武装神姫バトルマスターズ with you   作:ひまっちゃん

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    強者の驕り 後編

 白一色の世界。三度目となるその光景だったがそのあまりに無機質な感覚はどうもなれるものではない。白いキューブ状の突起物がいくつも現れバトルフィールドの基本形状を形作っていく。

「マスター、大丈夫ですか……? 今回のステージは砂漠です。今までのコロシアムステージとはちょっと違いますよ」

 青年の神姫がやや不安げな声色で語りかけてくる。他方、青年は楽観的な態度を示す。

「大丈夫だよ。甚平から武器と防具いくつか分けてもらったし。まともな勝負はできるって」

 甚平にはわずかながらも武装にカスタマイズを加えるスキルがあるようで昨日のバトルの後、青年はいくつかたま子のお下がりの武装を分けてもらっていた。その証拠に青年の神姫の体には昨日にはなかったレザーアーマーにレザーアーマーショルダー、そして足にはしなやかにきまった黒のレザーブーツが纏われている。充実しているとは言い難いが一撃で勝負が決まってしまう程ではない。

「分かりました、ではっ……!」

 気持ちを切り替えようとしたのだろう。一気に声色を鋭くし青年の神姫が身構える。同時に彩られていくバトルフィールド。ところどころに散在する瓦礫。とはいえ見渡す限りの砂漠。神姫の移動性能には影響はなさそうだったが地面がやわらかく一部高く砂が積もっていることによりコロシアムステージ程見渡しが良くない。

「敵神姫、前方遠距離。ロック範囲外です。近づきましょうか」

 ロックオンをしていないとはいえある程度の方向は把握できるようだった。しかし、それは千歳側も同じであり油断してはいられない。

「そうだな。そこらへんの瓦礫に身を隠そうか。かなり遠い位置にいるみたいだし先制される可能性が高い」

 ロックをしていない以上、かなり曖昧な方向しか把握することができない。ロック範囲外にいるような敵にハンドガンが届くとは考えにくい以上、策としては妥当な方だった。

「分かりました。では相手の動きをっ……!?」

 と、青年の神姫が唐突に声をひきつらせる。その原因はすぐに青年にも把握できた。今まさに自分が隠れている瓦礫の横から青い弾丸が通り過ぎていったのである。

「ご、ごめんなさい。もう敵神姫にロックされているみたいですっ、こちらも相手を視界にいれればロックができますよっ」

「オッケー。こちらもハンドガンで迎撃しよう」

 青年の神姫の声はやや震えていた。ロックされていることの報告が遅れた事への自責のせいか。焦りのせいか。それをなんとなく感じていたのだろう。青年はバトルをしている間だというのに不自然なくらい穏やかな声で返事をしつつ瓦礫から一気に飛び出す。リリスの姿をみるに、敵神姫が装備している防具はストラーフ型特有のゴツゴツとしたレッグパーツ、そして左腕には花びらのように彩られた盾、フローラルシールド黒。

「ほらほら、逃げ回るのは得意でしょ? 避けてみなさいよ」

 青年の姿を確認し、千歳はあざわらうように煽りながらライフルを構える。OS-36 AカービンEx。バトルを始めたばかりの経験のない神姫でも扱えるライフルだ。しかし、ライフルは連射性能こそハンドガンにおとるものの射撃速度、威力においてはハンドガンを上回る。しかもチャージショットによりさらに威力射撃速度が向上すること、タイミングがずらされることを考慮すると回避に徹するのは難しい。

「千歳、調子にのるな。敵も反撃してくるぞ」

 他方リリスは極めて冷静に青年の行動を見つめていた。千歳の射撃をジャンプ、ターン。ブーストダッシュで回避する青年。やや距離が離れていることを考慮すれば別に神業というわけではない。しかし、リリスは昨日、青年の戦いを見ており、同時に青年の対戦履歴が殆どないことも知っている。つまり青年は殆ど実戦経験が無いのにもかかわらず極めて早いスピードでこちらの攻撃に対応していることになる。

「大丈夫よ、どうせハンドガンでしょ。ほら」

 青年が放つ反撃のハンドガンを余裕で回避しながら千歳はふふんと鼻で笑う。傲慢な態度とも思えるが中距離から真っ向に打ち合ってはライフルとハンドガンでは勝負にならない。

「ふむ……ハンドガン以外の射撃武器を入手したわけじゃなさそうだな。ならこのままの距離で打ち合うのがいいかもしれない」

 そのことを考慮し、そう提案するリリス。

「はぁ? 冗談じゃないわよ。そんな地味な勝ち方面白くないじゃない。どうせなら派手に負かせてあげないと。力の差を思い知らせてやるわ」

 しかし千歳は真逆の行動に出る。リリスの体から発せられる白い閃光。リリスがどう思考しようと、ライドオン状態下では行動の決定権はマスターである千歳に委ねられている。

「仕方ない……付き合おうっ!」

 リリスもその事は承知している。威勢よく掛け声をかけながら青年の神姫へと真っすぐ突進する。

「レールアクションかっ」

 ハンドガンを突っ切って突進してくるその行動は昨日の甚平とのバトルで見せたたま子のそれと酷似している。

「きえろっ……!」

 だがそこからの行動は異なっていた。神姫の身長程あると思われる黒銀の大剣、バルムンクを瞬時に実体化させ袈裟切りをしかけてくるリリス。

「うおっ……」

 その大振りな攻撃が不意にきたことから虚をつかれる青年。しかし何らかの攻撃がくることは青年も予想がついていた。なんとかタイミングをあわせターンにより回避を成功させる。渾身の袈裟切りを回避されたリリス、ターン直後の青年の神姫、ともに同時に隙を晒す。

「よしっ、攻め込むぞっ」

「はいっ!」

 青年の神姫の拳に黒いグローブが実体化される。甚平のカスタマイズにより装備のコストを限界まで下げられたアイアングローブ。威力こそ低いものの素手による攻撃よりはさすがに攻撃力が期待できる。

「こっちもいくわよリリス!」

 他方、千歳はもう一度大剣を構えなおす。そのまま一歩踏み込んで青年の神姫を迎え撃つリリス。しかしナックルを装備した青年の神姫が先に攻撃の体勢に移行。右拳でリリスの顔面を殴りつけようとする。

「はぁっ!」

 しかしその攻撃は通らなかった。バルムンクの柄を使って青年の神姫の拳をずらす。それにより青年の神姫の拳はリリスの顔ではなく左肩に命中。いや、正確には攻撃が命中したというよりも、拳が当たっただけ、という結果に終わっていた。

「えっ……」

「しまっ……ガードポイン……」

 大剣には攻撃動作の一瞬の間、相手の攻撃をガードするガードポイント機能がある。それにより再び虚をつかれる青年達。神姫はその機能には気づいたようだったが今度のそれはカバーが不可能だった。直後に神姫の体を走るのはバルムンクによる衝撃。

「ぐっ……」

 大剣は挙動こそやや遅いもののその威力は凄まじいものがある。青年の神姫は体をくの字に曲げながら後ろに弾き飛ばされる。大きくひるんだことによりさらに攻撃の手を許してしまう青年達。

「あはははははっ、後悔しなさいっ」

 さらに大剣を振り回しながら千歳は青年を嘲笑する。しかし、流石に二度の大振りな攻撃は通らない。

「レールアクション、ROUTE12!」

 なんとか自分の神姫の体勢を立て直す青年。刹那、青年の神姫は右斜め後方へと急バックする。リリスの大剣は空をきり、そのまま足元の砂に直撃。大きな隙を見せてしまう。

「千歳、くるぞっ」

「わかってるわよっ……くそっ……」

 同時に放たれるのは青年のハンドガン。それがくることは千歳達も分かっている。しかし大振りの攻撃をかわされたことでリリスの身体はわずかの間硬直してしまう。その攻撃のチャンスをつかさずついてくる青年達。しかし──

「……え?」

 青年の神姫が放ったハンドガンはリリスには命中しなかった。ややぶれた弾道でリリスの横の空気をきるのみ。拍子抜けな表情で青年の神姫を見つめるリリス。

「あ、あれ? あれ? マ、マスターッ……ごめんなさい、私っ……」

 その原因はすぐに把握できた。射撃武器の標準合わせは神姫のサポート管轄内。隙だらけの敵にその弾丸が命中しないなら、その答えは一つしかない。神姫のミス以外には。

「落ち着けっ、すぐに相手も動いてくる。追撃するぞ」

 しかしそんなことで仲間割れをしている場合ではない。千歳達はすでに大剣をしまいこみ反撃の体勢を整えている。もう一度ハンドガンの引き金を引く青年。

「ハッ! ボロがでたわね初心者クン。せっかくの反撃チャンスだったのにご愁傷様!」

 そんな青年を嘲笑しながら千歳はもう一度レールアクションを起動させる。リリスの身体からわずかに放たれる白い光。

「マスターッ、き、きますっ……」

 まるでワイヤーアクションのごとく空中にぐっと飛び上がりそのまま空中前方へと突進してくるリリス。先ほどのレールアクションとは異なる動き。

「はああああっ!」

 リリスの掛け声とともにその腕にくろがねのドリルが実体化される。そのまま体ごと回転させながら突進してくるリリス。

「くそっ、ドリルを持っていたのかっ……」

 攻撃が来ること自体は予想していた。しかし、大剣と異なりやや変則的に動くドリルのレールアクションを初見でかわすほど青年の反射神経は優れていない。青年にできることはせいぜいハンドガンによる攻撃を中断しガードの体勢をかまえることのみ。

「あははははははっ、悪いわね。あんまりにも一方的すぎて」

 青年にできることはドリルレールアクションが終了するまでガードを維持し続けることのみ。反撃にも一切回れない青年のガードを文字通り、削る千歳。

「マスターッ! ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……」

 その攻撃を耐えながら、神姫はわずかに涙を目にうかばせる。だが──

 

「なぁ、何考えてるかしらないけどさ……」

 

 青年の声は明るく、穏やかなままだった。目の前にはった三角状のシールドエネルギー。その色は青から赤へと変わっていく。ガードが限界に近づいてきた証だ。

 

「俺はお前とバトルするの、楽しいよ?」

「えっ……」

「だからそんな顔すんなって。もっと楽しもう」

 

 神姫の目がはっと開く。同時に、青年のその声とともに展開したシールドが消滅する。ガードブレイクではない。青年がガードをするのをやめたのだ。

「くっ、あと少しだったのに……」

 ドリルのレールアクションが終了し、僅かに硬直してしまうリリス。

「悪いな。この防具にはガードブレイクへの耐性アビリティがついてるのさ」

「ちっ……」

 やや悔しそうに表情をゆがませる千歳に少しだけ自慢げに口角をあげる青年。

「そっか、甚平さんが……」

 神姫ははっとした表情で自分の肩についているアクセサリーを見つめる。甚平からもらったレザーアーマーショルダーにはガードブレイクカットのプラスアビリティが付与されている。とはいえ、ドリルのレールアクションによる衝撃で青年の神姫も体勢を崩している。お互いに隙を見せている状態。そして、体勢を立て直すのも同タイミング。

「なーに自慢してんのよっ、私が有利なのは変わりないわ」

「そうかなっ……」

 青年のくぐもった声と同時に再び青年の神姫が白い光を放つ。

「なによっ、またROUTE12? バレバレなのよ!」

 それを見てすぐさまライフルを構える千歳。相手の急バックを読むのであればその行動は当然だ。しかしその行動の迂闊さにリリスは気づいてしまう。

「違うっ、千歳っ! これは……」

「ROUTE1!」

「えっ……」

 青年がとった行動は先程とは真逆だった。急バックではなく、急前進する青年の神姫。反射的に千歳はライフルを放つも、ROUTE1による移動にはショットガードが付与されている。その攻撃は通らない。

「ぐあああっ」

 そこから流れは一転する。青年の神姫のアイアングローブがリリスの頬を貫く。隙を見せた相手に左拳による腹部への攻撃。足払いから右の裏拳。そのまま膝蹴りをして右拳を顔面に叩き込む。

「うっ、あっ……」

 一度ダウンするリリス。しかし青年はさらに攻撃をしかけるために接近する。ナックルは単発での威力こそ低いものの攻撃の出が早い。至近距離に潜り込めば大剣、ドリルしか接近武器がないリリス相手には有利に立ち回れる。昨日のたま子との戦いで青年が積んだ経験だ。

「落ち着け千歳! 一回攻撃を止めるぞっ」

「分かってるわよっ、このっ!」

 しかし千歳も甘くはなく、それ以上の連続攻撃は許さない。フローラルシールドで青年の神姫のアイアングローブを受け止める。

「いい加減にしなさいよっ……!」

 攻撃の反動で一瞬硬直する青年の神姫。その隙をついてなんとか大剣を実体化させる千歳。

「マスターッ!」

 大剣のガードポイントの存在を青年は知らない。しかし、先ほどの攻防と、その神姫の声で悟ったのだろう。ここで攻撃をしかけたら返り討ちにあうと。

「無駄にしつこいんだからあああああ」

 大剣を振り回し青年の神姫に攻撃をしかける千歳。しかし、大振りのその攻撃は回避に徹した相手に命中させることはかなわない。横払いを手をつきながらバック転して回避する青年の神姫。

「はあああああっ!」

「おっつけ千歳、冷静にならないと。相手は何を考えているか……」

「落ち着いているわよ、何で私がこんな奴相手に焦らないといけないわけ!?」

「千歳……」

 バック転から着地した青年の神姫はリリスからやや距離をとり千歳の行動を伺っている。他方、一度ダウン状態まで追い込まれた屈辱からか千歳はやや冷静さを欠いていた。

「このっ……」

 そのまま青年の神姫の方へと走り出す千歳。それを見て青年の神姫はすっとハンドガンを構える。

 

「頼むぞ。この一発で決める」

「……はい」

 

 静かに、一度呼吸を整える青年の神姫。その直後、青年がハンドガンの引き金をひく。しかし、その弾道は──

 

「バッカじゃないの? どこ狙ってんのよ、このビギナーが……」

 青年の神姫が放った弾丸の軌道は明らかにリリスからそれていた。不自然な程に。下に。あえて、地面を狙っているかのように。

「千歳っ、いけない!」

「えっ……」

 その意味をリリスが把握した直後だった。ハンドガンの弾丸がリリスの足元近くの地面に命中したその瞬間、唐突に爆発が起きる。

「ちょっ、えっ!?」

 完全に虚をつかれた千歳。目の前に広がる爆風で完全に視界を奪われる。

「くそっ、千歳。これは相手の作戦だっ……」

「ど、どういう……」

「はああああああっ」

 困惑する千歳の背後から青年の神姫が裏拳を放つ。バックアタックにより大きく体勢を崩すリリス。

「えっ、えっ……?」

「ぐっ、くそっ……」

 ナックルによる連続攻撃を受ける中で、リリスがくっと唇をかみしめる。視線の先には先ほど青年が放ったハンドガンの弾丸の先の地面。リリスは理解していた。千歳の大剣をかわしたバック転。そのタイミングで爆弾を砂の中にしこんでいたことを。その爆弾をハンドガンで着火させたのだ。

「さようならっ!」

 だが時すでに遅し。青年の神姫の回し蹴りがあざやかに決まりリリスの体が空を舞う。それが決定打となった。

「か……勝ったっ……!」

 ぐったりと倒れこむリリスを見て、青年の神姫はその場にぺたりと座り込む。緊張から解放されたことの安堵と、勝利したことの喜びの表情で。

 

 

「あーっ、もう、納得いかない!!」

 バトル終了後、筐体の外。千歳の悲鳴にもみた叫び声が周囲には響いていた。

「なんで私が、こんな奴に負けちゃうの。ぜーーーーーったい納得いかない!!」

「千歳、潔くないぞ。負けは、負けだ。そのことをきちんと認めないと、強くなることはできない」

 他方、リリスの態度は極めて冷静だった。バトルで敗北した影響で、ややふらふらとはしているものの、その声は毅然としていた。

「うーっ、なんでリリスはいつもそんなに冷静なの?負けたら悔しがるのは当然でしょ」

「負けることが悔しいのは知っている。でも、大きな目標をもっている千歳なら、負けからも学んで強くなれると信じている」

 ぐらつく足を支えながら胸を張るリリス。

「だから、悔しがる必要はない。一回の負けも、大きな目標へつながる、一つの経験なのだから」

「ぐっ……」

 リリスの言葉に声を押し殺す千歳。そして一度青年の方をみるとため息をつき、リリスを肩にのせた。

「わかったわよ、悔しがってる暇があるならもっと強くなれってことね」

 そういいながら千歳は筐体の横を歩き青年の近くまで歩み寄る。

「ねぇ、あんた。一回勝ったくらいでいい気にならないでよね。あんなのただのまぐれなんだから」

 キッと青年をにらみつけながらそう言い放つ千歳。それに対し、青年はふっと笑み浮かべる。

「分かってるさ。今回の勝利はまぐれだった」

「……は?」

 その答えは予想外だったのか。千歳の顔から覇気が抜ける。

「ドリルのレールアクションをガードした時、本当にガードブレイク寸前だったんだ。アビリティがついているとはいえ耐えきれるかどうか確信なんてなかったし。あそこをやぶられたら俺は負けていた」

「……慰めてるつもり?」

「違う。次は実力で勝ってやるって言ってるんだ。だから……」

 そこまで言うと青年はすっと手を差し出す。

「また、バトルをしよう」

「っ…………」

 その手を、しばらくの間、千歳は目を丸くして見つめていた。しかし、ふと口元をゆるませるとその手をたたきはらう。

「冗談じゃないわ。気持ち悪い」

「ははは、そうか。悪かったな」

 千歳のその態度にも、青年は穏やかな態度を崩さない。それを見て、千歳はどこか諦めたようにため息をつく。

「もういいわよ。今度戦う時は、絶対に負けないんだからね!」

 千歳の言葉に、青年は表情を明るしながらこくりと頷く。それを見て、千歳は少し照れくさそうに背を向けた。

「まったく、素直じゃないな千歳は。ありがとう。またたたかおう」

「はいっ、また戦えるといいですね。次も、負けないようにがんあばりますよ。ね、マスター!」

「あぁ、また会おう」

 青年の言葉に背中越しに軽く視線を返す千歳。と、何かを思い出したかのようにそのまま青年の方に振り返る。

「あ、そうだ。偶然とはいえ、私に勝てたあんたに良い事教えてあげるわ」

「良い事……?」

 唐突に投げかけられたその言葉に青年は怪訝な表情を見せる。そんな青年の反応を面白がってか千歳はふふんと鼻で笑う仕草を見せた。

「神姫センターの公式バトルで、そろそろF3大会の予選が始まるはずよ」

「F3……F大会か……」

 昨日の甚平の説明でFバトルがどのようなものかは青年もだいたいは理解している。少しだけ緊張した様子で喉を鳴らす青年。

「ま、上を目指すなら、挑戦してみる事ね」

 そういうと手をひらひらと振りながら千歳はその場から歩き出す。青年の返答など興味が無いかのように。

 

「お疲れ様です、良い勝負でしたね。でもひやひやしましたよ」

 その後、千歳が立ち去るのをみてセレーネは青年に声をかけてきた。

「ははは、神姫バトルって心臓に悪いなぁ」

 それを見て青年は苦笑する。これまでに三度のバトルを経験した彼であったがいまだにバトルの緊張には慣れていないようだった。

「あ、あの。マスター……すいません、あんな凡ミ……」

 ふと、青年の神姫はやや物憂げに青年の顔を覗き込む。

「やったな。いいバトルだったよ」

「い、いやでもわた……」

「ありがとな。おかげで勝つことができた」

「あぅ……」

 執拗に自分の言葉を遮る青年に、神姫はどこか恥ずかしそうに顔をうつむかせる。

「は、はい……お役にたててよかったです……」

「ん」

 その言葉がききたかったと、言葉ではなく表情で答える青年。そんな穏やかな空気が流れた時だった。

 

「あ、あのっ……!」

 

 唐突に響く、少女の声。

 

「ん?」

 声の方向へと振り返るとそこにはショートボブの女の子の姿があった。先ほど千歳とバトルをしていた女の子だ。

「君はさっきの……」

「あれ、お知り合いだったのですか?」

 美幸と青年を交互に見つめながらセレーネがそう問いかける。

「いや、初めて見る子なんだけど……」

 不意に話しかけられたことでやや戸惑う様子を見せる青年。そんな青年の様子をみて彼女はやや恐縮したように肩を少し震わせる。が、意を決したように青年の目を見つめなおすと口を開いた。

 

「わ、私にバトルを教えてくださいっ!」

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