武装神姫バトルマスターズ with you 作:ひまっちゃん
ガシャン、ガラガラ、バリーン。その瞬間、私には漫画のようにそのような擬音語が文字になって見えた気がした。
「あぁ、もういいわよ美幸。貴方は待ってるだけでいいから」
割れたお皿を片付けながらお母さんが呆れたようにため息をつく。有難迷惑とはこういうことを言うんだろうな。私が料理を手伝おうとした瞬間このざま……ちょっとだけ自己嫌悪してしまう。
「う、うん。ごめんねお母さん……」
お皿を片付けようと手を伸ばす。でもその手もすぐに止められた。
「いいのいいの。そんなことしなくていいから」
困ったように眉を八の字に曲げるお母さん。私を心配してというよりかは、私に手伝われると迷惑。そんな感じの表情だ。でもこういうことって今日だけじゃないからなぁ。それもしかたないか……。自分で言うのも情けないけど私は本当に要領が悪い。勉強もよくできないし、運動も得意じゃない。何かやっても良い結果が返ってくることなんて数えるほどしかない。
「そんなこと言うなよ母さん、美幸の健気さが分からないのかよぉ」
と、台所でぼーっとしてるとお兄ちゃんが後ろから私のことを抱きしめてきた。私が兄バカじゃないことを信じるならお兄ちゃんは結構イケメン。しかも頭もいい。何をやらせてもうまくやっちゃうし、いつも私に好きっていってくれるし、優しくて自慢のお兄ちゃん。
「分かってるわよ日向。すぐできるからまってなさい」
とんとんとん。包丁のリズミカルな音。忙しそうでいて、でも手際がよくて。ほんとに私とお母さんってあんま似てないなぁ。とりあえずここにいても仕方ないし、台所から出てテレビの前まで歩く。
「みーゆき。ほら」
と、お母さんをじーっと見てる私の肩をお兄ちゃんが軽くたたいてきた。もう片方の手のひらにはお兄ちゃんの神姫がちょこんとのって私を見つめている。
「ん? ライラがどうしたの?」
紫の髪に赤い瞳。アーンヴァル型のライラ。体はちっちゃいけどとても真面目で優しくて何度か勉強をみてもらったこともある。
「美幸も神姫バトル、やってみないか? 俺と一緒にさ」
そんな中、お兄ちゃんの言葉ではっと我にかえる。
「え、私がバトル? 神姫なんて持ってないよ」
「だからライラを美幸の神姫にするんだよ。新しく神姫が手に入ることになってさ」
「ライラを……?」
いきなりの言葉に私はもう一回ライラを見る。ちょっと照れくさそうに笑うライラ。
「うん、美幸はいつもおうちで勉強ばっかでしょ。たまには私と息抜きしない?」
「で、でも私バカだから勉強遅れちゃうといけないし……」
「それが心配なんだよ。美幸はちょっと肩の力を抜いたほうがいい」
ちょっぴり真顔になりながら私の顔を見つめるお兄ちゃん。
「……最近ちょっと暗い顔してるのが多いぞ。俺と一緒なら遊びにもでかけられるだろ。まぁゲーセンの奴らは色々いるけど悪いやつらじゃない。美幸も前に神姫バトルに興味もってたじゃないか」
それは、そうだった。お兄ちゃんとライラはすっごく強い。何回かお兄ちゃんが神姫バトルをするところを見てことあるけどF2バトルって大きな大会で上位入賞してたこともあった。そのバトルは神姫バトルの素人の私でも魅入っちゃうような迫力があったのをはっきりと覚えている。その時に、私もやってみたいなぁ、とかお兄ちゃんに言ったっけ……それを覚えていてくれたのかな。
「お兄ちゃんも私も心配なのよ。美幸が頑張ってるのはちゃんと分かってるんだから、焦らないで」
そういいながら私の手のひらに乗り移ってくるライラ。うっ、なんか見透かされてるなぁ。私の成績が少しずつ落ちてきてるのも知ってるのかな。ちょっと恥ずかしい。
「う、うん……じゃあ、私もやってみようかな……」
でもなんだか嬉しくて。私は自分でも気づかないうちに笑っていた。
そして、私がライラのマスターになってから一カ月ぐらいがたった頃。
「ねぇライラ。私、ブラコンなのかな」
ライラと話す時間は前よりたくさんできるようになってきた。勉強を教えてもらうことも多くなりライラは私の中でお姉ちゃんみたいな存在になっている。だからその質問も私の口から特に抵抗なくこぼれてきた。
「……え?」
私の言葉にライラは目を丸くする。絶句した時の人の表情を目の当たりにするのは私も初めてではない。いや、ライラは神姫だけど。それでもなにかまずいことを言ってしまったきになってしまう。ちょっと気まずい。
「……え、どうしたの。急に」
絞り出すような声を出すライラ。驚きが強すぎるのか、その赤い瞳がきょろきょろと泳いでいる。いつも真面目で頼れるライラのそんな顔をみたのは初めてかもしれない。それがどこかおかしくて、くすりと私は笑ってしまった。
「ううん、たいしたことはないよ。ただ、友達に美幸はブラコンだよねーって言われちゃって」
「う、うー?」
首を傾げながら私の言葉を整理するライラ。さすがにちょっと唐突だったかな。
「うーん……日向さんは自他ともに認めるシスコンなんだけどね。美幸がブラコンかぁ……まぁ、そういう一面もあるかなぁ?」
そういいながらライラは苦笑いを浮かべる。
「でもなんでそんなに話になったの? 随分唐突にきいてきたけど」
「んとね、友達に彼氏ができたって話の流れで、好きな人の話しになったんだけど……私はいないって答えて。好みのタイプをきかれたらお兄ちゃんみたいな人って答えたら、それで」
「あはは……そりゃ、ブラコンって言われるかもしれないわね……」
「うっ、やっぱそう?」
予想はしてたけどライラからそう言われるとちょっとショックだったりする。そんな私の内心に気づいたのか、ライラはちょっと慌てた様子で私に話しかけてきた。
「でもブラコンって言われてそんなにショックだったの? 日向さんはシスコン上等なんて言ってたことあるけど。お兄ちゃんが好きっていいことじゃない」
「そうなんだけど……私、お兄ちゃんに頼らなくても自分で何かできるようになりたくて……」
私の言葉にライラは少し目を見開いてこっちをじっとみる。
「お兄ちゃんは大好きなんだけど。私、お兄ちゃんの妹でいいのかなって思う時が時々あって……私も、お兄ちゃんみたいになりたいのに……」
「……そう」
一言。そう言って私を見つめるライラ。あまり深くはきいてこなかった。それはちょっぴり助かった。私も自分が何を言いたいのかあまりわかってなかったから。
「ねぇ美幸。今度、一人でゲームセンターにいってみない? 私も一緒にいくから。もうだいぶあそこの雰囲気にも慣れたんじゃない?」
「えっ……?」
今度は私を目を丸くする番だった。なんで今、神姫バトルの事を話すんだろう。
「手加減してたとはいえ日向さんとバトルずっとしてたじゃない。そろそろ本気のバトルをしてみてもいいんじゃないかと思って」
「え、でも……」
「美幸はちょっと怖がりなところがあるから。日向さんみたいになりたいんでしょ?」
あぁ、そうか。ライラの真意にようやく気付く私。お兄ちゃんと一緒だ。私を変えるために色々考えてくれている。私って、すっごい恵まれてるんだなぁ──
「う、うん。行ってみようかなぁ……」
「ハッ、私の勝ちね。ここまでよ」
怖い。早くて動きが見えないし、その攻撃は強すぎて頭が真っ白になっちゃって……結局、何もできないまま負けちゃった。そんな私をあざ笑う千歳お姉さん。その人がただただ、怖かった。
「うぅ……すっごく悔しい、絶対負けたくなかった……」
でも私の感情はそれだけじゃなかった。そう、悔しいんだ。お兄ちゃんとバトルしてちょっと強くなった実感もあった。だから、その努力が否定された気がして──
「悔しいって思えるなら、全力だして頑張れたんだね。だったら、美幸は負けたって強くなれるよ。少しずつでもいいから、一緒に強くなっていこうね」
そんな私の気持ちを察してくれたみたい。負けたばかりですっごくだるいはずなのに私の方に急いでかけよってきてくれるライラ。
「あれが全力とか笑わせるわ。いったいどんな練習してきたのよ。あなたセンスないんじゃない?」
「ぐっ……ぅ……」
何も、何も、言えない。何を言ったらいいか分からない。千歳お姉さんと、その神姫が何か言い争ってるようだけどその内容はよくきこえてこなかった。こんなに悔しいって思ったことはないし、こんなに悲しいと思ったことはない。そりゃあ、神姫バトルは趣味だけど。ただの趣味で、息抜きではじめたことだけど。でも、ライラはお兄ちゃんの神姫で、ほんとはすっごく強いのに。お兄ちゃんがライラを使ったらFバトルだって勝てるのに。ライラが、私を励ましてくれて、私をここに連れてきてくれたのに──
「……返す言葉もありません。出直してきます」
「ライラ……」
ライラの顔はよくみえなかった。いや、違う。隠してるんだ。ライラは私が自分を責めないように悔しい顔を見せないようにしているんだ。確かにライラのマスターになってからそんなに時間はたってないかもしれない。でも、ライラのそんな考えを読めないぐらい程、私だってどんくさくない。
「ラ、ライラ……ありがと。楽しかった。つ、次のバトル……しよ?」
「っ……!」
私の言葉にライラがふと顔をあげる。唇を一文字にぎゅっと結んで、それでもにっこり微笑んで。やっぱりライラは大人だな。
「……あ、あれ、日向さん……?」
ふと、その時だった。ライラは不意に私の後ろ側を指さす。
「え、お兄ちゃ……!」
その言葉には私も驚いた。だからほぼ反射的に私もその方向に振り返る。千歳お姉さんが次の対戦相手を見つけたみたい。その相手は背の高い男の人。確かにあれは……って。
「違うよライラ。雰囲気が似てるけど。お兄ちゃんじゃないよ」
「……そうみたいね、ごめんごめん」
あはは、と笑いながら拍子抜けする。ライラもふっと笑いながら肩をすっとおろした。こんなかっこ悪いところ、お兄ちゃんには見せたくないし人違いでよかったよ。
「……あの人、千歳さんの挑戦を受けるみたいね。大丈夫かしら」
独り言のようにライラがそう呟く。そうだ、あんな強い人と戦うなんて大丈夫なのかな。
「……見ていく? 美幸、あの人のバトル、気になる?」
「えっ? あ、う、うーん?」
気になるといったら気になる。別に私の敵討ちをしてくれなんて思わないけど、でもお兄ちゃんと雰囲気が似てるしなんとなく応援したくなっちゃうな。
「……でもあの人、多分負けちゃうわ。ほら、あそこに対戦履歴が出てるでしょ」
大モニターの方が指さすライラ。そこにはお兄さんのデータが表示されている。それを見て私は思わずため息をついてしまった。
「そっか、あのお兄さんも初心者なんだ」
対戦回数、たったの一回。昨日か今日神姫バトルを始めたばかりの人みたい。これじゃあ千歳お姉さんに勝てるわけない……
「いこう、美幸。このまま負けっぱなしで帰るのはしゃくでしょう?」
「…………」
勝てるわけない。そう頭ではわかるんだけど、なんなんだろう。なぜか、私はそのお兄さんを見つめてしまった。
「……ねぇ、ライラ。あのお兄さんは本当に勝てないのかな」
「え?」
私の言葉にライラはきょとんした表情を見せる。そして顎に手をあててちょっとの間考え込む。
「うーん、悔しいけど本当に千歳さんとリリスさんは強かったわ。一回バトルしただけの人が勝てるとは思えないんだけど……」
「そうなのかな……勝ってくれないかな……」
あ、ちょっとお兄さんと目があっちゃった。ちょっと気まずそうにお兄さんの方が目をそらしちゃったけど。
「……みていく? 気になるなら」
「いいの?」
「もちろん。でも、期待しない方がいいわ……」
ライラがネガティブな事をいうのは珍しい。それだけライラには勝負の行方に確信めいたものがあるんだろう。でも、ライラだってちょっと気になってるみたいだった。だって、やっぱりあのお兄さんはお兄ちゃんと雰囲気が似ている。優しそうなあの感じが。だからライラもあの人にかってほしいんじゃないかな。
「美幸、始まるわよ」
ライラの声でふと我に返る。千歳お姉さんとお兄さんはすでにライドオンをしているようだった。バトルフィールドが形成されてバトルが開始される。
「あっ、あれ? あの神姫って、ライラと同じアーンヴァル?」
バトルが開始されて私はちょっと驚いてしまった。バトルの内容を表示する筐体上の投影モニターには二人の神姫が表示されている。千歳お姉さんと話してる時にはよく分からなかったけど、お兄さんの神姫はアーンヴァル型みたいだった。
「そうみたいね、黒いリペイントがされてるみたい」
「へぇ……かっこいいなぁ……」
ライラと同じようなきれいな薄紫の髪。その黒いボディにはレザーシリーズの防具がよくにあっている。
「うーん……でも、千歳さんの方が優勢みたいね……」
千歳さんのライフルはお兄さんのハンドガンを押し切っている。二人の神姫を第三者の目線で見るとなんとか私でも千歳さんの動きを追うことができた。
「あっ……」
千歳さんが一気に近づいて大剣で先制攻撃をしかける。弾き飛ばされるお兄さんの神姫。やっぱ、だめかな……私の時もあのバルムンクで勝負がついちゃったし……
「大丈夫、まだ一撃だから」
ライラが私を励ますように声をかけてくれる。お兄さんの神姫はなんとか相手から離れられたみたい。でも、ドリルの攻撃が続く。あのレールアクション、私の時には出さなかったやつだ。こんなの対応できるわけないし、だ、だめだっ──
「美幸、まだあの人は負けてないわよ」
反射的に目をつむってしまったけど、ライラの声で私はおそるおそる目を開く。なんとかガードで凌ぎ切ったみたい。後ろに弾き飛ばされてはいるけど、体勢をくずさずにぐっとこらえている。なんだろ、なんか、お兄ちゃんとライラが戦っているみたい……Fバトルで見たときよりもパワーもスピードも武装も全然違うんだけど。でも、なぜか目を離せない。
「すごいっ、一本とった……!」
はっとする。今度はお兄さんが接近してインファイト。あの千歳お姉さんが後手に回ってる……
「うそ、あの人、なんなの? 勝つかも……」
ライラがぐぐっと身を乗り出す。それは私も同じだった。胸の動悸がちょっとだけ早くなる。
「……うわっ!」
その瞬間だった。よく分からないけど、いきなり千歳さんの神姫が爆発する。いや、爆発したのは地面……?
「す、すごい!」
ライラの上ずった声が私の耳に届いた時には、勝負がついていた。あの黒いアーンヴァルが回し蹴りをきめて体勢を元に戻す。その仕草はとても鮮やかで、なによりすごくかっこいい。
「か、勝っちゃった。あのお兄さん、すごい人なのかな……」
「そうね……日向さん程じゃないけど……F3バトルの出場者なのかしら……」
じっとお兄さんを見る。悔しそうにする千歳お姉さん。でも、なんだろう。私の時とは違ってちょっと穏やかな表情をしている気がする。
「……いってみようかな」
「美幸?」
ライラが怪訝な表情でこちらを見る。気づけば、私はその人にむかって歩き出していた。千歳お姉さんが笑顔を見せながらお兄さんのもとからさっていく。あんなに悔しそうだったのに、なんでだろう。
「……そう、ふふっ」
ちょっとライラが笑った気がする。でも、それに応える余裕がなかった。
「あ、あのっ……!」
上ずった声。自分できくのも恥ずかしい。でも、私は……
「わ、私にバトルを教えてくださいっ!」
私は要領が悪い。私はいつも、周りに迷惑をかけちゃう。そんな私は知りたいんだ。どうやったら周りの人を、心から笑顔にできるのか。
何の根拠もないけれど、この人なら何か教えてくれる。そう、思っちゃったんだ。