かなかった。どんなオベイロンのお仕置きにも耐えてみせた。
(今行くからね、キリト)
そう心の中で呟くと、アスカは鳥籠の前の木の道の上で深呼吸し、思いっきり飛び降りた。