滑り込みでエントリー用の端末に触れた。
「登録の操作は分かる?」
「フィーリングでやってみるよ」
「そう、わからなかったら聞いてね」
シノンは優しく言って、自分の登録を進めた。アスカも端末を弄ってみる。そんな複雑な物ではなかったので、特に質問することなくスイスイと必要事項を記入していく。が、住所というのが目に入った。
曰く、ここを入力しないと入賞賞品がもらえないらしい。
(別にそれが目的じゃないし……いっか)
テキトーに「M78星雲光の国」と入力した。
「終わった?」
「あっ、はい。あの、本当にありがとうございました。何から何まで」
「ううん。バギーで走るの、ちょっと楽しかったし。それより予選のブロックはどうだった?」
「えーっと、Fブロックですね。Fの三十八番」
「あ、私と一緒。じゃあ当たるとしたら決勝だね」
「は、はぁ。その時はお手柔らかに……」
「もう決勝まで来る気でいるんだ?」
「あっいや、その時はの話ですよ!」
「冗談よ。その時は手は抜かないからね」
「あ、あはは……」
容赦のない一言に苦笑いで答えた。
○
そんなこんなで、一回戦目となった。アスカは欠伸をしながらまったく緊張感なく、フィールドに転送される。その様子をシノンは少なからず興味を抱いた様子で見ていた。なんせ、剣を使うやつなど初めてだからだ。
で、モニターに【アスカvs餓丸】と出て来る。
「………アスカ様?」
そんな声が聞こえた。シノンはそっちを見ると、1人の男性プレイヤーが呟いていた。
「まさか、そんなワケねぇだろ。あの人がこんなキナ臭いゲームにいるはずねぇ」
「名前が偶然被ったか、真似してるかだろ」
と、そんな噂話が耳に入り、シノンは顎に手を当てた。
(アスカって、有名な人なのかしら)
すると、試合開始。アスカは自分が何処にいるか分からない様子で、キョロキョロしていた。
(そういえば、試合のルール教えるの忘れちゃったけど、大丈夫かしら)
少し不安そうに見てると、アスカの頭に弾道予測戦が通る。その直後に弾丸が迫った。
(あーあ……)
終わったわね、とでも言わんばかりにため息をついたが、モニターのアスカはそれを躱した。
(躱した⁉︎)
そして、狙撃位置を確認すると、いつの間に買ったのか、ワイヤーを片方の光剣に括り付け、それを壁やら木やらに突き刺して、ターザンのように進んだ。
「おい見ろよ!あのワイヤーと速さ!」
「やっぱアスカ様だ!」
「ロリアスカ様だ!」
「うおおお!GGO始めてよかった!」
「ナデナデしたい!」
「膝の上に乗せたい!」
「おまわりさん、こいつらです!」
などと声が上がる。
(アスカって何者なのよ……)
モニターの中のアスカは、更に加速し、一気に敵まで距離を詰める。が、自分の足元にマシンガンを乱射され、思わず大きく上にジャンプしてしまった。空中では身動きを取れないと思った餓丸は、舞い上がったアスカにマシンガンを乱射する。
が、アスカは空中で光剣の2本目を抜き、マシンガンの弾丸を全て弾きながら接近する。
『ヤァアアアアッ‼︎』
「「「ふおおおおおおお‼︎」」」
アスカの雄叫びと、モニターを見ていた男達の合唱が重なる。アスカの光剣は、空中からのモーションだけバーチカル・スクエアで餓丸の身体を真っ二つにした。
『アスカ様、ばんざぁああああいッッ‼︎』
『ふぁっ⁉︎』
「「「うおおおおおおおおおおッッ‼︎」」」
男達の合唱。シノンはうるさげに耳を塞いで、迷惑そうに男達を見た。すると、ボロマントのプレイヤーが1人、静かに席を立ったのが見えた。が、さほど気にしないでアスカの対策を考えることにした。
○
「ふぅ……」
アスカはお疲れの様子で息をついた。
(これが、GGOか。SAOとは全然違うな……)
素直な感想だった。最初の一撃を避けれたのは、なんとなく殺気を感じたからだ。SAOの時のラフコフ戦と同じ。はいそこ、クラディールの一撃は避けれなかったとか言わないように。
「とにかく、少し休もう」
ウィーンッと未来的な音でアスカは部屋を出ると、目の前にボロボロのマントを被った男が現れた。
「っ⁉︎」
顔は骸骨のようなおそらく仮面を被っており、まるで死神のような外見だった。
「おまえ、本物、か」
「………はっ?」
質問の意味が理解できずにそんな声が漏れた。
「誰あんた?私の知り合い?」
身長差があるので睨んでも上目遣いにしか見えないが、アスカは精一杯睨み返した。
「試合を、見た。剣を、使ったな」
「………えっ、ダメだった?」
「そうでは、ない。もう一度、聞く。お前は、本物、か」
「…………」
剣、と言われてアスカに思い付くのはSAOとALOしかないし、ALOで自分に憎しみがある奴がいるとしたら、須郷くらいしか思い付かない。その須郷は未だ服役中のはずだ。
(ああそうか。こいつSAO生還者か)
すぐにそう思った。アスカはどうしようか迷ったが、答えた。
「悪いけど、あんたの言う本物が何のことだか分からない。というか、話があるならまず名前を名乗れよ」
「………」
すると、ボロマントはヒュンッとトーナメント表を出した。その時、マントの中の手首の内側に、アスカの視線は吸い寄せられた。
「ッッ‼︎⁉︎」
アスカはそれを見て少なからず動揺した。そこにあったのは、『笑う棺桶』のエンブレム。
(マズイ……動揺するな!悟られる!)
幸い、目の前の奴は未だにトーナメント表に向いてる。アスカはなんとか自分の中で抑えた。そして、男はトーナメント表の「アスカ」の文字を指差した。
「この、名前。あの、バーチカル・スクエア。あの、馬鹿騒ぎ。お前、本物、なのか」
聞かれるがアスカは答えられない。唇が震えたまま動けない。今、声を発すると動揺が悟られる。いや、震えてる時点でバレてるかもしれない。
(マズイ……な、なんとか誤魔化さないと……!)
震えた口調で、どう誤魔化すか悩んだ結果、アスカは言った。
「は、はくしょーん!」
わざとらしかった。で、相手の様子を伺う。すると、ボロマントの後ろからバタバタと男達が走って来た。
「アスカ様ー!」
「サインくれぇー!」
(ッ! バカ!今、そんなん言われたら、目の前のコイツに気付かれ……!)
と、思ったが、目の前のボロマントは舌打ちして去って行った。
(気付かれたか……?)
アスカは不安げにボロマントの方を見た。が、ボロマントはこっちを見ることなく、立ち去った。