古明地さとりの遊技盤《ディスボード》散策 作:どっかの放浪人
そのうち消えるかも
古明地さとり × ノーゲーム・ノーライフ
覚妖怪――
その妖怪は人の心の奥底まで見透かしてしまう妖怪だと広く知られている。
九州から東北地方まで、日本各地に言い伝えが残されており、その姿は山男のような毛むくじゃらだと言われていたり、また狸のような姿とも言われている。
その妖怪の恐ろしいところは「お前は今○○と思ったな」などと言い当て、動揺した隙に喰ってしまうというところだ。
対処方法は"相手にしない"と言われているが、それは言われたことに対して動揺しないようにするということであり、根本的解決にはならない。
退治するには自分の考えていない方法――つまり、自分の意識外で起こる、偶然が覚妖怪に対して牙を剥くしかない。
防ぎようのない精神攻撃と、相手のすることを読むという絶対的な防御を併せ持つとても恐ろしい妖怪。それが覚妖怪である。
……まあ、当の本人からしてみれば「一体誰の話をしているのですか?」と首を傾げたくなる内容だろうが。
その"当の本人"――古明地さとりは首を傾げていた。理由というのも、もちろんさっきの地の文を読んだからというわけではない。いくら覚の妖怪でも、そんなことができるのは読者の側に立っている時だけだ。
では一体何故か。その理由はこの後、本人の口から聞くことができるだろう――
「ここ……どこですか……」
ぽかんと口を開けて直立する少女、古明地さとり。今、彼女は決して短いとは言えない人生(見た目は10年と少し程度だが)の中で一番の驚きを感じていた。あまりの驚きで第三の目が開ききってしまい、傍から見ると少しグロテスクな見た目になってしまうほどに、驚いていた。
上を見上げれば、広い青空。眩しい太陽。地球という星にいればどこでも見れる景色。
しかしこの時点からさとりにとっては異常事態。
さとりの住処は地下深くの地底。それも、元地獄だった場所に隣接する屋敷である。こんな景色が見られる場所からは、それなりに深い場所に位置する。地上にでれば確かに青空も太陽も、天気と時間次第で拝めるだろうが、わざわざ上に出た憶えはない。
右を見れば、遠くにあるにも関わらず、遠近法を狂わせるほどの大きさをした変な形の建造物(?)。
左を見れば、空に浮かぶ浮かぶこれまた巨大な大地。
そして後ろからはガオーなんて鳴き声。もう嫌だ、などと思いながらも顔を向ければ、空飛ぶ羽付きトカゲ。
目を閉じて、深く深呼吸。
――さて、もう一度問おう。
今度はため息混じりに、ゆっくりと、身体全身で疲れを表現して――
「ここ……どこですか……」
私は顔を引き攣らせながらそう言った――
「人の気配、妖怪の気配すら感じられませんね。本当にここ、どこなんでしょうか」
宙に身体を浮かせながら独り言。言わずもがな、
とにかくここにいても始まらない、ということで飛んで移動してみたが、飛び始めてから30分。あれから全く人の気配・妖怪の気配が感じられずにいた。
周りに薄く妖力を漂わせてアンテナ代わりにしているのだが、未だにかかったものはなし。精々さっきの巨大トカゲか、見たこともない形をした動物くらいだった。しかし根本的に、存在として差異があるのか、心は読めなかった。
また、それらの動物からは霊力や妖力は一切感じられず、代わりにフワフワとした青白いようなエネルギーが身体から発されていた。
まあ、空飛ぶトカゲなんかは、あの巨体に対してあんな小さな翼で支えられるわけがないので、私と同じく飛行の補助としてその不思議エネルギーを使っているのだろうと予測する。
さらに観察を続けてみれば、その不思議エネルギーは大地や空、果ては植物からも染み出すように出てきている。
人間が見つからない今、妖力の枯渇防止のため、どうにか私にも使えないかと考えたが、私の身体、強いて言うと私の妖力に触れると、一瞬で黒くボロボロしたものになってしまい、直接吸収することができなかった。
しかし、身体を維持する程度の妖力なら変化しないようで、気付けば周りが真っ黒に……ということはなく、また
ここらへんの閾値は要検証だろう。
――まあ、その黒いボロボロしたものが私に悪影響を及ぼすとかそんなことは今のところ全くなく、妖力よりも強いエネルギーを内包している。さらに妖力と同じような性質を持つときた。
まさかこんな屑みたいな黒いボロが使えるなんて思ってもいなかったが、ここが幻想郷の外の世界だとしても(半ば確定事項だが)、生きていけるだろう。
目立たないよう低空飛行をし始めてからすでに2時間経過。やっと人間が造ったらしき建造物が見えてきた。
といっても、外の世界にあるような高層ビルとかいうものではなく、木製の建物。地底にもあんな建物があったことから、そんなに技術革新は進んでいないと思う。
人間らしき姿も数人見えたので、地面に降り立ち早足で近づく。もちろん妖力を引っ込めることを忘れない。
……"眼"はどうしようか。ファッションとか言ってごまかせればいいが。
というか、隠したら私のアイデンティティと呼べるものが無くなってしまう。アイデンティティの確立というものは、人間の間でも大事なものだという本を見たことがある。アイデンティティの喪失は人間としての――
「ロ、ロイヤルストレートフラッシュだぁーッ!?」
なんて考えていたら、つんざくような金切り声を上げる男の声。
――ふむふむなるほど。要約すると"ぽーかー"とかいうゲームで負けてしまったと。
相手はフードを被った青年で、自分の生活費の大半を持っていかれた……と。
まあ自業自得でしょう。仕方がないです。自分の
にしても、あの青年かなりのやり手だ。視線誘導でカード五枚入れ替えるなんてただの人にはできない。
しかし……負けたくないから一番強い役にしたってどんだけなんだ、とは思う。強欲の塊と言われてもおかしくない。まあ、他の理由もあるようですが、七割方、心を占めているのは負けたくないっていう気持ちのようだ。
まあ別にイカサマされてることを告げたりなんてことはしない。右も左も分からない今の状態でいかにもな厄介事に首を突っ込む訳にはいかない。
ここは情報を取るだけとってスルーが最善。
「ねえ、そこの目玉3つ持ってるお前」
……異世界は前途多難。神は私を見捨てたのですね。
「……なんでしょうか。少し急いでるので」
一応の受け答えはしておく。
と同時に青年の心、記憶も取り敢えず読めるだけ読んでおく。ちなみに、覚妖怪が心しか読めないのかというのは大間違いだ。比較的新しい記憶ならギリギリ読み取れる。
まあ、心のほうが読みやすいのは否定しませんが。
「まあそんなこと言うなって。あんたも銭無しなんだろ?」
……正直驚くほどの勘と知識量。
相手の表情で全てを読む。
人間の皮を被った化物では?と思ってしまうほどの頭のキレの良さ。
――ナメてかかると足元をすくわれる。
「なんのようでしょうか」
……はあ。気づかれていたようですね。面倒です。
さっさと振りきりましょう……ってこの人たち――
「こんにちは
――沈黙。ここの空気が一気に氷点下まで落ちた感覚。
はあ。名前を呼ぶだけで地雷を踏み抜くってどういうことなんですか……。
「お前、なんで俺らが空白だって知ってんだよ」
こちらを刺し抜くような強い目線で問う青年、空。
そして妹、白。
どちらもこちらの一挙一動を見逃さまい、と見ている二人。
空は目線や口元、顔の筋肉などを中心に。
白は私の言ったことや私の特徴などを正確に記憶していっている。
つくづくこの方々が超人だと思うのは私だけですか。ええそうですか。
黙って二人の顔を見続けて思考を読む……なるほど、私が踏み抜いてしまった地雷はこのようです。
空と白は異世界、きっと私が住んでいた世界の日本から神によってこの世界に生まれ直された。
日本に住んでいた頃は
しかしこの世界では一度もその名を口にしたことはなく、唯一神テトしか知らない。
なぜお前が知っている?
はあ。なんで世界移動して、2時間の長距離飛行をして、その上こんな尋問まがいなことをされなければならないのでしょう。
「すみません。口が過ぎましたね。私は古明地さとりといいます。ここではまずいので場所を変えましょう。……"日本"といってその意味が理解できるならあなた達と一緒の宿に泊まってもいいですか?」
日本と言った瞬間、二人の顔がハッとした顔になり……笑う。
「いいぜ。白もいいな」
コクン、と返事を返す白。そうと決まれば早く行きましょう。
「あ、お前、金持ってるの?」
「先程も言いました通り、一銭も持っていませんね。私は気づいたらなんにもない更地スタートのか弱い娘ですよ?ええそうです。RPGで、ここはカジノの街オラク○ベリーですよ!とかいうような存在です」
空の心を読み取って言っていくが、はっきり言ってなんのことか私には全くわからない。
顔は笑っているが目は笑っていない空を横目に一つため息。
白は白で少し疲れているようでかなり眠たそうにしている。心を読めば数字の羅列しか頭に入ってこない。ええと?円周率?素数?そんなこと言われても知りませんよ。
「宿取れたぞー」
なんて言いながら空が戻ってくる。……はあ、なんてことをしてくれたんでしょう。なぜ私の名前で宿を取ってるんですか。意味わかりませんよ。ええ、特に理由はないってなんですか。
と考えていると、目の前を不思議エネルギーの塊が動いていった。ただし、あの時見たようなフワフワした青白いものではなく、もっともわっとして着色したような……そう喩えるならオレンジ色の綿菓子のようなものが浮かんでいた。
空たちには見えないのか、あの"ぽーかー"とかいうゲームをした二人を見ている。
って、よく見てみれば緑の糸のようなものが黒い服の方の頭につながってるし、いつものように意図せず心を読めば、何故か二人の声が聞こえてくる。ツンツンした声とフワフワした二人の女性の声。
ふむ。大体の状況はわかりました。けれどどうしましょうか。やはりここはイカサマをバラした方がいいのでしょうか。
いや少し妨害するだけにしましょう。私がバラしてしまっても、この不思議エネルギーが見えない以上、本人が理解できない可能性が高いです。
ちゃちゃっと妖力を固めて投げ飛ばす。それだけで緑色だった糸が一気に真っ黒に変色。床に落ちていく。
ガタッと椅子を揺らす音とともにカードがパラパラと落ち、なんでなんでなんで!?というものすごい慌てた声が二人分、もちろん別々の個体から聞こえる。
そんな状態のを見て、相手の国王の孫娘さんが「大丈夫ですの?」なんて言っているが、あなたイカサマされてたんですよと言えば手のひら返して貶めるだろう。余計なことは言わない方がいい。
あまりこういうことに首を突っ込むべきではないのだろうが、いつもの癖でどうも首を突っ込みたくなってしまう。
……勇儀さんにいつも指摘されていたはずなのに。
「早く来ないと部屋の鍵閉めるぞー」なんて空の声が聞こえるので、とりあえず思考を中断。少し早足で酒場をあとにする。
しかし部屋から出る寸前、フードを被った方から、私に熱い視線を感じ――
もちろん忘れずに笑顔を返した。
さとり「(ニッコリ)」
フィー「(気づかれてる!?