天使たちの中枢機関『ゼブル』に到着したノアとガブリエルは、光り輝く神殿に続く道を歩いていた。先ほどまで普通に話していた二人の間には、重い雰囲気が漂っていた。別に何かあったというわけではない。ただ、ノアの雰囲気が一瞬で真剣な物へと変わり、それにガブリエルが対応しきれずに会話がないだけである。
(はわわわわわ! どうしましょうどうしましょう! こ、こんな重い空気感じたことないです!)
心の中ではあたふたと焦っているガブリエル。もしかしたら、全勢力が最も恐れている「ノアの神」かもしれない少女を連れていると思うと、どうしても平常心を保つことができなかった。
ガブリエルは、昔日本生まれの聖剣使いから聞いた「焦った時は掌に三回人の字を書くと落ち着く」という方法をやってみたのだが、落ち着くどころか逆に心臓の鼓動が早くなってしまった。
「つつつつ着きました! こ、こここここがミカエル様がいる部屋でしゅ!」
「・・・・・」
(何か言ってくださあああああああい!)
ミカエルがいる神殿の最深部にある部屋の前まで来た二人。言葉が詰まり、最後には噛んでしまったガブリエルの言葉に、ノアは一切の反応を見せずに扉を見据えていた。
既に精神が限界を超えようとしていたガブリエルを置いて、ノアは扉を開けて部屋の中に入る。
「初めまして。私の名はミカエル、天使の長をしています」
「・・・・・ノアだ」
あまりにも低く、威圧を放つ声に全身の毛が逆立つミカエルとガブリエル。神に生前会った時にも、こんな緊張はなかった。それはノアが、幾多の死闘を潜り抜けてきたことを自然と分からせていた。
「まあ立って話もなんですから、一度お座りください」
顏には冷や汗が浮かんでいるが、それでも笑顔を絶やさないミカエルに勧められ近くにある椅子に腰かけるノア。ガブリエルはというと、足早にノアから離れミカエルの元に去っていく。
「確認いたしますが、貴女がアザゼルの言っていた『ノアの神』ですか?」
「別に私は神と言われる謂れは無い。私はただのノアだ」
冷たく、抑揚のない声で返すノア。全く身に覚えのない事で神として扱われていることに少し腹を立てているのだ。自分を全知全能の存在をして扱われて嫌な思いをする者はおそらくいないだろう。だがノアは違った。
守護神 古の文明が作り上げた神 宇宙の意思が遣わした絶対神 全てを創り上げた創造神
どの次元の、どの文明の、どの人種もすべて、自分を神をして扱ってきた。その結果、ノアだけを頼りにし、滅びてしまった星もある。力を持つものはそれを扱うだけの覚悟がいるとはよく言ったものだ。強大な力を持てば、もはやそれは当人だけの問題だけでは到底収まらない物になる。その力に関わった者すべての責任になってくるのだ。
それをまだほとんどの者が理解していない。彼らもその一つだ。
「それでは本題ですが、貴女は何をしにここに来たのですか?」
「・・・君たちと話をするためだよ、
「っ! ど、どういうことですか!? 貴女は、私たちが相応しくないとでも言いたいのですか!?」
声を上げるガブリエル。だが、それでもノアの口は止まらない。
「
クレーリア・べリアル。かつての駒王町の領主であり、リアス・グレモリーの前任者にあたる女性の悪魔だ。だが、その情報はほとんどが抹消されている。まるで
それに関わってくるのが八重垣正臣という教会の戦士だった男だ。
「どうして貴女がその名を・・・」
「隠し事はしない方が身のためだということだ。情報はいつか漏れる」
これは一種の警告だ、自分に隠し事は一切通用しないというノアからの。
「かつて、駒王町にはリアス・グレモリーの前任者に当たる領主がいた。その名はクレーリア・べリアル。元七十二柱のべリアル家の末裔で、少し前に亡くなっているな。しかし、彼女が駒王町の領主だったということはリアス・グレモリー本人は知らない。これはなぜだと思う?」
ノアの問いかけにミカエルとガブリエルは答えない。二人とも、ノアから顔を反らしているのだ。その様子を見たノアはため息をつくと、再び声を発した。
「クレーリア・べリアルと八重垣正臣、この二人は恋仲になっていた。悪魔と教会の戦士という、絶対に結ばれない関係ながらもね。だが、悪魔側と君たちはそれを良しとしなかった。だから、処分したんだろ?」
「違います!」
机をたたいて声を上げたのは、ガブリエルだった。予想外の行動に、隣にいたミカエルすらも驚きを隠せないでいた。
「あれは・・・あの時は仕方がなかったんです! 天使と悪魔の関係は、戦争のせいもあって最悪と言ってもいいほどでした。そんな中で互いの勢力の、しかも、元七十二柱の血族に聖剣使いが恋仲になるだなんて、下手をしたら戦争が始まるかもしれなかったんですよ? 貴女はそれでも、私たちが間違っているというのですか!」
目元に涙を浮かべているガブリエル。たしかに彼女の言い分は正しい。だがそれでも、ノアには腑に落ちない部分があった。
「なら、なぜ粛正した?」
「っ! そ、それは・・・」
「二人の仲を引き裂くだけで事は済んだはずだ。なのに、君たちは二人の粛正を決めた。それも、悪魔たちと結託をして。いや、そもそも引き裂くという考え自体が間違っている」
怪しく輝く赤い瞳が、ガブリエルをしっかりと捉えた。
「二人の関係は君たちの関係を大きく変えることだったはずだ。手を取り合えないと思っていた二つの勢力が、手を取り合うチャンスであったはずだ。それを、君たちはみすみす握りつぶしたんだ」
「あ、貴女なんかになにが・・・!」
「もうやめなさいガブリエル。それ以上は、堕天する可能性がありますよ?」
ガブリエルの羽が白黒に点滅するのを見かねたミカエルが落ち着かせる。もうすでに、ガブリエルの顏は涙でぐしゃぐしゃになっていた。それほどまでに精神的に来ていたのだろう。
「貴女の言い分はよくわかります。確かに私たちは、悪魔側と向き合う機会を逃したともいえます。ですが、それを許してしまっては教会内、果てには天界にも不安が広がる可能性がありました」
「だから処分を決定したのか?」
「・・・はい」
ノアの問いかけに、ミカエルは肯定した。
天使という大きな組織を纏める者として、不在の神の代わりとしていままで努力をしてきた彼にとって、二人の出来事がどれだけ重いものを残したのかが傍から見ても理解できる。
「ならばなぜ、今回のアザゼルの和平に応じた? 今の君の言い分からすると、悪魔だけでなく、神に背いた堕天使たちと和平を結ぶことの方がよっぽど混乱が生まれるのではないか?」
「それは・・・」
「償いのつもりか? 今回の和平に応じれば、二人の事件を少しでも償えるとでも思ったのか?」
「違います! 私は、皆の事を思って・・・」
「ならばなぜ二人を殺す必要があった。一つの組織を纏め上げる者ならば、自分の下した決断がどれだけ重いものか分かっているはずだ。君が今やっていることは、矛盾以外の何ものでもないのだよ」
不安にさせないためにやった粛正。だが、より大きな不安と疑問を与えることになるであろう堕天使と悪魔との和平。ミカエルのやっている事は、ノアからしてみれば矛盾でしかなかった。
「君の下した決断は一生消えない。君が二人の命を奪ったことは事実だ。もし今回の和平で罪滅ぼしをしようと考えているのなら、今すぐに取りやめろ。君の私情を持ち込んでいい場ではないんだ」
あまりにも無慈悲で、痛烈な言葉にミカエルは顔を鎮めることしかできなかった。心のどこかでは、自分は二人の事をこれで無かったことにしようとしていたのかもしれない。そう考えただけで、胸が締め付けられるような痛みに襲われた。
すると、ミカエルの横に立っていたガブリエルがノアの元まで移動をする。ガブリエルは右手を振り上げると、そのままノアの頬目掛けてその腕を振り下ろした。
乾いた音が響き渡る。
「が、ガブリエル・・・・・」
あまりの出来事に、ミカエルは開いた口を閉じることが出来なかった。叩かれたノア自身は何も思っていないのか、表情を変えずにガブリエルの方に顔を向ける。一方のガブリエルはブルブルと震えながらも、目から涙を流していた。
「貴女なんかに・・・・・貴女なんかに何がわかるんですか! ミカエル様は、亡くなった主の代わりに今まで必死に頑張ってきたんです! 貴女がどれだけ偉いかは知りませんが、それ以上ミカエル様を責めるのはやめてください!」
それは、包み隠さず吐き出されたガブリエルの本心。ずっと傍でミカエルを見てきたからこそ、ノアの言動に腹を立て、手が出てしまったのだろう。
「なら君は、二人は死んで当然だと言いたいのか?」
「そ、そんなわけ・・・!」
「今の君の行動は、それを肯定していることになるぞ」
「っ!」
「その反応だと、そこまで考えていなかったようだな」
ノアの言葉に反論ができないガブリエル。彼女のいましがたの行動が、八重垣正臣とクレーリア・べリアルの死は必要だったということを肯定しているのだ。
「平和というのは甘くはない。八重垣正臣とクレーリア・べリアルのように、犠牲の上に成り立つ平和もある。君たちは今、彼らの死を無駄にしようとしているのだ。決して結ばれぬ運命にありながらも、互いを愛し合い、一生を生きようとしていた二人の人生を。ミカエル、君が下した決断は間違いだとは言わない。天使とは一般人にとっては平和の象徴だ。そんな天使たちに不安が起こるような事があれば、それは君たちを信仰している者たちへと広がっていく。だが、平和のためと名目して二人の死を、君が下した決断を有耶無耶にするな。君は一生その罪を背負って生きていくんだ。それは、君だけにしかわからないことでもある」
「私だけに・・・ですか?」
「そうだ」
ノアは椅子から立ち上がると、ゆっくりとミカエルの元へ歩みを進める。
「そこから先は君自身で答えを見つけろ。悩み、考え、そうしたことを繰り返して出した答えに意味があるのだ。諦めずに、答えを探し出せ」
「っ! はい」
今までの表情が嘘のように、明るく、何かを決意したかのような表情になったミカエル。それを見たノアは、次にガブリエルへと近づいていく。
「すまなかったな、君たちを責めるような言い方をしてしまって」
「い、いえ! 私の方こそ、感情に任せてあのような行動を・・・」
「別に気にすることはない、あれは私が悪いだけだ」
ガブリエルに謝罪をするノア。いくら
「それでは、私は失礼させてもらうよ」
「いえ。私たちの方こそ、お世話になりました」
一礼をして部屋から退出するノア。扉を閉めた瞬間、女の姿から男の姿へと変わり、着ていたローブも脱ぎ去る。
(クレーリア・べリアルの掴んでいた情報が原因で殺されたとは知らないようだな)
八重垣正臣とクレーリア・べリアルが殺された本当の理由。それは、クレーリア・べリアルが掴んだ悪魔の社会をひっくり返すほどのスキャンダルを抹消するため。その理由を隠すために、表面上は二人の許されぬ恋が原因とされている。ミカエルたちの反応を見ると、やはりこのことは悪魔側でしか知りえない情報らしい。
ノアが柄にもなくあれほど喋っていたのは、ミカエルたちがそのことを知っているかどうかを調べるためだ。
本来なら『ノアの神』についても聞こうと思っていたのだが、最早そのような雰囲気でもなかったため、今日のところはこれで終わらせたのだ。
着実に明白になっていく悪魔社会の現状に、一種の怒りともいえる感情を抱きながらも、ノアは人間界に戻るための準備を始めた
○●○
私、ガブリエルはミカエル様と一緒にいる部屋の中で立ち尽くしていました。『ノアの神』と言われる伝説の光の巨人と同じ名前の女性。周りからは「天界一の美女」と言われている私ですが、毎朝見ている私の顏よりもきれいな顔つきの彼女は、どことなく神秘的な雰囲気を纏っている様でした。感情のあまり私が叩いてしまった時も、一切表情を変えずにいた彼女は、今思い返すととても凛々しい方でした。
でも、やはり私が軽はずみな行動をしてしまった事は謝らないといけません。今ならまだ間に合うはずです!
「すみませんミカエル様、私ノアさんに一言謝ってきます!」
「あっ、待ちなさいガブリエル」
ミカエル様の言葉も聞かずに、部屋を飛び出そうとする私。扉のノブに手を置いて開いた瞬間
「っ!」
「な、なんですかこのオーラは!」
部屋の外からあふれ出る強大な光のオーラ。私たちとも、主とも違うそのオーラは、まるで光そのものに包み込まれている様でした。眩しくて思わず目を閉じようとしていましたが、私の目に映った光景がこれを停止させました。
光の中心にいるのは、明るい銀髪の少年。ノアさんと同じような雰囲気を感じますが、もしかしてあれが本当の姿なのでしょうか?
思わず声を掛けようとした私に、さらに驚くべき光景が映りこみました。
それは、まさに『光』そのものと言っても過言ではない、むしろその言葉を使うことすら失礼に値するようなほどの光り輝く銀色の体。背中から天に向かって生えた二つの羽は、私たち天使の羽とは違い、神聖なものを感じました。私が最も目を引かれたのは、その胸にあるY字のクリスタルです。赤く輝くその輝きは、まるで彼女の・・・私の眼に一瞬映った彼の瞳と全く同じ。少しだけ振り向いたそれ・・・いえ、
常識も、秩序も、何もかもが崩れ去りました。『ノアの神』とはよく言ったものです。彼は神などではありません。
彼こそまさに、宇宙の意思そのもの。全てを平和へと導く、宇宙そのもの。私にはそう感じられました。
光が止んだのち、彼の姿はそこにはありませんでした。ですが、私の眼には、体には、脳にはしっかりと焼き付けられました。彼の神々しい姿が
「私・・・恋しちゃったかも・・・」
ガブリエル、人生初の一目ぼれしました
テスト・・・・・・悲惨ともいえないが良いとも言えない結果だった・・・
そしていろいろと金欠だ。
ついに夏休み!さあこれから毎日遊ぶぞーというわけにもいかないんだよね。補習の毎日、さらに部活、高校生の夏休みは休みじゃない(そのくせして宿題は大量に出すという鬼畜すぎる我が高校)
唯一の救いは、オーブがあること。そして来年の春にもオーブの映画が公開決定だし、本当にありがとうウルトラマン!
今回はノア喋らせ過ぎたな・・・・・最終回まで喋らないかも?
それではまた今度