武装神姫バトルマスターズ with you 作:ひまっちゃん
「なるほど、これは確かに真逆の場所だな」
そういいながら、青年はふと立ち止まり周囲を見渡しはじめる。プレミアムショップと違い扉は手動。十畳ほどの空間。奥の方にあるレジの向こう側の店員がまるで囚人のように思えるほどにぎゅうぎゅうづめにされた商品。プレミアムショップのような高級感や小奇麗さは微塵も感じさせず客の人数もそれなり。それがゆえに窮屈な印象が強調されていた。
「だろ。ここはジャンクショップ。中古品やカスタマイズ品が売られてる」
甚平は青年の肩をたたきながら近くの商品を指さす。その先には白、ピンク、赤、三色の蝶の形に結ばれたリボンが駄菓子のように散在した小さなポップがあった。一見、武装であることを疑わせるそれを見た青年は目を丸くする。
「ギフトリボン……か。この商品なら俺でもがんばれば手がでそうだな。これもカスタマイズ品なのか?」
「あぁ、でもちょっとピーキーな武装が多くてな。ギフトリボンならアビリティ面はともかく、攻撃属性の耐性がかなり極端になってる。初心者だと扱いにくいかもな……」
「おいお~い、さっきの場所といい初心者に易しい場所はないのかよ~」
「はは、悪い悪い。でもお前オフィシャルショップの場所なら知ってるんだろ? それ以外で知っとかなきゃいけない場所なんてここぐらいのもんだしさ。それに、よ」
自嘲するように笑う青年の言葉に対して甚平はそのリボンをくるりと裏返し、そこに張ってある値札シールを指さした。その数字を見て青年は少し身を乗り出した。この価格であれば青年でも現実的に手が届く。
「なかにはお宝もあるんだぜ。プラスアビリティが大量にくっついたカスタム品とか。捨て値で売ってるときもあるんだよ」
「まぁ、こんだけ散らかってますしね……納得です……」
甚平の言葉に、青年の神姫は苦笑いを浮かべながらそう答える。ここジャンクショップの商品は客の側が丁寧に閲覧していないせいもあるのだろうがあまりに無造作に商品が並べられて……否、詰め込まれている。周囲に散在する段ボールにまるでガラクタのごとく雑に入れられたものもあるため、神姫に興味がなければただのゴミ屋敷ともいえるだろう。そんな空間から自分が欲する商品にたどりつくには並大抵の努力ではすまされないことは容易に想像できた。
「でもでも、マスターはここで結構いいのを買ってくるですぅ。パシリならまかせるですぅ!」
ふと、たま子はきしし、といたずらっ子のように笑いながら口を挟んできた。
「お、おいおい……まだご機嫌斜めなのか、お前は……」
「ぷぃーっ!」
そんなたま子の態度に甚平は呆れたようにため息をつく。そんな彼らのやり取りに青年は悪ノリしようとしたのか、ニヤリと口角をあげた。
「ははは、じゃあ甚平にたのんじゃ……」
「……だがや! もう諦めろっ! 交換するしか方法はないんだよ」
しかし青年の言葉は、唐突に放たれた張りつめた声によって遮られることになる。
「うるせぇ、大きなお世話だ。今は落ち着いてるんだからそれでいいだろ。金は払うからさっさとウォルフガンフを返せっ」
次の瞬間、放たれたのはどこか悲痛さを感じさせるような男の怒鳴り声。青年と甚平は反射的にその声の方向へと振り返る。
「よく考えろ。周囲に迷惑がかかるのは当然。一番危険な目にあうのがお前自身だとなぜ分からない。保証期間が過ぎると交換手続きも面倒になる。今ならまだ……」
「よく言うぜ。回収しないでいて責任を問われるのが嫌なだけだろが! 自分の無能さを正当化してんじゃねーよっ!」
その先には店のレジにて店員と逆毛の男が神妙な面立ちで向かい合っていた。会話の内容こそ端からきくものにとっては意味不明だがその雰囲気がただ事ではないことを物語っている。そしてその雰囲気に好奇と不安の視線を送るのは青年達だけではなかった。
「あぁ、気にしないでください。なんでもありませんからねー」
店員はすぐにその異常な雰囲気に気が付いた……いや、気づいていたのだろう。先ほどとはうってかわった明るい営業ボイスで店の中にいる人たちに声をかけている。
「なんか妙な雰囲気だな。タイミング悪すぎだろ……」
「ま、まぁこういうこともあるよな」
プレミアムショップでの出来事といいトラブル続きとなれば少し辟易しても無理はない。その気持ちを察したのだろう。青年はため息をつく甚平の背中を掌でとんとたたきながら自信もため息を漏らす……その時だった。
「……って、あれ? あれって筐体だよな」
青年は素っ頓狂な声をあげながら甚平の肩をつつきその後ろ側を指さす。その声に甚平はきょとんとした表情でその方向に視線をうつした。
「ん、あぁ。ここにも筐体はあるんだよ。公式のじゃないから買っても記録はつかないし神姫ポイントも手に入らないけどな」
「へー、ゲームセンターでなくてもバトルができるのか……」
甚平の言葉に青年は少しぼーっとした表情でその筐体を見つめる。
「おい、バトルしてかねえか? 俺様が先輩マスターとして指導してやるぜ~?」
それを見て、甚平は何か思いついたように表情をぱっと明るくすると青年の肩に手をまわし挑発するように口角をあげた。
「それ、俺も今から言おうと思ってたよ。胸を貸してもらうとするか」
対して、青年は甚平の胸を小突き自分の神姫と目をあわせた。それを見て、神姫は待ってましたといわんばかりに拳をぐっと握りしめる。
「はいっ、頑張りましょうね。マスター」
「むっふふー。たま子がねんこーじょれつってものを教えて差し上げるですっ!」
「決まりだな、そうと決まれば善は急げだ」
青年の乗り気な態度に気をよくしたのか、甚平は元気よくうなずくと筐体の方へと向かっていった。そしてそれはたま子も同じだったのだろう。拳を前につきつけ、気合の入った掛け声をかけながら白く輝く光を纏う。武装の実体化、戦闘態勢への移行だ。
「やる気だな、それじゃあ……始めるか!」
筐体の前に移動し青年は自分の頬をぱんと叩く。
「では、マスター。行ってきます」
「あぁ、やるからには勝利を目指すぞ」
それに続き、神姫は筐体の赤い足場に乗る。たま子とは違い防具を装備していない青年の神姫は実体化させる武装が無い。それを見て、甚平は眉をひそめた。
「たま子。相手は初心者中の初心者だが油断するなよ。あいつは……マジで強いからな」
「むむっ、マスターは弱気なのですぅ。ここは先輩らしくどーんとかまえてればいいんですぅ」
たま子が実体化させた装備はケモテック社特有の丸く愛らしい頭装備と胸につけたレザーアーマー、そしてマオチャオ用の脚装備。そこまで充実した組み合わせではないものの全く装備をつけていない青年の神姫に対してはこれだけで絶対的に優位にたてる。それゆえ、たま子はかなり自信を持っているようだった。しかし、甚平の表情は変わらない。
「はは、そりゃそうなんだがな。今回の相手は特別なんだよ」
「ではマスター、今回はどのようにしましょうか」
神姫の立つ赤い足場が下に下がりバトルフィールドへの入り口へと移動。そしてそのままライドオンをしようとした時のことだった。神姫は青年のかけたゴーグルのモニターに自身の顔をうつしだし、語りかけてきた。
「う~ん、やっぱり防具を全くつけてないのってまずいよな。さっきの子は確か防具一つしかつけてなかった気がするけど……甚平はそうでもなさそうだからなぁ」
「確かにそうですね。さっきのバトルもそうでしたけど。私を購入された時にハンドガン以外の装備は?」
「すまない、何も買ってないんだ……」
「謝ることではありませんよマスター。でもこの甚平さんは先ほどの相手より強い方かと思います。アタックチェインを狙っていきましょう」
「アタック……え、鎖?」
「大丈夫、今からご説明いたします」
神姫はそこまで言うとこほんと一つ咳払いをする。ライドオンを完全に行わない限りバトルフィールドの入り口は開かれないしこの空間にいれば相手に自分の声が届くこともない。作戦タイムをするにはもってこいの状況だった。
「私たち神姫は攻撃に使える武器を三つ装備できます。でも私は現在ハンドガンだけしか装備していません」
「あぁ、だから近距離だとどうしても素手で戦うことになるな……」
「そこでアタックチェインです。えっと……はいっ、どうです? 、左下にゲージが表示されていますよね」
「あ、あぁ……」
と、青年のかけたゴーグルのモニターの表示が戦闘時のそれへと変化した。神姫が自分の視覚機能を戦闘時のそれへと変えた影響である。
「青いゲージは私のHPを表示しています。そしてオレンジの部分が私のSPゲージです。さっきのバトルでは私のブースト機能は直感的に使えてたみたいですけど、それ以外にもSPを使うことで特殊動作をすることができます」
「なるほど、で特殊動作って?」
「はい。私たち神姫はボディへの過大な負荷を避けるため一回の攻撃動作で武器を一つしか使うことができません。武器を実体化させることができるのは同時に一つまでなんです。ですから別の武器を使うためには実体化させた武器を戻さなくちゃいけません。それを瞬時に行い連続攻撃を可能にする……それがアタックチェインです」
「なるほど……でも、俺たちはその武器がハンドガンしかないんだけど」
「大丈夫です。基本的な原理は同じなのでアタックチェインは素手でも行うことができます。操作方法は……そうですね、ここでも素手なら大丈夫そうですからちょっとやってみます。一部ライドオンを解除しますね」
ふと、神姫は周囲を見渡すとその場で右の拳を前に突き出す。
「えいっ! やあっ! とぉっ!」
次に左の拳を前に、直後に回し蹴りをしながら凄まじいスピードで右の拳で裏拳をつきつける。
「うおっ……これはっ……」
そのまま瞬時に左で掌打し体を半回転させながら右のひじ打ち、そのまま足払い。まるで武道の達人を思わせる動きに青年は息をのむ。
「どうですか? さっきのバトルよりも連続して攻撃が出せるんです。今のはちょっとした演武みたいなものですけどアタックチェインを使えば連続攻撃はおてのものです。あまり使いすぎると息切れしちゃいますけどね」
そんな青年の反応に対して神姫は少しだけ自慢げに胸を張る。
「なるほど。こうすれば一回の攻撃チャンスでより大きなダメージが期待できるってわけか」
「えぇ、活用してみてくださいねっ」
「おーい、どうした。まだバトルフィールドにこないのかよ。ライドオンしないのか? 作戦会議かー?」
と、なかなかライドオンしない青年達にしびれをきらしたのか甚平が筐体の外で青年に話しかける。
「あぁ、悪い悪い。今いく」
作戦タイムといえど時間を長くとりすぎたようだった。青年は掌を前にあわせて甚平に軽く頭を下げる。そんな青年の姿を見て、神姫は申し訳なさそうに眉をひそめた。
「あらら、ちょっと長くお話ししすぎちゃいましたか。ごめんなさいっ……」
「気にし過ぎだって。今回もたのむぞ。今度の相手はさっきと違って俺と同じような初心者じゃないからな。サポート無しじゃ勝負にならないと思う」
しかしそんな神姫の表情はすぐに変わることになる。その理由は言うまでもない。マスターが自分を信頼してくれている。それを喜ばない神姫がいるはずがないのだから。
「あっ、はいっ! 任せてください。勝ちましょうっ!」
ゆっくりと開くバトルフィールドへの扉。神姫は勇ましくほほ笑みながら一歩前を踏み出した。