行きつく先へ    作:たまてん

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全て取り戻すために、今、並び立つ


行くつく先へ 第十四話 蒼と黒

 

14.

 

 

戦闘は終わり、出撃していたヒエイたちに加えて、401とキリシマを抱えたハルナが硫黄島に帰還した。

 

401から急いで降りた蒔絵がハルナたちに駆け寄る。

 

「ハルハル!」

 

「蒔絵!」

 

「がっ!」

 

ハルナは無造作にキリシマを投げ捨て、駆け寄ってきた蒔絵を抱きしめる。

 

「ハルハル――ごめんね。私のせいで、本当にごめんね……」

 

「私たちは大丈夫だ。それより蒔絵が無事で、本当に、よかった……」

 

ハルナと蒔絵は互いに涙を流しながら、固く抱き止めあった。

 

起き上がったキリシマが砂ぼこりを払いながら、やれやれと言った感じで二人を見る。

 

「相変わらず仲のいいことだ……」

 

すると、蒔絵がキリシマをじっと見つめる。

 

その視線に気付いた彼女が「どうした?」と蒔絵に尋ねる。

 

蒔絵は首を傾げて言った。

 

「……誰?」

 

「キリシマだっ!」

 

まぁ確かにこの姿で蒔絵に会うのは始めてかもしれないがいくらなんでもそれはひどい。しかし、蒔絵は怪訝な顔をしたままだ。

 

「ええっと、キリシマって誰?」

 

「いやだからヨタロウの本名がキリシマでなそれで……頼む蒔絵分かってくれ!!」

 

「うん、ごめんねふざけた。ヨタロウもありがとう」

 

「蒔絵ぇー……」

 

てへ、と笑った蒔絵にキリシマが情けない顔をして抱きついた。

 

よしよしと蒔絵に半泣きのキリシマが撫でられる姿を見て、ハルナは笑いを堪えるのに必死だった。

 

「――ハルナ。キリシマ」

 

すると凛とした声が二人の名を呼ぶ。

 

そちらに向くと、コンゴウがヒエイを連れてこちらに歩み寄ってくる。

 

それを見たキリシマとハルナは改めて真剣な面持ちになって、彼女らと相対する。

 

コンゴウは腕を組むと、無表情のまま二人を叱咤する。

 

「――まったく、大戦艦のメンタルモデルが二人も揃ってなんてザマだ。子供一人守れんとは情けない限りだぞ」

 

「……面目ない」

 

「すまない、二人とも……」

 

コンゴウの正論に、何も言えずに二人は項垂れた。

 

実際、長い平和の中で油断していたのは事実だった。

 

挙句こんな事態まで引き起こしたとなると申し開きもない。

 

消沈した妹たちの姿を見て、深いため息を付いたコンゴウ。

 

「――だが、三人とも無事で何よりだ。よかったな」

 

「……ありがとう、コンゴウ。恩に着る」

 

「私は何もしてないさ。礼ならヒエイたちに言え」

 

「私も何もしてません。刑部 蒔絵を助けられたのは401のおかげです。けれどキリシマ、ハルナ。401の方々にお礼は当然としても、アシガラたちに必ず謝りに行きなさい。でなければ許さないわ」

 

「ああ。必ずそうする」

 

よし、とヒエイは頷いた。

 

――蒔絵のためとはいえ、ハルナたちがヒエイたちを撃ってきたのは事実だ。

 

アシガラは轟沈寸前まで追い詰められた。

 

ここで何も言わないのは、あまりに礼儀知らずだ。

 

「けれど、貴方たちが悪いわけじゃないのは分かってる。全ての元凶はあの超戦艦なのだから」

 

「――そこでだ。キリシマ、ハルナ、お前たち二人にも協力してもらいたい。あの小娘を放っておけばお前たちにも被害が及ぶ。異論はないはずだ」

 

「ああ。私たちも協力したいと思う。ただ――」

 

「私は大丈夫だよハルハル、ヨタロウ」

 

心配そうに見つめる二人に、蒔絵はしゃんとして答えた。

 

「私も、これからもずっとハルハルとヨタロウと仲良く暮らしていきたい。だから、それがそのために必要なことなら……」

 

「――なら蒔絵。貴方に誓おう」

 

膝を追って、ハルナは視線を合わせる。

 

蒔絵の瞳を見つめながら、曇りない眼で彼女は言った。

 

「――今度は絶対、私は貴方を守る。絶対に傍を離れない。約束する」

 

「私もだ。もう絶対、蒔絵を一人にしない。必ず守る」

 

二人の言葉に、蒔絵はこくりと頷き、そして微笑む。

 

「私も、今度はハルハルたちの助けになれるように頑張るよ。だから、ずっといっしょだよ」

 

そうして、三人は笑い合った。

 

互いに異なる存在だというのに、彼女たちはまるで十年来の友のように仲睦ましい。

 

それを見たヒエイが、まったく、と言って肩を竦める。

 

「本当に仲がいいわね。貴方たち」

 

「――だが、悪くない」

 

「ええ。その通りですね」

 

 

いつか、この光景が当たり前のように見える日が来てほしい。

 

そう願う千早 群像の気持ちが、少し理解できた二人だった。

 

その頃、タカオとハグロに付き添われて帰ってきたアシガラを、ヒュウガとナチ、そしてミョウコウが迎えた。

 

ナチが心配そうな顔をしてアシガラに駆け寄る。

 

「アシガラ、大丈夫!?」

 

「大丈夫だよ。ちょっとまだふらつくだけで。ミョウコウ、油断してた。ごめん」

 

ミョウコウは無言だった。

 

いつも、油断するな調子に乗るなと口を酸っぱくして言う彼女だ。

 

怒られるかな、と内心思っていたアシガラだが、突然ミョウコウは彼女をぎゅっと抱き締めた。

 

意外な姉の行動にアシガラは戸惑った。

 

「え、あ、ミョウコウ?どうしたの……!?」

 

「――よく頑張ったな。怖かったろう?もう、大丈夫だからな」

 

ミョウコウは抱き締めながら、アシガラの頭を撫でてやる。

 

そう言われて、かつてない安心感に包まれたアシガラは、はじめて自分の手が震えてることに気付いた。

 

沈むと思ったあの瞬間の恐怖。

 

それを、抱き締められた温もりが癒してくれる。

 

同時に彼女の暖かさが全身に染み渡るように感じられたのと同時に、段々とアシガラの目が赤くなっていく。

 

我慢しようと思った。

 

が、結局耐えきれなくなって、大きな声で泣き出した。

 

すがりつくように、彼女はミョウコウの身体に顔を埋めるみ

 

「――怖かった。怖かったよぉ……!」

 

「大丈夫だ。もう怖くないぞ」

 

ミョウコウがそう言い、ナチもハグロも泣きじゃくるアシガラを慰めた。

 

「――いいわね。ああゆうの」

 

「ま、悪くはないわね」

 

彼女たちの姿を、タカオとヒュウガは微笑ましく見守った。

 

そして、群像はかつてのクルーと再会する。

 

「久しぶりだな、皆」

 

「本当に久しぶりね。別れて以来まったく会ったことなかったし」

 

「上の連中に規制掛けられてたからな。また団結されてなにかされると困るとかなんとかで。検討違いもいいところだけどよ」

 

自分たちにはそんな気なのど毛頭ないというのに、どうやら政府にとって群像たちはテロ組織と大差のない認識らしい。

 

仲間たちとの再会を喜んだ後、群像は、ある一人の姿だけないことに気付く。

 

「僧――イオナは、やはりここにはいないのか?」

 

「――はい。イオナはいません」

 

やはりな、と群像は頷く。

 

超戦艦ホウライのユニオンコアはイオナのものであるとヒュウガが断言している。

 

ならホウライが健在の今、イオナがいるはずはない。

 

「あの伊号401には必要最低限の行動が出来るようにと急造された疑似のユニオンコアが搭載されています。――まずはこちらを聞いていただけますか?」

 

そう言って、彼は一本のボイスレコーダーを群像に差し出す。

 

受け取った群像が再生すると、これまた懐かしい人物の声が聞こえてきた。

 

『――このメッセージが、無事千早 群像のもとに届くことを切に願っている』

 

「上陰、次官……!?」

 

意外な人物からのメッセージに、群像は目を見開いた。

 

『今君がこれを訊いているのだとしたら、無事401クルーと再会出来たのだろう。恐らく刑部 蒔絵を救えたはずだ。流石の君でも状況の把握は難しいだろうから、私の方から少し説明しよう。――私に401クルーを集める手引きを指示させたのは、伊号401のメンタルモデルだ』

 

「――イオナ、が」

 

驚愕する群像に対し、上陰の声は淡々と話していく。

 

『といっても、私の前に現れた彼女は超戦艦ホウライの姿をしていたが。どうやら伊号401はあの超戦艦に取り込まれているらしい。隙を見て、身体の主導権を得た彼女が401の艦を形成、私にクルーを集めるようにとコンタクトをとってきた。……協力して損はないと判断したのでね、素直に指示に従うことにしたよ』

 

「うわぁ。嫌味なやつ」

 

上陰のふてぶてしい態度に、いおりが苦い顔をした。

 

どうやら、いおりたちもこのメッセージはまだ訊いていなかったらしい。

 

『通信妨害も彼女のおかげで難なく済み、あとは私が声を掛けた彼らを伊号401が迎えに行くだろう。刑部 蒔絵も、予め救出出来るよう仕掛けを施しておいてあるそうだ。――あと忠告だが、超戦艦ホウライは君のことをやけに排除したがっている。君を排除するのに振動弾頭を使えとまで脅してきた。応じるつもりはないが、気を付けたまえ』

 

それは、群像たちがほぼ予想した通りの言葉だった。

 

しかし改めて、解除コードを渡した相手が彼であってよかったと思えた。

 

上陰なら、安易にそれを渡そうとはしない。

 

考えは違えど、彼は彼なりに人類の未来を憂いているのだから。

 

 

『私からの説明は以上だ。あとは残りのメンバーに訊きたまえ。君の健闘を祈る。――それとだ、君からも彼らに一言言ってやりたまえ。伊号401』

 

 

ぎょっと目を剥いた一同。

 

まさか、と思ったがレコーダーから上陰とは別の、少女の声が聞こえてきた。

 

 

 

『――群像。みんな。ありがとう。彼女を止めようとしてくれて。私のことを、信じてくれて。今の私は何もできないけど、せめて貴方の力になれるように、蒼き鋼(わたし)を送る。だから、お願い。――彼女を、救ってあげて』

 

 

 

――それが、彼女の切なる願いだった。

 

 

そのメッセージを最後に、レコーダーは止まった。

 

群像は俯いたまましばらく無言だった。

 

そしてそれから、まっすぐな眼差しで僧たちに向き直る。

 

「僧、杏平、いおり、静。――君たちにお願いがある」

 

群像は一人一人の顔を見て名前を呼ぶ。

 

そして頭を下げ、彼らに頼んだ。

 

「――もう一度、俺といっしょに戦って欲しい。君たちの力が必要なんだ。頼む」

 

――いつだってそうだ。

 

彼らは対等だった。

 

今までいっしょに戦ってきてくれたのも、彼らが群像を信じてくれていたからだ。

 

だからこうして、群像は彼らに頭を下げる。

 

それが、彼の思う仲間への最大限の敬意だから。

 

「……へへ。なに水くせーこと言ってんだ、こいつはよ!」

 

「うおっ!?」

 

そう言って杏平は群像の頭をはたいた。

 

いおりと静もうんうん、と頷いている。

 

「アタシら何のために来たと思ってるのよ。ここまで来て見学なんて嫌だからね」

 

「はい。私たちはそのために来たんですから。ね、副長?」

 

ええ、と僧も頷く。

 

そして彼らも、決意に燃える瞳で群像を見る。

 

「艦長。――命令を」

 

自分を見つめる彼らの目は、昔と何ら変わりはなかった。

 

その瞳を見て、群像はタカオの言葉を思い出す。

 

――彼女の言う通りだった。

 

例え時が経とうと、変わらないものは確かにあった。

 

なら自分も、彼らの期待に答えられるように――。

 

そして群像は彼らに言った。

 

かつての蒼き鋼の艦長かれのように。

 

「我々は明日の朝ここを出向し、ホウライに接触して彼女を止める。そしてこの世界を守って、――イオナを、俺たちの仲間を取り戻すぞ!」

 

了解、と彼らは答えた。

 

もし彼女の意識がまだ残っているなら、望みはある。

 

それがどんなに低い可能性だろうと、彼らは必ず――。

 

「――ほう。蒼き鋼の復活だな。なら改めて申し込もうか」

 

振り返るとそこにはコンゴウたちみなが立っていた。

 

彼女は群像に手を差し出し、そして言った。

 

「我々『黒の艦隊』は、霧の未来のためにホウライを止めたい。ゆえに千早艦長。艦隊旗艦として、お前たち『蒼き艦隊』に同盟を申し込みたい」

 

「ちょっと!?私は『蒼き艦隊』なんだけど!?」

 

「私もー」

 

「貴方たち……空気を読みなさいよ」

 

ヒエイが額に手を当ててため息をつく。

 

ごめーんと言ってヒュウガたちが群像たちの方に来るのを見てつい顔が綻んでしまう。

 

そして改めてコンゴウに向き直った群像は『蒼き艦隊』の代表として応じる。

 

「――俺たちも人類の未来のため、大切な仲間を取り戻すために戦いたい。だから協力してくれ、コンゴウ」

 

「もちろんだとも。私も、大切な友人を取り戻すのに異論はない。――取り返すぞ、全てを」

 

「ああ。そして守ろう、俺たちで」

 

 

そうして二人は互いの手を固く握る。

 

 

 

――今ここに、蒼と黒が並び立つ。

 

 

 

 

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