「ようやく来たか」
〈待たせたな〉
「お待たせしました」
グレモリー邸についたノアとガブリエルを待っていたのは、ビール缶を片手に持っているアザゼルだった。
ここは冥界のグレモリー領にあるグレモリー家の屋敷。本州ほどの広さを誇るこの敷地内で、先に向かった兵藤一誠たちはアザゼルの指示の元、修行を行っていた。そして今、アザゼルから修行を任されたノアが到着した。
一行は広間に移動をすると、メイドが持ってきた紅茶を飲みながら話を始める。
「そういえばニュース見たぞ? 謎の巨大ヒーロー降臨!ってか?」
アザゼルが言っているのは、新宿大災害のニュースであろう。冥界では人間界でのニュースを流すこともあるらしく、ここに来るまでに街に設置されていたスクリーンなどで何度も釘付けになっている悪魔たちを見かけた。
「シェムハザからも連絡があってよ、「これは一体どういうことだ!」って、耳が痛くなるほど説明を要求されたよ」
〈堕天使側にもやはり広まっているのか?〉
「三大勢力だけじゃねえ、各神話体系や吸血鬼たちにもこのことは広まっている。まあ、突然自分たちが知らない未知の生命体が現れたらそうなるわな」
「天界でも大騒ぎですからね。天界の研究者たちが怪獣の細胞を分析しようと地上に行ったらしいですが、何一つ成果は得られなかったようです」
「俺のところもそうしようとする輩がいたんだがな、あの様子じゃ恐らく細胞を原子レベルまで分解して消滅させただろうから、行ってもなにもないって言っておいたよ」
笑ながら肩をすくめるアザゼル。だが、その表情には多少残念な気持ちが混ざっていた。彼としては、ぜひともスペースビーストについて研究をしたかったのだろうが、スペースビーストは細胞が残っていたら人間の恐怖を吸収して成長する危険な生物だ。だからこそ、ノアは原子レベルまで分解・消滅を行ったのだ。
「ところで、お前さんの修行の準備はどうなんだ? 取りあえず、イッセーたちには連絡を入れてお前さんのご希望通りの場所に行ってもらってるが」
アザゼルが尋ねると、ノアは紅茶のカップをテーブルに置いて立ち上がる。
〈これから私も向かう〉
「ほぉーそれじゃあ俺様もちと拝見させてもらおうかね? お前さんの修行には多少興味があったんだ」
「私もついていきます」
アザゼルとガブリエルが嬉々としてノアについていこうとするが、彼らは後に後悔することになる。
その絶望的な、
「なんだか気味が悪いですね」
「ええ、街並みからして日本の様だけど、雲が厚くて太陽の光が全く見えないわ」
「なんだか怖いです」
イッセーたちグレモリー眷属は、厚い雲に覆われた大都市の真ん中にいた。だが、そこには彼ら以外の人の姿はない。ここは、レーティングゲームの時に使うフィールドを応用して作られた特殊な空間。アザゼルに言われてここにやってきたが、なんだか薄気味悪い。
「こんな場所で、一体何をしようというんでしょうか?」
「確かに。しかも、こんな建物が多い場所で」
「・・・・・」
「なんだかやけに広い空間だな。チーム戦をやるにしても、広すぎる」
「ひ、人がいると怖いですけど、人がいないともっと怖いです!」
その異様な空間に、眷属全員が困惑をしている。
そんな場所に、一つの影が迫ってきた。いつも通り感情が読めない顏をしているノアだ。
「ノア! いつこっちに来たんだ?」
〈先ほどついたばかりだ。この空間も、私が無理を言って用意してもらった〉
「貴方が? じゃあ、今回私たちのやる修行も貴方が相手なの?」
ノアの来訪に、表情を明るくさせるゼノヴィア。それとは対照的に、ノアの言葉に疑問を抱くリアス。
〈今回は私はただ準備をしただけだ。これから君たちが戦う相手も別にいる」
「別に? 一体どこにいるの?」
〈君たちの後ろにいる〉
ノアがそういった瞬間、リアスたちの後ろで物が壊れるような巨大な音が響き渡った。ただの物が壊れる音ではない、建物が壊れた音だ。爆弾の音や、工事用の作業車で壊したような音でもない。まさに、
「うわあ!」
「な、なによこれ!」
「ど、どどどどどどうしてこのような方がここに!?」
「こ、これは・・・」
「くっ!」
「っ!」
「なんという大きさだ・・・」
「ひいいいいい!!!」
自分たちの背後に現れた
〈君たちにはこいつの相手をしてもらう〉
「ちょっ! それ本気で言ってるのかよ!」
「こんな巨大な奴とどう戦えっていうのよ!」
〈安心しろ、すぐに人間サイズまで縮まる〉
ノアの無理難題に、驚くしかない面々。ざっと見ただけでも、怪獣の大きさは70メートルはある。そんな相手に、万に一つの勝ち目もない。
〈何をするも君たちの自由だ。今の自分の限界を引き出してみろ〉
それだけを言うと、ノアはその場から消えてしまう。
あまりにも投げやりの態度に憤りを覚えるリアスだが、今はそんなことを思っている暇ではない。今自分たちは、過去最大の敵と対峙している。今までに感じたことのない緊張と恐怖が、彼らの体を支配していた。
すると突然、怪獣が奇妙な音を立て始めた。一瞬攻撃を仕掛けてくるのかと身構えたイッセーたちだが、どうやら様子が違う。怪獣はグチャグチャと音を立てて、その体を縮めていった。数秒後には、いつの間にか自分たちとさほど変わらない大きさにまで縮んでいた。だが、小さくなったからと言って、彼らの緊張はほどけなかった。
「どうします、部長」
「まずは相手の出方を見るのが先よ。今までとは違って、敵の情報がない現状ではなにをされるか分からないわ」
朱乃と話し合い、相手の出方をみる選択をするリアス。だが、そんなリアスの作戦を無視して敵に向かって突っ走っていく影が一つ。小猫だった
「小猫!」
「ハアアアアアアアア!」
リアスの声も聴かず、既に小猫は地面をけり上げ怪獣――ハイパーゼットンへ攻撃を構えを取っていた。
「っ! どこへ・・・」
小猫の拳が当たる寸前、ハイパーゼットンが視界から消えたのだ。周辺の景色に擬態しているわけでもない、ならばいったいどこへ・・・そう考えていた小猫の後ろに、嫌な気配が出現する。
『ゼットオオオオオオン』
鼓膜を揺らす嫌な声。その声を聴いた瞬間、小猫は右腕に激痛が走るのを覚えた。骨が粉々になった音が聞こえてくる。その骨が自分の筋肉に突き刺さったのもわかる。未だかつて味わったことのないような激痛が、小猫を襲った。
「――――――ッ!!!!」
「小猫!」
「クソッ! やるしかない!」
「加勢するぞ木場!」
小猫が声にならないほどの悲鳴を上げると、木場は聖魔剣を、ゼノヴィアはデュランダルを握りハイパーゼットンへと斬りかかる。
「ゼノヴィア、同時攻撃だ!」
「分かった!」
木場の合図とともに、ハイパーゼットンの両サイドへと回り込む二人。すでにその剣先はハイパーゼットンを捉えており、先程の高速移動でも、この距離では逃げることができない。そう考えていた。だが
ガキンッ!
二人の剣は、ハイパーゼットンへとは届かなかった。ハイパーゼットンの周りを覆うように、青いクリスタル状のバリアが張られていたのだ。その光景に呆気に取られている間に、ハイパーゼットンが視界から消える。その瞬間に二人は察した。これは高速移動などではない、
「小猫、木場! 躱せ!」
ゼノヴィアの叫びもつかの間、木場は腹部に衝撃を感じた。視線を下にずらすと、そこには小猫がいた。だが、骨を砕かれ、痛みで悶絶していた小猫が自分にぶつかってくることなどあり得るだろうか。となると答えは一つ。木場の視線の先には、小猫の腹部に蹴りを入れながら自分ごと吹き飛ばそうとしているハイパーゼットンがいた。木場が気づいたときは時すでに遅く、自分の体は小猫ごと衝撃波を放って後ろのビルへと蹴り飛ばされた。いくつもの建物を破壊しながらも、二人の勢いは止まることがなく、最初の場所から遥か遠くに離れた場所で二人は意識を失った状態で止まった。
「小猫、木場!」
ゼノヴィアは叫ぶも、そんなことをしている暇ではなかった。小猫と木場と吹き飛ばしたハイパーゼットンは、次は自分の目の前まで迫っていた。ハイパーゼットンが腕を振り上げた瞬間、ゼノヴィアはデュランダルの刀身で自身の体をガードする。そして、繰り出された一撃はデュランダルを一瞬で砕き、ゼノヴィアの腹へとめり込む。胃の中の物が逆流する感覚と痛みがゼノヴィアを襲うも、すぐにハイパーゼットンは胸の前で小さな黒い火球を作り出すと、それをゼノヴィア目掛けて放つ。
「ああああああああああ!!!」
一兆度を超える威力をもつハイパーゼットンの暗黒火球に身を焼かれながら、ゼノヴィアは悲鳴と共に後ろへと飛ばされていく。
ハイパーゼットンはそれを見届けることなく体を翻し、残っていたイッセーたちの方を向く。ハイパーゼットンが出している電子音が、イッセーたちに恐怖を与えている。
「アーシアは早くみんなの回復を! 朱乃も一緒について行って! イッセーは倍加を溜めた後すぐに私に譲渡、それとギャスパーに血を飲ませて! ギャスパー、貴方は神器で奴の動きを止めて! 一か八かこの作戦に掛けるしかないわ!」
「「「「はい!」」」」
悪魔の翼を広げてその場から飛び立つ朱乃とアーシア。そして、籠手を出現させて倍加を始めるイッセーと、籠手の指で斬った腕から出た血を飲んで力を覚醒させるギャスパー。
その一連の素早さに、感心せざるを得ない。もし普通の者ならば、この時点で思考を停止させているだろうが、リアスはそんなことをせず、残った戦力でできることを瞬時に考え、指示を出し、それを実行させている。それは彼女が持つ
だが、そんなものは所詮
ハイパーゼットンは、背中から翼と尻尾を生やす。その姿は、最早人間たちの想像する悪魔をも超えた恐怖の姿へとなっていた。翼を得たハイパーゼットンは、マッハ33のスピードで空中にいる二人との距離を一気に詰める。
「なっ!」
「くっ! 雷よ!」
朱乃が雷を繰り出す。その威力は、今までリアスが見たこともないほど強大だった。だが、ハイパーゼットンは両手を立てて前に構えると、雷は出現したゲートの中に吸い込まれる。驚く朱乃たちを尻目に、ハイパーゼットンが
両手を前に突き出すと、先程吸い込まれた雷が何十倍にも大きくなって朱乃たちへと襲い掛かる。
自らの攻撃に焼かれた朱乃は、そのまま意識を失い地上へと落ちていく。
「朱乃さん!」
落ちていく朱乃を追いかけようとするアーシア。だが、そんな彼女の前にハイパーゼットンが現れると、両肩を掴まれ腹部に膝蹴りを喰らう。口から血を吐くアーシアに追い打ちをかけるように、ハイパーゼットンは後ろへ回り込むと、背中に右腕を叩きつけ、アーシアを地上へ叩きつける。
「アーシア! 朱乃さん! てめえ! ぜってえに許さねえぞ!」
怒りに翻弄されるイッセー。その横では、既にギャスパーが力を解放させていた。
『イッセー先輩、僕が奴の動きを止めるのでその隙に!』
神器の力でハイパーゼットンの動きを止めようとするギャスパー。だが、そんなイッセーたちのいる場所に、黒い火球が撃ち込まれた。
「うわっ!」
「この攻撃は・・・まさか!」
今の攻撃は、ゼノヴィアが受けた攻撃と同じ。火球が飛んできたであろう場所に目をやると、そこにはビルの屋上の策に足をかけて自分たちを見下ろしているハイパーゼットンがいた。
『そんな・・・だってあいつはさっき朱乃先輩やアーシア先輩を!』
ギャスパーの叫びに答えるかのように、先程アーシアと朱乃を襲ったハイパーゼットンが屋上にいるハイパーゼットンの横に移動をすると、二体のハイパーゼットンが一つになる。今のはハイパーゼットンの瞬間移動の応用技の疑似分身。最初の小猫の瞬間移動の時から、自分たちは
「そんなのありかよ・・・」
イッセーがポロリと吐いた。そんな言葉、リアスも言いたい気分だった。
次元が違う
今まで相手をしてきたどの相手ともレベルが違う。こんなやつ、魔王しか相手できない。いや、実際に目の当たりにしている自分にだから分かる
「こいつには・・・誰もかなわない・・・」
リアスは断言してしまった。誰も、ハイパーゼットンには敵わない。こんなやつを相手にできる奴がいるのなら、そいつはもう化け物だ。
絶望的な状況に、リアスも、イッセーも、ギャスパーも、みんな戦意喪失してしまった。翼を広げたハイパーゼットンは空高く飛び上がると、あの電子音を響かせながら火球を作っていく。しかも、それは徐々に大きくなっていき、最早太陽のように周りを照らし、そして溶かしていった。
出来れば、この火球が悪夢の終わりを告げる合図でありますように
もうそれだけしか考えることが出来なかった。
そして、リアスの想いも虚しく、火球は放たれ、あたり一面を巻き込み街は消え去った。
出したらいけないやつを出してしまった気がするが・・・まあいいか←おい
というわけで映画にもテレビにも出てるハイパーゼットン。こいつが修行相手か・・・・・白旗上げて逃げますね。
強さとしては『ウルトラマンサーガ』に登場したハイパーゼットンよりもさらに強いです。いやーほんと、勝てる気がしねー
皆様のおかげで、この作品もお気に入り登録者が560人を突破し、総UAも6万を越えました。さらに、高評価をしてくださった皆様、大変ありがとうございます。まあ、前回ので一部の方に評価下げられたときは結構ダメージ受けましたが・・・・・めげずに、皆様の期待にこたえられるように頑張ります!
では、また今度