ダインを始末しようとしたが、その前に誰かに始末されてしまった。アスカはその場で辺りを見回す。
自分が仕留める前にダインに向かっていた予測線を逆算すると……と、そっちを目で追うと、自分に予測線が出ていた。
「あぶなっ‼︎」
慌てて首を曲げると、銃弾が飛んで来た。おそらく、山岳地帯の方、ここから登りながら向かったんじゃ、いくら早くても狙い撃ちにされるのがオチだと判断したアスカは、隣の都市廃墟方面に逃げ出した。
○
山岳の上の方で、ダインを撃ってアスカを狙っていたシノンは、立ち上がった。
(………逃したか。相変わらず化け物ねアスカ)
そう心中で呟くと、武器を担いでアスカの移動した先を見る。
(けど、あっちは都市廃墟。スナイパー有利の場所、今度こそ仕留めてやるんだから)
そう決めると、シノンも移動を始めた。で、移動すること数分後、都市廃墟に到着したが、アスカの姿はない。アスカが去ってから割と早く追いかけたのだが、全く見当たらなかった。
(どんだけ足速いのよあの子……)
呆れ気味に狙撃ポイントを探すシノン。そして、ビルの中に入ろうとした時だ。
シュドッと自分の胸に何かが突き刺さった。銀色の針のようなものが。ドサリと前のめりに倒れるシノン。
「………えっ?」
思わず声が漏れた。自分が撃たれた、というのにようやく気付いた。しかも、電磁スタン弾。身体が動かなかった。
(な、何が起こって……)
一瞬、アスカにやられたのかと思ったがその可能性は搔き消した。あの子がこんな回りくどいやり方するとは思えない。すると、目の前にボロマントの男が立った。そして、拳銃をシノンに向ける。
「ッ⁉︎」
そして、その時の銃を見てシノンは思い出した。思い出してしまった。自分が小学生の時に、自分が人を殺した時の銃を。黒星。五四式。
(なん……で、いま、ここに、あの銃が)
頭が働かなかった。パニックになりそうになるのをグッと堪えるので精一杯だった。そんなシノンに構わず、ボロマントは引き金を引こうとした。その時だ。
「待て待て待て待て待てェエエエエエッッ‼︎‼︎」
叫び声と共に上から小さな物体が降って来た。
「ッ⁉︎」
そして、その小さいのは思いっきりボロマントに斬りかかった。ボロマントは後ろに仰け反って回避するが、マントに光剣が擦り、マントに傷が入る。
「アスカ……?」
シノンがそう声を漏らす。アスカはシノンを一瞬見下ろすと、すぐにボロマント……死銃を睨んだ。
「やっほー。死銃」
「……やはり、貴様か。忍び、アスカ」
「……その呼び方、DDAだけで流行ってたんじゃないの?」
「他にも、あるぞ。天使、女神、神・アスカ……」
「やめろ!ていうかやめてください!」
懇願すると、死銃は黙った。
「で、あんた誰?ラフコフだよな?」
「その、通りだ。だが、お前は俺を、絶対に、思い出せない」
「いやどうでもいいし別に。あんたはここで仕留める」
「やって、みろ」
そのままアスカは死銃に斬りかかった。
○
その様子をモニターで見ながら、思わずキリトはグラスを落とした。
「ラフコフ、だと……?」
聞こえてきたアスカの台詞に、キリトが思わず声を漏らした。
「う……嘘だろ……あいつ……まさか……」
「ラフコフって……」
「なんで、そんな奴が、GGOに……?」
クライン、リズ、アスナも震えた声を出す。
「あの、ラフコフってなんですか?」
唯一、SAO生還者ではないリーファが聞いた。シリカがラフィンコフィンについて説明してる中、アスナが呟いた。
「……なるほどね。カタをつけるってそういうことだったんだ」
「あの野郎……」
クラインも奥歯を噛む。キリトがダンッと拳を机の上に振り下ろした。
「………そういうことか。アスカ」
「キリトくん……?」
「アスカが何の事情もなくコンバートしてまでGGOを始めるとは思えない。多分、菊岡辺りから依頼されたんじゃないか」
「依頼って、何のよ?」
「それは分からない。だから一旦落ちて確かめてくる」
そう言うとキリトはログアウトした。
○
都市廃墟。そこでは決勝の中でも特に激しい戦いが繰り広げられていた。狙撃するボロマントと、それをガードするなり躱すなりして、接近するアスカ。ほとんど互角だった。
「チィッ……!」
舌打ちしながらアスカはビルの陰に身を隠した。
「近付けない……。なんて奴だよ畜生」
そうぼやいてる間も、死銃は銃を構えて近付いて来ていた。いつの間にか、シノンの姿はない。
「…………」
アスカはホイッとビルの陰から光剣のスイッチを入れたまま投げた。
「っ!」
死銃はその光剣に銃を向け、撃った。だが、自分が撃ったところには光剣しかなく、アスカの姿はない。
「そこっ!」
その一瞬の隙を突いて、アスカは接近し、剣を抜いた。下から斬りあげた。後ろに仰け反って回避したものの、ボロマントのライフルを破壊した。
「ッ‼︎」
「もらった……!」
さらに振り上げた剣を振り下ろそうとした。だが、壊したはずのライフルの辺りから、ビュオッとものすごい勢いでスタースプラッシュが放たれた。
「うおっ⁉︎」
後ろにバク転しながら回避した。
「……金属剣?」
「ふ、ふふ、勝負は、ここから、だ」
「はぁ?本気で言ってんの?前のラフコフ討伐戦の時を忘れた?あの時、私の剣速にまともについて来れた奴なんてPohくらいしかいなかったってこと」
「そう、思うなら、そう思っていれば、いい。それが、お前の、敗因と、なるからな」
「……言ってくれんじゃん」
アスカは光剣を握り直した。そのままお互いに睨み合うこと数秒、お互いの大きく踏み出した。ホリゾンタル・スクエアの最初の一撃がお互いの首に迫った。が、ピタッとそれが首の手前で止まった。
反対側の手でお互いの手を掴んで止めていた。いち早く反応したアスカは、両手にぶら下がりながら全身を使って脇腹に廻し蹴りを叩き込んだ。小さくてもステータスはまんまなので、思いっきり壁に叩き付けた。
そのまま、シューティングスターを放とうとしたが、その前に掴まれていた腕を振り回され、投げ飛ばされた。
「うぐっ……!」
壁に叩き付けられたアスカを死銃は追撃し、フラッシング・ペネトレイターを放った。壁に思いっきり金属剣が突き刺さり、ゴガッとコンクリートを抉る音が響いた。
「…………」
感触が明らかに人を刺した時のものではない。見ると、アスカは死銃の腕にぶら下がっていた。ニタッとアスカは笑うと、足を振り上げて死銃の顎を蹴り上げた。蹴られて後ろに舞う死銃。それをアスカは光剣で突き刺そうとした。その時だ。その2人に弾丸が何発も飛んで来た。
「「っ⁉︎」」
横を見ると、闇風がお得意のラン&ガンで突っ込んで来ていた。
「チッ……‼︎」
アスカは舌打ちすると、ボロマントを盾にするようにして、その場から逃げ出した。