武装神姫バトルマスターズ with you   作:ひまっちゃん

6 / 11
    三つの武器 後編

「マスター、今回もコロシアムステージです。はじまりますよっ」

 バトルフィールドの空間が彩られはじめた時、神姫は張りつめた声をあげながらぐっと体勢を低くする。

「ステージの形はさっきと同じか。単純な形のフィールドみたいだし、なんとか作戦も立てられるかもな……」

 グリーンの床に天井から伸びるいくつかの柱、中央部分には一際大きな柱に女神像のようなオブジェ。柴田とバトルをした時と同じバトルフィールド。とはいえ、呑気にバトルフィールドを眺めているわけにはいかない。

「マスター、ロックされていますっ! 敵神姫の位置は右側面。こちらもロックオン範囲内です、マスターッ!」

「あ、あぁっ。いくぞっ」

 すぐさま青年はロックオン操作を入力したま子に標準を向ける。たま子はすでに青年の方に向かって走り出していた。

「よしっ、今回は最初からハンドガンで攻めていこう。ゲーセンで俺のバトルを見てたなら、ハンドガンを持ってることはもうばれてるからな」

「了解、細かな標準は私にお任せを!」

 とはいえ互いの距離はいまだに離れている。むしろ甚平達が接近してくれているおかげでハンドガンの射程に丁度良く相手が入ってきてくれていた。青年はハンドガンを実体化させるとその場で弾を三発撃つ。

「おっと、いきなり牽制かよ」

「ふふん、私をなめるなですぅ。とぉーい!」

 しかし流石にその攻撃は単調すぎた。一発目の弾を左前方に転がり込みながら回避し、すぐさまジャンプをして二発目を回避。そのまま空中で三角状の青いシールドを展開し三発目をガード。そのまま着地すると一気に青年の方向へと突進してきた。

「来ます、マスター!」

 直後、神姫は青年に向かって注意を呼びかける。走りながら右腕を振りかぶり黄色いドリルを実体化させるたま子。マオチャオ型の神姫のデフォルト装備として開発されたケモテック社製のドリル、旋牙。耳を塞ぎたくなるような金属音を響かせるその攻撃をまともに受けてしまっては防具を装備していない青年の神姫に致命傷を与えることは青年にもすぐに感じ取ることができた。

「うおっと。あぶなっ……」

 しかしその攻撃は当たらない。たま子が突き付けた旋牙は間一髪、青年の神姫のジャンプによって回避されてしまう。それどころか、攻撃後の隙を見せている最中に敵に上をとられてしまうという最悪の形となってしまった。

「よし、ここならいけるっ……」

 これをチャンスととらえ、青年はもう一度ハンドガンを実体化させる。たま子は慌ててドリルをしまいこちらに視線を向けようとするが青年の攻撃は止まらない。

「へへ、甘いぜ! たま子!」

 しかし、甚平は勝ち誇るかのように声を高らかに張り上げる。それを聞いてたま子はぐっと腰を低くししゃがみこむようなポーズをとると全身から一瞬の間、小さな白い光を放った。

「まかせろですぅ。レールアクション、ROUTE1、起動っ!」

「なっ……」

 それを見て青年の表情が一変した。それもそのはず、たま子がそう叫んだ瞬間、青年の放った弾丸がたま子の目の前ではじけ飛び消滅してしまったのだから。しかも、状況はさらに悪化する。

「うりゃああああああっ!」

 気合のこもった声を放ちながら、そのまま空中にいる青年に向かって猛スピードで突進してくるたま子。あまりに唐突なその動作に対し青年はとっさにハンドガンで迎撃しようとする。だがそれは悪手だった。

「いけません、マスター! 今のたま子さんにハンドガンは……きゃああああっ!」

 青年が放つハンドガンの弾丸は全てたま子の前方ではじけ飛んでしまう。それどころかハンドガンを構えているせいでたま子に攻撃の隙を与えてしまっていた。その隙を、容赦なく、旋牙にて、えぐるたま子。青年の神姫はカウンターを受ける形で直撃を受けてしまった。

「な、なんだ今の動き……それに、ハンドガンを突き抜けてきた?」

 そのまま空中に放り出されながら青年は唖然としながらそうつぶやく。しかしバトルの最中に敵から注意をそらしてしまうのはさらに状況を悪化させてしまう。

「だめですマスターッ、追撃が来ます!」

「なっ……」

 神姫の声に青年は我に返る。しかし、すでに攻撃を回避することはかなわない。

「ぐあああっ」

 たま子の放り投げた爆弾が爆発し、その爆風で青年の神姫はさらにふっとばされる。

「へへへ、悪いなっ」

 その連続攻撃をまともに受けてしまうのはまずかった。防具を全く装備していない青年にとってすでにこれだけで勝負が決してしまう。体力が残っているのが奇跡と言えるような状態だった。

「く、くそっ、どうなってるんだ……」

 とはいえ、まだ勝負はついていない。すでに青年のゴーグルに表示された神姫の体力ゲージは限りなくゼロに近い状態を示しているもののまだ戦闘不能とはなっていない。青年はなんとか状況を確認すべく神姫の体を立ち上げる。

「落ち着いてマスター、あれはレールアクションです」

 そんな青年を気遣ってか神姫は不自然なぐらい冷静な声色でそう語りかける。

「レールアクション?」

「えっとですね……あ、だめっ、たま子さんが来ます!」

 しかし、もはやレールアクションの説明をしている時間はなかった。すでにたま子はトドメをさすべくもう一度距離をつめようと走り出している。

「くそっ……」

 それを見て青年は再度ハンドガンを構えると迎撃の体勢に入った。しかし、神姫の体に大ダメージが入ったことにより、少しよろけた状態で放つ弾丸はいとも簡単にたま子にかわされてしまう。

「たま子、油断するなよっ! 決めるぞっ」

「ふふんっ、同じ攻撃なんて通用しないのですぅ。そりゃあ!」

「だ、だめですっ、これじゃあさっきとっ……」

 先ほどの攻防とあまりに同じ展開に青年の神姫は悲鳴に近い声を張り上げる。

「甘く見るなよっ……」

「なっ……!」

 しかしそこから先は違う展開となった。前進してくるたま子に対し自らも突進する青年。

「うわっ、むこうもつっこんできたですっ」

「焦るなたま子、このまま勝負を決めるぞっ!」

 流石にそれは予想外だったのだろう。たま子は声を上ずらせて戸惑いの表情をみせる。しかし青年の神姫の体力はもはやゼロに近い。ガードされようが一発でも攻撃を当ててしまえば甚平が勝利することになる。そのままドリルを実体化させ青年の神姫へと突進する。

「させるかぁっ!」

 しかし今回の攻防を制したのは青年だった。たま子がドリルを構えようと右腕を振り上げた瞬間、青年の神姫の右拳がたま子の胸部を貫く。不意に攻撃を受けたことでひるむたま子にさらに左拳の正拳突き。

「流石です、マスターッ!」

「まだだっ、追撃するぞっ」

 青年の掛け声とともに神姫の体が一瞬青白い光を放つ。刹那の間をおいてたま子の腹部に神姫の膝蹴りが命中。一歩後ずさるたま子に体を一回転させて右の拳で裏拳。

「くそっ、ここまでうまく決めるかよ普通……」

 アタックチェインによる青年の神姫の猛攻に甚平は唇をかみしめる。一撃のダメージは低いものの張り付くように立ち回る青年の前でドリルを構える余裕などなかった。青年もそれを分かっているのかたま子に密着するような形で素手による攻撃をしかけてきている。よろめくたま子にさらに神姫はひじ打ち。そのまま顎にアッパー。もはや殺意を感じさせるかのごとき連続攻撃。

「うにゅっ、ぐっ……」

「たま子、一旦距離をとるぞっ。アイツを調子づかせるな!」

「うぐっ、は、はいですっ」

 しかし所詮は素手。ある程度防具をつけている相手にその攻撃だけで致命打を与えることはかなわない。またアタックチェインは代償としてSPを消費する以上、その攻撃は永遠には続かない。青年の神姫は息切れしたかのようにアッパーの後、一瞬動きが止まった。その隙をついてたま子はバックステップで青年の神姫から距離をとる。

「マスター、相手に流れを渡しちゃだめですよっ」

「あぁ、追撃だっ」

 自分の攻撃が途切れたことで青年の神姫は焦りの声をあげる。しかしその時にはすでにたま子は素手による攻撃が届くような至近距離にはいなかった。そのため青年はハンドガンによる攻撃に切り替える。

「そこだっ、たま子!」

「はいですっ、ROUTE1!」

 しかしその攻撃は届かない。再びたま子から放たれる白い光。同時に弾けるように消滅するハンドガンの弾丸。直後に猛スピードで突進してくるたま子。

「くっ……またかよっ」

 それに対しハンドガンを追射して迎撃しようとする青年。

「いけないっ、マスター!」

 だがそれは先程の二の舞だった。ハンドガンの弾丸など存在していないかのごとく、たま子は青年のもとへと突進する。

「決めるぞたま子!」

「うりゃあああああ」

 そのまま右腕を振り上げドリルを実体化させるたま子。他方、青年はハンドガンを構えたままで無防備────のように思われた。

「そこだあっ!」

 青年の神姫は一瞬、青白い光を放つとハンドガンを瞬時に戻し、そのまま胴廻し回転蹴りをたま子の顔に決める。

「うぶっ!」

「なっ、アタックチェインだとっ!」

 鮮やかに決まったそれはたま子をスタン状態にもっていくには十分だった。青年の神姫はそのまま左手を地面につき瞬時に体勢を整えると右拳をたま子の腹部へとめりこませる。

「まだSPがあったのか……ってことはあれは……」

 再び一本とられた甚平はぐっと歯を食いしばる。理解したのだ。これは青年の策なのだと。先の連続攻撃で青年の神姫はアッパーで攻撃が止まっていた。それはSPが途切れていたか、あるいは青年がアタックチェインの操作をミスしていたか、その程度しか甚平は思っていなかった。しかし、まさにそう思わせることが青年の狙いだった。

「はぁっ!」

 青年はさらに手刀でたま子の首をうち、さらにローキックでよろめくたま子を追撃する。完全なサンドバッグ状態だが甚平にこれを食い止めるすべはない。そんな中、甚平は先の青年の行動を思い返していた。アタックチェインはあまりに連発すると息切れをおこしSPが枯渇するどころかその威力も下がってしまう。ゆえに一回攻撃がヒットしたからといって全てのSPを注ぎ込みアタックチェインを繋げることは決して効率的なことではない。そこで青年は一度アタックチェインを切りながらも次の攻撃のチャンスをつかもうとしたのだ。すなわち、敢えてアッパーで攻撃をとめることでSPを温存し、ハンドガンへの攻撃に切り替えることで甚平のレールアクションを誘発、ドリルをかまえた瞬間にカウンターをかけるという、このチャンスを。

「くそっ、たま子。一回バックだっ」

 しかしそうだといってこのまま何もせずに敗北する訳にはいかない。甚平はなんとか青年の神姫が繰り出す回し蹴りをガードしてたま子に体勢を立て直させる。

「うにゅにゅ……ROUTE12、起動ですぅ!」

 たま子もこのまま青年達に好き勝手させるつもりはないようで、その声にはまだ覇気がこもっていた。青年の神姫が追撃をしかけるより前にたま子は白い光を放ちながら右後方へ猛スピードでバックする。バックステップとは比べものにならない程に素早く遠くへと。

「ばくはつしさーん!」

「うっ、やばっ……」

 その直後、たま子は渾身の力をこめて爆弾をなげつけてくる。流れをつかんでいたところへの急な反撃。そうでなくとも青年が爆弾をみたのは先の一回のみ。対処法をまだ理解すらしていない。そんな青年を鼓舞するかのように神姫は、声を張り上げた。

「マスター、体を回転させて!」

「えっ、なんっ……」

「早く! 手遅れになります!」

「くっ……」

 神姫の声に従い青年はくるりと神姫の体を回転させる。同時にたま子の投げた爆弾が爆発しその爆風が青年の神姫へと襲い掛かった。

「あれ、ダメージがない……」

 しかしそれで勝負は決まらない。爆風の中で神姫は周囲に紫のベールのようなものを出しながらバレリーナのように体を回転させているのみだった。

「『ターン』です。ダメージを回避するための緊急手段です」

 そんな状況に呆気にとられる青年に対する注意喚起の意味もあったのか、神姫の声は危機を回避したのにも拘わらず張りつめていた。

「なるほど、助かったよ……じゃあターンを使いながら……」

「マスター。ターンは万能じゃありません。ダメージを回避できるのはわずかな時間ですし、動作後に隙ができちゃいます。乱用するとそこをつかれるかと」

「くそっ……じゃあどうすれば……」

「とにかくマスター。次の爆弾がきます。着地のタイミングで爆風がくることを考えるとジャンプで回避は不可能です。とりあえず爆弾の動きになれるまでブーストで逃げ切りましょう!」

「でも逃げるだけじゃ……いや……わかった、仕切り直そう」

 青年は神姫の声をきくと一度、大きく深呼吸をしてたま子の動作をじっと見つめる。ブーストは瞬時に回復するものとはいえ一度消費しきってしまうと完全に動きが止まってしまい隙をみせることとなる。タイミングをあわせて行動しないと逃げ切ることはかなわない。

「うりゃー、うりゃーっ、爆発しろぉ、なのですぅ~!」

 他方、青年の攻撃が止まったことで強気になったのか、たま子は連続して爆弾を放り投げる。しかし回避に集中する青年にそれを当てることはかなわない。

「投げるタイミングを微妙にずらしてはいるんだけどな。ここまで回避してくるとはさすがだぜ。だがいつまでもノーミスで居続けられるか?」

 甚平はそうつぶやきながらふっと笑みをこぼす。いかに回避にのみ徹しようとも青年が初心者であることは変わらない。そうでなくともガードすら許されない程体力が削られている以上まともな精神状態ではないはずだ。どこかで必ずミスが出る。そうでなくともこの状況を続けて時間切れとなれば体力が残り少ない青年が判定負けとなる。

 

「こうなったら……また賭けるしかないな……」

 ふと、青年はごくりと唾をのみこむと覚悟をきめたかのようにそう呟いた。

「マスター、何か策が……?」

 そんな青年の様子に神姫も緊張を感じたのか息を漏らすように青年にといかける。それに対し、青年は自信なさげに苦笑いを浮かべた。

「策、といっても俺自身の力じゃ無理だ。力を貸してくれ……」

「もちろん。それが私の役目ですから」

 そんな青年に対してどこか嬉しそうに答える青年の神姫。当然だろう、マスターに頼られることを喜ばない神姫がいるはずがないのだから。

 

「うりゃうりゃうりゃああああっ!」

 他方、たま子の表情にはやや焦りの色が出始めていた。直前の近接戦闘で完全に競り負けたことに加え流れを取り戻せたと思いきや全ての攻撃が回避されていることがたま子の不安をあおっている。

「相当粘るな……あいつの心臓は鋼かよ……」

 そしてそれは甚平も感じていることだった。思い返すのは青年と柴田の戦い。あのバトルでも青年は柴田のハンドガンを全て回避していた。たしかに、ハンドガンのような射撃武器はどうしても攻撃の軌道が直線になるためある程度の距離が離れており、かつ回避に徹しようと思えばそれも不可能なことではない。だが爆弾は神姫が直にもって投げるものでありその軌道には多様性を持たせやすい。そして攻撃そのものは爆風で行われるためその範囲が見切りにくいという特徴を持つ。それに加えて青年の神姫の体力はゼロに近く敗北寸前。ガードすら許されない状況だ。その状態でノーミスで回避し続ける青年に甚平は驚きを通り越して敬意すら感じていた。

「うにゃっ? あれっ……」

 ふと、そんな中、たま子が素っ頓狂な声をあげる。

「い、いないですぅ?」

 その原因はすぐに理解できた。たま子の視界から青年の神姫の姿が消えたのだ。だがその理由はすぐに把握することができた。

「落ち着けたま子。ロックオンできてるだろ。あいつはオブジェの後ろだ」

「むにゅにゅ。敵は私におそれをなしたですかぁ」

 爆風をかくれみのにしつつジャンプして中央の柱につかまりそのままオブジェの裏側に回り込んだのだろう。ロックオンによって表示された水色の標準がその場所で表示されている。

「いや……これは逆にチャンスだ。このまま近づいて射程をあわせよう」

 天井の柱につかまり反撃の機会をうかがう──これは青年が柴田との戦いで見せた行動だ。ゆえに一瞬、警戒するものの先の戦いとは違う点に甚平は気づいていた。だからこそ甚平はオブジェの裏側に隠れる青年にじりりと距離をつめていく。

「よしっ、この位置からなら……」

 柴田との戦いで青年が利用したのは中央のものではなく周辺のもの。そしてあの行動は不意をついて相手の上をとることに意味があったが今回はすでに位置がばれている。しかも、甚平が利用する爆弾はハンドガンのように障害物に隠れれば簡単に回避できるものではない。障害物に当たらないように、向こう側になげることでむしろ一方的に攻撃することが可能な武器。それらの点が柴田とのバトルとは決定的に違う。

「爆風でアウトなのですっ、くらえー!」

 甚平の指示を受けたま子が爆弾を手に持ち攻撃の動作に入る。今度こそ勝負を決める。そんな強い意志をこめて。

「いまですっ、マスター!」

 だが、青年と、その神姫がとった行動は甚平達の裏をかいた。たま子が攻撃の動作に入った瞬間、青年の神姫はオブジェの前に回り込むとハンドガンを構え弾丸を発射する。

「うっ、うひゃあああああ!?」

 その行動の意味を甚平はすぐには理解できなかった。オブジェの前に出て、たま子に反撃したところで爆弾を投げる攻撃動作を止めるには間に合わない。だが刹那の間をおいて響くたま子の悲鳴をきいて、甚平は青年の策を理解した。

「なっ、ばかなっ! 俺の爆弾をっ……」

 青年の神姫はたま子を狙っていたのではない。その狙いはたま子が投げようとした爆弾にあった。ハンドガンの弾丸が着火したま子の腕近くで、爆弾が暴発する。他方、青年の神姫は即座にジャンプ。神姫の跳躍力の問題から爆風はジャンプではかわせない。しかし、もともと高い場所からさらにジャンプすれば爆風がおさまるころに丁度着地することができる。

「くそっ、たま子、追撃が……」

「ひあああっ、爆風で何もみえないのですぅ」

 ロック機能により青年が自分の上にいることは理解している。しかし、正確な位置が把握できない。爆風が起こるのは一瞬の間だ。しかし、その一瞬がこのようなギリギリの攻防では命取りとなる。

「だめだっ、たま子! ここで体勢を崩したら一気に……」

「もう遅い!」

 たま子の背後に着地し、左拳をたま子の背中に貫く。最悪のタイミングで放たれるバックアタック。ここでさらに、甚平は自分のおかした致命的なミスに気が付いた。青年が甚平に距離をとられた後、回避に徹し、なおかつオブジェの裏側に隠れた意味。それはなにも先の奇襲のためだけに行われたものではない。

「ひあああっ、マ、マスターッ……」

 力なくあえぐたま子の声をききながら甚平はくっと唇をかみしめる。右拳の突き、拳、そして青白い光を放ちながら膝蹴り──

 SPは時間により自動的に回復する。つまり、青年は稼いでいたのだ。SPを回復させ再びアタックチェインによる猛攻をしかけるための時間を。

「これで……決まりですっ!」

 最後に、たま子の首の後ろから全体重をかけた渾身のひじ打ち。その攻撃で勝負が決まった。

「んにゅ……にゅにゅ……きゅぅ」

 地面にばんっと叩きつけられるように倒れるたま子。同時に筐体のアナウンスがゲームセットを告げる。

「すごい……すごいっ、やった!」

 青年の神姫はそれをきいて力なく座り込む。緊張から解き放たれた反動からか小さくガッツポーズをすることしかできていない。

 

「ちっくしょ~! マジで勝つつもりだったんだけどなぁ。大人気ないぐらいに本気だしたのにっ」

 筐体の外でも甚平の悔しがる声が響く。同時に筐体の中から神姫達が赤い足場にのって外へと出てきた。うつぶせになりながらじたばたするたま子にしりもちをついたように座る青年の神姫。まるでどちらもバトルに負けたかのような疲弊した表情をしている。

「……は、ははは……なんとか勝てたな……ありがとう」

 筐体の外へと戻ってきた自分の神姫を抱きかかえながら青年はほっと胸をなでおろす。その表情はいかに青年が先ほどまでに緊張を強いられているかをことさらに物語っていた。

「はははっ、それで勝っちまうんだからやっぱお前はすげぇよ。相手の爆弾にハンドガンで着火なんて、よく命中できたな」

 そんな青年に対し甚平は悔しそうに顔をゆがめながらも素直に賛辞の言葉をおくる。

「あの体力だったからな……もう爆弾で攻めてくる、って決めつけて行動するしかなかったんだ。俺の神姫がロックオンに集中してくれてたおかげでなんとか……な」

「いえ、私は……そんな……」

 青年の言葉に神姫は照れくさそうに顔をかかえてにやけた顔を隠そうとする。とはいえ、今回の神姫の功績は大きかった。人間の能力では攻撃の精度には限界がある。だからこそ神姫バトルにおいて細かな標準あわせは神姫が行っている。

「なるほど。来る攻撃が分かってて、神姫のサポートをロックオンだけに集中すれば……できない芸当じゃねえな。常識はずれだなお前は。ハンドガン以外素手なのによくやるぜ」

「ははは……神姫バトルの基本ってのを知らないからな。どうしてもそうなっちゃうんだろうよ。それに……さ」

 青年はそこでいったん言葉をきると、自分の神姫の頭を人差し指で軽くなでる。それに対し青年の神姫は満面の笑みを浮かべながら手でその指をおしのけようと嫌がるポーズをした。

「俺の神姫がアタックチェインを教えてくれた時、思ったんだ。神姫の武器は三つ。アタックチェインは複数の武器で連続攻撃ができる特殊動作。そしてアタックチェインは素手でも可能……ということは俺は『ハンドガン』以外にも『素手』という武器が二つあるんじゃないかって」

「それは……どういうことだ?」

「武器にはその特徴によってそれぞれメリットとデメリットがあるはずだろ。ってことは『素手』であることにもメリットがあるんじゃないかって思ったんだよ。武器を装備していると攻撃動作の時にそれが実体化する……いや、してしまう」

「あっ……」

 そこまできいて甚平は青年が言おうとしたことに気づいたのだろう。はっとした表情で息をのむ。

「だから最初に俺が攻撃をしかけた時、たま子は俺に至近距離にもぐりこまれているのも拘わらずドリルを使った。そうじゃないのか?」

「…………」

 甚平の無言を肯定をとらえたのか、青年はそのまま言葉を続ける。

「言っちゃ悪いが、お前の神姫も防具が充実しているとは思えない。素手でもダメージがある程度期待できるなら、わざわざ武器を構えるよりも早く攻撃ができる分、こちらが有利になるって思ったんだ。だからそれを利用した戦略を立ててみたんだ」

「マスター……私の言葉で、そこまで考えてくれてたなんて……」

 青年の神姫は、やや呆然としながら感嘆の声を漏らす。バトルフィールドに入る前、神姫はただアタックチェインの存在を知らせるためだけに青年にそれを伝えていた。しかし、青年は神姫の言葉から自分なりの戦略を考えだし絶体絶命の状況を覆した。自分の言葉が逆転のきっかけになったことが、神姫にとってはたまらなくうれしかった。

「……なるほど、三つの武器をうまく使いこなしたお前が勝つのは当然ってことか……やっぱりお前は……」

 甚平は、がっくりと肩を落としながら、しかしどこか嬉しそうにほほ笑みながらため息をつく。

「へぇ、良いバトルだったね。二人とも。面白いバトルを見せてもらったよ」

 そんな時だった。ふいに、青年と甚平の横から男性の声がかかる。ふりかえるとそこには、ジャンクショップの店員が軽く拍手をする姿があった。いや、店員だけではない。いつのまにか青年と甚平のバトルは何人かのギャラリーを集めていた。

「あ、どうも……」

 周囲の視線を感じたせいか、青年はやや恐縮した様子で頭をさげる。

「いや、二人とも面白いバトルをみせてくれた。先ほどはすまなかったね」

 四十代半ばといった感じで頭は少しぼさぼさ。分厚い眼鏡に土の汚れのようなものがついた服。先ほど逆毛の男と言い争っていた時とは全く異なる穏やかで父性を感じさせる声。そんな店員の雰囲気に緊張がとけたのか、青年はふっと笑みをうかべた。

「いえ、なんか色々深刻そうでしたし大丈夫です。ありがとうございます」

「そんなかしこまらないでくれよ。ここのお店はくだけた雰囲気も売りなんだからさ。そういえば君はレールアクションはどんなのを持っているんだい? さっきのバトルでは使ってなかったけど」

「あ、そうそう。レールアクションってなんですか」

「あれ、お前レールアクションも知らなかったのか?」

 と、甚平が頓狂な声をあげながら口を挟んできた。店員も青年の言葉に目を丸くしている。そんな二人の態度をみて、青年はそれに対しあぁ、と気まずそうに頷いた。

「あ、あの。マスターは今日、私をご購入されたので、まだバトルのことはよく……」

 青年をフォローしようとしたのだろう。神姫は青年の手から肩の位置まで飛び移ると店員さんに向かって話しかける。

「……驚いたな。本当に才能あるマスターみたいだね。それであのバトルをしたのか……」

 だがその心配は無用のようだった。店員は目を輝かせながら感嘆のため息をつく。

「SPを消費する代わりにあらかじめ決められた特殊な動作ができるプログラムだよ。わかりやすくいえば必殺技かな。といっても彼が使ってたのは移動用のレールアクションみたいだけど」

「う~、ん……?」

「たとえば俺が使ったレールアクションROUTE1はショットガード、つまり遠距離攻撃に対してガードをつけながら前進する動作をするんだ。最初に使っただろ」

「あぁ、だからハンドガンがきかなかったのか……」

 青年はそこで軽く手をたたく。たま子が突進してきた際に放ったハンドガンは無効化されていたわけではない。ガードによりダメージが大幅に低減されていたため弾丸が消滅したかのように見えていただけだった。そのカラクリを理解し自嘲するかのようにクスリと笑う青年。しかし、彼にはまだ一つの疑問があった。

「でもそんなのどうやって使うんだよ」

「武装エディットで装備して、試合中に発動させるだけだけど」

「武装エディットってなんだ?」

「え、ちょ、ちょっと待ってくださいマスター。私、ハンドガン装備してるじゃないですか。これ、私に装備する時武装エディット開きましたよね?」

「購入特典のおまけについてきたんだよ。オフィシャルショップの店員さんが設定してくれた」

「っ…………」

 と、これには青年の神姫も絶句する。神姫自身もここまで青年がバトルの知識を備えていなかったとは思わなかったのだろう。だが、青年の神姫は別に呆れているわけではない。むしろ青年の知識の無さに気づかなかった自分を責めているようだった。

「はっはっはっはっは! 面白いな君は。どうだ、ちょっとこの筐体で基本動作を学んでみてはどうだろう。トレーニングモードにも設定できるぞ」

 そんな青年の神姫の様子をふんでか、店員は朗らかに笑うと青年達にそう提案する。と、それをきいて甚平は待ってましたといわんばかりに身を乗り出してきた。

「おっ、いいですねそれ。おい、やるよなっ」

「お、おう……?」

 話の流れが理解できていない青年はまるで化かされたかのように怪訝な表情を返す。しかし甚平はそんな青年の様子などおかまいなしに再び筐体の前に戻るとトレーニングモードへと設定を変更しはじめた。

「よーし、なら店員さん。続けて使わせてもらいますよっ。他の人もバトルするわけじゃなさそーだし」

「あぁ、かまわないよ。どうぞ好きに使ってくれ」

「ちょっ、ちょっと待てって……トレーニングってなんだよ、話しがいきな……」

「お前、マジで才能あるかもしれねーんだからな! ビシバシ叩き込んでやるぜっ」

 

 

「……うにゅにゅ、私のこと、みんな絶対わすれてるですぅ……」

 そんな二人のマスター達の声をききながら、たま子はうつぶせのまま、そう小さく呟いた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。