武装神姫バトルマスターズ with you 作:ひまっちゃん
そのゲームセンターに入ってきた青年は、明らかに初心者だった。周囲をキョロキョロと見回し肩にはバランスを崩しながら必死にそこにしがみつくアーンヴァル型の神姫。その場所に乗るのが慣れていないことはすぐに察しが付く。周囲の筐体を見渡しながら目をらんらんと輝かせ、筐体の上に表示されたモニターに映る神姫達を眺めるその姿は見ている方が気恥ずかしくなってしまう程に初々しいものだった。そんな姿を見せていたら、この場所で誰にも声をかけられないでいることは難しい。
「おや……お客様はこちらにこられるのは初めてのようですね。でしたら、この場所について説明いたしましょうか?」
このゲームセンターには変わり者が多い。というより、神姫バトルを好む者には変わり者が多いといった正確だろう。神姫に対して並々ならぬ愛情を注ぐその姿は一般人の目からすれば嫌悪感を抱いても仕方ないと思えるものもある。しかし、そういった人々に対しても神姫はしっかりと向き合ってくれる。そして、このゲームセンターそのものも。そのせいか、ここの店員も変わった制服をしている。ベレー帽にスーツ姿。そして敬礼のポーズをとりながらはきはきと話すその店員を前にして、その青年は少しひきつった笑みを浮かべた。
「では、説明させていただきます。ここでは、シングル戦をメインとした神姫バトルをお楽しみいただけます」
青年が返答するそぶりを見せないまま、その店員は一方的に説明をしはじめる。
「登録されているデータを基に、お客様のレベルに応じた相手を選びだし対戦カードを作成いたしておりますので、バトルしたいマスターがおりましたら、そのカードを選んでバトルを申し込み、心行くまで神姫バトルをお楽しみください」
そこまで話すと、店員は敬礼のポーズをときプラスチック製のカードを青年に手渡す。これを応ずるがままに受け取る青年は肩の神姫と視線を交わすと笑顔でこれを受け取る。
「では、これにて私は」
そのまま上半身を九十度にすっと折り曲げ、またすぐに上半身を起こす店員。そのあまりにスピーディーな動きに青年は苦笑しながら軽く頭をさげる。このゲームセンターには珍しい、どこにでもいるような普通の青年の対応だった。
「マスター、初陣ですね。これからよろしくお願いします」
そんな普通の、悪くいえば個性のなさそうな態度の青年。しかし他方でその神姫の存在は一際目立っていた。
「あぁ、よろしくな」
青年の声に彼女は力強くうなずく。その素直で真面目な性格は普通のアーンヴァル型のなんらかわりのない言動だ。しかし、彼女にはある特徴があった。
「あれ? それって、アーンヴァル型?」
その特徴を最初に指摘したのは青年よりも一回り年齢の低い少年だった。綺麗にお坊ちゃまカットされ、しわのない服。掌には青年と同型機であるアーンヴァル型の神姫がちょこんの乗っておりまじまじと青年の神姫を見つめている。
「あ、はい。今日初めてこちらによらせていただきました。どうぞよろしくお願いします」
声をかけられたことに気づいた青年の神姫はふらふらとしながらも青年の肩で立ち上がりぺこりとお辞儀をする。
「やっぱり! でもおかしいな。そのアーンヴァル、なんで黒いの?」
そう、それが青年の神姫の最大の特徴だった。アーンヴァルは神姫メーカーの中でも最大手といわれるフロントライン製の人気モデル。その特徴はモチーフの天使をイメージさせる白のボディ。
「急に声をかけてしまい失礼しました。私はプルミエ。マスター、柴田勝さんの神姫です」
事実、柴田と呼ばれた少年の神姫はそうだった。ベージュ色のロングヘアーに青の瞳。デフォルトのカラーリングと異なるところはそれぞれの神姫にあれどボディーカラーの基調は白。一見してすぐにアーンヴァル型と分かるものだった。
「あぁ、神姫ショップの店員さんが趣味でリペイントしたらしくてさ。非売品って言ってたんだけどあまりにかっこよかったからそれが欲しいって言ったら売ってくれたんだよ。見た目が違うだけでバトルにはそこまで影響ないって言うし」
それに対し、青年は少しだけ自慢げにほほ笑みながらそう答える。
「そ、そんな。あまりにかっこいいって、そんな……」
他方、彼の神姫は青年の返答に対し、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。通常のアーンヴァルとは対になる黒のボディ。そして紫の髪。見た目が通常のカラーよりクールになっているだけにその言動にはやや違和感を感じるものがある。
「へー、なんかすごそうだなぁ。でもお兄さんって初めて見る人だね」
「あぁ、初陣なんだ。だからさ」
そういいながら先ほど、店員から受け取ったカードを少年に見せる。それを見て、柴田もその意図をくんだのだろう。
「ねぇ、僕と勝負するの?」
「お願いできないかな」
「うん、もちろんだよ。さっき対戦カードを見てきたらお兄さんのデータが出てたからさ。僕の方から申し込もうと思ってた」
「それはすごいな。さっきこのカードもらったばかりなのに。そんなに早く更新されるものなんだ」
「そうみたいだよ。対戦成績はあそこでほら、リアルタイムでここにいる人のがみれるよ」
柴田が指さす先には大きなモニターが存在していた。そこに表示されているのはプレイヤーと思われる写真がずらりとならんで表示されている。その横には細かな対戦成績らしきものが表示されているがこの場所からはその内容を細かく見ることはできない。
「お、おかしいな。俺、写真なんてとった記憶ないんだけど」
「ゲームセンターに入る時に自動で顔写真とられるんだって。ゲームセンターの入り口に書いてあったよ?対戦カードを作る際に使わせていただきますって……」
「本当? すごいシステムだなぁ」
「あはは、お兄さん本当に初めてなんだね」
感嘆のため息をつきながらそのモニターを眺める青年を前に柴田はクスリとほほ笑む。
「マスター、そういう言い方はちょっぴり失礼ですよ。こちらも初心者なのですから」
しかし、真面目なアーンヴァル型の神姫にとってそれは好ましくない態度だったようだ。柴田の神姫は眉をひそめながら少年の手首をくいくいとつかみその態度をたしなめる。
「あ、ごめんごめん。とにかく、早く勝負しようよ」
「あぁ。よろしくな、移動しようか」
そういいながら青年は近くの筐体を指さす。丁度、バトルが終了したようで反対側にいるポニーテールの少女がガッツポーズをとっている。
「えへへ、うれしいな。僕、始めたばっかだから同じレベルの人と勝負してみたいんだ」
「マスターの経験値獲得のために、ご協力お願いします。手加減は不要ですよ。本気でやってもらわないと困りますから」
互いの筐体の前に立ち、両神姫がフィールドの入り口に立つ。そして、青年の神姫は一瞬、青年の方に振り返るとにっとほほ笑んだ。
「手加減なんて失礼なことしませんよね、マスター。本気全開で私たちの実力を見せてあげましょう」
「そうだな。こちらは初陣なんだ。むしろ胸を借りるつもりでいこう」
彼女の言葉に力強くうなずく青年。同時に青年の神姫の足元がエレベーターのように下降しその体が筐体の中へと沈み始めた。
「ん、あいつ……」
そんな青年の背後で、ふと頓狂な声が響く。その声の主は、青年と同年代の男だった。
「マスター、お知り合いなのです?」
そんな彼の肩で、マオチャオ型の神姫が首を傾げる。
「あぁ、知り合いなんてもんじゃないさ。あいつは……」
そんな自分の神姫の様子を見て、彼はふっと笑うと青年の筐体に表示されたモニターを覗き込んだ。一人の青年、一人の神姫が戦おうとするその場所を。