パラリラ作戦で今度は広範囲に煙を広げながら大洗一行は目的地である207地点に進んでいた。
しかし、先頭を進むネコさんチームの飛鳥がなにやら喉頭マイクに手を当ててハヤブサさんチームとカメさんチームとなにやら話し込んでいた。
「こちら先頭のネコさんチーム、2チームは準備OK?」
『いつでもいけるよ~』
『ボク達も準備万端さっ!!』
「それでは手筈通りに・・・・・」
『『了解っ!!』』
そう言って一度戦車内に戻った飛鳥は携帯食料に手をつけていた。
そんな彼女の姿に他のメンバーも慣れた手つきで小休憩をはさんでいた。
ただ、薫だけはみんなが小休憩をはさむ中でも集中して運転していたと言う・・・。
その間下では妨害射撃が始まっていた。カメさんチームとハヤブサさんチームが隠れていた草むらから黒森峰に対して横槍を入れていたのだ。
履帯を切ったり、1輌撃墜したりと大暴れしている様子である。
「さすがハヤブサさんチーム・・・敵車輌を1輌撃破は大きいな・・・」
「・・・・・それでも19:9」
「まだ不利なのは変わりないですね」
「それは最初からわかっていた事だ!敵はこちらを包囲しようと上がって来てやがるから迎撃戦よーい!!」
「我らの業火を受けるがよいっ!!」
なんとか207地点を手にいれた大洗陣営。
高い位置で防御を固める事に成功した。
しかし、黒森峰は焦る様子もなくじりじりと包囲をするように上り始めて来た。
それに対して大洗は迎撃するべく一斉放射を仕掛けたのであった。
「焦るなよ・・・的確に1輌ずつだ」
「・・・・・わかった」
「良い感じ・・・だっ!!」
戦況を目視で確認していた飛鳥だったが、不意の衝撃に敵陣営に目をやるとそこにはティーガーⅡからこちらを睨む千智がいた。
「あの野朗・・・狙って撃たせやがったな・・・」
「見事にアイツの車輌にこちらをアピール出来たな」
「小梅ちゃん~ナイスゥ~」
「さすが姉貴の認めた砲手っす!!」
「そ、そんなに褒めてもなにも出ませんからっ!」
「千智、隊長がヤークトティーガーを前に出しながら進むってさ」
「さて、向こうはどう動いてくるかな・・・・・?」
包囲網はゆっくりと縮められて来ており、激しい攻撃に大洗は苦戦を強いられるかに見えた。
しかし、喉頭マイクに手を当てる飛鳥は余裕の笑みを見せていた。
「おちょくり作戦の中でこの戦線から離脱するから準備はいいか?」
『『『了解!!』』』
「じゃあ・・・御二方お願いします」
『姫様からのお伝達だ!派手にやってやるよ!!』
『あいよ~』
また新しい作戦名を通達すると今度はカメさんチームとハヤブサさんチームが黒森峰の隊列に割り込むように潜り込んだのだ。
そのいきなりの出来事に黒森峰の陣営はパニック状態になってしまい、目の前では隊列が崩壊してしまっていた。
簡単に崩れてしまう黒森峰の姿を目の前にネコさんチームの車内は盛り上がっていた。
「あの伝統校があんなに乱れるなんてな」
「伝統校だからこそ隊列を組んでの動きは一級品だろうな。しかし、こう言う想定外のハプニングには対策出来ないのが弱点って所だな」
「さすが覇王・・・恐ろしい男だっ!!」
「女だっての!それにこれはみほが考え出した作戦の1つだからな。やはり、元黒森峰生徒ではあるから情報も正確で助かったよ」
「・・・・・今なら抜けられるかも」
「OK!レオポンさんチームを先頭にしてこの戦線を押し通るっ!!」
すると大洗の陣営はレオポンさんチームを先頭にして一気に坂道を駆け下りたのであった。
相手も反応してこちらに砲塔が向くがそれをさせまいと2輌の戦車がおちょくりをしてくれている。
ナイス連携を発揮して窮地を脱した大洗。
逆に簡単に逃がしてしまった黒森峰陣営では、エリカの怒鳴り声が響いていた。
「あのバカを黙らせるヤツはいないのか・・・いちいち癇に障る」
「本当に姉貴は逸見副隊長の事が嫌いっすね」
「・・・・・みほさんの一件以来逸見さんと千智さんは犬猿の仲になっちゃった・・・かな?」
「小梅」
「・・・ご、ごめんなさい」
低い声で名前を呼ばれて萎縮する小梅。
ピリピリとした空気の中で聞こえるのは、ティーガーⅡの音のみ。
しかし、この空気を打破?したのは萌華だった。
「そんな事より~これから~どうしますか~?」
「地図をくれ」
「もう機嫌なおしなよ・・・千智」
「・・・・・大丈夫、私が悪いんだから」
「敵陣営の逃走経路の先には市街地・・・向こうの狙いは市街戦か」
地図を真剣に確認すると相手がなにをしようとしているのか理解したのか喉頭マイクに手を当てる。
「西住隊長、意見をしてもよろしいですか?」
『皇か、どうした?』
「別行動をしてもいいでしょうか?少し思いつくことがありまして・・・・・」
『ダメに決まってるでしょっ!?何勝手な事言って・・・・・』
「お前の指示は聞いてない」
『なっ・・・!?』
『・・・・・いいだろう』
『隊長っ!?!?』
『但し、2輌連れて行け。単独行動は認可できない』
「かしこまりました」
そう言って通信を切るとポケットにあった飴玉を取り出して口に含んだ。
「たつき、市街地に向けて迂回してくれ」
「姉貴!少し遠回りになるけど、それでも良いのか?」
「あぁ・・・あそこにはアレもあるから急がなくていい」
「そうだよね~アレを倒せる相手は~いないよねぇ~」
「それはどうかな・・・?」
「千智、嬉しそうだね」
「まぁな・・・飛鳥がどう動くか見物だよ」
「なんか寒気がした」
「風邪引いたんじゃないのか?」
「はぁ・・・バカはいいな風邪引かなくて」
「なにをっ!!」
「先輩!ウサギさんチームが・・・エンストして動けないそうです!!」
現在大洗の陣営は川を渡っている最中であった。
しかし、まさかのハプニングによりウサギさんチームの戦車がエンストしてしまったのだ。
ざわつく大洗陣営・・・だが、飛鳥はある行動に出る。
「薫、変われ」
「んっ?どうすんだよ」
「時間稼ぎだよ」
そう言って隊列から離れるネコさんチーム。
それに気付いたみほはすぐに通信を繋ぐ。
『操縦しているのは飛鳥さんですね』
「おっ・・・察しがいいね」
『・・・・・無茶はせず、必ず帰って来て下さい』
「わかってるよ・・・隊長」
そう言って通信を切った飛鳥はいつものグローブを装着する。
薫は飛鳥と配置が変わり、キューポラから顔を出して黒森峰の陣営を双眼鏡で覗く。
「黒森峰の集団がこちらに接近中っ!!」
「・・・・・カメさんチーム、ハヤブサさんチーム、応答どうぞ」
『ウサギさんチームが危機なんでしょ?なんでも言ってよ』
『しかし、この状況下で動けるのはこの3輌のみ。どうする、日野本さん』
「我々は正面から堂々と対峙しますので、2輌は後方から奇襲攻撃をお願いします」
『1輌で黒森峰陣営を止めると・・・』
「はい」
『・・・わかった!幸運を祈るっ!!』
そう言っている中でもゆっくりと黒森峰陣営は迫って来る。
「チャーフィーが単機で特攻してくるですって?弱小チームはなにを考えてるかわからないわね」
「あのチャーフィーは危険だ。総員十分に警戒しろ」
「えっ?た、隊長!たかがチャーフィー1輌ですよ!?ここは一気に畳み掛けた方が・・・・・」
「エリカ・・・飛鳥を甘く見ると痛い目を見るぞ」
「飛鳥・・・向こうのもう一人の副隊長の事ですか?」
「・・・・・あぁ」
まほは昔の出来事を思い出していた。
無謀とも言われる単機突撃。
しかし、仲間の為なら無理をも押し通すとある女性の事を・・・。
「黒森峰が撃って来やがったっ!!」
「言われなくても分かってるっ!!」
「先輩!カメさんチーム、ハヤブサさんチーム共に攻撃を開始しました!」
「玲那っ!!」
「・・・みんなの所には行かせないっ!」
「冥炎装填檄(ダークフレイムインパクト)っ!!」
「河嶋!装填はやく~!!」
「や、やってますよ!会長!!」
「生きてる心地がしない・・・・・」
「こんな敵だらけの中での乱戦は滅多にないぞ!!全員、奮起せよっ!!」
「敵フラッグ車でも狙いますか?」
「がっはっはっ!!強気だな!魅哉!!」
「・・・・・時は満ちていない」
「ネコさんチーム!1輌撃破っ!!」
黒森峰陣営を掻き乱す様に立ち回る3輌。
仲間の為に闘う姿は、獅子奮迅と言わざるえない活躍を見せていた。
黒森峰も迎撃はしているのだが、勢いで負けているのか苦戦していた。
「・・・・・戦姫」
「Excellent!!あの動きは昔を思い出しマース♪」
「アレがあの人の本来の動き・・・か」
「あぁ~飛鳥様ぁぁぁ♪」
観戦席に居たメンバーは気付いていた。
昔の飛鳥・・・いや、強襲戦車競技での無敗の姫『戦姫』の再臨を・・・。
『1輌獲った!!』
「こちらももう1輌撃破!!」
『こちら、あんこうチーム!本隊は川を横断し、無事合流地点に到着しました!!』
「総員、てったぁぁぁい!!!!」
朗報が耳に入った瞬間に飛鳥の大声が響く。
それと同時に3輌は散開するように逃げ出す。
しかし、黒森峰相手に簡単には行かなかった。
「簡単には逃がさない」
「・・・・・殺気っ!!」
「京華っ!がぁっ!!」
「先輩!ハヤブサさんチームが・・・!!」
「なっ!?!?」
「向こうの隊長機にハヤブサさんチームがやられてるっ!!」
運が悪かったのだろう。
丁度ハヤブサさんチームの位置する場所は、黒森峰隊長機西住まほの範囲内。
退却時の隙を突かれたのだろう。
一撃で仕留められてしまっていた。
『ハヤブサさんチーム!大丈夫ですか!?』
『くっ・・・油断した・・・面目ない』
「怪我人はいないんですか?」
『全員無傷さ・・・悔しいくらいにな』
『三笠さん・・・』
『隊長さん方・・・後は・・・頼んだよ』
いつも楽しそうに話す声とは違い、悔しそうで今でも泣きそうな声になにも返さずに通信は切れた。
ネコさんチームの車内は一瞬静まり返る。
しかし、飛鳥はいつもの棒付きの飴を舐め出してこう口にした。
「先輩の分も活躍して優勝する」
「そんなの当たり前だぜっ!!」
「絶対にやり遂げて見せます!!」
「・・・想いを胸に」
「日輪の名の下に成し遂げて見せようぞ!!」
そう決意したネコさんチームは何とかカメさんチームと合流してから本隊に戻った。
『・・・飛鳥さん』
「よくやったな、みほ」
『・・・ありがとう』
短い掛け合いではあるが、それだけで気持ちが伝わったのか大洗陣営は市街地に向けて前進していた。
なんとか市街地に到着した一同ではあったが、そこでとある光景を目にする。
「おいおい、伏兵が・・・・・コイツかよ」
大洗陣営を待ち侘びていたかのように市街地から姿を見せたのは・・・史上最大の超重戦車マウス。
予想はしていたものの飛鳥は、あまりの迫力に冷や汗が頬を伝う。
「退却しろぉぉぉっ!!!!」
飛鳥の大声が聞こえるか否やマウスの砲撃が横を擦り抜けて地面に着弾する。
しかし、直撃していないのにかなりの衝撃を感じた事に大洗陣営は固まってしまっていた。
すると薫とバトンタッチした飛鳥はキューポラから顔を出すと喉頭マイクに手を当てて指示を出す。
「足を止めるなっ!!動き続ければ当てられないんだっ!!諦めるなっ!進めっ!!!!」
その言葉と同時に全車輌が撤退するように動き出す。
しかし、その最中に飛鳥はとあるシルエットに気付く。
「アイツも先回りしてやがったか」
マウスの背後に陣取っていたのは、ティーガーⅡ。
そう、千智の操る戦車の姿である。