武装神姫バトルマスターズ with you 作:ひまっちゃん
「おっ、ここだここだ」
自動ドアをくぐり甚平はくるりと体を翻し青年にむかって手招きする。
「へぇ。なんかすごいところだな……」
ずらり並んだ武装の数々を前に青年は息をのみながらそう言い放つ。家電店を思わせるような巨大な空間にまるで宝石売り場のように綺麗に並ぶガラスのショーケース。奥の方にある巨大なレジは、そこだけ見れば立ちのみバーのようなつくりになっている。
「プレミアムショップだよ。普通の神姫ショップにはない高性能の武装がある。まぁ扱ってる商品も高いけどな。」
「その通りなのです。何をかくそう、私のマスターは一回もこのお店で買い物したことがないのです!」
「そ、そうか……それはすごいな」
なぜか自慢気に胸をはるたま子に、やや圧倒された様子で返事をする青年。それを見て甚平は少し居心地が悪そうに苦笑いしながら頬をかいた。
「へ~、そうなんですね……って、なんですかこの値段!」
そんな彼らをスルーしつつ、神姫はショーケースの前に移動すると、その値札を見て目をまるくした。それもそのはず、一つの武装だけでゼロが五つならぶ武装がざらにあるのだから。
「本当にここで買い物するやついるのか……? 俺なんて神姫一体買うだけでも精一杯なのに……本体より高いじゃないかこの武装……」
青年の日常からは考えられないその値段に、青年は驚きというよりは呆れた表情で甚平を見つめる。武装の知識はないとはいえ、だれも買う者がいないのではないか。その値段は青年にそう疑わせるに十分なものだった。そんな青年の初々しい態度に甚平はくすっと笑う。
「一部の強豪マスターなら大会とかで神姫バトルでポイント稼げるんだけどな。そうでなきゃ金持ち以外用無しのお店だ。でもま、お前のことだからこういう店があるって知るだけでもモチベーションあがったりしないかと思ってな」
「ん、ポイント?」
現金では無理でも別の方法で購入できるのであれば自分にも手が届くかもしれない、そういう希望を感じさせる言葉に青年は目を輝かせる。
「神姫ポイントだよ。強い神姫マスターはメーカーの方からモニターに依頼されたり宣伝に使われたりするからな。金じゃなくても一応かえるんだよ。お前もさっき勝ったんだからポイント入ってるはずだけど。」
「そうなのか、どのぐらい?」
「そこで今持ってるポイント確認できるぞ。ゲーセン入るときにカードもらったろ。ちなみに神姫ポイントの値段はこっちな」
「そうなのか、ちょっと見てくる」
青年はそそくさと甚平が指さすターミナルの前に移動するとデータを入力しはじめる。と、次の瞬間、青年の表情が一気に青ざめた。
「……俺、あとあの子に千回ぐらい勝たないといけないのか」
そのまま唖然とした表情でターミナルを見つめる青年。そんな彼の様子に甚平は乾いた笑い声をあげながら青年の肩に手を置いた。
「はははは、俺達のレベルじゃここで買い物はできないよ。でもいい商品があるからあこがれるよな」
「にゃぁ~、ここのお店だとマスターはいつも見てるだけなのですぅ。私もプレミアムな武装でトレビアンになりたいのですぅ~」
「そうだな。せっかくこいつと再会できたし、これを機にもっと強さも目指してみるか」
ぽかぽかと甚平の頬をたたくたま子に甚平はおおらかに笑いながらそう答える。そんな甚平の対応に青年はふっと笑みを浮かべる。このようなたま子のおねだりへの対処には慣れているのだろう。そんなことを思わせるようなやりとりにどこか息のあった仲睦まじさを感じてしまう。
「それにしても、なんでこんなに高価なんでしょうか。この武装なんて私がいたお店にもあったような気がするんですけど」
ふと、青年の神姫が青年の服のすそをひっぱりながら疑問を投げかけてくる。その疑問に、甚平はいい質問だといわんばかりにすっとしゃがみこんで神姫に目線をあわせた。
「性能にカスタマイズが入ってるんだよ。ほら、データならここに」
そういいながら甚平は値札の近くにある大量の数字が表示された紙を指さす。それはよくみてみると武装により上昇する能力値が細かく記載されているものだった。それを理解するとすぐさま、青年とその神姫ははっと息をのむ。
「うわっ、なんだこれ! ほんとにこの性能なのか?」
驚きのあまりやや声のトーンを高くしながら青年は甚平に視線を返す。部位にもよるが武装一つで現在の神姫の能力が数十倍に跳ね上がるのだから、それも無理はない。まさに武装格差を感じさせる数値。
「その分、一部の武装はランクも高いけどな。神姫自身の能力もかなり求められるものもある。経験を積んでいない神姫じゃ装備することすらかなわないよ。ほら、それなんかランク5の装備だからな。F1に出るような神姫がつけるものだよ」
他方、そのからくりを知る甚平は冷静だった。武装の性能が高すぎる、というよりは現在の神姫の能力が低すぎるというのが正解だ。その現実を知れば決してでたらめな数字ではないことがわかる。
「えふ……ワン? なんだそれ、レース?」
だが青年は怪訝な表情をみせながら首を傾げる。甚平の口から出た聞きなれない単語に疑問を感じているのだろう。
「おまっ……そうか、今日始めたばかりだもんな。知らないのも無理はないか」
と、その疑問をきいた甚平の方が驚きの表情を見せる。だが神姫バトルをする者にとってはその反応はむしろ普通だった。
「ざっくりと説明すると神姫の世界大会だよ。その頂点にたつものが最強のバトルマスターとして認められる。全マスターの憧れ、究極の目標だな」
「へぇ……そういえばさっき戦った子の神姫がFバトルがなんとかとか言ってたな」
甚平の説明は決して大げさなものではない。神姫バトルをする者であれもが誰もが憧れ出場を夢見る場所なのだから。だが神姫バトルを始めたばかりにとっての青年にとっては現実味がわかないのか、その反応は薄いものだった。
「まぁ最強クラスのマスターが凌ぎを削りあう場所なんだ。雲の上の存在だよ。そいつらがつける武装と思えばこの数字も納得だろ」
「たしかに……」
とはいえ甚平の反応からF1という大会がどのようなものかぐらいは感じとれたのだろう。青年は納得した表情で武装のデータを見つめる。
「なるほど、色々な武装があるんですねえ。私も強くなったらこの装備をつけられるのかな……」
ふと、じっと武装を見つめていた青年の神姫はため息をつきながらそうつぶやいた。
「おっ、遠回しなおねだりか? 器の大きさが試されるな、マスター?」
それをきいて甚平は茶化すように青年の横腹をつつく。
「そりゃあまずいな、明日から俺の住所が段ボールになっちゃうよ」
それに対し青年はからからと笑いはじめる。しかし、真面目な性格であるアーンヴァル型の神姫に対してそれは失言だった。
「い、いえそんな。参考にしただけですってばっ。買ってもらっても今の私じゃ装備すらできませんからっ! ご、ごめんなさいっ!」
一気に顔を青ざめながらぺこぺこと頭を下げる青年の神姫。それを見て青年は一瞬、驚いた様子をみせるも、すぐに穏やかな笑みをみえた。
「分かってるよ。でも、いつかこの武装をつけられるように頑張ろうな」
「あっ、はいっ!」
青年の対応に神姫は安心したのか満面の笑みをみせる。同時に、甚平もほっと溜息をつく。気まずくなりかけた空気に焦っていたのだろう。
「ま、まぁどちらにせよこの店の商品を一個でもかえれば相当自慢できると思うぜ。俺もいつかたま子に……」
「じゃぁ、とりあえずそこの小剣と大剣とドリルと槍と斧とハンマーと爆弾と機関銃とランチャーとバズーカとミサイルとガトリングを、全種類このお店にあるだけ全部買います」
と、その時だった。甚平の言葉はその衝撃的な言葉によって遮られることになる。
「……は?」
気のせいというにはあまりに具体的かつ突飛な内容。そしてその声は確かにレジの方から聞こえてきた。そして確かに、レジの前には声の主らしきスーツを着た男性が存在していた。
「えーっと、全部、ですか?」
そしてその言葉に唖然とする店員の姿も確かにあった。その光景が、先ほどの言葉が聞き間違えではなかったことを証明している。
「はい、支払はカードで」
「これはっ……」
甚平と青年はレジの側面のショーケースに立っている。ゆえにその男性がかざしたカードがやけに黒い色をしていることが把握できた。クレジットカードのグレードの最高峰。一般では入手できないような超高収入の者にのみあたえられるいわゆるブラックカードということが。
「少々お待ちいただけますか。その、商品を全てこの場で提供するのはちょっと難しくて……」
「うん、そうだよね。そう思ったからこちらでも手伝わせてもらうよ。人員はすでに用意してある」
そういいながらパンと男は手をたたく。その瞬間、どこからともなく十人ほどのスーツを纏った体格のいい三十ほどの男達がその男をとりまくように現れた。
「にゃああ~! ブルジョワですぅ。初めて見るのですぅ!」
突如としてあらわれたその非日常的な光景を前に絶句する甚平と青年。その沈黙を破ったのはたま子だった。
「え、あの人たち本気で持ち出してる……全部、全部? 全部って……え、なにあれ、ほんとに全部?」
そのたま子の声に我に返ったのか、青年の神姫はわたふたと黒服の男達の姿を視線で追い続ける。
「ん? そっちの神姫ちゃん達。さっきから僕のこと見てる?」
もともと、ここプレミアムショップはその扱う商品の高さからか客の数はそう多くない。そんな中であたふたとする神姫二人を連れていれば気づかれるのは無理がなかった。黒服達をよそに、その男は青年達に近寄ってくる。
「あ、いえ。凄い方がいらっしゃるんだなぁと思って……」
「んにゃぁ。見事な買いっぷりなのですぅ。まさに男! なのですぅ~」
素人目にも明らかに他の黒服達とは異なる高級そうなスーツ。金色のネクタイに腕には輝かしい銀色の腕時計。綺麗に固められた髪。驚くことに、男はかなり若く、青年や甚平と同年代の男性であった。
「え? ホント? そういう君達もかわいい神姫ちゃん達だねぇ」
そういいながら男はたま子と青年の神姫を左手で持ち上げ、自分の視線にあわせるとふっと笑みを浮かべた。
「んにゃぁ~」
その対応は人懐っこいたま子の気持ちをくすぐるには十分だったのだろう。顔に手を当てながら笑顔で照れるそのすがたは天真爛漫という言葉を形にしたようなものだった。
「いえそんな。あっ、こちらは私のマスターです。えと、私の名前は……」
青年の神姫は背筋をぴんと伸ばしながら自分と青年の自己紹介を始める。たま子とは対照的にまだ警戒心がとけていないのだろう。その声色は少しだけ震えていた。
「たま子ですぅ~。よろしくなのですぅ~」
「大木戸甚平です。どうもどうも」
「これはこれはご丁寧に。僕は大阪幾男、こっちはセレーネ」
たま子や甚平が好意的な反応を返してきたことに男は気をよくしたらしい。大阪と名乗るその男は上品に歯をみせながらほほ笑む。その肩にはゼルノグラード型の神姫が、ちょこんと座っており、彼の言葉に応じてぺこりと頭をさげる。それを確認すると大阪はにこやかにほほ笑みながら青年に手を差し伸べてきた。
「こちらこそ。本当にこの店の商品、全て買うんですか?」
その握手に応えながら青年は率直に疑問をぶつける。それに対し、大阪は自慢げに口角をくいっとあげた。
「あぁ、なにごともまず形からってね。バトルをするなら最高の環境を整えておきたいんだ」
「バトルをするならってことは、失礼ですけどもしかしてバトルの経験は?」
と、大阪の言葉に甚平は口を挟む。だが大阪は全く気にする様子もなく話しを続けていく。
「少しぐらいはあるけどね。あまりないんだよ。今までは着せ替えぐらいしか楽しんでなかったからね。最近になってバトルを本格的にやろうと思ってさ。初心者だからこそ、まずはどんな武装があるのか全てチェックしないといけないだろう?」
そういいながらショップ全体のショーケースを見渡す大阪。
「次元が違いすぎる……」
そんな大阪を前に青年は額に手を当てながらため息をつく。おそろしいのは大阪の態度に傲慢さがにじみでていないことだった。彼は彼なりに自分のできる努力をしようとしている。その台詞から青年はそう感じ取ってしまった。だからこそ、自分との違いに戸惑いを隠すことができなかった。
「にゃぁ……セレーネ、羨ましいのですぅ」
と、そんな青年の心情とは対照的にたま子はゆったりと声をあげる。しかし、それに対するセレーネの表情は少し強張っていた。
「そうですか? でも、私は──」
「えっ……」
そのセレーネの言葉をきいて、青年の神姫ははっと目を見開く。そしてそのまま大阪の方に視線をうつすと眉をひそめた。
「あ~、もしかして君も何か買う予定だったの? 良ければ君達にも何か買ってあげようか?」
その青年の神姫の視線の意味を誤解したのか、大阪はたま子と青年の神姫にそう言い放つ。それを聞いて、青年達の表情は一変した。
「えっ、いや、そんな……」
「うおおおっ! 流石ブルジョワですぅっ」
恐縮する青年の神姫に、ガッツポーズをとるたま子。そして絶句する青年。
「ちょっ、ちょっと待てって。いいのか?」
それにかわって甚平が大阪に向かって言葉をなげかける。ここプレミアムショップでは一番安いものでも五桁の数字が並んでいる。先ほどまで手が届かないものと思い込んでいたものがあっさりと手に入る、その状況は嬉しさよりもどこか恐怖に近い感情を青年と甚平に与えていた。
「いいのいいの。この子達かわいいから。新しい神姫も買うつもりだったから同じ武装でも複数手に入れときたいんだけど、一人や二人におごるぐらいの余裕はあるでしょう」
「か、神なのですぅ……神がショップにコーリンされたのですぅ……」
「へっへっへ!」
両手をあわせ祈るようなポーズを前にして大阪は胸をはりながら笑い始める。
「こ、こらたま子、調子にのらないっ」
「んにゃぁ」
遠慮する様子を全くみせないたま子に甚平は恥ずかしくなったのだろう。少しだけ赤面すると右手でたま子の体を持ち上げそのまま宙にぶらさげてたま子をしかりつける。
「あ、あの」
その時だった。青年の神姫はどこか思いつめた表情で声を張り上げる。
「ごめんなさい。幾男さん。せっかくのご厚意ですが、私は遠慮させていただきます」
そしてそのまま大阪に頭を下げると青年の方に視線をうつした。その視線を受けて青年は神姫の前に手のひらをかざす。
「え?」
そのままひょいと大阪の手から青年の手のひらにジャンプする神姫に、大阪は素っ頓狂な声をあげて反応した。そんな大阪に青年は申し訳なさそうに眉を八の字にまげながら口を開く。
「そうだな……申し訳ない、俺達は遠慮しておきますよ」
「ん~、別に悪いことしようってんじゃないんだけど…………」
「分かってます。どうもありがとう」
大阪もこのような反応をされることは想定外だったのだろう。少しだけ気まずそうにする大阪に対し、青年は優しく笑みを返す。どうあれ、彼に害意はなかったのであろうから。
「うにゅにゅ……」
しかしたま子にとってはあまりよくないながれだった。この状況では甚平の次の言葉も予想できてしまう。
「あ~、俺達もやっぱいいよ。どうせ、俺達じゃここの武装は装備すらできないだろうからな」
「はぅぅ」
甚平の言葉をきいて、たま子はがっくりと肩をおとした。しかし、マスターである甚平がこういっているため、これ以上は気持ちの押し売りになってしまう。
「…………う~ん、分かったよ。また今度ということで。君達ごめんね。セレーネ、帰ろっか」
「はい……また今度」
その言葉に、終始ほぼ沈黙を貫いていたセレーネは静かに口をひらき、再びぺこりとお辞儀をする。
「いつか、バトルをしましょう」
それに対する青年の言葉に大阪はふっとほほ笑みながら頷くと青年達に背中を見せ、その場から離れていった。
「……じー」
大阪が黒服の姿で隠れたほどに青年達のいる場所から離れたころ。たま子は甚平の肩で半目になりながら甚平に無言の抗議をぶつけはじめる。
「な、なんだよたま子。そんな目して……」
「別になんでもないのですぅ~……ブツブツブツ……」
「う~ん、まいったなぁ……ははは……」
足をばたばたとさせながら小声でなにかを呟くたま子に、甚平は苦笑する。どうも簡単には機嫌をなおしてくれそうにはない。
「でも、どうして断ったんだ? 悪くない話だったのに」
それはさておき、青年は自分の神姫にむかってそう問いかける。武装ランクの問題はともかく、将来的に装備はできるようになれる可能性がある以上、今回の話しは自分たちにとってメリットでしかない。それを周囲の空気に敏感な青年の神姫が周囲を気まずくしてまで断る理由は青年には思いつかなかった。
「それは……セレーネさんが言っていたんです。『でも、私はあなたのマスターさんの方がいいです』って……それで……なんか怖くなっちゃって……」
それに対して神姫はやや物憂げな表情でそう答える。セレーネの言葉は人間の聴力ではききとることが難しいほど小さな声量で放たれたものだった。しかし、青年の神姫はそれを聞き取っていた。そして、青年の神姫が言ったその台詞は、どこか大阪という人間を疑わせるには十分なものだった。
「うーん、なんかごめんな。変なところ案内しちまったか?」
少しだけ流れた沈黙に、甚平は申し訳なさそうに口を開く。だが青年はそれに対してだまって首を横に振ると先ほどの出来事を打ち消すかのようにからっと笑顔を浮かべた。
「いや、俺もいつかここの常連になれるように頑張るよ。他に知ってるいいショップとか知らないか」
その言葉に、甚平は一瞬だけ硬直するも、すぐに青年と同じように元気よく笑顔をみせる。こんなよくわからない出来事でせっかくの再会を気まずくするなんてありえない。その気持ちは青年と一緒だった。
「お、おう。まかせとけ。次はこことは真逆の場所に連れてってやるよ」