シノンの話を黙ってアスカは聞いた。小学生の時、銀行強盗を銃でぶっ殺して、それ以来銃を見ることが吐くほどトラウマになってるらしい。
「………ふぅ、ん」
その話を聞いて、アスカは思わずうつむいた。自分達SAO生還者以外にも、その手のトラウマを抱えた人はいる。大変なのは自分達だけではないことを知った。
何より、ラフコフのことなんて、SAOクリア後にすぐ須郷に捕まり、さらにその直後にキリトとお付き合いを始めたりしてて、思い出すことがほぼなかったなんて言えなかった。
「………え、えと……」
なんて言おうか悩んだが、おちゃらけたことを言える雰囲気ではない。自分なりの考えを述べるべきだと思い、言った。
「過去にやってしまったものは、今更どう足掻いたって変えられない。変えられないもので苦しむなら、少しでも前に進んだ方がいい、私はそう思います」
「……無理、だよ。あんな事、簡単に忘れられるわけ、ない……」
「忘れるんじゃない、背負うんだよ」
「背負う?」
「どんな理由にせよ、人を殺したのは確かだ。なら、背負い込むしかなでしょ。それら全部引っくるめて、前を見るしかないんだよ」
「…………」
俯くシノンの横で、アスカは残りの人数を数えた。何人か減っていた。
「………チィッ、これ以上はやらせない」
言うと、アスカは立ち上がり、ヴォンッと光剣を出した。
○
ALO。キリトが連れて来たのはクリスハイトだった。
「やぁやぁみんな、僕に用ってなん……」
言いかけたクリスハイトの胸ぐらをキリトが掴んだ。
「何を依頼した」
「へっ……?」
「惚けるな!アスカに何を依頼したかって聞いてんだよ!」
「ち、ちょっと落ち着いてキリトくん。話す、話すから手を離してよ」
言われて、手を離すキリト。
「……にしても、何から何まで説明すると、ちょっと時間が掛かるかもしれないなぁ。それにそもそも、どこから始めていいものか……」
「なら、その役は私が代わります」
そう言うのはユイだ。真面目な表情でユイは今まで起こっていた死銃事件を説明した。
「……これは、まったく驚いたな。そのおちびさんはALOサブシステムの『ナビゲーション・ピクシー』だと聞いたけど……この短時間にそれだけの情報を集め、その結論を引き出したのか。どうだい君、ラー……いや、《仮想課》でアルバイトする気はないかな?」
「おい、話をはぐらかすな。って事はお前、アスカを殺人事件に巻き込んだってのか」
「ちょっと待ったキリトくん。殺人事件ではない。それが、その二件の事例についてたっぷり話し合った、僕とアスカくんの結論なんだ」
「ン……だと?」
「だって考えてみたまえよ。どうやって殺すんだ?アミュスフィアはナーヴギアではない。それを最もよく知っているのは君達だろう。どんな手段でも脳に毛ほどの傷もつけられないんだ。それを僕とアスカくんはリアルでたっぷり議論し、最終的にそう結論づけた」
「ならなんでアスカをGGOに行かせたんだ」
キリトに問い詰められ、クリスハイトは黙った。今度はアスナが口を開いた。
「……あなたも感じてるんでしょう?何かあるって、あの死銃ってプレイヤーは、何か凄く恐ろしい秘密を隠してるって」
「…………」
黙り込むクリスハイトにキリトが言った。
「クリスハイト、知ってるか。死銃は俺たちと同じ、SAO生還者だ。しかも、ラフコフのメンバーだ」
クリスハイトの長身がピクッと動いた。
「……本当かい、それは」
「ああ。つまり、死銃がゲームの中で人を殺すのは、今回が初めてじゃないんだ。これでもまだ偶然だと言うのか?」
「だ、だが……ならば君は超能力や呪いが実在する、と。死銃はSAO時代に何らかの超常の力を身につけ、そのパワーで今まで人を殺しているんだ、と」
「……いや、何か必ずトリックがあるはずなんだ。もしかしたら、GGOにしか出来ないものかもしれない」
言いながらキリトは顎に手を当てて考えた。しばらく難しい顔をしたあと、言った。
「なぁ、ユイ。ゼクシードも薄塩たらこも、確か過去にBobの出場経験のあるプレイヤーだったよな」
「? はい。そうですけど……」
「その二人を死銃は全部拳銃で撃っていた。そして、死因は心不全……。そうか。もしかしたら死銃は二人いるんじゃないか?」
「えっ⁉︎」
「どういうことだキリト!」
クラインが声を荒げた。そのクラインを見て、キリトは開設した。
「というか、普通に考えればこれしか考えられない。GGOの死銃があの拳銃を撃つとき、それはリアルでそのプレイヤーをもう一人の死銃が殺しているんだ」
「! なん、だと……⁉︎」
「あくまで想像だけど、そうとうしか考えられない。住所は……もしかしたら、Bobのエントリーの時に書くのかもしれないな。それを後ろから覗いてたのかもしれない」
「お兄ちゃんのその仮説が正しいなら、さっきアスカが助けた髪の青い人、危ないんじゃないの⁉︎」
リーファが言うと、「どういうこと?」とリズが視線で聞く。
「だって、拳銃で狙われてたじゃん。もう、殺す準備が整ってるってことなんじゃないの」
「確かに……!おい、クリスハイト。あの青い髪の子の事は分かるか?」
「さぁ……調べればわかるかもしれないけど……」
「なら、あの子の住所を調べるんだ。すぐに助けに行く」
「ダメよ、キリト!殺人犯がいるかもしれないのよ⁉︎危険だわ!そこは警察に……!」
リズが言うも、キリトは首を横に振った。
「さっきのはあくまで俺の想像だ。証拠はない。そんなので警察が動くとは思えない」
「………確かに」
「クライン、一緒に来れるか?」
「おおよ!」
クラインは威勢良く答えた。
「でも、Bobの方の死銃はどうするんですか?」
シリカが聞くと、キリトはニヤリと笑った。
「そっちは、SAOの英雄様に任せようぜ」
キリトはモニターを見ながら言った。