卑の意志でコードギアスを蹂躙する 作:篠崎卑劣
「なんだ、これは……」
愛しい妹の、最期に見せた笑顔。
ギルフォードが映像を止める。残虐な場面は見せない気遣いだ。
「この後、車が爆発する映像が流れます」
「これはなんだと聞いている!」
「誘拐犯の、卑劣な合成映像かと」
「話にならん! とにかくユフィだ! ユフィを出せ! ユフィはどこにいる!」
「落ち着いてください姫様。現在軍と警察が総出で捜索中です」
「ええい! 私も行く! 邪魔をするなギルフォード!」
「しかし姫様! 今出るとテロリストの思う壺となる可能性が!」
コーネリアが怒り散らし、前に進もうとするのをギルフォードは後ろから羽交い絞めにする。
その光景を見ながら、ダールトンは部下へ指示を飛ばした。
「何ィ!? よりによって枢木スザクだとォ!」
ダールトンの大声にコーネリアが反応する。
「枢木スザク!? イレブンがどうした!? まさか!?」
「じゅ、重要参考人だそうです。姫様と最後に接触した」
「ひっ捕らえて連れて来い! 今すぐ!」
程なく全身痣だらけの枢木スザクが現れるが、数分後にはそこからさらに顔の形から変わってしまう事になる。
政庁が大慌てとなっている頃、アッシュフォード学園にも映像は届く。軍が動画のアップロードを禁止し見つけるなり削除しているが、サイトを変えて上げまくっている連中が複数いるのだ。
「お兄様! ユーフェミア様が!」
「ユーフェミア様が? 何かあったのか?」
生徒会室でルルーシュの妹ナナリー等がパソコンを囲んでいた。
動画には桃色の長髪の美しい少女が映っている。
久しぶりに見た愛しい腹違いの妹の姿だった。一瞬頬が緩みかけたルルーシュだが、告げられる言葉、そして場の雰囲気に眉間が寄っていく。
「やさしい世界になりますように」
「な、なあ!?」
ユーフェミアは爆散する。その間際に放った台詞が、偶然なのだろうか。ナナリーがおまじないの様に言っている口癖と同じだった。
「あ、悪質な悪戯だろう」
「だ、だよな。ゼロとか言うやつもいたし」
「そもそもユーフェミア第三皇女って聞いたこともないしな。姉のコーネリア様ならよく知ってるけどよ」
「ふん。くだらない。さっさと仕事済ませるぞ」
「お? なんだよルルーシュ。急にやる気出してよ」
「別に。そういう悪意に満ちた悪戯は嫌いなんだよ」
「ふーん」
リヴァルが席に着くと、他のメンバーも気を取り直してそれぞれの席に戻った。
ナナリーだけは心配そうに兄の方を伺っていた。目は見えないが、顔をジッと兄のほうへ向けている。しかし、兄が本当に平然としているように思えた。ナナリーはふっと力を抜いて席に戻った。
何事も無く生徒会は終わった。しかしその日の夕方、ルルーシュは落ち着かない様子だった。意味も無くキッチンを行き来して歩き回ったり、「ナナリー、その……」と言って笑みと悲しみと忙しく表情を入れ替えたり。
実際悩んでいた。ユーフェミアの死、政庁の慌てようから可能性は高い、と、彼女が最後に残した言葉によって。
ナナリーは、あんなことはしないでくれ。
そう伝えたい。だが、それはユーフェミアの死を認めたことになる。それに、しないでくれという主張も押し付けがましい。そもそもユーフェミアを立派だと思ってしまっている自分がいる。だがナナリーにはああなった欲しくない。それを醜い我欲だと感じてしまってもいる。
ナナリーは当然兄の困惑に気づいていた。しかし、彼女は今兄に一番必要な言葉を見つけることができた。
「お兄様。私はどこにも行きませんよ」
「ナ、ナナリー!」
歓喜と涙と混じったような顔をするルルーシュ。ナナリーはルルーシュを安心させるようにふっと微笑む。
「お兄様と私はずっと一緒です。二人のやさしい世界でいいんです。私は」
「ナナリー! ありがとうナナリー! ああそうさ! 俺は守って見せるさ! このやさしい世界を!」
ルルーシュは勢いよくナナリーの手を取り、甲にキスをした。
SIDE オリ主
慎重に慎重を期して、土遁で新宿の外へ移動。そこで馬鹿息子からもらった車に乗り込み、我が家を目指した。ユーフェミアはスーツケースに入れて運んだ。
玄関はふつうのドアだ。しかしリビングは土遁を使わなければ入れないようにコーティングしている。部屋丸ごと核シェルターとはいかないが、機関銃や手榴弾くらいなら弾けるくらいの強度も持たせた。防音も完璧だ。もちろん換気もな。
「ぷはあー。ああーっ、よかった! 上手くいった! くひひひっ」
ようやく一息つけた。この後はお楽しみの女の子とのいちゃいちゃだな。
常識的に考えて異国で顔の違う民族にいきなり拉致された娘は警戒する。いちゃいちゃなどありえない。だが、俺には力がある。それを成し遂げる卑の意志もな。
「変化の術」
骨格はあまり変えず、顔をルルーシュに似せた。日本人とルルーシュを混ぜたみたいな感じだな。すごいイケメンだ。体格が筋肉質だから、見てくれはルルーシュよりもかっこいいかもしれない。
ユーフェミアをベッドに寝かせ、毛布を被せる。俺はきっちんで飯を作る。せっかく日本に来たのだから、おにぎり、梅干、味噌汁、サンマの塩焼きでもてなしてやる。
卑劣様の記憶では、食事を作り終わるのと前後する頃にユーフェミアは目覚めるかな? という閉め具合だった。実際、食事を運んでいる頃にひょっこり体を起こした。
「ここは? あなたは、ルッ……!」
ユーフェミアの視点が俺の顔でピタリと止まった。
狙い通りだ。
「いえ、なんでもありません。知り合いに似ていたものですから」
「そうですか。夕飯の準備が整っていますよ。どうぞ召し上がってください」
「あ、その。ありがとうございます。ですが、なぜ私はここに?」
ユーフェミアはほとんど無警戒だった。俺がブリタニア人に見えなくもないことも関係しているだろう。
俺は眉間にしわを寄せ、演戯っぽく「ふーっ」と息を吐いた。
「それを話すためには、今日本で何が起こっているかを説明しなくてはなりません」
「日本で何が起こっているか?」
「はい。長くなりますので、冷めないうちにご飯をいただいてください。お口に合えばよろしいのですが」
「は、はい。そうですね。ですが、あまり長くなるとお姉様、いえ家族が心配しますので、手短にお願いしますね。現在何時でしょう?」
「6時ですね」
「そうですか」
その後、ふつうに食事が始まった。
俺が手を合わせて「いただきます」と言うと、「なんですか? それ」と聞いてくる。
「日本人は古来から万物に魂があると考えてきた。ヨーロッパ風に言うなら精霊かな? だから動物であれ植物であれそれを食べることに罪の意識のようなものがあった。しかしそれが罪では人は生きていけない。だから犠牲の存在を自覚しつつ、私の糧になってくれてありがとう、という気持ちを込めていただきますと言うんだ」
「なるほど。深い意味があったのですね。私もやってみます」
ユーフェミアは笑顔で目を閉じ、手を合わせる。
「いただきます」
ゆっくり頭を下げて、静止。3秒ほどして、にっこりと笑む。
「どうですか? うまくできましたか?」
「ああ。君に食べられるなら食材も本望だろう」
「ええ? なんですかそれ」
ユーフェミアは眉をひそめながら食べ始める。
表情豊かでかわいい。食事中は静かにするべきとか、硬いことは言わないでいいだろう。
梅干にキューっとなったり、柚を絞ったら服にかかって平謝りしてきたり、俺がご飯粒を残さず食べるのを見て困惑したり、その理由を『食材への感謝があれば残すことの失礼さが分かるはず』などと説明すると喜んだり、ただ食べているだけなのにけっこう楽しめた。デートみたいな雰囲気だ。
食後、歌いながら2人で皿を洗っていると、不意にユーフェミアが口を開いた。
「私って、ひょっとして捕らわれちゃったんでしょうか?」
遅くね?
部屋の雰囲気が一気に暗くなってしまった。しかし言わねばならない。
「理解してもらえるとは思うが、俺は君に対する敵意は一切ない」
「はい」
「だが、少し待って欲しい。君の姉がどう動くかを知りたい」
「お姉様が? じゃああなたは、私の正体も……」
「ああ。だけど、君が王女じゃなかったとしても、俺は君を仲間に誘ったと思う」
「仲間? 何かの組織に入っているのですか? まさか……」
「テロリストではない。君を捕まえたのは、身代金目的じゃない。ある動画を君の姉に見せるためだ。説明するより見るほうが早いだろう」
俺達は一旦皿洗いを止め、リビングのパソコンの前へ移動する。二人そろって座り、例の映像を見せる。
「これは、私? えっ、どういうことです?」
「もちろん君に似せた偽者だ。だけど、君の見張りは君だと思って追いかけてきていた」
「あっ、はい。いえ、その」
ユーフェミアは動画に集中していたので俺の言葉を聞き逃したらしい。ルルーシュのような天才と違い、同時に2つのことはできないのだろう。
「えーっと、こちらの私の似た方がおっしゃりたいことは分かります。私もよくそのようなことで悩んでいるので。ですが、えっ。……えっ!」
影分身が車に火を点けたところで、ユーフェミアは慌てて叫んだ。目が映像に釘付けになる。そして、爆発。
「あっ。あっ。あわわわわわっ。だ、大丈夫なんですよね? 彼女は」
「ああ。もちろん。演戯だから」
「は、はあーっ。心臓が止まるかと思いました。自分がああいう目にあってしまったようで、気分が悪いです」
「すまないな」
ユーフェミアは額に汗を浮かべながら、大きく深呼吸する。
「はー。ふー。はー。ふー。よし! それで、これをお姉様に見せたのですね?」
「ああ」
「うぅー。……大変なことになりますよ? 自分で言うのもなんですが、お姉様、私のこととなるといつもの冷静さがなくなっちゃうので」
「分かってる。だけど、だからこそ効果があるんだ」
「効果って……。そんな言い方は……」
「君の姉は、クロヴィスの敵を討つために日本に来た。ならば、クロヴィスを正当化するために、クロヴィスと同じことをする可能性があった」
「クロヴィスお兄様と同じこと?」
「新宿だよ」
「あっ」
ユーフェミアの表情が途端に沈む。
「あの虐殺によってゼロをおびき出し、ゼロを撃つ。そうすれば、テロリスト掃討作戦の一環としての市民の犠牲は仕方のないものと処理することができる。クロヴィスも単にゼロに敗れただけで、施政者として不義を働いたわけではなくなる。同じ作戦で戦火を上げることができると証明されるわけだからな」
「しかし」
「だが、俺はこの動画をばら撒いた。コーネリアは、最も愛する妹から、命を賭けて、虐殺は止めてくれと頼まれた。だから、できないはずだ」
「……はい」
「ユフィ。だけど、もし虐殺が始まってしまったら?」
「そ、そんなことは……っ!」
「ないとは言い切れない。分かっているはずだ。ブリタニアという国の中で、穏健に生きるのは難しい」
「……はい」
「もしコーネリアが虐殺始めたら、俺はそれを止めるカードとして君を使わせてもらう。もし彼女が日本人と手を取り合ったら、五体無事に、君を姉の下へ返そう」
「……はい」
ユーフェミアはゆっくりとうなずいた。