そんなこんなで、お互いに自己紹介して、二人は三十五層の主街区を歩いていた。その途中、何度もいろんな男に声をかけられた。
「あ、あの……お話はありがたいんですけど……しばらくこの人とパーティを組むことになったので……」
シリカがやんわりと断るたびに、男はジトーっとアスカを睨んだ。
「おい、あんた。見ない顔だけど、抜け駆けはやめてもらいたいな。俺らはずっと前からこの子に声かけてるんだぜ」
これは自分が男だと思われてるパターンだなと思ったアスカは睨み返した。アスカ自身は睨んでるつもりはなかったのだが、相手より背が低いからか、睨んでるように見られたのだろう。「ひっ」と小さく悲鳴を上げて逃げた。
「………シリカちゃん」
「なんですか?」
「私、そんなに男っぽいかなぁ……」
「あ、あははっ……」
苦笑いで視線をそらされた。そんな感じで、歩いてると目の前にどっかで見たことある女がいた。そいつはすぐにシリカに気が付いた。
「あら、シリカじゃない」
「……どうも」
初っ端から警戒心ビンビンのシリカ。シリカと喧嘩した女、ロザリアだ。
「へぇーえ、森から脱出できたんだ。よかったわね」
「急いでますから」
シリカは会話を切り上げようとした。だが、ロザリアは一番気付かれたくない事に気づいた。
「あら?あのトカゲ、どうしちゃったの?」
言われて、シリカは下唇を噛んだ。それに容赦なくロザリアは唇を歪ませて言った。
「あらら、もしかしてぇ……」
「その辺にしたら?」
そのシリカの前にアスカが立った。
「あんたの言う通り、死んだかもしれないけど、三日あれば復活できる」
「ふうん。てことは、思い出の丘に行くつもりなんだ?」
「そうだよ」
「あんたにクリアできるの?見たところ、そんなに強そうじゃ無いけど」
「どうとでも言えばいいさ。行こう。シリカちゃん」
シリカの肩に手を置いた。なぜか、ドキッとするシリカ。アスカはシリカを連れてその場から去った。
○
で、宿屋。食事を終わらせて、部屋。
「じゃあ、明日の予定決めちゃおっか」
「は、はい!」
アスカはミラージュ・スフィアを取り出した。
「……きれい。何ですか?」
「ミラージュ・スフィア、アインクラッドの層を丸一つ表示してくれるんだ」
で、それを手早く操作するアスカ。
「ここが、四十七層の主街区。ここからこっちに出ると思い出の丘が……」
と、言いかけたところで声が途切れた。
「どうしたんですか?」
「ううん。なんでもない」
言いながらアスカはシリカにメッセージを飛ばした。
『黙って適当に相槌して』
まったく変わらない口調で説明しながらアスカは扉に近付いた。
「この橋を渡ると、もう丘が見えてくるか、ら!」
思いっきりドアを開いた。ガッ!と音がして、シリカは何事かと思い、部屋から出ようとした。だが、手のひらだけでアスカに止められた。そのアスカは、ドアに当たって後ろに転んだ男に言った。
「誰だよあんた。何してた?」
「ッ!」
冷たい目で見下ろすアスカ。その男はすぐに立ち上がり、隣の部屋に逃げ込んだ。
「………隣にいたのか……。迂闊だった」
「ど、どうしたんですか?」
「シリカちゃん。今日は一緒に寝よう」
「ふえっ⁉︎」
顔を真っ赤にするシリカ。
「なっなっなっなんでですかいきなり⁉︎」
「それと、私と一緒の時以外で部屋を出ちゃダメだ。少なくとも明日までは。いいね?」
アスカの顔は至って真面目だ。多少照れながらもシリカは渋々頷いた。で、明日の予定を話し終わり、二人はベッドに入った。
「じゃ、おやすみ。シリカちゃん」
「はい」
アスカはそう言うと電気を消した。
○
翌日。早速、シリカとアスカは転移門へ。四十七層の転移門の広場は、恋人だらけだった。その瞬間、シリカは顔を赤くする。
(わ、私たちもそう見られてるのかなぁ……でも、アスカさんは女の人だし………)
「行くよ、シリカちゃん」
「は、はい!」
アスカに声を掛けられてシリカは慌てて後を追った。そのままフィールドに出て、しばらく歩く。
「なんか、アスカさんってお兄ちゃんみたいですね」
「お、お兄ちゃん?お姉ちゃんじゃなくて?」
「は、はい。雰囲気的に……」
「は、ははは……そっか。お姉ちゃんがいるから、小さい頃に自分がてもらってたようにしてあげてるつもりだから、せめてお姉ちゃんだと思ってたけど……」
「お姉さん、いるんですか?」
「うん。この、アインクラッドにね」
「! そ、そうなんですか⁉︎会ってみたいです!」
「私は、会いたく無いんだけどね……」
「へっ?ど、どうしてですか?」
シリカに聞かれて、若干表情を暗くして答えた。
「私、母さんが厳しい人でさ。幼稚園に入った頃からお姉ちゃんも私も試験の連続だったんだ。だけど、お姉ちゃんは優等生で私は落ちこぼれ、わたしは周りから比較されるのが嫌で、現実から目を背けるためにこのゲームを始めたんだけどさ。お姉ちゃんも、このゲームをやってたんだ」
「つまり、お互い知らないところで同じゲームを始めてたってことですか?」
「うん。お姉ちゃんも理由は現実逃避。だけど、私とは違って、勝者のプレッシャーが嫌だからっていう理由だった。私がどんなに頑張っても手に入れられなかったものを持ってる人がそんな事でって、二年前に私はお姉ちゃんに怒鳴るだけ怒鳴って逃げ出してね。それ以来、ほとんど顔も合わせて無いんだ……」
俯いて語るアスカにシリカは言った。
「……わたしは、親も厳しい人では無いですし、お姉ちゃんもお兄ちゃんもいないのでわかりませんけど、お姉さん、そんなに怒ってないと思いますよ」
「そうかな……」
「そうですよ。多分、アスカさんってお姉さんとゆっくりお話ししたことないんじゃないですか?」
「た、確かに……毎日、勉強だったから」
「だったら、一度お話ししてみたらいいじゃないですか。今はこんな状況ですが、逆に言えば勉強を忘れられる状況なんですよ?この機を利用しないともったい無いですよ」
言われて、アスカは少し考えた後、笑顔で言った。
「………そうだね。今度、話してみるよ。ありがとう、シリカちゃん」
その笑顔に、またまた顔が赤くなるシリカ。
(だ、だめだめだめ!アスカさんは、女の人なんだから!)
心の中でそう思いつつも、心拍数は上がっていた。