武装神姫バトルマスターズ with you   作:ひまっちゃん

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第七話 強者の驕り 前編

「はぁ……とりあえず再起動できてよかったよ。どこも壊れてなかったみたいだな」

 神姫の小さな起動音を確認し、青年はほっと一息ため息をつく。セレーネを拾って一日が経過。セレーネは夜の間クレイドルで充電をとっていた。とはいえ青年の神姫も充電をとらなければ行動することができない。何時間かおきに交代で神姫をクレイドルに入れないといけない。当然、寝不足気味になり青年の目の下にはちいさなくまができていた。

「はい、ありがとうございました」

 机の上には神姫が二人。うち一人はクレイドルで座ったまま半目の状態でぼーっと青年を見上げている。しかしその声色から少なくとも意識ははっきりしていることがうかがえる。おそらく、見慣れぬ光景に戸惑っているのだろう。

「そ、それで……何であんなゴミ箱なんかに?」

 セレーネの顔をのぞきこむ青年の神姫。ききにくい質問とはいえ、それをきかなければはじまらない。

「それは……」

「い、言いたくなかったら無理に言わなくてもいいですよっ! ただ気になったというか、その……何でこんなことになったのかな……って」

「……ありがとうございます。わたしを気遣ってくれて」

 にっこりとほほ笑みそう答えるセレーネ。しかしその青い瞳は光を失っているようにみえる。

「……わたし、ご主人様に捨てられたんです」

「っ──!?」

 そんな答えは聞きたくなかった。青年の神姫は表情でその言葉を訴える。

「そうか……」

 他方、青年の表情は淡々としていた。特に驚くこともなくセレーネに同情の眼差しをおくることもない。ただじっとセレーネを見つめている。

「あ、あの。マスター……?」

 そんな青年の様子に、神姫はおそるおそるといった声で青年に話しかけようとする。しかし、その言葉はすぐに遮られてしまった。

「……セレーネ、それは本当なのか?」

「えっ……?」

「君は道のゴミ箱にいた。手放すといっても神姫の値段はそれなりにするだろ。普通は中古でひきとってもらわないか?」

「…………」

 黙りこくるセレーネ。たしかに、神姫を新品で買えば高級パソコンと同等の値段がかかることになる。中古であろうと万札が何枚かは手に入るだろう。しかし、大阪の買い物をみてしまってはそんな常識も疑わしくはなってしまう。

「どうだろう、君を落としただけって可能性はないか?」

「分かりません……ただ、何の前振りもなくいきなりゴミ箱に放り投げられて。わたし、唖然としてて……何がなんだか、わからなくて……」

「そんな……」

 それには青年の神姫も顔を青ざめることしかできない。これではあまりにも情報が少なすぎる。

「甚平に連絡する」

 ふと、青年は自分のパソコンに手をかけメールソフトを起動させる。その唐突な言動にセレーネも、青年の神姫も目を丸くした。

「えっ……あの、いったい何を……」

「マスターの名前は大阪幾男って言ってたよな。名前が分かっているしあんなに目立つ人なんだ。探す手段があるかもしれない。甚平なら何かしってるかも」

「でも、わたし……他人の神姫ですよ? なんでそんな……」

「いいから。もしかしたら大阪さんも困ってるかもしれないだろ」

「…………」

 青年に問いかけにセレーネは無言で答える。たった一度少しあっただけの青年よりもセレーネの方が大阪という人間をよく理解しているのは明白。その彼女が表情で言っている。そんなことはないと。

「甚平から連絡がとれるまで、俺たちも探してみよう。彼も神姫バトルをしているしゲームセンターにいるかもしれない」

 青年も馬鹿ではない。セレーネの無言がどういう意味かは察することはできていた。しかしそうれであるならばなおさら迅速に動かなければならない。機械的に、合理的に。

「わ、わかりました。マスター、ついていきますっ」

「セレーネ、君も来てくれ。もしかしたら会えるかもしれない」

「……はい」

 セレーネの瞳に、僅かに光が灯った。

 

 

 

 

「うーん、それらしき人はいないか」

 昨日と同じくゲームセンターは多数の人で賑わっていた。そこに入るや否や青年はゲームセンターの周囲を歩き大阪の姿を探す。昨日あれほどの量の武装を手に入れていたのだからそれを試したくなるのが普通ではないかという予想だった。しかし、あの強烈な印象を植え付ける高級感あふれるたたずまいをする人物などこの場には全く見当たらない。

「ご主人様は目立ちますからね。ここにはいらっしゃらないかと……」

「…………」

 どこか諦め気味のセレーネに対し青年の神姫はじっとゲームセンターを見渡している。しかし、少なくとも神姫バトル用の筐体が置かれている場所はかなり見渡しが良くこの場にはいないと考えるのが自然だ。

「うーん、仕方ない。場所を変えようか」

 そうだとすれば長居する必要はない。青年は躊躇なく踵をかえしゲームセンターの出口へと向かおうとする。だが、そんな青年をセレーネは制止する。

「あの、よろしいのですか? せっかくゲームセンターにきたのに、何もなさらなくて……」

「あぁ。もしかしたらショップにいるかもしれないだろ」

「そんな……わたしのために、申し訳ないですよ……」

「大丈夫だって。そんなに恐縮するなよ。お前もそう思うだろ?」

 と、青年は自分の左肩に乗る神姫にそう問いかける。

「……え? はい。こちらに大阪さんはいらっしゃらないようですね」

「……ん?」

 だがその青年に問いかけに対してかえってきた答えはずれたものだった。かみ合わない会話の内容に少しだけ沈黙が流れる。

「……え? あれ?」

 青年の態度から自分が青年の言葉を聞きのがしたことに気づいたのか。青年の神姫はやや慌てた様子でセレーネと青年を交互に見つめている。

「ははっ、かなり集中してたみたいだな。でもそんなにじっくり見なくてももうだいたいゲームセンターの中は見れたはずだぞ」

「あ、はい……そうですね……」

 からからと笑う青年に苦笑いを浮かべる神姫。そんな時だった。

 

「ハッ、私の勝ちね。ここまでよ」

 

 鋭く、そして高圧的な声が青年の耳に飛び込んでくる。振り返るとそこには背中までのびた長髪をポニーテールでまとめ、胸を張る少女の姿があった。年齢は青年より同じか下か。少なくとも成年しているようには見えず高校生のように思える。バイクのライダーを思わせるような黒いジャケットにたてた襟。キュロットにハイソックス。服装のチョイスから気が強いことがすけてみえる。なかなか愛らしく可愛らしい顔立ちをしていることだけがそれをなんとか緩和しているが──

「うぅ……すっごく悔しい、絶対負けたくなかった……」

 ポニーテールの少女が立つ筐体の向こう側にはLOSEと表示された投影モニター。その前で茶色のワンピースをきたショートボブの少女ががっくりとうなだれていた。もっとも、そちらの少女はポニーテールの少女に比べさらに幼さが残る顔立ちをしている。中学生か、小学生か判断に迷うほどに。

「悔しいって思えるなら、全力出して頑張れたんだね。だったら、美幸は負けたって強くなれるよ。少しずつでもいいから、一緒に強くなっていこうね」

 おそらくはバトルが終わった直後なのだろう。筐体から出てきたアーンヴァル型の神姫がショートボブの少女を慰めるように話しかけている。だがポニーテールの少女はそんな美幸に追い打ちをかけていく。

「あれが全力とか笑わせるわ。いったいどんな練習してきたのよ。あなたセンスないんじゃない?」

「ぐっ……ぅ……」

 美幸と呼ばれたショートボブの少女はぐっと唇をかみしめ何も言葉を発しない。ポニーテールの少女の高圧的な態度に加え、自分でも思い当たるふしがあるのか。悔しさそう、というより悲しそうだった。

「いい加減にしろ千歳! 敗者をけなしても自分の価値を下げるだけだぞ!」

 そんな中、ポニーテールの少女の肩でストラーフ型の神姫が怒鳴るように声をあげる。しかし千歳と呼ばれたその少女は全く気に留めるそぶりをみせず軽く鼻で笑い飛ばした。

「何よリリス。私の勝ちなんだから喜んでもいいじゃない? 実際、勝負にならなかったでしょ」

「……返す言葉もありません。出直してきます」

「ライラ……」

 薄い紫色の長い髪で自分の表情を隠すようにうなだれるライラと呼ばれた美幸の神姫。そんな彼女たちの様子を楽しむように千歳はふっと笑みを浮かべている。

 

「あの子、なんか見たことあるな」

 あまり見ていて気持ちの良い光景ではない。しかし、デジャヴが青年の思考を麻痺させていたのかあまり表情を変えずにじっと青年はじっと千歳を見つめている。

「マスター。私がプルミエさんと戦う前に筐体を使ってた方ですよ」

 こういう時に神姫は特に役に立つ。物忘れということを神姫がすることはまずありえない。青年の神姫に青年はあぁ、と頷いた。そんな二人のやりとりにセレーネは首を傾げる。

「お知り合いなのですか?」

「いや、知り合いじゃないけど。なんだか穏やかじゃないなぁ」

「そうですね……相手は小さな女の子なのに……ちょっと、ひどいですよね……」

 ここでようやく、彼女の言動のまずさに思考が回ったのか。青年は少しまゆをひそめて千歳をじっと見つめていた。

「ん? 何よ、こっちずっとみて。何か言いたいことでもあるの?」

 と、その視線に気づいたのだろう。千歳はすっと振り返ると青年をにらみつける。不意をつかれ頓狂な声をあげる青年。

「……え、俺?」

「何キモい声出してんのよ。私のことずっと見てたでしょ。もしかして私に挑戦する気?」

「いや、べ、べつに……」

 手を前にかざしてあたふたと否定のジェスチャーをする青年。しかし、それは千歳には通じていなかったようだった。

「ふーん、見ない顔だけどビギナーの人? だったら、私に挑戦するのは無謀だと思うけど。私とリリスの強さ、半端じゃないわよ」

 そういいながら千歳はゲームセンターの大モニターを指さす。柴田と戦う前に教わったものだ。そこには千歳の対戦成績が記録されている。

「……そうみたいだな」

 青年はそれを見て、ごくりと唾をのみこんだ。先ほどの対戦相手である山中美幸に勝利したことで十二連勝を記録している。だが、千歳の神姫たるリリスは、そんな彼女の言葉に異を唱える。

「強がりを言うな、千歳。きみもまだまだ未熟、修行が必要。あたしの力を引き出すためにも強くなってほしい」

「ち、ちょっとリリス、あんた誰の味方なの!」

「あたしは誰よりも千歳の味方。だから、誰よりも強くなってほしいと願っている。それに忘れたのか?彼の戦いは見たことがあるだろう」

「はぁ……?」

 リリスの言葉に千歳は怪訝な表情で青年の顔をまじまじと見る。そしてすぐに青年の顔が記憶にあることを思い出したのだろう。二回ほど黙ってうなずくとはぁ、とため息をついた。

「あぁ、誰かと思えば。昨日の初心者君じゃない。こんなの大したことないわよ。それに……」

 そこまで言うと言葉を切り頬をかく千歳。

「べ、別に願われなくたって、強くなってみせるわよ。私の目標は、F1バトルで優勝して最強のマスターになることなんだから!」

 

「……なんか、勝手に盛り上がってんな。あっち」

 そんな彼女達の行動に青年は気まずそうに苦笑いを浮かべる。バトルの申し込みの意思表示すらしてないのだから当然だろう。だが反面、セレーネは優しくほほ笑みながら青年の顔をのぞきこむ。

「あの、バトルされるのですか?」

「いや、大阪さんを探さないといけないし、断るつもりでいるけど」

「でも神姫バトルなんて十分もかからないですよ。わたしのことばかりじゃ申し訳ないですし……せっかくですから楽しんでいかれては? その、対戦相手はやや気の強い方みたいですけど」

「う~ん、そうかぁ。じゃあ……」

 あまりセレーネのためだけに行動していても彼女が委縮してしまう。そのぐらいはセレーネと対話して半日もたっていない青年にも理解できていた。青年は自分の神姫に向かってバトルの申し込みをすることを目で訴えた。

「……」

 しかし、青年の神姫はぼーっとした様子で千歳を見つめるのみで青年の様子に気づくそぶりを見せない。

「……お~い、大丈夫か?」

「え? はいっ、あ、はい」

「ほんとに大丈夫か? もしかしてクレイドルの設定、俺ミスった?」

 やや反応の悪い神姫に不安を感じたのか青年は眉をひそめる。それを見て、青年の神姫は慌てて首をふるとそれを否定しはじめた。

「ちがいますっ! ちがいますっ! 大丈夫ですよ、あはは」

「ちょっと何だらだしてんのよっ! 私に挑戦しにきたんでしょ。びびったわけ?」

 と、そんなやり取りの中、千歳がいらついた様子で声を張り上げてくる。

「え? あぁ、わるいわるい。千歳さん……だよね。よろしく頼むよ。楽しいバトルにしような」

「おあいにく様。ワンサイドゲームで終わらせてあげるわ」

「千歳っ!」

 挑発的な言葉に対しすぐさま制止をいれるリリス。少し話していただけでも何度もおこなわれたそのやり取りに青年の神姫はくすりと笑う。

「あの二人、仲がいいだけでなく、かなりの実力をもっていそうですね。戦うのが楽しみです!」

「……そうだな、覚悟を決めていこう。応援よろしくな、セレーネ」

「は、はいっ……!」

 千歳は昨日、甚平をやぶっている。その甚平との戦いで接戦を繰り広げた青年にとっては千歳は明らかに格上だった。相手の態度はどうあれ、その実力は記録が物語っている。

「…………」

 ふと、先ほど千歳に敗北した美幸と、青年の目があった。彼女と、その肩にいるライラ。青年の気のせいでなければ、彼女達の視線はこう訴えているようにみえた。

 

 勝ってくれ、と。

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