武装神姫バトルマスターズ with you 作:ひまっちゃん
「く~っ! 歩くのめんどうだなぁ……」
日が落ち始め周囲が暗くなり始めたころ。ビル街を歩きながら青年はぐっと背を伸ばす。甚平とのバトル後、青年は数時間にわたって青年は神姫バトルの基礎知識を学んでいた。その後、後日合うことを約束し別れてからかれこれ三十分ぐらい経過する。
「本当にお疲れ様です。あの、あんなにいっきにトレーニングして大丈夫だったんですか?」
そんな青年の肩にしがみつきながら、青年の神姫は心配そうに青年の顔をのぞきこむ。青年は落ちそうになっている自分の神姫を急いで支え、自分の肩に座りなおらせると苦笑いをみせた。
「まぁいきなり全部の動作を覚えられたわけじゃないんだけど少しコツはつかめたよ。レールアクションもいくつか教えてもらったし収穫はあったと思うぜ。ま、たま子がすごい怒ってたけどな……」
「ははは、ずっと不機嫌でしたもんね……でも、なんだかすごく仲よさそうでした」
青年の神姫も、青年に合わせて苦笑する。マオチャオ型は基本的に自分の感情を素直に表現する性格をしている。それは甚平にも共通するところがあり、その点で息が合うのだろう。甚平は、駄々をこねるたま子とのやりとりをどこか楽しんでいるような様子だった。青年はその事を思い出しふっと頬をゆるませる。
「なんというか、甚平らしい……ん?」
ふと、そんな時だった。青年はあるものに注意をひかれその足を止める。
「なんでしょう、あの人だかり」
それには青年の神姫も興味を示していた。二人の視線の先には交通する人間にとっては邪魔で邪魔で仕方ない人だかり。しかし、人が集まっていればその理由を探りたくなるのも人である。そして青年もそんな普通の人にすぎなかった。
「見てみるか。なんか面白そうだし」
言うやいなや、青年は人だかりの方に歩き出す。そして、そのままぐっと背伸びをすると人々の視線の先に注意を向けた。
「なるほど。神姫バトルを知らない者に向けてプロモーションをしているみたいですね。ほら、あのスクリーン」
神姫は青年の頬を支えに、その場で立ち上がると人だかりの先を指さす。最初は人だかりのみに注意が向いてばかりいた青年だったがなるほど、たしかにその先には後ろの方にもわかるように大きなスクリーンが用意されていた。
「あのスクリーンに映っているのが今やってる神姫バトルか?」
「そうみたいですよ。しかし凄いですね、あの武器の破壊力……」
そういいながら神姫が指さすのはアルトアイネス型の神姫の方だった。黒を基調に赤で飾られたカラー。右手にかまえた赤いクリスタルのような剣、ロッターシュテルンは敵神姫が回避しても、その余力でフィールドを切り裂いていく。その切れ味は剣による攻撃をみたことがない青年にとってもすぐに分かるほどに鋭く、そして美しい。
「あれ、あの子……なんかみたことあるな……」
ふと、青年はスクリーンの下でその神姫を操るマスターに視線を移した。さらりとした黒いロングストレートの髪に白のワンピース、愛くるしい顔。その容姿のレベルは明らかに一般のレベルを大幅に超えている。
「ちょっと検索してみましょうか」
と、青年の言葉を受けて神姫は自分の目の前に投影モニターを表示させた。そこからネットにアクセスし神姫アイからとりくんだ彼女の映像と類似する画像を検索しはじめる。
「えーっと、タレントさんみたいですよ。鍋島祥子さん」
十秒程経過した時に、神姫は投影モニターを青年の顔の目の前にも表示させた。鍋島祥子オフィシャルとかかれたサイト。その上の方で今神姫バトルをしているのと同じ女の子がほほ笑んでいる。
「あ~……この人だ。なんかテレビで見たことあるよ」
「歌手として結構有名みたいです。アイドルさんなのかな?」
「なるほど、そりゃこんな人だかりにもなるなぁ」
改めて見渡してみるとこの人だかりの殆どは二十から三十代の男性達で構成されている。もともと神姫は男性の方が人気があるしそれらのターゲット層に興味を持ってもらうためにはこのようなプロモーションが効果的なのだろう。
「……ぴ……ぅ……」
「あれ?」
ふと、青年の神姫ははっと目を見開いて周囲を見渡す。
「ん、どうかした?」
急に妙な行動をとりはじめた神姫に怪訝な表情を向ける青年。だが、神姫はおかまいなしに周囲をキョロキョロと見渡し顔を強張らせる。
「今! 何か声が聞こえませんでしたか?」
「え……」
「そっちですっ」
神姫は、青年の襟を引っ張りながら左側を指さす。その先には大きな網目のゴミ箱がガードレールの横にぽつんと一つ置かれていた。
「その、ゴミ箱の中から……なんですけど……」
「えっ、この中? いや、でも……」
青年はゴミ箱と神姫を交互に見つめる。神姫の希望はおそらくこのゴミ箱の中を調べることにあるのだろう。しかし、社会常識的に人だかりができるような人の目が多い場所でゴミ箱をあさるというのはなかなか勇気がいる行動だ。
「…………」
それは青年の神姫も自覚しているのだろう。気まずそうに、だがどこか悔しそうにゴミ箱をじっと見つめている。
「わかった、調べてみるよ待ってろ」
そんな表情を見て黙るマスターがいるであろうか。否、たとえマスター一日目といえど、見た目が少々無個性だろうと、神姫のマスターである事には変わりはない。そもそも神姫マスターというのは往々にして変わり者がなるものである。そして青年にもその素質があった。別に残飯が捨てられているわけではない。大量のカンや漫画雑誌、ペットボトルその他もろもろが分別無く捨てられているにすぎない。そこまで腕は臭くならないだろう。覚悟を決めたように青年はゴミ箱に近づくとその中に腕をつっこんだ。
「あっ……すいません……」
「いいんだ。どこら辺からきこえてきた?」
「えっと、今マスターの……ちょっと右で、あ、そこです」
「おっ……」
何か手ごたえらしきものをつかんだ青年はそのまま腕をひっぱりあげる。
「ん、これは……神姫か!?」
「……」
「っ!?」
それを見て、二人は目を見開いた。青年の手のひらにはゼルノグラードの神姫が握られている。そして、そのゼルノグラード型の神姫は、二人にとってやけにデジャヴを感じさせるものだった。
「な、なぁ……こいつって……」
「待ってください、今個体を確認しています」
青年も、その神姫も、思うところは同じだったのだろう。神姫はすでに青年の肘に移動しじっと、その神姫を見つめ照合を開始していた。
「……間違いないですね。セレーネさんです。パワーダウンして予備電源に切り替わっているようですね……」
ぐっと唇をかみしめる青年の神姫。青年も思わずセレーネをぎゅっと握りしめる。
「セレーネって、さっきのブルジョワさんと一緒にいた神姫……だよな?」
「そうですけど、それがなんで……いや……」
なぜセレーネがゴミ箱にいるか。そんなものは考えるまでもない。だが、このゴミ箱は一通りの多い道にさりげなくおかれたもの。ゴミの分別も全くつけられていないことからもしかしたら、偶然落ちてしまった可能性も否定できない。
「マスター、どうしますか? セレーネさんは……」
「事情ぐらいきいたって怒られはしないだろう。一度俺の家に連れて帰って充電してみようか」
「は、はいっ……」
神姫はやや上ずったそう声でそう答えると青年の肩にのぼりはじめた。
「セレーネさん、クレイドルに入れられました。充電開始します」
青年の自宅は一軒家だった。住宅街にあるそこそこ裕福な家庭。しかし家族の姿はなくそれを思わせる形跡もない。とはいえ一人暮らしにしては大きすぎる二階建て。そして二階にある青年の部屋も、個人の部屋としては驚く程に大きい。中央奥に木の机とノートパソコン。左奥にはテレビがおかれその横には本棚。かなり豪華なつくりになっている。とはいえ、状況が状況なだけに青年の神姫はそれに対して何の反応も示すことはなかった。
「そうか、ありがとう」
「いえ……大丈夫かな……」
机の上で眉をひそめながらセレーネをのぞきこむ青年の神姫。セレーネを寝かしているのは青年の神姫を購入する際に付属してきたクレイドルだ。神姫が座り込むように眠ることができるベッドのようなつくりになっているそれは、神姫を充電するために必要なものである。
「いくら捨てられてたからって、死んだわけじゃないんだろ。充電しなおせば再起動できるもんじゃないのか」
「えっと、そういう意味じゃなく……いえ、なんでもないです……」
神姫はふぅ、ため息をつくと改めて青年の部屋を見渡し始める。大きな部屋の割には小奇麗にまとまっており何か物が散らかっている様子は殆どない。だが、神姫が今いる机の上にはノートパソコン以外にも本が無造作に置かれており整理がいきとどいていない。
「あ、あのっ、マスター。私、お部屋のお掃除とかしましょうか」
「えっ?」
と、神姫の唐突な質問に青年は頓狂な声をあげる。
「いえ、その。わ、私、来たばかりですけど、マスターのお役に立て、立てること……し、しないとって……」
「いや、別にいいよ。そんな小さな体じゃ無茶だろ」
「っ……」
青年の気遣うような言葉、神姫はびくりと体を震わせる。そして、まるで強く叱られた子供のように今にも泣き出しそうに目をうるわせながら青年の顔を見上げた。
「お、おい……?」
「で、でもっ! み……身近なことから始めてみようかなって思って……だ、だから……」
「大丈夫か? 疲れてるんじゃないか? なんか変だぞ」
神姫のただならぬ様子に、青年はあたふたとバッグの中を探し始める。しかし、クレイドルは一つしか付属していない。青年の神姫を休ませることはかなわない。
「そんなことないですよっ! バッテリー残量はそこそこあります。って、いうかですよマスター、神姫は生活のサポートをさせていただくためのモノですからっ! まかせてくださいっ、ほらっ!」
「っ!?」
と、神姫は自分の体よりも大きな本を軽々と持ち上げるとぴょんと机から飛び降りる。それを見て、目を見開く青年。しかし、神姫は何の変哲もなく着地しそのまま本棚の方へと移動すると本を持ちながらぴょんぴょんとジャンプをし段を上っていく。
「お、おぉー……凄いな、小さな体でようやる……」
それには流石に青年も感嘆の息を漏らすしかなかった。しかも、いつの間に本棚の並び順をチェックしていたのか、神姫が本を戻した場所はもともと、その本が置かれていた場所だった。
「ほ、ほんとですかっ? ではちょっと気合いれますねっ。あ、そうだマスター」
本棚から一気に飛び降り華麗に着地すると神姫はそのまますたすたと青年の方に走り寄ってくる。
「喉かわいてませんか? マスターにお飲み物持ってきますね! 大丈夫、一人でちゃんと運べますから!」
そういいながらにこやかにほほ笑む神姫。それを見て青年はふと、自分の喉に手をあてる。
「そうだな、ゲームセンター行ってから一度も水飲んでなかったし。お願いできるかな」
「は、はいっ! おまかせくださいっ」
ぺこりとお辞儀をすると、神姫はてくてくと部屋の外へと走っていく。パシリのように扱うのはどこか申し訳なく感じたが神姫が嬉しそうにこなす以上、断る理由もない。
「セレーネか。確かマスターは大阪幾男っていったっけ……」
ふと、神姫が部屋の外へ移動したのを確認すると青年はノートパソコンの電源をつける。プレミアムショップであった時の彼は確かに行動こそ普通ではなかった。しかし、かといって悪意を感じるような男ではなかったとも思える。それに武装をあれだけ購入していたのに即日セレーネを捨てるようなことをするだろうか。額に手をあてて考え込む青年。
「甚平に相談してみっか。んーっと……」
「……あ、あれっ!? うひゃああ」
そんな時だった。神姫の悲鳴が外から響く。
「どうしたっ!」
不意にきこえたその声に青年はばっと立ち上がると廊下へと移動した。
「ま、マスター……」
そこには水でびしょぬれになった神姫がぺたんと力なく座り込む姿があった。
「ご、ごめんなさい……私、運ぶ途中で、少しぼーっとしちゃったみたいで……うっかり、コップを落として割っちゃいました……」
その周囲には割れたガラスの破片が大量にまき散らされている。コップの底を抱きかかえながら涙目で青年を見上げる神姫。そんな姿を見せられたら怒るどころか申し訳ない気持ちがわいてしまうのが普通だろう。
「あー、そうか……ウチのコップとってがついてるやつなかったからなぁ。持ちにくかっただろ。悪いな」
「い、いえっ! 大丈夫、大丈夫ですっ、今から片付けますね、ごめんなさい……」
青年に謝られることを嫌がってか、神姫はガラスの破片を集めはじめる。しかし、神姫の体で破片をゴミ箱に捨て廊下の水をふくのは大変な労力が必要なのは言うまでもない。
「おい無理すんなって。ちょっと待ってろ、雑巾もってくるからっ」
「あっ……」
急いで階段を下りる青年に神姫は声をかけようとするが、それはもう届かない。それを見て、神姫はちからなくうつむくと割れたガラスのコップを地面においてため息をついた。
「もう、これじゃ意味ないですよね……はぁ……」